■ お知らせ
※基本的にネタバレありです。ご注意ください。
※当ブログはリンクフリーです。内容の無断転載はお断りいたします。
※ブログ環境の相性によっては、TB・コメントのお返事が出来ない事があります。ご了承ください
※エロ・グロ・出会い系のTB及びコメントは、削除の上直ちにブログ管理会社に通報させていただきます。 また記事と無関係なTBもお断りいたします。 また、関係があってもアフェリエイト、アダルトへの誘導など不適切と判断したTBは削除いたします。
■TITLE INDEX
※タイトルインディックスを作りました。こちらからご利用ください。
■ ツイッターアカウント※基本的にネタバレありです。ご注意ください。
※当ブログはリンクフリーです。内容の無断転載はお断りいたします。
※ブログ環境の相性によっては、TB・コメントのお返事が出来ない事があります。ご了承ください
※エロ・グロ・出会い系のTB及びコメントは、削除の上直ちにブログ管理会社に通報させていただきます。 また記事と無関係なTBもお断りいたします。 また、関係があってもアフェリエイト、アダルトへの誘導など不適切と判断したTBは削除いたします。
■TITLE INDEX
※タイトルインディックスを作りました。こちらからご利用ください。
※noraneko285でつぶやいてます。ブログで書いてない映画の話なども。
※noraneko285ツイッターでつぶやいた全作品をアーカイブしています。
2018年12月13日 (木) | 編集 |
この世の地獄を、生き抜く。
流れ着いたタイで逮捕され、収監された刑務所で再起を賭けてムエタイの選手になった実在の英国人ボクサー、ビリー・ムーアの物語。
2014年に出版され、ベストセラーとなったビリーの自伝「A Prayer Before Dawn: My Nightmare in Thailand's Prisons」を原作に、ジャン=ステファーヌ・ソヴェールが監督を務める。
とにかく刑務所の描写が怖すぎる。
全員凶悪、力なき者は生き残れない修羅の国。
不衛生な監房に、体を伸ばして寝ることもできないほどの人数が詰め込まれ、喧嘩や虐待、レイプも日常茶飯事。
誰かが死んでもそのまま一晩放置され、看守も賄賂を取り放題の無法地帯だ。
言葉も分からず、奴隷船並みのタコ部屋で、あんな全身刺青のオッさんたちに凄まれたら、私なら初日で精神崩壊するわ。
そんな劣悪な刑務所で、ビリーが頼るのがクスリだ。
元々ビリーはジャンキーのダメ人間で、試合の前にも精神を高揚させるためにクスリを決めるほど。
当然そんな状態で勝てる訳もなく、負けてはまたクスリに頼る悪循環。
これが刑務所の中でも続く。
自分でもダメダメな状況なのは分かっていて、故郷の家族には異国で服役していることも隠している。
だがそんなある日、彼は囚人たちのムエタイチームがあることを知り、眠っていた闘争本能を刺激されるのだ。
これは心弱きファイターが、何度も挫折しながら、ようやく何かをやり遂げて、小さな一歩を踏み出すまでの話。
ムエタイは再起のための重要なモチーフではあるものの、いわゆるスポーツ映画とは違う。
全体に、クローズアップを多用したカメラワークが印象的で、観客を徹底的に主人公に寄り添わせるのだが、方法論としては主人公に張り付いたカメラによってホロコーストを疑似体験させた、「サウルの息子」に近い。
もちろん、表現としてはあれほど極端ではないけれど、我々はビリーとの刑務所暮らしを通して、彼の後悔とどうにもならない未来への閉塞、究極の自己嫌悪を共有する。
タイ語の台詞に字幕が無いのも、ムエタイの試合で何が起こっているのか分からないくらいに極端に寄ったショットが多く、引いた画が意図的に避けられているのも同じ演出意図だろう。
ここに格闘スポーツのカタルシスは無く、命がけの試合の勝利にも、もしかしてこれで負のスパイラルから逃れられるかもしれないという、細やかな希望が見えるのみ。
この映画の魅力は、やはり圧巻の臨場感だ。
ロケが行われたのは実際の元刑務所で、エキストラを務めたのも元囚人たち。
あの恐ろし気な全身刺青もホンモノだというのだから、これは半ドキュメンタリーといっても過言ではないだろう。
