2018年04月18日 (水) | 編集 |
この街は、すべてがワンダー。
「キャロル」のトッド・ヘインズ監督の最新作は、ニューヨークを舞台に、時系列の異なる二つの小さな冒険物語が絡み合う、ミステリアスな寓話劇。
1977年、ミネソタ州ガンフリントに暮らす少年ベンは、最愛の母を突然亡くし、自らも事故で聴覚を失う。
彼は母の残した一冊の本、「ワンダーストラック 」を手がかりに、顔も見たことのない父親を探して未知の世界へと旅立つ。
一方、1927年のニュージャージー州ホーボーケンでは、聾唖の少女ローズが、銀幕のスター、リリアン・メイヒューと会うために、ハドソン川の対岸にそびえる摩天楼の都を目指す。
共に耳が聞こえない2人の子供が、自分にとって大切な人物を探すために、異なる時代のニューヨークを訪れる。
方や70年代風のカラー・トーキー、方やモノクロ・サイレント映画風に語られる二つの物語は、一見無関係に進むのだが、やがてどちらもマンハッタンのアッパー・ウェスト・サイド、セントラルパークに面して建つ、アメリカ自然史博物館へ。
映画「ナイトミュージアム」シリーズの舞台としても知られるこの博物館は、主に自然史と自然科学をフィーチャーし、150年の歴史を持つ全米でも有数の壮大な博物館だ。
入り口ホールで出迎えてくれる三頭の恐竜の全身骨格は有名だが、広大な館内を隅々までじっくり見学しようと思ったら、1日ではとても巡り終わらない。
タイトルの「ワンダーストラック」とは、博物館のミュージアムショップで売られている本で「大変な驚き」とか「大いなる目覚め」の意味。
母の遺品の中にあったこの本には、マンハッタンの書店のしおりが挟まれていて、その裏には「愛してるよ、ダニーより」というメモ書きが残されていた。
ベンはこの“ダニー”こそ父だと確信し、書店の名を頼りに、素性を知らない彼の居場所を探そうとする。
1977年のニューヨークを彷徨うベンの物語を、この本がアメリカ自然史博物館へ、そして1964年のニューヨーク万博の記憶を宿すクィーンズ美術館へ、やがて半世紀前のローズの物語へと導いて行く。
映画に仕込まれた、いくつもの暗喩と二重性の仕掛けが楽しい。
天空の“スター”が好きなベン、銀幕の“スター”を探すローズ。
「ヴァレリアン 千惑星の救世主」にも使われていた、デヴィッド・ボウイの「スペース・オデッセイ」と、「2001年宇宙の旅(原題:2001: A Space Odyssey)」の「ツァラトゥストラはかく語りき」。
より主観的なベンの物語と、客観的なローズの物語。
二つの時系列をそれぞれの時代の映画のスタイルで語り、耳が聞こえない二人の子供の物語に、映像芸術としての映画を象徴させる。
特にベンは聞こえなくなったばかりだから、会話によるイージーなコミュニケーションを封じ、回り道させることで彼の様々な気づきを強調する効果的な設定だ。
原作・脚本はブライアン・セルズニック。
黄金時代のハリウッドの大立役者、セルズニック一族に生まれ、自身も古い映画のファンであると語る彼の作品では、映画も重要なモチーフ。
今回は、映画の父ジョルジュ・メリエスを再発見する「ヒューゴの不思議な発明」ほど前面に出してはいないが、映画史を隠し味に、歴史の記憶を宿した博物館が二つの物語を結びつける。
一見脈略のない沢山のものが、次第に意味を持ってくる。
色々な記憶が集まる博物館や博覧会は、いわば万物が集う知のタイムマシン。
そこに集積された、ニューヨークという巨大な街が持つマクロな記憶が、個人のミクロな記憶と素敵に重なり合うのだ。
「ヒューゴの不思議な発明」や、9.11で父を亡くした少年が、残された謎を解くためにニューヨーク中を冒険する「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」などが好きな人にオススメ。
まあよくよく考えると、最初からある人物が本当のことを語っていれば、こんな面倒な事態にはならなかったのだけど、それを言っちゃうのは野暮というもの。
子供たちが成長する寓話においては、全ての出会いも困難も冒険の必然なのである。
今回はニューヨークの地ビール「ブルックリンラガー」をチョイス。
禁酒法以前のニューヨークに多く存在した、ドイツ系醸造所の味を復活させるため、1998年に創業した銘柄。
伝統のウィンナースタイルで作られるこのビールは、バドやミラーといった一般的なマスプロビールに比べればずっと欧州風で、フルーティで適度な苦みと深いコク、ホップ感を持つ。
この一本にも、ニューヨークの生きた歴史が秘められている。
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「キャロル」のトッド・ヘインズ監督の最新作は、ニューヨークを舞台に、時系列の異なる二つの小さな冒険物語が絡み合う、ミステリアスな寓話劇。
1977年、ミネソタ州ガンフリントに暮らす少年ベンは、最愛の母を突然亡くし、自らも事故で聴覚を失う。
彼は母の残した一冊の本、「ワンダーストラック 」を手がかりに、顔も見たことのない父親を探して未知の世界へと旅立つ。
