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ショートレビュー「坂道のアポロン・・・・・評価額1600円」
2018年03月17日 (土) | 編集 |
ジャズが紡ぐ青春。

1966年の佐世保を舞台にした、パワフルな青春音楽映画。
父が亡くなったことで佐世保の叔母の家に越してきた、知念侑李演じる西見薫が、ひょんなことから誰もが恐れるバンカラ不良の川渕千太郎と出会う。
一見対照的な二人だが、音楽好きという共通項があったことから、千太郎の幼馴染で実家がレコード店を営む迎律子に導かれる様に、二人はジャズ仲間となる。
冷静沈着なピアニストの薫と、腕っ節が強く喧嘩っ早いドラマーの千太郎。
水と油の様に見えて、実は家庭に居場所がない似た者同士の二人に、マドンナの迎律子が絡み、友情と恋と音楽の葛藤が描かれる超王道の青春ストーリーだ。
わりと出来不出来の差が激しい三木孝浩監督、今回がベストだと思う。

小玉ユキの原作漫画は未読。
初恋の痛みは物語上の重要な要素だが、基本男同士の友情ものである時点で、毎年大量生産されている、少女漫画原作のティーン向け恋愛映画とはハッキリと一線を画す。
映画は、10年後の1976年に医者となっている薫の日常で幕を開け、過去を回想する手法をとる。
クリスチャンの千太郎が肌身離さず持っていたロザリオが、76年にはなぜか薫の元にあり、10年前の関係は継続していないことが示唆される。
最初に開示された"未来"に向かう三人に、一体どんなドラマが待っているのか?という興味で物語を引っ張るあたり、ゼロ年代の現在から80年代の青春を俯瞰する「横道世之介」をちょっと思い出した。
三人の主要人物を演じる知念侑李、中川大志、小松菜奈が良い。
特に千太郎役の中川大志は、タイトル通りアポロンのような逞しい体躯もあって、太陽の様に映画の世界を照らす。
キャラクターの立ち位置的に、小松菜奈の扱いがちょっと勿体無いんじゃないかと思っていたのだけど、ラストまでくるとようやくその狙いがわかる。

売り物のセッションシーンも見事な出来栄えだ。
音楽は実際にやっている人が多いので、フィクションでもごまかしがきかない。
特に本作では、メインとなるのが「Moanin’」や「My Favorite Things」といった超メジャーな楽曲なので、ピアノの指使い、ドラムの叩き方一つで膨大なツッコミが待っている。
俳優たちはクランクインの10ヶ月前から練習を重ねたというが、努力の結果はスクリーン上に見事に結実していて、音楽映画として聞き応えも十分。
即興性のあるいくつものセッションは、ジャズという自由な音楽ならではのカタルシスを感じさせ、特にクライマックスの文化祭のセッションは、圧巻の出来栄え。
薫と千太郎の抱える葛藤が、それぞれの音楽性につながっているのも良い。
例えば薫をジャズの道に誘う「Moanin’」は"呻き声"や"不満"を意味する。
シチュエーションを変え、劇中で何度も演奏されるこの曲が、現状に幾つもの問題を抱える薫の心情の吐露としても機能するという訳だ。

一方で、1966年という設定は、ビジュアル的な出来が良いからこそ、もう少し時代性に意味を出して欲しかった。
一応、ディーン・フジオカ演じるトランペッターの桂木が、東京で学生運動をやっていたということにはなっているのだが、そのことが薫や千太郎の人生に大きく影響する訳でもない。
例えば、上記した「横道世之介」では、80年代に青春時代を過ごしたことが、ゼロ年代の登場人物の人生に大きな影響を与えている。
尺の問題もあるのだろうが、本作ではノスタルジックな情感を作り上げる以外に、時代設定にあまり意味を見いだせず、76年と66年の二重構造とした理由付けもやや弱い。
それでも、登場人物の青春の葛藤を音楽を通して昇華し、大人への階段をのぼる物語として、映像的にも音楽的にも十分な説得力を持つのは間違いなかろう。
薫は押し付けられたものではない自らの生き方を定め、千太郎は出生の呪縛から逃れ、自らの人生を探して旅立つ。
若者たちにも、嘗て若者だったオトナ世代にも楽しめる、非常に間口の広い作品になっている。

しかし、全てが腑に落ちるラストカットは絶妙だが、エンドクレジットはやはりジャズでシメて欲しかったな。
いや小田和正の歌自体は悪くないのだけど、それまで観てきた世界観との乖離が激しく、「ここは素直に「Moanin’」で良いやんか・・・」と思って、脳内変換してしまったよ。

今回は長崎は平戸の地酒、福田酒造の「長崎美人 大吟醸」をチョイス。
1688年に、平戸藩の御用酒屋として始まったという、長い歴史を持つ蔵。
大吟醸はフルーティーな吟醸香と米の旨味を楽しめる、とてもバランスの良い逸品。
本作では小松菜奈がクリスチャンの佐世保美人を演じていたが、そういえば彼女はスコセッシの「沈黙 -サイレンス-」でも、長崎の隠れキリシタンを演じていたっけ。
あの映画では、簀巻きにされて海に沈められちゃう可哀想な役だったけど、今回は幸せになれそうで良かった。

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コメント
この記事へのコメント
こんにちは
こんにちは。確かに、エンドロールの曲(笑)。まあ、でも作中に使われていた曲はどれもこれも素晴らしかったので。
あと、ラストで律子が歌おうとする瞬間に歌声が流れないでそのままカットアウトする演出が私は好きです。
2018/04/04(水) 12:48:05 | URL | ここなつ #/qX1gsKM[ 編集]
こんばんは
>ここなつさん
せめてジャズが一回流れた後に主題歌にして欲しかったですね。
歌自体は悪くないのに・・・
ラストカットは本作の白眉だったと思います。
ある意味全てがあそこで収束してる。
2018/04/04(水) 21:04:46 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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青春映画の金字塔!とてもとても良かった。オーソドックスな展開だけれど爽やかな気持ちになった。心が洗われるというか。何よりジャズセッションのシーンがすごくいい!ふざけて吉本の漫才師風に言うと、イケメンさん(知念侑李)、イケメンさん(中川大志)、1人飛ばして(小松菜奈だからね)イケメンさん(ディーン・フジオカ)のイケメン祭りなのであるが、全然そんな風な観点から見ることはなかった。これってある意味...
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