“実話の映画化”にありがちな盛った描写は皆無で、物語をドラマチックに盛り上げようという意図も感じられない。
細かな事件はたくさん起こるが、普通の映画のように有機的に結合していかず、それが逆にリアリティを高めているのだ。
ジャン=ステファーヌ・ソヴェールは、リベリア内戦を舞台に過酷な運命を生きる、少年兵たちの日常を描いた「ジョニー・マッド・ドッグ」でも、実際の元少年兵たちを起用して、凄まじいリアリティを醸し出していたが、本作も彼の作家性と実録物の題材がうまくマッチした。
自分に鞭打ち再起を誓っても、簡単には決別できないクスリの恐ろしさも、ヘビーに伝わってくる。
終盤、ビリー・ムーア本人もある役でちょこっと出てくるが、この出演の象徴性も納得。
この世の地獄から這い上がろうと足掻き続ける人間の、静かに熱く燃えたぎる情念の物語だ。
猛烈に疲れる映画の後は、獅子のラベルでおなじみのタイのビール、「シンハー」で喉の渇きを癒したい。
爽やかな口当たりのライトなビールで、タイ料理との相性は抜群。
ビアグラスに氷を入れて注ぐのが南国流。
タイ国内でのシェアは、同じブンロート・ブリュワリーが製造する低価格銘柄、豹のラベルのレオビールに奪われているようだが、やはり味わいはこちらの方が好みだ。
記事が気に入ったらクリックしてね
流れ着いたタイで逮捕され、収監された刑務所で再起を賭けてムエタイの選手になった実在の英国人ボクサー、ビリー・ムーアの物語。
2014年に出版され、ベストセラーとなったビリーの自伝「A Prayer Before Dawn: My Nightmare in Thailand's Prisons」を原作に、ジャン=ステファーヌ・ソヴェールが監督を務める。
とにかく刑務所の描写が怖すぎる。
全員凶悪、力なき者は生き残れない修羅の国。
不衛生な監房に、体を伸ばして寝ることもできないほどの人数が詰め込まれ、喧嘩や虐待、レイプも日常茶飯事。
誰かが死んでもそのまま一晩放置され、看守も賄賂を取り放題の無法地帯だ。
言葉も分からず、奴隷船並みのタコ部屋で、あんな全身刺青のオッさんたちに凄まれたら、私なら初日で精神崩壊するわ。
そんな劣悪な刑務所で、ビリーが頼るのがクスリだ。
元々ビリーはジャンキーのダメ人間で、試合の前にも精神を高揚させるためにクスリを決めるほど。
当然そんな状態で勝てる訳もなく、負けてはまたクスリに頼る悪循環。
これが刑務所の中でも続く。
自分でもダメダメな状況なのは分かっていて、故郷の家族には異国で服役していることも隠している。
だがそんなある日、彼は囚人たちのムエタイチームがあることを知り、眠っていた闘争本能を刺激されるのだ。
これは心弱きファイターが、何度も挫折しながら、ようやく何かをやり遂げて、小さな一歩を踏み出すまでの話。
ムエタイは再起のための重要なモチーフではあるものの、いわゆるスポーツ映画とは違う。
全体に、クローズアップを多用したカメラワークが印象的で、観客を徹底的に主人公に寄り添わせるのだが、方法論としては主人公に張り付いたカメラによってホロコーストを疑似体験させた、「サウルの息子」に近い。
もちろん、表現としてはあれほど極端ではないけれど、我々はビリーとの刑務所暮らしを通して、彼の後悔とどうにもならない未来への閉塞、究極の自己嫌悪を共有する。
タイ語の台詞に字幕が無いのも、ムエタイの試合で何が起こっているのか分からないくらいに極端に寄ったショットが多く、引いた画が意図的に避けられているのも同じ演出意図だろう。
ここに格闘スポーツのカタルシスは無く、命がけの試合の勝利にも、もしかしてこれで負のスパイラルから逃れられるかもしれないという、細やかな希望が見えるのみ。
この映画の魅力は、やはり圧巻の臨場感だ。
ロケが行われたのは実際の元刑務所で、エキストラを務めたのも元囚人たち。
あの恐ろし気な全身刺青もホンモノだというのだから、これは半ドキュメンタリーといっても過言ではないだろう。
“実話の映画化”にありがちな盛った描写は皆無で、物語をドラマチックに盛り上げようという意図も感じられない。
細かな事件はたくさん起こるが、普通の映画のように有機的に結合していかず、それが逆にリアリティを高めているのだ。
