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こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話・・・・・評価額1650円
2019年01月13日 (日) | 編集 |
ワガママ言ってはダメなのか?

喜怒哀楽、人間の色々な感情が詰まった、いい映画だった。
全身の筋肉が徐々に衰える進行性の病、筋ジストロフィーを患いながら、在宅で生活することに拘り続けた、鹿野靖明と彼の生活を支えたボランティアたちを描く、実話ベースの物語。
とにかく登場人物たちが魅力的。
軸となるのは鹿野とボランティアの医学生・田中、ひょんなことから巻き込まれる、田中の彼女の美咲の3人。
初対面からあまりにもワガママな要求を連発する鹿野に反発する美咲は、やがて彼の人柄に魅せられてボランティアの中心メンバーに。
一方の田中は、ボランティアとしても、彼氏としても色々自信を失ってゆく。
晩年の鹿野靖明に取材した渡辺一史の名著、「こんな夜更けにバナナかよ 筋ジス・鹿野靖明とボランティアたち」を、「ビリギャル」の橋本裕志が脚色、食育をモチーフにしたやはり実話ベースの問題作「ブタがいた教室」の前田哲監督がメガホンを取った。

1994年、札幌。
34歳の鹿野靖明(大泉洋)は、子供の頃に筋ジストロフィーと診断され、以来ずっと闘病生活を送っている。
今では首から下は手がわずかに動かせる以外ほぼ麻痺し、呼吸器の筋肉も衰えてきているので、主治医の野原先生(原田美枝子)には、入院して人工呼吸器をつけることを勧められている。
だが、あくまでも自立した生活を送りたい鹿野は入院を拒否。
多くのボランティアに支えられて、今も自宅に暮らしている。
北海道大学の医学生・田中(三浦春馬)はそんなボランティアの一人だが、ある日彼女の美咲(高畑充希)が鹿野の自宅に様子を見に来る。
すると、鹿野に気に入られた美咲も、よくわからないうちにボランティアの一員として扱われることになるのだが、真夜中に「バナナを買ってこい」など、鹿野のワガママな要求にキレた美咲は早々にボランティアを辞めることを宣言。
しかし、しばらくすると田中経由で鹿野が謝りたがっているという話を聞き、再び会うことになるのだが・・・


1959年に生まれた鹿野靖明は、病気が明らかになった時、二十歳まで生きられないと宣告されたが、実際には倍以上の時を生きて2002年に42歳で逝去。
渡辺一史の原作は2000年代に入ってからの鹿野へのインタビューを中心としたノンフィクションで、映画化にあたってはかなり脚色されている。
濃密な人生のうち、映画に描かれているのは、とことん運命に抗っていた鹿野が遂に人工呼吸器をつけることになり、それでも自立した生活を成立させるまでの1994年からの一年間。
絶対的な中心に鹿野がいるのは変わらないが、シーソーの両端でドラマを動かしてゆく田中と美咲のキャラクターは、本に登場する多くのボランティアをモデルに創作された人物だ。
筋ジストロフィーの肉体を表現するため、体重を大幅に落とすデ・ニーロ・アプローチで挑んだ大泉洋が素晴らしく、三浦春馬と高畑充希が演じる、田中と美咲というそれぞれに対照的な境遇に育ち、異なる背景を抱えた若者の造形もいい。
彼らの青春の苦悩が、ボランティアとしての葛藤と絡み合い、軸をぶらすことなく見事な青春ストーリーともなっているのである。
もちろん、第一義的には実在した人物を描くのだから、映画作りのスタンスは極めて真摯。
介護生活の作り込みは説得力十分なもので、例えば人工呼吸器を付けた後の鹿野の台詞の出方が、呼吸器の作動の影響を受けるといった、ディテール描写への拘りもリアリティを高めている。

それにしても、四半世紀前の1994年の社会は今とは全然違う。
インターネットは普及前、SNSなんて概念すら存在せず、携帯電話は一応はあったものの、一般化はまだまだ先のポケベルの全盛期で、それすら持ってない人も多かった。
誰かと連絡を取りたかったとしても、相手が家にいなければ留守電を入れて返事を待つしかなかったのである。
コミュニケーションの手段が現在よりもはるかに脆弱だった時代に、24時間要介護なのだから、ボランティアの数合わせだけでも大変な苦労だ。
電話をかけるのすら、もう筋力が衰えて受話器を持ち上げられないので、誰かの手を借りなければならない。
鹿野はまだ体が動いた時代から、自ら街に出てボランティアを募集し、集まったボランティアからまた別のボランティアを集めるネットワークを構築。
彼の家に集ったボランティアの総数は、延べ500人以上にのぼったという。
もちろん、入院するなり施設に入りなりすれば、そんな心配は無用なのだが、なぜ彼は大変なことを分かっていて、あえて入院を拒否して在宅の自立生活にこだわったのか。

