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愛しのアイリーン・・・・・評価額1700円
2018年09月22日 (土) | 編集 |
幸せって何だっけ?

強烈。

おそらく、日本映画史上最も放送禁止用語を連発した作品。

こりゃ地上波放送不可だな。

コミュニケーションの断絶がもたらす、寓話的な悲喜劇。

安田顕演じる寒村に暮らす中年男・岩男が、フィリピンから若い妻・アイリーンを金で買ってくる。

だが、そこは保守的な村社会。
岩男を溺愛する老いた母親は、決してアイリーンを“嫁”として認めようとしない。
「ザ・ワールド・イズ・マイン」など、不条理劇で知られる新井英樹の同名漫画を、「ヒメアノ~ル」の吉田恵輔が映画化。
暴走する愛に翻弄される岩男を安田顕が好演し、アイリーンをナッツ・シトイ、彼女に憎しみを募らせる岩男の母親・ツルを木野花が怪演している。
※核心部分に触れています。

宍戸岩男(安田顕)は認知症の父・源造(品川徹)と母のツル(木野花)と三人で、地方の寒村に暮らしている。
四十路に入っても結婚の当てはなく、毎夜自慰にふける息子に、ツルはしきりに見合いをすすめるが岩男は受け入れない。
パチンコ店に勤める岩男は、同僚の愛子(河井青葉)に恋心を抱いている。
だが、彼女がその清楚なイメージとは違って、かなり乱れた男関係をもっていることを知り、激しく動揺。
誰にも告げずに姿を消してしまう。
しばらく後、源蔵が亡くなり、その葬儀の最中に岩男がフィリピン人の若い女性・アイリーン(ナッツ・シトイ)を連れて突然戻ってくる。
実は愛子に振られた岩男は、なけなしの貯金300万円を払って国際結婚斡旋会社に申し込み、フィリピンに渡っていたのだ。
だが、岩男を“理想の嫁”と結婚させようと目論んでいたツルはこの結婚を認めず、猟銃を持ち出してアイリーンに突きつけるのだが・・・



タイトルロールのアイリーン自身は、強いドラマを持っていない。

まだ十代の若い彼女は、ある程度したたかではあるものの、基本はただ幸せになりたくて、他人も幸せにしたいシンプルな人物だからだ。
実質金で買われる形で日本に嫁いでも、愛する人と結ばれたいと、簡単には岩男に体を許さない。
少しずつ日本語を勉強し、何も知らない岩男のことを好きになって、いつか本当の夫婦になろうと努力している。
彼女の問題は、周りが皆「ドラマを持っている」人々、即ち煩悩と葛藤の塊の様な人間たちばかりだということなのだ。


夫の岩男は相当鬱屈しているが、それでもまだ彼女を愛そうとするし少しずつだが心を通わせる。

ところが、どうしても息子に“理想の嫁”をとらせたい姑のツルが、伊勢谷友介演じるアイリーンを狙う女衒の塩崎にそそのかされて、要らん策略を巡らせたことで全てが壊れてゆく。
ツルに売り飛ばされたアイリーンを奪還するために図らずも塩崎を殺した岩男は、共犯者となったアイリーンとその高揚感の中で遂に結ばれるが、もともと女を口説くことも出来ない気弱な中年男。
時がたつに連れて殺人の記憶は彼の心にのしかかり、塩崎の仲間たちの脅迫めいた追及もあって、遂にはぶっ壊れてしまう。
彼の場合、不安と恐怖のはけ口は死の対照としてのセックスに向かい、アイリーンだけでなく、愛子やツルが見合いをさせようとしていた“理想の嫁”候補の琴美にまで誰彼かまわず手を出し、せっかく作り上げようとしていた幸せを自ら崩してしまうのだ。


実の母に障子の穴から自慰やセックスを覗かれてしまうプライバシーゼロの住環境、そんな家で子離れ出来ない親に親離れ出来ない子、根拠のない思い込みからくる人種差別に昔ながらの女性蔑視、有ること無いことゴシップがたちまち広まるコミュニティ、家族になろうとする相手の言葉すら学ぼうとしない傲慢さ、全ての要因がコミュニケーションを阻み「幸せになりたい」というごく単純な目標を遠ざける。
言わば日本の田舎の不条理で嫌な部分が全て顕在化する様な物語で、この居心地の悪さはニューシネマ系ホラーで描かれるアメリカ南部に匹敵する。

映画は現在設定だし、全く違和感ないのだが、実はビックコミックスピリッツ誌に本作の原作の連載が始まったのは四半世紀近く昔の1995年。
バブル期の80年代から90年代にかけて、「金はあるけど嫁は来ない」農村部の日本人男性がフィリピンに行って見合いをし、国際結婚するのがある種のブームとなった。
お金のために嫁ぐ女性は、日本に出稼ぎに来る女性と合わせて「ジャパゆきさん」と呼ばれ、映画やドラマでもモチーフになったりしたが、当然うまくいかないケースも多発し、金にモノを言わせた人身売買ではないかと批判されて社会問題となったのはよく覚えている。
もちろん幸せになった人もたくさんいたのだろうが、言葉も通じず文化も違う、自分よりもずっと年上の男性と家庭を持つことがイージーな訳がない。
新井英樹はそんな社会情勢に影響を受けて、当時の日本社会の問題点を赤裸々に描き出した訳だが、原作に比較的忠実に映像化された本作が、23年経った今も一定の現在性を保ち続けているのは、それだけの間社会が停滞しているということか。

