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ショートレビュー「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア・・・・・評価額1650円」
2018年03月02日 (金) | 編集 |
聖なる鹿は誰か?

パワフルなテリングに、グイグイ引き込まれる。
異才ヨルゴス・ランティモスによる、ムーディかつ恐ろしいサイコホラーだ。
コリン・ファレル演じる心臓外科医のスティーブンは、手術ミスで患者の男性を殺し、罪悪感から患者の遺児マーティンを気にかけている。
しかし、スティーブンがマーティンを家に招き入れるようになると、彼は態度を豹変させ、呪いの言葉を吐くのである。
曰く、スティーブンの家族は皆、最初に四肢が麻痺し、次に目から血を流し、そうなれば数時間後には死ぬ。
止めるには、家族の誰か一人を選び殺すことで、罪を清算するしかないと。
半信半疑のスティーブンの目の前で、子供たちは歩けなくなり、やがて血の涙を流し始める。
※核心部分に触れています。

奇妙なタイトルと物語のベースとなっているのは、エウリピデスによるギリシャ悲劇「アウリスのイピゲネイア」だ。
トロイア戦争の時、アガメムノン率いるギリシャの軍勢が凪により出撃不能に陥る。
これが自らに対する、女神アルテミスの怒りによるものだと知ったアガメムノンは、娘のイピゲネイアを生贄に捧げることを決意。
アガメムノンは英雄アキレウスと結婚させると騙し、妻のクリュタイムネストラ、イピゲネイアと弟のオレステスを呼び出す。
哀れなイピゲネイアは婚礼衣装に身を包んで死を迎えようとするのだが、彼女を哀れんだアルテミスが最後の瞬間に救い出し、あとには血にまみれた一頭の鹿が残された。
このエピソードが、本作のタイトルの由来となっている。

本作でアガメムノンに当たるのが、スティーブン。
クリュタイムネストラがニコール・キッドマンのアナ、イピゲネイアとオレステスが、二人の子供であるキムとボブ。
アキレウスに当たるのはバリー・コーガン演じるマーティンだが、この役は呪いを告げるメッセンジャーに役割が変わっている。

広角レンズの歪んだ画面、意図不明のまま動くカメラワーク、被りまくる不協和音、作為的で噛み合わない会話。
いかにもランティモスらしい、常道を外した不気味な描写が、不穏な空気を徐々に増幅して行く。
一作ごとにそのスタイルは洗練され、相当に個性的で変態チックな、一つの美学を形作る。
全体構造とタイトル以外にも、脚の障がい、聖なる髪の毛、目から流れる血、足へのキスなどの宗教的暗喩も面白い。
足の麻痺と突然の回復は、使徒ペテロがキリストの名の下に足の悪い人を歩かせたという奇跡、髪の毛の霊力と目から流れる血は、髪を切られたことで力を失った豪傑サムソンが目を焼かれた話を思わせる。
アナがマーティンの足にキスするのは、今も洗足式として残るキリストが弟子たちの足を洗った話から。
それぞれの持つ意味を考察すると、何が起こっているのかが断片的に見えてくる。

どうあっても罪から逃れられぬと悟った時、人はどうするのか。
主人公の究極の決断の行方に、全く目が離せない。
どこまでも独創的な作品だけど、私が少しだけ連想したのは、韓国的な土着性を表に出しながら、実はキリスト教が重要なモチーフとなるオカルトホラー、「哭声/コクソン」だった。
はたして主人公が招き入れたマーティンは、贖罪を促す神のメッセンジャーなのか、悪魔が使わした惑わす者なのか。
聖なる鹿は現れず、ある者の犠牲によって、スティーブンの人生は平穏を取り戻したように見える。
しかし、本当に罪は清算されたのか。
イピゲネイアが犠牲になった後、神話のアガメムノンは、娘の死を恨んだクリュタイムネストラによって暗殺されているのである。

今回はヨルゴス・ランティモス監督の故郷、ギリシャを代表すスピリット「ウゾ12」をチョイス。
無色透明だが、水で割るとカルピスの様な白っぽい色に変化する不思議な酒。
アニスの強烈な香りが印象的で、香草が苦手な人には敬遠されそうだが、逆に好きな人にはクセになる。
日本で言えば焼酎の様な大衆酒で、当然ながらギリシャ料理との相性はとても良い。

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コメント
この記事へのコメント
ギリシャ悲劇
ギリシャ悲劇が下敷きですか。てっきり聖書だと思いました(^^)/
2018/03/06(火) 15:07:50 | URL | まっつぁんこ #L1vigvx6[ 編集]
こんばんは
>まっつぁんこさん
監督ギリシャ人ですしね。
全体の流れはギリシャ悲劇で、ディテールは聖書がかなり入ってると思います。
暗喩劇ですね。
2018/03/07(水) 22:38:24 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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