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ショートレビュー「来る・・・・・評価額1600円」
2018年12月08日 (土) | 編集 |
霊媒大戦争(笑

異才・中島哲也の最新作は、日本ホラー小説大賞受賞作、澤村伊智の「ぼぎわんが、来る」を原作としたオカルトホラー。
ただし、小説と映画は全くの別モノだ。
平凡な親子三人家族に怪異が迫る第1章は、かなり忠実。
しかし第2章以降が全く異なっていて、怪異の正体も、そもそもなぜ怪異が来たのか、その原因となった人物も、物語の視点もテーマそのものも全く違うのだけど、これはこれで面白い。

小説は3章構成で、それぞれに主人公が異なる
第1章では、映画版で妻夫木聡が演じる新婚のイクメンパパ、田原秀樹の視点でも物語が進む。
最初は小さな怪異が田原家に忍び寄り、それが幼い頃に聞かされた「ぼぎわん」という子供をさらう妖怪なのではないかと疑いだす。
彼は同窓の民俗学者からオカルトライターの野崎を紹介され、彼の恋人でもある霊媒の真琴と共に怪異に立ち向かうのだが、ぼぎわんは思っていたよりも遥かに凶悪な存在だったこと明らかになるのだ。
そして第2章では、第1章と同じ時系列が秀樹の妻の香奈の回想という形で描かれる。
理想のパパを自認していたはずの秀樹は、実は表面だけ取り繕っているだけの傲慢なダメ夫でダメパパ。
一人娘の知紗を抱えて、実質ワンオペ育児を強いられている香奈をほったらかしにして、遊び呆けているという、第1章の裏側が描かれ、世界が逆転。
第3章では、異界へとさらわれた知紗を奪還するために、野崎が真琴の姉で最強の霊媒、比嘉琴子と組んでぼぎわんの正体を探り、対決する。

原作のぼぎわんは、虐げられ、子供を殺された女性の恨み辛みが呼ぶ怪異で、ぼぎわんという名前の由来、その姿形、歴史的な背景もきっちりと意味付けされていて、いわば日本の歴史的な男性優位社会の歪みによって生まれた妖怪。
小説の登場人物は、秀樹が実はダメダメなのに対して、妻の香奈は良妻賢母として描かれてるのも、ある種フェミニズム的な怪異譚であることを際立たせる。
ところが、映画版ではこの辺りが大幅に脚色されているのだ。
中盤から、それまで描かれていた秀樹視点の物語がひっくり返されるのは同じだが、そこから描かれるのは、夫に劣らず問題を抱えた香奈の物語。
要するに、映画版では男も女も等しく心罪深く、人間のネガティブな面をさらけ出しているのだ。
虐げられた女性の情念と、失われた子供たちへの思慕の念もほぼ消えて、どいつもこいつもダメ人間ばかりなのは、いかにも中島哲也的な「人間なんてそんなもんでしょ」という悪意たっぷりの世界観。
小説的に筋道を立て、時間をかけて語って行くのではなく、行動やセリフといった映像言語で直感的にイヤーな気分を積み上げてゆくのもこの人らしい。

タイトルから「ぼぎわん」が外れた訳も、よく分かる。
本作では、ぼぎわんの正体が何かとか、怪異の民俗学的背景や歴史とか、原作が相当のページ数を使って描いていた辺りはどうでもいいのだ。
ここでは人間は皆壊れかけていて、悪いモノが入り込む隙間だらけ。
だからやって来るのも、ぼぎわんの様な目的が明確な妖怪的存在ではなく、名前も持たず、姿も見えず、ただただ邪悪さだけに純化された“意志”
主要登場人物間の相関関係も強化され、内面に皆どこか似た葛藤を抱えて、お互いに鏡像を見るような構造になっている。
このこんがらがった関係を使って、本来狂言回しの岡田准一演じる野崎にも具体的な葛藤を与え、うまい具合に全体の主人公のポジションに配置。
一連の恐ろしい事件を通して、彼が何を見出すのか?という物語になっている。
さらに怪異が呼ばれた映画オリジナルの動機が導き出されるのだが、ここは残念ながら原因となる人物の描写不足でちょっと弱いのが残念だ。

