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30年後の同窓会・・・・・評価額1700円
2018年06月22日 (金) | 編集 |
人生とは、割り切れないものだけど。

「6才のボクが、大人になるまで。」など、個人史を描く数々の秀作で知られるリチャード・リンクレイター監督が、ダリル・ポニックサンの小説を原作に、30年ぶりに再会したベトナム帰還兵たちの人生の道行を描いたロードムービー。
イラク派兵中だった海兵隊員の息子を失ったドクと、場末のバー店主として酒浸りの生活を送るサル、破天荒だった過去を捨て、牧師となったミューラーを、スティーヴ・カレル、ブライアン・クランストン、ローレンス・フィッシュバーンという、いぶし銀の名優たちが演じ、見応えたっぷり。
ドクの息子の遺体を引き取り埋葬するため、彼らはハプニング続出のアメリカ北東部を巡る長い旅に出ることになる。
30年前に起こったある事件で、それぞれに人生を狂わされた三人は、予期せぬ旅を通して過去と向き合い、人生の欠落を取り戻してゆく。

小ネタの効いた笑いと、じんわりとした涙、リンクレイターならではの味わい深い秀作である。

2003年。
バージニア州ノーフォークで、バーを営むサル(ブライアン・クランストン)の元へ、ベトナム戦争の戦友で30年間音信不通だったドク(スティーヴ・カレル)が現れる。
飲み明かした二人は、過去を捨て今は牧師となったもう一人の戦友・ミューラー(ローレンス・フィッシュバーン)を訪ね、ドクは最愛の妻に先立たれたこと、一年前に出征した海兵隊員の息子ラリーが、2日前にイラクで戦死したことを告げ、息子の遺体を受け取り埋葬する旅に、二人の同行を依頼する。
ノーフォークからワシントンDCへ、そこから遺体が到着するデラウェア州ドーバー空軍基地へ。
息子との対面を果たしたドクは、軍の公式発表に嘘があることを知り、国立アーリントン墓地への埋葬を拒否し、故郷のポーツマスへ埋葬することを決める。
しかし、トラック会社でテロリストに間違えられて、やむなくラリーの戦友で軍のお目付け役チャーリー・ワシントン(J・クイントン・ジョンソン)と共に列車で遺体を運ぶことに。
やがて、30年前に起きたある事件によって、人生が変わってしまった三人の心に変化が訪れ、彼らは封印してきた記憶に向き合おうとするのだが・・・・


アメリカ市民であり、同時に軍人であることのジレンマを、これほどウィットに富んだ表現で描いた作品があっただろうか。
2005年に出版されたダリル・ポニックサンの原作「Last Flag Flying」は、ハル・アッシュビー監督の映画でも知られる、「さらば冬のかもめ(The Last Detail)」の30年後を描く続編小説だ。
「さらば冬のかもめ」はベトナム戦争末期の時代を背景に、ジャック・ニコルソンとオーティス・ヤング演じる海軍下士官バダスキーとマルホールが、ランディ・クエイドが好演する罪を犯した新兵のメドウズを軍刑務所まで護送するロードムービー。
ベテラン下士官が、ちょっとオバカな新兵に抱いた奇妙なシンパシーと友情を描き、ニコルソンとクエイドがアカデミー主演男優賞・助演男優賞へのダブルノミネートを果たした、アメリカン・ニューシネマの名作である。

当初リンクレイターは、既に亡くなっていたヤングを除くニコルソンとクエイドの出演を想定し、「さらば冬のかもめ」の正式な続編として本作を構想していたようだが、結局実現するまでに30年どころか45年が経過し、ニコルソンは歳をとりすぎて事実上引退してしまった。
そこでリンクレイターとポニックサンは、キャラクター名と過去の事実関係を若干変更して脚色し、“精神的続編”として再構成したのだが、キャラクター造形などには依然強い影響が見られ、クランストンがニコルソンで、フィッシュバーンがヤング、カレルがクエイドの役の30年後の姿だということは容易にイメージできる。
ちなみにヤングは、晩年俳優から牧師に転身し聖職者として活動していたので、本作でフィッシュバーンが演じるミューラーが牧師設定なのは、このあたりから来たアイディアなのかもしれない。


なぜドクは、長い間疎遠だった二人を誘ったのか。
歳月が変えたようで変わっていない三人のお笑い珍道中を通して、次第に彼らの中にある葛藤が顕在化してくる構図。

浮かび上がるのは、国家の戦争と個人の戦争の乖離だ。
アメリカの40年代は第二次世界大戦、50年代は朝鮮戦争、60、70年代はベトナム戦争、90年代の湾岸戦争、ゼロ年代から今は終わりなき対テロ戦争。
大きな戦争の無かった80年代も、グレナダ侵攻やパナマ侵攻といった小規模の戦争があった。
真珠湾攻撃による孤立主義の終焉後、ほとんど途切れなく何らかの戦争を遂行してきたアメリカ。
劇中の「すべての世代に戦争がある」という台詞は、リアルな現実なのである。

