2018年06月18日 (月) | 編集 |
二人で、愛と狂気を縫い上げる。
異才ポール・トーマス・アンダーソンの最新作は、まさにこの人にしか作り得ない、驚くべき怪作である。
イギリスの社交界を彩る女性たちのために、ゴージャスなドレスをデザインする、レイノルズ・ウッドコックと、彼のミューズとなるアルマの、奇妙で狂おしいサスペンスフルな愛の物語だ。
レイノルズのモデルとなっているのは、20世紀の伝説的オートクチュールデザイナー、チャールズ・ジェームズ。
ファッションの世界には全く疎いので、超がつく高級服ばかり作っているこの人のことは全然知らなかった。
映画はイギリスが舞台だが、実在のジェームズはこの時代はニューヨークで活動していて、48歳の時に、20歳以上年下のナンシー・リー・グレゴリーと結婚しているので、映画はこのあたりの出来事を引用しつつ、フィクションとして構成している様だ。
例によって登場人物は相当にエキセントリック。
いい歳をして独身のレイノルズは、仕事は超一流だが、とにかく面倒くさい男で、自分の世界を邪魔されるのが絶対に嫌。
付き合う女性はいるのだが、彼女が自分の領域を侵す様になると、躊躇なく別れてしまう。
ちょっと発達障害があるのではないかと思わされるほど、気難しい彼をコントロールできるのはビジネスを取り仕切る姉のシリルだけ。
この役を演じるために一年間ドレス作りを勉強したという、ダニエル・デイ・ルイスはいつもながら文句なしの名演だ。
徹底的な人物造形によって、驚くべき説得力で天才レイノルズを演じきった。
一応、本作で俳優引退するらしいが、この人以前も靴職人になったりしてたから、またやりたい役があれば復帰するのだろう。
ある日、田舎の別荘に向かったレイノルズは、食事に入った店でウェイトレスとして働いていたアルマに理想の体型を見出し、ロンドンへと連れ帰る。
出会っていきなり、彼女の体を採寸しはじめるシーンの何と官能的なことか。
レイノルズは、アルマをモデルとして、上流階級の女性たちを夢中にさせる傑作を次々に作り出してゆき、彼女もまた彼との仕事を通して未知の世界を知り、洗練されてゆく。
二人はデザイナーとモデルの関係を超えて、愛し合うようになるのだが、周りに自分のルーティンを崩さないように厳格な配慮を要求するレイノルズの態度は、アルマに対しても同じ。
まだ若いアルマは自分の愛を拒絶されている様に感じ、当然反発するのだが、レイノルズは全く変わろうとせず、二人の間には次第に冷たい空気が漂う様になる。
都会の上流階級の中で生きてきたレイノルズと、素朴な田舎の環境で育ったアルマ。
ジェネレーションギャップにプラスして、カルチャーギャップがぶつかり合い、これだけだと典型的な年の差恋愛の失敗例に見えるのだけど、さすがポール・トーマス・アンダーソン、男女の間も一筋縄ではいかないのだ。
以前のモデル兼恋人であれば、このあたりで手切れ金を払って終わらせる関係なのだが、ファムファタールであるアルマは違う。
傲慢な王を籠絡し、手のひらに留め置くため、彼女はとんでもなく過激な手段を取る。
てっきりこのまま愛はぶっ壊れてゆき、レイノルズとアルマは悲劇的な結末を迎えるのだと思い込んでいたのだが、葛藤の末に二人が導き出したソリューションには、驚きすぎて思わず「え゛っ(゚o゚;;!」っと声出しそうになった。
奇妙に捻じれた縁で繋がった二人の、破綻ギリギリ、いや破綻しながらの驚くべき愛と支配の構造。
正直、分かる様な分からん様な・・・ 。
まあ愛のカタチは人それぞれだし、本人たちが幸せなら良いのだろうけど。
殆ど鳴りっぱなしのジョニー・グリーンウッドの優美で格調高く、どこか陰鬱な音楽。
まるで塔の様な構造を持つロンドンの自宅兼作業場と、アルマが陰謀を巡らす田舎の別荘のコントラストが面白い心理効果を上げている。
「Phantom Thread」は直訳すれば「幽霊の糸」だが、Threadという単語には他にも「捻じれたもの」だったり「人間の寿命」や「(話の)脈略」などの意味があり、映画を見ると幾つもの含意を感じ取れる粋なタイトル。
いかにもこの作家らしい、実にトリッキーで味わい深い秀作だ。
今回は、その名もずばり「ファントム」をチョイス。
スペインのリキュール、リコール43を30ml、アブソルート・ウォッカ30ml、適量のミルクを氷で満たしたタンブラーに注ぐ。
リコール43独特のフルーティな甘みとウォッカとの相性は良く、ミルクが全体をマイルドにまとめ上げる。
これからの季節にはアイスクリームを溶かして、大人のミルクセーキにするという裏技で味わってもいい。
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異才ポール・トーマス・アンダーソンの最新作は、まさにこの人にしか作り得ない、驚くべき怪作である。
イギリスの社交界を彩る女性たちのために、ゴージャスなドレスをデザインする、レイノルズ・ウッドコックと、彼のミューズとなるアルマの、奇妙で狂おしいサスペンスフルな愛の物語だ。
レイノルズのモデルとなっているのは、20世紀の伝説的オートクチュールデザイナー、チャールズ・ジェームズ。
ファッションの世界には全く疎いので、超がつく高級服ばかり作っているこの人のことは全然知らなかった。
