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華氏119・・・・・評価額1700円
2018年11月16日 (金) | 編集 |
トランプ政権はなぜ生まれたのか?

相変わらずマシンガンのように情報をはき出すテリングのテンポが心地よく、無茶苦茶面白い。
史上最も嫌われている大統領ながら、なぜだか一定の支持は受けている・・・というと一昔前ならジョージ・W・ブッシュのことだった。
嘗てマイケル・ムーア監督は、イラク戦争下のアカデミー賞の授賞式で「shame on you!(恥を知れ)」と叫び、当時のブッシュ政権を激しく非難したが、本作のタイトルはその時の受賞作「華氏911 (Fahrenheit 9/11)」をひっくり返した「華氏119 (Fahrenheit 11/9)」
これはトランプ陣営が勝利宣言を出した11月9日と緊急ダイヤルの119をかけたもの。

世界が驚いた大統領選のドタバタから始まり、トランプ以前にプチ・トランプ的州知事が誕生していたミシガン州で起こったこと、フロリダの学校乱射事件の生き残り生徒たちの行動、今回の中間選挙を盛り上げたマイノリティ候補たちの活動と、トランプという強烈なキャラクターを軸にして、この数年間の出来ごとを追ってゆく。
悪い意味で型破りで、息子ブッシュが可愛く見えてくる第45代アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプとその時代への、アンチサイドからの強烈なプロパガンダ・ムービーだが、単純なトランプ批判ではなく、トランプ政権を誕生させたアメリカの抱える歴史的・社会的な様々な問題を網羅した内容になっている。

映画の主張するトランプ政権誕生のポイントは二つ。
一つ目は毎回物議をかもす、アメリカ大統領選挙の独特の仕組みだ。
大統領候補への直接投票ではなく、大統領選挙人への間接投票、しかも州によっては勝者が選挙人の票をすべて自分のものにできるという制度によって、得票数で上回った候補が選挙では敗れるという奇妙な現象がたびたび起こってきた。
2000年の選挙ではアル・ゴアがブッシュに54万票の差をつけながら、当選したのはブッシュだったし、2016年にはヒラリーがトランプを実に200万票以上も上回っていた。
もちろん今の時代に合わないものでも、変えない限りルールはルールで、単純にヒラリー陣営の選挙戦略の失敗という見方も強い。

興味深いのは、本作が提示するもう一つの理由。
ムーアは嘗ては自分も支持していたオバマ前大統領を含む民衆党旧世代をも断罪し、トランプを後押ししたのは民主党自身の体質だというのである。
公民権運動が吹き荒れた1960年代以降、保守的で大企業や富裕層を支持層に持つ共和党、リベラル派やマイノリティの支持を受ける民主党というイメージが固定化しているが、実際には民主党は豊富な資金を持つ共和党と戦うために、自らが徐々に共和党化していったという。
党内の民主的な手続きはおざなりにされ、民意が反映されなくなり、結果的に支持層の離反を招いた。
2016年の民主党大統領候補予備選では、ヒラリーとバーニー・サンダースが競い合っていたが、民主党上層部の意向によって、よりラジカルなバーニーの票が奪われ、出来レースでヒラリーが勝ったという主張が事実であれば、病巣は相当に深い。

映画の中で印象的なのが、プチ・トランプ的なリック・スナイダー州知事による失政(と言うか陰謀)で、飲み水が汚染され、健康被害が出たミシガン州フリントのエピソード。
デトロイトからもほど近いこの街は、ゼネラルモーターズの組立工の子として生まれた、マイケル・ムーアの故郷でもあった。
人々が何年も水質改善を訴えても無視されてきたフリントへ、ついにオバマ大統領がやって来る。
住民たちはオバマが問題を解決してくれると希望を託すが、なんとオバマはスナイダーの政策を擁護して、実際に苦しんでいる住民を見捨てるのである。

民主党への絶望が、超保守陣営の躍進を煽ったって、なんかどこかの国でも同じこと聞いた様な。

しかしやっぱり、アメリカ社会は良くも悪くもダイナミックだ。

リベラルの守護者としての民主党の組織が経年劣化すれば、草の根レベルの変革者が次々にでてくる。
フロリダ州パークランド高校の無差別乱射事件を生き残った生徒たちは、自ら行動を起こし、トランプ支持派のバッシングをものともせず、銃規制の声を世界規模の運動に拡大した。
女性、マイノリティ、バーニー・サンダースに共鳴する若者たちは、次々と選挙に打って出ている。
リック・スナイダーの退任に伴うミシガン州知事選でも、民主党の女性候補グレッチャン・ホウィットマーが勝った。
小さな声は結集しつつあり、中間選挙でトランプの勢いには一定の歯止めがかかったと言っていいだろう。


ドキュメンタリー映画「私はあなたのニグロではない」で作家のジェームズ・ボールドウィンが語っているのだけど、人間を突き動かす感情には二種類あって、被差別階層が抱くのが理不尽な境遇への「怒り」で、差別階層は地位を奪われる「恐怖」

マイケル・ムーアは、これまで一貫してユーモアをスパイスに「怒り」の映画を作ってきたが、今回はトランプをヒトラーに重ね合わせて、露骨に民主社会を奪われる「恐怖」を煽ってきた。

しかもそれは作中でムーア自身が「危険」であると言っているアイロニー。
これまでの作品では少なからず反対の意見も描いてきたが、本作ではトランプ支持派の声がほとんど描写されないのも同じ文脈。

要するに、今回は徹底的にトランプ潰しに行かないと「マジでヤバイ」と思っているのだろう。

まあトランプ支持派も意固地になって、余計に過激化しそうな気もするけど。

ブレグジットを巡る英国の国民投票もそうだが、トランプなんて本人も含めてネタだと思ってたのが大統領になっちゃうんだから、有権者としては選挙の類は常に真剣勝負と思わないと、結局自分の首を締めるということを肝に銘じないといけない。
結局のところ、トランプを当選させたのは彼に投票した支持者では無く、政治に絶望するあまり誰にも投票しなかった人々なのだ。

今回はトランプの金ピカ趣味から「ゴールデン・ドリーム」をチョイス。
黄金色のリキュール、ガリアーノ15ml、ホワイト・キュラソー15ml、オレンジ・ジュース15ml、生クリーム10mlをよくシェイクして、冷やしたグラスに注ぐ。
出来上がった状態だとゴールデンというよりは玉子豆腐っぽい色なのだが、甘くてクリーミーで、アフターディナー・ドリンクやナイトキャップにぴったり。
トランプは食えない男だが、こちらはとても美味しい。

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コメント
この記事へのコメント
ムーアがアメリカを憂うのと同じ病巣を日本が持ってて面白いけど心苦しかった。マスコミが与党の飼い犬になってる日本の方が危ないかもしれない。

日本で、野党がだらしないから投票しないと言う人が多い。逆で、野党がだらしなく見えるからこそ、与党にやりたい放題やらせない為に野党に投票すべきである。参院選でまた前のねじれ国会に戻してもらいたいわ。
2018/12/02(日) 12:36:08 | URL | fjk78dead #-[ 編集]
こんばんは
>ふじきさん
確かにこの映画に描かれているアメリカの問題は、ディテールさえ違えど日本にも共通点が多いですからね。
先進国病というか、ある程度社会が発展すると両極端から反動が出てくるのでしょう。
とりあえず選挙にはいかないと。
2018/12/04(火) 21:58:18 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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