キャスト陣はみな素晴らしいが、特に歪んだ愛に突き動かされるツル役の木野花の怪演が怖い。
普段は映画やドラマで気立てのいいおばちゃん役で目にすることが多い人だけに、そのギャップに圧倒される。

しかしアイリーンを執拗にいたぶる彼女自身も、かつて嫁いだ宍戸家で“子を産む機械”としての役割を果たせず、不条理な圧力にさらされて、その結果として一粒種の岩男を盲目的に溺愛するようになってしまったのが切ない。

映画のツルほど極端な人は珍しいだろうが、ああいうメンタルの人はまだまだ実際に沢山いそうだ。
どんどん自分の中の小さな世界に入り込み、コミュニケーションを拒否する彼女が、最終的に“声”を失うのは非常に象徴的。

古谷実原作の「ヒメアノ~ル」に続いて、漫画原作の不条理劇を見事なクオリティで映像化した吉田惠輔の演出は、土着的でねちっこく、まるでエキセントリックな平成版の今村昌平の様。
今村昌平の代表作の一つが姥捨の風習のある村を描き、カンヌ映画祭のパルム・ドール(グランプリ)に輝いた「楢山節考」だが、本作でも姥捨が重要な要素になっているのは面白い。
あの映画の村は長男しか結婚を許されず、老いた親は齢70歳になると山へ捨てられる。
村人の関心はもっぱら食べることとセックスに向いていたが、飽食の時代となった現在では食べ物に葛藤は無くなった。
しかしセックスに関しては別で、本作では実の親によって長男であっても「楢山節考」の奴(やっこ)の様に結婚を阻まれるのだ。
本作の村が「楢山節考」の村の現在の姿と考えると、ある意味精神的な続編とも捉えられる。
「楢山節考」の姥捨は子を幸せにするための母の自己犠牲だったが、本作の姥捨は子を不幸にしてしまったことへの自己懲罰だ。
共通するのは、どちらの母も新たな子孫の誕生を予感しながら死を迎えるということである。
本作でツルが体現しているのは、姥捨の風習があった時代から続く、日本の田舎の“原罪”なのかも知れない。

今回はアイリーンと飲みたいフィリピンのビール、「サン・ミゲル ピルセン」をチョイス。
サン・ミゲルは本国で9割という圧倒的なシェアを持つ、フィリピン国産ビールの代表格。
いくつかのタイプがあるのだが、暑い国のビールらしく基本的にはどれもライトな方向性。
典型的なピスルナーのピルセンが、喉越しスッキリで適度なコクもあり、日本人のビール好きには一番しっくりくる味わいだろう。
東南アジアのビール文化の例にもれず、緩くなって来たらビアジョッキにガンガン氷を入れちゃうのが現地流。

ところで、内容には関係ないけど、ラブホのシーンで自動ピストン椅子的な昭和SFチックな謎マシンが出てきたんだけど、アレは実在するのか(笑

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コメント
この記事へのコメント
邦画の力技
こんばんは。
この作品、原作はリアルタイムでスピリッツで読んでいましたが、ここまでやるとは…さすが吉田監督、というか、ヤスケンというか。
まったくの善人が誰も出てこない部分がかえってリアルでした。
2018/09/30(日) 23:14:58 | URL | ここなつ #/qX1gsKM[ 編集]
こんばんは
>ここなつさん
もう四半世紀も前の漫画なのに、十分な現在性があることが逆に衝撃でした。
あんま変わってないんですかねー。
ダメ人間ばかり出てくるので、お坊さんがちょっとした清涼剤w
2018/10/01(月) 22:33:01 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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漫画家・新井英樹の原作を、この作品に大きな影響を受けたという『ヒメアノ~ル』などの吉田恵輔が映画化。『俳優 亀岡拓次』などの安田顕が、フィリピンの女性と結婚する主人公を演じる。すご味のある母親を『ハローグッバイ』などの木野花、謎のヤクザを『あしたのジョー』などの伊勢谷友介が好演。あらすじ:岩男(安田顕)がアイリーン(ナッツ・シトイ)を連れて久しぶりに故郷の村に帰省すると、死んだことを知らずに...
2018/09/22(土) 20:52:06 | 映画に夢中
映画『愛しのアイリーン』は、とにかく疲れるほど濃いです。大江戸が大変評価している
2018/09/22(土) 23:01:15 | 大江戸時夫の東京温度
田舎の小さな町(撮影場所は新潟県長岡市だとエンドロールに記載)で、43歳になっても独身で親と同居する岩男(安田顕)。仕事は地元のパチンコ店のホール店員。何かを変えたいという積極的な希望もなく、かといって現状を幸せに感じている訳でもない。周囲…特に母親は岩男の身を案じ、望み通りの嫁を娶ることを願う。孫の顔だって見たいではないか!岩男とてつまらない日常の中の楽しみごとはある。同じホール勤務のバツ...
2018/09/30(日) 23:12:24 | ここなつ映画レビュー