映画はイギリスが舞台だが、実在のジェームズはこの時代はニューヨークで活動していて、48歳の時に、20歳以上年下のナンシー・リー・グレゴリーと結婚しているので、映画はこのあたりの出来事を引用しつつ、フィクションとして構成している様だ。
例によって登場人物は相当にエキセントリック。
いい歳をして独身のレイノルズは、仕事は超一流だが、とにかく面倒くさい男で、自分の世界を邪魔されるのが絶対に嫌。
付き合う女性はいるのだが、彼女が自分の領域を侵す様になると、躊躇なく別れてしまう。
ちょっと発達障害があるのではないかと思わされるほど、気難しい彼をコントロールできるのはビジネスを取り仕切る姉のシリルだけ。
この役を演じるために一年間ドレス作りを勉強したという、ダニエル・デイ・ルイスはいつもながら文句なしの名演だ。
徹底的な人物造形によって、驚くべき説得力で天才レイノルズを演じきった。
一応、本作で俳優引退するらしいが、この人以前も靴職人になったりしてたから、またやりたい役があれば復帰するのだろう。
ある日、田舎の別荘に向かったレイノルズは、食事に入った店でウェイトレスとして働いていたアルマに理想の体型を見出し、ロンドンへと連れ帰る。
出会っていきなり、彼女の体を採寸しはじめるシーンの何と官能的なことか。
レイノルズは、アルマをモデルとして、上流階級の女性たちを夢中にさせる傑作を次々に作り出してゆき、彼女もまた彼との仕事を通して未知の世界を知り、洗練されてゆく。
二人はデザイナーとモデルの関係を超えて、愛し合うようになるのだが、周りに自分のルーティンを崩さないように厳格な配慮を要求するレイノルズの態度は、アルマに対しても同じ。
まだ若いアルマは自分の愛を拒絶されている様に感じ、当然反発するのだが、レイノルズは全く変わろうとせず、二人の間には次第に冷たい空気が漂う様になる。
都会の上流階級の中で生きてきたレイノルズと、素朴な田舎の環境で育ったアルマ。
ジェネレーションギャップにプラスして、カルチャーギャップがぶつかり合い、これだけだと典型的な年の差恋愛の失敗例に見えるのだけど、さすがポール・トーマス・アンダーソン、男女の間も一筋縄ではいかないのだ。
以前のモデル兼恋人であれば、このあたりで手切れ金を払って終わらせる関係なのだが、ファムファタールであるアルマは違う。
傲慢な王を籠絡し、手のひらに留め置くため、彼女はとんでもなく過激な手段を取る。
てっきりこのまま愛はぶっ壊れてゆき、レイノルズとアルマは悲劇的な結末を迎えるのだと思い込んでいたのだが、葛藤の末に二人が導き出したソリューションには、驚きすぎて思わず「え゛っ(゚o゚;;!」っと声出しそうになった。
奇妙に捻じれた縁で繋がった二人の、破綻ギリギリ、いや破綻しながらの驚くべき愛と支配の構造。
正直、分かる様な分からん様な・・・ 。
まあ愛のカタチは人それぞれだし、本人たちが幸せなら良いのだろうけど。
殆ど鳴りっぱなしのジョニー・グリーンウッドの優美で格調高く、どこか陰鬱な音楽。
まるで塔の様な構造を持つロンドンの自宅兼作業場と、アルマが陰謀を巡らす田舎の別荘のコントラストが面白い心理効果を上げている。
「Phantom Thread」は直訳すれば「幽霊の糸」だが、Threadという単語には他にも「捻じれたもの」だったり「人間の寿命」や「(話の)脈略」などの意味があり、映画を見ると幾つもの含意を感じ取れる粋なタイトル。
いかにもこの作家らしい、実にトリッキーで味わい深い秀作だ。
今回は、その名もずばり「ファントム」をチョイス。
スペインのリキュール、リコール43を30ml、アブソルート・ウォッカ30ml、適量のミルクを氷で満たしたタンブラーに注ぐ。
リコール43独特のフルーティな甘みとウォッカとの相性は良く、ミルクが全体をマイルドにまとめ上げる。
これからの季節にはアイスクリームを溶かして、大人のミルクセーキにするという裏技で味わってもいい。

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この記事へのコメント
男性は基本的に女性に甘えたい生き物。
アルマという女性を得るというよりも、アルマの放つ母性を得たくてレイノルズは彼女の過激な愛を受け入れていくのだと思いましたよ。
看病されている間は母親を独り占め出来て喜ぶ子供のようで、やっぱり男っていくら歳をとっても変わらんなぁ~と思いました。
アルマという女性を得るというよりも、アルマの放つ母性を得たくてレイノルズは彼女の過激な愛を受け入れていくのだと思いましたよ。
看病されている間は母親を独り占め出来て喜ぶ子供のようで、やっぱり男っていくら歳をとっても変わらんなぁ~と思いました。
>にゃむばななさん
甘えたいという以上になんだか倒錯したものを感じました。
正直、どっちもちょっとイっちゃてる人かと。
でもだからこそ、あんな凄いものが作れるんでしょうけど。
甘えたいという以上になんだか倒錯したものを感じました。
正直、どっちもちょっとイっちゃてる人かと。
でもだからこそ、あんな凄いものが作れるんでしょうけど。
2018/06/30(土) 20:30:05 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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