一方、1927年のニュージャージー州ホーボーケンでは、聾唖の少女ローズが、銀幕のスター、リリアン・メイヒューと会うために、ハドソン川の対岸にそびえる摩天楼の都を目指す。
共に耳が聞こえない2人の子供が、自分にとって大切な人物を探すために、異なる時代のニューヨークを訪れる。
方や70年代風のカラー・トーキー、方やモノクロ・サイレント映画風に語られる二つの物語は、一見無関係に進むのだが、やがてどちらもマンハッタンのアッパー・ウェスト・サイド、セントラルパークに面して建つ、アメリカ自然史博物館へ。
映画「ナイトミュージアム」シリーズの舞台としても知られるこの博物館は、主に自然史と自然科学をフィーチャーし、150年の歴史を持つ全米でも有数の壮大な博物館だ。
入り口ホールで出迎えてくれる三頭の恐竜の全身骨格は有名だが、広大な館内を隅々までじっくり見学しようと思ったら、1日ではとても巡り終わらない。
タイトルの「ワンダーストラック」とは、博物館のミュージアムショップで売られている本で「大変な驚き」とか「大いなる目覚め」の意味。
母の遺品の中にあったこの本には、マンハッタンの書店のしおりが挟まれていて、その裏には「愛してるよ、ダニーより」というメモ書きが残されていた。
ベンはこの“ダニー”こそ父だと確信し、書店の名を頼りに、素性を知らない彼の居場所を探そうとする。
1977年のニューヨークを彷徨うベンの物語を、この本がアメリカ自然史博物館へ、そして1964年のニューヨーク万博の記憶を宿すクィーンズ美術館へ、やがて半世紀前のローズの物語へと導いて行く。
映画に仕込まれた、いくつもの暗喩と二重性の仕掛けが楽しい。
天空の“スター”が好きなベン、銀幕の“スター”を探すローズ。
「ヴァレリアン 千惑星の救世主」にも使われていた、デヴィッド・ボウイの「スペース・オデッセイ」と、「2001年宇宙の旅(原題:2001: A Space Odyssey)」の「ツァラトゥストラはかく語りき」。
より主観的なベンの物語と、客観的なローズの物語。
二つの時系列をそれぞれの時代の映画のスタイルで語り、耳が聞こえない二人の子供の物語に、映像芸術としての映画を象徴させる。
特にベンは聞こえなくなったばかりだから、会話によるイージーなコミュニケーションを封じ、回り道させることで彼の様々な気づきを強調する効果的な設定だ。
原作・脚本はブライアン・セルズニック。
黄金時代のハリウッドの大立役者、セルズニック一族に生まれ、自身も古い映画のファンであると語る彼の作品では、映画も重要なモチーフ。
今回は、映画の父ジョルジュ・メリエスを再発見する「ヒューゴの不思議な発明」ほど前面に出してはいないが、映画史を隠し味に、歴史の記憶を宿した博物館が二つの物語を結びつける。
一見脈略のない沢山のものが、次第に意味を持ってくる。
色々な記憶が集まる博物館や博覧会は、いわば万物が集う知のタイムマシン。
そこに集積された、ニューヨークという巨大な街が持つマクロな記憶が、個人のミクロな記憶と素敵に重なり合うのだ。
「ヒューゴの不思議な発明」や、9.11で父を亡くした少年が、残された謎を解くためにニューヨーク中を冒険する「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」などが好きな人にオススメ。
まあよくよく考えると、最初からある人物が本当のことを語っていれば、こんな面倒な事態にはならなかったのだけど、それを言っちゃうのは野暮というもの。
子供たちが成長する寓話においては、全ての出会いも困難も冒険の必然なのである。
今回はニューヨークの地ビール「ブルックリンラガー」をチョイス。
禁酒法以前のニューヨークに多く存在した、ドイツ系醸造所の味を復活させるため、1998年に創業した銘柄。
伝統のウィンナースタイルで作られるこのビールは、バドやミラーといった一般的なマスプロビールに比べればずっと欧州風で、フルーティで適度な苦みと深いコク、ホップ感を持つ。
この一本にも、ニューヨークの生きた歴史が秘められている。

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この記事へのコメント
知のタイムマシン、いい言葉ですね!
子供のころ、肌でそれを実感していたので、とても響きます
子供のころ、肌でそれを実感していたので、とても響きます
>onscreenさん
博物館に行くと、遠い過去や行ったことのない異国の風景が目に浮かぶようで、大人になった今でもワクワクします。
この映画は、未知の世界へ導いてくれる博物館の魅力を、とても素敵なストーリーで語ってくれました。
博物館に行くと、遠い過去や行ったことのない異国の風景が目に浮かぶようで、大人になった今でもワクワクします。
この映画は、未知の世界へ導いてくれる博物館の魅力を、とても素敵なストーリーで語ってくれました。
2018/05/23(水) 22:12:11 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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