彼の生き方への理解が、最初は鹿野に反発していた美咲が、一転して彼に魅せられる理由であって、本作が私たちに伝えたいことなのだ。
病院にいるということは、それは鹿野という人間が「一方的にお世話される存在」になってしまうこと。
それは楽かもしれないけど、鹿野はそんな消極的な人生を拒否する。
みんなが普通にやってることを、自分もやりたい。恋もしたいし、旅行へも行きたい。人生を謳歌し、楽しみたい。
病気になったのは、別に誰のせいでもないし、仕方のないこと。
でも、それで体が動かないからといって、全てを諦める必要はどこにもない。
鹿野は、在宅で自立した生活にこだわり、自らボランティアを集めるという「仕事」をすることで、常にアクティブに人生を送り、そんな彼のボランティアをする事で、周りの人たちの生き方も変わってゆく。
本作では、医者になる自信を失いかける田中のキャラクターに代表されているが、特に多かったという医療系の学生ボランティアにとっては、厳しい現場を経験できる又とないチャンスでもあり、鹿野は彼らにとっては介護対象者である以上に「先生」でもあるのだ。
彼は確かにストレートな物言いをするんだけど、何かを出来ない人が出来る人に助けを求めるのは、ある意味当然のことで、それはワガママではあっても「迷惑」とは違うと実感させられる。

鹿野靖明という、かつて確かに実在した男の生き様を描き、若者たちの成長を描くフィクションの青春ドラマとナチュラルに融合させて、とても面白い劇映画に昇華した本作の作り手たちは、本当にいい仕事をしていると思う。
しかし、500人ものボランティアが途切れることなく集い、亡くなるまで支え続けたって、本人の人柄が大きいのだろうけど本当に凄い話だ。
お涙ちょうだいにならず、ユーモアが前面に出て、考えさせつつ楽しい映画になっているのもこのユニークな傑物あってのこと。
鹿野をはじめ、端役に至るまでキャラ立ちした登場人物たちに大い感情移入し、時には笑って、ちょっとウルっときて、楽しみながらも誰もが生きている限り無関係ではいられない、「福祉」のあり方や要介助者にとっての「自立」の意味など、観終わってからも色々な問いが頭に広がり、じっくりと考えさせられる。
エンターテイメントとして間口が広く良く出来ているだけでなく、高い寓意性と教育性を併せ持つ秀作である。

今回は、北海道の話なので、鹿野靖明と飲み交わしたかった「サッポロ生ビール 黒ラベル」をチョイス。
1876年に設立された、札幌麦酒醸造所がルーツ。
金色の北極星が特徴の黒ラベルは、軽すぎず、重すぎず、麦の旨味とスッキリした喉越し、クリーミーな泡のバランスは、「ザ・日本のビール」と言うべきスタンダードなもの。
今の季節は新年会でも飲む機会が多いが、とりあえず何を肴にしても美味しい、オールマイティで使い勝手のいいビールだ。

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コメント
この記事へのコメント
高畑充希、三浦春馬、萩原聖人、渡辺真紀子、宇野祥平で一人100人分か。
2019/01/14(月) 07:25:32 | URL | fjk78dead #-[ 編集]
ボランティア
>ふじきさん
いやいやもっといたでしょ。
看護学生とかw
2019/01/22(火) 20:30:46 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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北海道・札幌。 鹿野靖明は幼い頃から難病の筋ジストロフィーを患い、車いす生活をしている。 介助なしでは生きられないのに病院を飛び出し、ボランティアたちと自立生活を送っていた。 夜中に突然「バナナ食べたい」と言い出すワガママな彼に、医大生ボランティアの青年・田中は振り回されっぱなし。 更に鹿野は、彼の恋人・美咲に一目ぼれしてしまう…。 ヒューマンドラマ。
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