しかし、ファシズムの脅威があり、大日本帝国による本土攻撃にも晒された第二次世界大戦を除けば、その他の戦争の大義は曖昧だ。
三人が戦ったベトナム戦争も、ドクの息子が命を落としたイラク戦争も、アメリカの安全が直接脅かされた訳ではない。
ベトナム派兵はフランスが手を引いたインドシナ半島が、共産勢力に飲み込まれるのを防ぐためだったし、イラク戦争の大義とされた大量破壊兵器は結局存在しなかった。
国家の戦略上何らかの意味はあっても、派遣された軍人個人にとっては何ら意義を持たない戦争
アメリカ人であり、兵士である登場人物たちは、平和に暮らすことを願う一市民としての立場と、命令されれば世界の何処へでも戦いに行く兵士としての立場の違いが生み出すジレンマに、どこかで折り合いをつけねばならない。

多くの人が「何のために?」と疑問に思う戦争でも、軍は「あなたの息子は犬死でした」と言う訳にはいかないので、英雄を作りたがる。

たとえ、それが嘘だったとしてもだ。
軍が息子の死の真相を隠蔽しようとしていることを知ったドクは、名誉ある英雄としてアーリントン墓地に葬ることを拒否し、愛する息子として故郷の地に埋葬することを選ぶ。
ドーバーからポーツマスへ、嘗ての「さらば冬のかもめ」の道程を辿りながら、三人は戦場で失われる命の意味と改めて向き合うこととなる。
ちょうど彼らの旅の間に、逃亡していたサダム・フセインが拘束されるのだが、ドクが同じ息子を失った父親として、フセインの心に思いを巡らせるのが印象的。
戦場で殺しあっているのは、同じように家族を持つ人間なのだ。

そして三人の心の奥底に、30年間棘のように突き刺さっているある事件の記憶が蘇ってくる。
この事件の詳細に関してはあえて語られないのだが、三人の思慮を欠いた行動によって、死ななくてもよかった一人の兵士が命を落としたということらしい。
そして真相を告白するために、亡くなった兵士の母親を訪ねた三人は、母親が軍の発表した“嘘”を信じ、息子が英雄として死んだと思っていることを知り、何も言えなくなってしまう。
親として軍の隠蔽に激怒したドクも、立場を取り替えれば自らの中にも同じ思考があり、それを否定することができないことを知る。
人間誰しも裏表があるように、人間が作る国家にも本音と建前のジレンマがある。
その戦争に本当に意味があるのか、為政者が戦死者に捧げる哀悼の意はどこまで本物なのか、愛国心は本当に国家のためになるのか。

リチャード・リンクレイターは、国家と個人のあり方に様々な疑問を投げかけながらも、家族への愛、長年の友情といった個に立脚した価値観は最大限肯定する。
思えば、彼は自らの人生で経験した様々なプロセスを映画に織り込むことで、私小説的な自分史を語ってきた。
集大成的な「6歳のボクが、大人になるまで。」で、子供が親元を離れて独立するまでを描き上げてたリンクレイターだが、本作は一歩引いた視点で、一人の成熟した大人として、子供の未来を案じる親として、全ての世代に伝えたい想いを強く感じさせる。
アメリカ人として、子を愛する心と国を愛する心が、悲しみと矛盾を抱えなくて済むにはどうすればいいのか、トランプの時代に対する大きな問いかけを含む、思慮深い寓話である。
喪失の深い悲しみを繊細に表現するスティーヴ・カレルが素晴らしく、ローレンス・フィッシュバーンとブライアン・クランストンの、丁々発止の掛け合いは最高に楽しい。
彼らの円熟の演技を見るだけでも、十分に価値に価値のある秀作だ。

しかし2003年には、これが戦争が戦争を呼ぶ終わり無き戦争の時代のはじまりだとは、誰も知らなかったんだなあ。

今回は、サルの店で飲みたい「ワイルドターキー」の13年をチョイス。
オースチン・ニコルズ社は、1855年創業。
元々野性の七面鳥狩りに訪れるハンターたちが顧客だったことから、この名を付けたという。
同社は元々蒸留所を持たず、購入した原酒をブレンドしていたのだが、1971年にバーボン・ウィスキーの聖地、ケンタッキーの伝統ある旧リピー蒸留所を買収して以来、一貫して自社生産している。
オーク樽で熟成された13年ものは、フルーティな香りと繊細な甘みを伴う深いコク、独特のスパイシーな後味が特徴。
比較的安価なので、二日酔いするまで飲んでも財布が痛まないのも嬉しい。

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コメント
この記事へのコメント
こんばんは。本作は、脚本がとても好みで、しみじみ味わえる映画でした。かつてあった映画との繋がりを知るとまた、感動がしみいりますね。
2018/06/30(土) 23:37:44 | URL | さるこ #-[ 編集]
こんばんは
>さるこさん
いろいろと考えさせられる、味わい深い話ですよね。
リンクレイターはこういうのを作ったっら本当に上手い。
「さらば冬のかもめ」も大好きな映画なので、キャラ名は変わっていてもあの三人のその後の物語としても楽しみました。
2018/07/02(月) 21:56:08 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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2018/06/22(金) 18:59:07 | 映画に夢中
酒浸りになりながら1人でバーを営むサル、破天荒だった過去を捨て牧師となったミューラーの前に、30年間音信不通だった戦友ドクが現れる。 1年前に妻に先立たれ、2日前に息子がイラクで戦死したと話すドクは、息子を故郷へ連れ帰る旅への同行を頼みに来たのだ。 バージニア州ノーフォークから故郷のポーツマスへ向かう、男たちの旅が始まった…。 コメディ。
2018/06/23(土) 09:08:27 | 象のロケット