ジャン=ステファーヌ・ソヴェールは、リベリア内戦を舞台に過酷な運命を生きる、少年兵たちの日常を描いた「ジョニー・マッド・ドッグ」でも、実際の元少年兵たちを起用して、凄まじいリアリティを醸し出していたが、本作も彼の作家性と実録物の題材がうまくマッチした。
自分に鞭打ち再起を誓っても、簡単には決別できないクスリの恐ろしさも、ヘビーに伝わってくる。
終盤、ビリー・ムーア本人もある役でちょこっと出てくるが、この出演の象徴性も納得。
この世の地獄から這い上がろうと足掻き続ける人間の、静かに熱く燃えたぎる情念の物語だ。
猛烈に疲れる映画の後は、獅子のラベルでおなじみのタイのビール、「シンハー」で喉の渇きを癒したい。
爽やかな口当たりのライトなビールで、タイ料理との相性は抜群。
ビアグラスに氷を入れて注ぐのが南国流。
タイ国内でのシェアは、同じブンロート・ブリュワリーが製造する低価格銘柄、豹のラベルのレオビールに奪われているようだが、やはり味わいはこちらの方が好みだ。

スポンサーサイト
この記事へのコメント
こんにちは。
タイの刑務所の描写が凄かったです。
こんなところに入れられちゃイケナイ!と逆に啓蒙活動になってしまう位の勢いでした。
…タイビールを飲みたくなってしまいますね…。
タイの刑務所の描写が凄かったです。
こんなところに入れられちゃイケナイ!と逆に啓蒙活動になってしまう位の勢いでした。
…タイビールを飲みたくなってしまいますね…。
>ここなつさん
本当に、これ観たら「絶対タイで悪いことしない」と思いますよね。
ニュースで見ましたが、麻薬戦争中のフィリピンの刑務所もあんな感じでしたし、あの自殺しちゃった人の気持ちが一番良くわかります。
あんな状況になってもクスリやめられないのも恐ろしかったです。
本当に、これ観たら「絶対タイで悪いことしない」と思いますよね。
ニュースで見ましたが、麻薬戦争中のフィリピンの刑務所もあんな感じでしたし、あの自殺しちゃった人の気持ちが一番良くわかります。
あんな状況になってもクスリやめられないのも恐ろしかったです。
2018/12/27(木) 21:25:54 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
こんにちは。
サウルの息子、同感です。
あんなんになっても、人間って、生きてるのですね…
ムエタイの練習場で、ふと笑みをこぼしたビリーが心に残ってます。
サウルの息子、同感です。
あんなんになっても、人間って、生きてるのですね…
ムエタイの練習場で、ふと笑みをこぼしたビリーが心に残ってます。
2019/01/04(金) 17:26:50 | URL | さるこ #-[ 編集]
>さるこさん
ちょっと想像を絶するというか、刑務所の描写に圧倒されてしまいました。
「サウルの息子」とは主人公の精神的にも通じるものがあるかも。
彼は薬と決別できたんですかねえ。
ちょっと想像を絶するというか、刑務所の描写に圧倒されてしまいました。
「サウルの息子」とは主人公の精神的にも通じるものがあるかも。
彼は薬と決別できたんですかねえ。
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
イギリス人ボクサーのビリー・ムーアは、強盗や麻薬犯罪を繰り返し22か所の刑務所で15年間を過ごした後、再スタートしようと2005年にタイへ渡る。 ところがまたもや麻薬中毒になり、殺人・レイプ・汚職が横行するタイで最も悪名高い刑務所に収監されてしまった。 彼はそこで、タイ発祥の格闘技ムエタイと出会う…。 実話から生まれたアクション・ドラマ。
2018/12/15(土) 23:04:15 | 象のロケット
本文ラストにストーリーとは直接関係のないネタバレがあります。タイの刑務所に服役した1人のイギリス人ボクサーが、その劣悪な環境に屈せず、ボクシングを通して立ち直って行く物語。と書くと聞こえはいいのだが…。究極の言い方で申し訳ないのだけれど、自業自得なのである。自堕落な生活で身を持ち崩し、クスリで捕まり(タイでは重罪だ)アムネスティが乗り出してきそうな劣悪な刑務所に入れられるのだ。隣との間隔が無...
2018/12/27(木) 17:25:14 | ここなつ映画レビュー
| ホーム |