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志乃ちゃんは自分の名前が言えない・・・・・評価額1650円
2018年09月04日 (火) | 編集 |
誰よりも、伝えたいと思っているのに。


タイトル通り、極度の吃音症で他人とうまく話すことが出来ない志乃ちゃんと、音楽が大好きなのに半端なく音痴な加代ちゃんの物語。
高校一年生の春、クラスメイトとして出会った二人は、ひょんなことからバンド活動をはじめることになり、お互いに影響し合って少しずつ変わってゆく。
しかし、あまりにも繊細な十代のガラスのハートは、ほんの少しの衝撃で砕け散ってしまうのである。
原作は「惡の華」など、思春期の心理劇で知られる押見修造の同名漫画。
「百円の恋」の足立紳が脚色し、実写版「THE NEXT GENERATION パトレイバー」や「ワカコ酒」などのテレビドラマを手がけてきた湯浅弘章が、見事な長編商業映画デビューを飾った。
青春音楽映画としても一級品だ。

大島志乃(南 沙良)は、人と話すのが大の苦手。
家族とは普通に話せるのだが、他人を相手にすると吃音が出て、うまく言葉が喋れなくなってしまうのだ。
高校に入学してすぐのクラスの自己紹介も全く上手くいかず、学園生活は最初から躓いてしまう。
そんなある日、志乃はクラスメイトであまり人と接しない加代(蒔田 彩珠)とかかわりを持ち、勇気を出して彼女と親しくなる。
音楽が好きだが、歌うのが苦手な加代から「志乃は歌えるの?」と聞かれた志乃は、カラオケで歌を披露する。
普段の吃音からは想像もつかない歌声に驚いた加代は、自分がギターを演奏して、志乃が歌うバンドの結成を提案。
二人のバンド「しのかよ」は、学校から遠い誰も知らない街の片隅で、路上ライブをはじめる。
はじめはおっかなびっくりだった志乃も、徐々に慣れて歌う楽しさに目覚めてゆくのだが・・・


人に出来ることが自分だけ出来ないコンプレックスはもどかしく、とても苦しい。
特に志乃ちゃんの場合、“会話”という人間関係の根本に関わる問題ゆえに、悩みはとてつもなく大きくなる。
一人でいるときには淀みなく話せるし、家族との会話も問題ないのに、他人と話す時だけひどい吃音が出てしまう。
吃音のコンプレックスを描いた映画というと、「英国王のスピーチ」が記憶に新しいが、あの映画のジョージ六世は志乃ちゃんの症状に比べると遥かにマシ。
彼女は特に母音から始まる言葉が苦手で、「大島志乃」という自分の名前すら言えないのである。
当然、クラスメイトともコミュニケーションが取れないので、友達もできず、いつも人目につかないところで一人飯。
担任の先生は「頑張ろう」と励ますのだが、努力で解決する問題ではないのは、自分が一番よく分かっている。


孤立した学校生活を送っているある日、志乃ちゃんはクラスの中でもクールな雰囲気を漂わせている加代ちゃんと、偶然の出来ごとから接点を持つ。
「喋れないなら、書けばいいじゃん」と言う加代ちゃんのコンプレックスは、ミュージシャン志望でギターも弾けて作詞作曲もするのに、歌えないというもの。
歌うとなぜか音程が外れていってしまう、天性の音痴なのだ。
ところが志乃ちゃんは喋れないけど歌えて、しかも相当な美声の持ち主だと分かり、お互いに足りない部分を補うように二人は急速に接近、ガールズバンド「しのかよ」を結成することになる。


映画の序盤、胃がキリキリするほどの焦燥感を感じた青春映画は「聲の形」以来。
それぞれに人に言えない、人から理解されないコンプレックスを抱えた二人の少女の痛みが、観客の心を容赦なく抉ってくる。
そんな絶望的な状況から、音楽がフワリと救い出す心地よさ。
加代ちゃんがギターを弾き、志乃ちゃんが歌う。
一人ではいびつな形の二人が、組み合わさることで美しいハーモニーが紡ぎだされる。
音楽を通じて、二人の間に強い信頼が生まれると、加代ちゃんと話す時は吃音もだんだんと出なくなってゆく。


しかし、より大きな葛藤を抱えた志乃ちゃんにとって、やっと見つけた“居場所”はまだ砂上の楼閣の様なもの。
ある事件の発生によって、それは脆くも崩れ落ちてしまう。
ここで絡んでくるのが、これまた問題のある男子・菊池だ。
菊池はいわゆる“空気読めない奴”で、超ハイテンションでクラスメイトにいじってもらおうとしては空回り。
他人の心にずかずかと踏み込んでは、嫌われてしまうタイプだ。
志乃ちゃんとは別の意味でコミュニケーション障害気味の菊池が「しのかよ」の二人の仲間になろうとしたことで、ただでさえデリケートな志乃ちゃんの心は激しい拒絶反応を起こし、せっかく作った居場所を自ら壊してしまうのである。


殆どのエピソードが軸となる三人を起点として展開し、登場人物は非常に少ないながらも、巧みなプロット構成によって重層的な人間ドラマが構成されている。
原作者の押見修造は中学生のころから吃音症を患っており、この物語は作者の実体験に基づいているという。
秀逸なのは、吃音症という特定の症状に限定した話ではなく、吃音を起点として人と人とのコミュニケーションという非常に普遍的なイッシューを描いていること。
誰かと友達になりたい、体験を共有したい、愛し愛されたいという誰もが経験のある青春の葛藤へと、無理なく落とし込んでいる。
ここにあるのは少しずつ何かが足りず、時に感情を爆発させながらも、そんな自分に必死に抗う若者たちのビターで瑞々しい青春。
人は皆どこか他人と違うところがあり、それは時にコンプレックスとなったり、イジメや差別の原因となってしまうが、いかにしてそんな不完全な自分たちと向き合ってゆくのか。

クライマックスの学園祭での加代ちゃんの必死の熱唱、それに応える志乃ちゃん魂の慟哭まで、非常に丁寧に描写されている。


様々な表情を持つ実に映画的な海辺の町、静岡県沼津市のロケーションも登場人物の心象として機能しており、まつきあゆむが手がけた音楽と共に若者たちの心理をぐっと掘り下げる。

志乃ちゃん役の南沙良、加代ちゃん役の蒔田彩珠、さらに菊池役の萩原利久まで、三人の若者の大熱演が光り、特に南沙良の鼻水顔は強烈なインパクトを残す。

実に楽しみな役者さんたちが出てきたものだ。
作り手の魂のこもった、味わい深い秀作である。

今回は少しずつ違う個性をイメージして、層になったカクテル「エンジェルズ・デイライト」をチョイス。
グラスにグレナデン・シロップ、パルフェ・タムール、ホワイト・キュラソー、生クリームの順番で、15mlづつ静かに重ねてゆく。
液体の比重の違いで、四色の層が混じり合わないのだが、スプーンの背をグラスに沿わせて、そこから注ぐようにすれば崩れにくい。
カラフルで美しく、幾つもの味が舌の上で溶け合う感覚を楽しめる一杯だ。

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