その分、クライマックスは中島作品らしく、サービス精神全開のド派手なもの。
松たか子がクールに演じる琴子の祓の儀式をサポートするために、彼女のルーツでもある沖縄のユタから、坊主に神職に巫女さんに、果ては韓国のムーダンまで、各界の霊媒たちがワラワラ集まってくる。
まあ、彼らはヤラレ役というか、雑魚キャラで大した見せ場もなく終わっちゃうのだが、どうせならキリスト教のエクソシストも出して、さらに悪ノリの限りを尽くして欲しかったな。
琴子の待ち受ける結界に、アレが迫りながら、時には妖怪に、時には悪魔に変化しながら、世界の霊媒を一人ひとり倒して行くなんて最高じゃないか。
別の映画になっちゃうけど(笑
個人的には、原作で禍々しく描写されるぼぎわんの姿も見てみたかったが、日本映画には珍しい、ごった煮のテイストのスペクタクルホラーで、なかなか楽しめる。

今回は、ぼぎわんならぬ悪魔の名を持つカクテル、「ディアブロ」でお祓い。
ホワイト・ポートワイン40ml、ドライ・ベルモット20ml、レモンジュース1dashをシェイクしてブラスに注ぐ。
名前は禍々しいのだけど、味はアペリティフにぴったりの、爽やかで気持ちの良いカクテルだ。

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コメント
この記事へのコメント
怖くはないのですが、いい役者を上手く使うのが良かったですね。松たか子も小松菜奈も別人みたい。柴田理恵なんて全然誰だか分からなかった。こういう抜擢をできるのが凄いなあ。
2018/12/11(火) 19:58:23 | URL | ふじき78 #-[ 編集]
こんばんは
>ふじきさん
小松菜奈は他の作品と全然違うので、最初「こんな役者いたっけ?誰?」って思ってました。
彼女は「渇き。」が映画デビューだったので、この四年の成長がよくわかります。
さすが中島監督は役者を遊び心を持って生かすのがうまい。
2018/12/13(木) 23:09:24 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
こんにちは。
ふむ…原作って方向性が結構違うのですね…
そっちでも面白かったかも、ですが、エンタメとしてこれで怖い&楽しかったので満足です。
ちなみに、妻夫木聡のイクメンパパは、ホント、イクメンあるあるだと思います。
2018/12/25(火) 13:01:07 | URL | ここなつ #/qX1gsKM[ 編集]
こんばんは
>ここなつさん
プロットのガワだけ使って、全然違うものを作ったという感じです。
これはこれで大変面白かったのですが、原作に忠実なものも観てみたかったです。
2018/12/27(木) 21:20:39 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
やはり人間の方が・・
ノラネコさんこんばんわ♪TB&コメント有難うございました♪

やはり原作の方だとぼぎわんと呼ばれる存在にもある程度の説明がされてるんですね。劇中だと直接的な姿形が殆ど見えなかった分媒介のようになっていた秀樹と香奈の娘の方が怖かった印象もありましたけど(笑)、でも確かに観終ってみると映画の方も怪異の正体云々はどうでもいい感じに思えました。中島監督のホラー作品は人間の方がはるかに怖くどろどろでどうしようもなく描かれてましたね^^;
2019/01/03(木) 19:08:48 | URL | メビウス #mQop/nM.[ 編集]
こんばんは
>メビウスさん
そうですね。原作は全てにちゃんと説明があって納得できるのですが、映画版は同じ話で全く逆のことをやっていました。
この辺り、既読者には評価が分かれるところですが、とことん人間が黒いあたり、実に中島監督らしいなあと思った次第です。
2019/01/06(日) 22:28:01 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
おはようございます。

本当に霊媒大戦争ですね。松たか子の軍団と、見えざるものですが、ぼぎわん側も単体ではなく、悪霊の軍団を動かしているようにも見えます。人間とぼぎわんの対決という意味では、人間側が光で、ぼぎわんは闇なんじゃないでしょうか。

ぼぎわんの恐さが人間を抑圧しているように見えました。霊媒師集団のお祭り騒ぎ然り、物語のクライマックスと現場のテンションが一つになっているような感じですね。現場主義と言うか、中島監督凄いですし、残酷な祭りのシークエンスには青春を感じました。
2019/10/25(金) 08:36:17 | URL | 隆 #DSbooVqY[ 編集]
こんばんは
>隆さん
青春ですか。
確かに霊媒と悪霊の夏休みのお祭りのような暑さがあります。
原作とは全く違いますが、これはこれで楽しかったです。
2019/10/28(月) 20:50:19 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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