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2019年02月16日 (土) | 編集 |
平凡な男は、いかにして“独裁者”となったのか?
終戦直前の1945年4月のこと。
敗色濃厚のドイツ軍を脱走したヴィリー・ヘロルト上等兵が、遺棄された車両に残された空軍将校の制服を見つける。
ひょんなことから、部隊から逸れた敗残兵たちと合流した彼は、嘘に嘘を重ね、ヒトラーから特殊任務を与えられた“ヘロルト大尉”を名乗る様になる。
出来過ぎな成りすまし詐欺のシチュエーションだけなら、軍隊コメディ。
だが、これは現実に起こった事件であり、偽将校のヘロルトはここから想像もつかない悪事を重ねてゆくのである。
「フライト・プラン」「RED/レッド」など、ハリウッド映画で知られるロベルト・シュヴェンケが監督・脚本を務め、母国ドイツの歴史に埋もれたダークサイドを描く。
何事もカタチから入る人はいるが、ヘロルトはその典型。
借り物の大尉の制服を纏った彼は、兵隊や市民たちが将校の権威に盲従する様子を見て調子にのり、瞬く間に冷酷なプチ独裁者となって、権力を振るい始める。
口八丁手八丁な世渡り術を駆使し、自分の頭文字をとった“特殊部隊H”をでっち上げ、秩序維持を口実にして、あろうことか脱走兵狩りを始めるのだ。
普通の人間が抑圧的役割を与えられることで、人格が変わって行くのは、オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督の「es[エス]」として映画化もされた、有名なスタンフォード大学の監獄実験を思い出す。
特にヘロルトの場合は正体が脱走兵だけに、まるで心の負い目に蓋をするかの様に、かつての自分の分身でもある脱走兵たちを容赦なく抹殺してゆく。
脱走兵収容所での、対空機関砲を使ったキムジョンウンみたいな凄まじく暴力的な処刑とか、ビジュアル的にも相当にえげつないものだ。
映画の描写はそれでもだいぶマイルドになっていて、ヘロルトが実際に行った処刑はもっと残酷だったというから恐ろしい。
この作品、モノクロ版とカラー版の両バージョンが存在し、本国などではモノクロ作品(パートカラー)として公開されているが、日本では本国では円盤の特典となっているカラー版での上映。
おそらく共同配給がスターチャンネルの関係でカラー版が選ばれているのだと思うが、本国版がモノクロなのは、凄惨な処刑シーンなどバイオレンス描写を抑制し、全体を様式化する狙いもあるのだろう。
相当に彩度は落としてあるものの、日本公開版は色があるだけ余計にリアルでキツイ。
ホラーじゃないけど、人体破壊の描写は酸鼻を極めるもので、観客には相当なホラー耐性が要求される作品なので、血に弱い人は注意が必要だ。
なによりも衝撃的なのは、これが平凡な青年が実際に起こした事件であり、同じような状況に置かれれば、誰もがヘロルトになり得るという事実。
そして一度暴走を始めたら、間違っていることを頭では理解しながらも、自分ではもう止められない。
ヘロルトの“部下”たちも彼がホンモノの空軍大尉で無いことに薄々気付いているが、誰一人として逆らえない。
なぜなら将校の権威が宿っているのは、中身ではなく制服だからだ。
映画では数名だが、実際のヘロルトの部隊では最盛期には80人もの兵士たちが活動していたというから、正に事実は小説より、いや映画よりも奇なり。
一見すると、戦争という特殊な状況下で起こった特殊な事件にも思えるが、人間そのものではなく、その人のポジションや制服という見た目に服従してしまうのは、平時にも十分に起こり得ることで、いわゆるパワーハラスメントなども、構造的には同じだろう。
遠い昔に起こった歴史上の事件が、一気に普遍的寓話性を持つエンディングが秀逸だ。
今回は、劇中でもナチス将校たちが浴びるように飲んでいるドイツの蒸留酒、シュナップスを。
「オルデスローエ キュンメル」は、キャラウェイとスパイスでハーブのフレーバーをつけたもの。独特の香りが特徴で、ハーブ系のお酒が好きな人にはオススメだ。
シュナップスは消化を助ける効果があるとされ、食後酒としてよく飲まれる。
ヘロルトの場合は、飲んで不安を紛らわせていたのかもしれないな。
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終戦直前の1945年4月のこと。
敗色濃厚のドイツ軍を脱走したヴィリー・ヘロルト上等兵が、遺棄された車両に残された空軍将校の制服を見つける。
ひょんなことから、部隊から逸れた敗残兵たちと合流した彼は、嘘に嘘を重ね、ヒトラーから特殊任務を与えられた“ヘロルト大尉”を名乗る様になる。
出来過ぎな成りすまし詐欺のシチュエーションだけなら、軍隊コメディ。
だが、これは現実に起こった事件であり、偽将校のヘロルトはここから想像もつかない悪事を重ねてゆくのである。
「フライト・プラン」「RED/レッド」など、ハリウッド映画で知られるロベルト・シュヴェンケが監督・脚本を務め、母国ドイツの歴史に埋もれたダークサイドを描く。
何事もカタチから入る人はいるが、ヘロルトはその典型。
借り物の大尉の制服を纏った彼は、兵隊や市民たちが将校の権威に盲従する様子を見て調子にのり、瞬く間に冷酷なプチ独裁者となって、権力を振るい始める。
口八丁手八丁な世渡り術を駆使し、自分の頭文字をとった“特殊部隊H”をでっち上げ、秩序維持を口実にして、あろうことか脱走兵狩りを始めるのだ。
普通の人間が抑圧的役割を与えられることで、人格が変わって行くのは、オリヴァー・ヒルシュビーゲル監督の「es[エス]」として映画化もされた、有名なスタンフォード大学の監獄実験を思い出す。
特にヘロルトの場合は正体が脱走兵だけに、まるで心の負い目に蓋をするかの様に、かつての自分の分身でもある脱走兵たちを容赦なく抹殺してゆく。
脱走兵収容所での、対空機関砲を使ったキムジョンウンみたいな凄まじく暴力的な処刑とか、ビジュアル的にも相当にえげつないものだ。
映画の描写はそれでもだいぶマイルドになっていて、ヘロルトが実際に行った処刑はもっと残酷だったというから恐ろしい。
この作品、モノクロ版とカラー版の両バージョンが存在し、本国などではモノクロ作品(パートカラー)として公開されているが、日本では本国では円盤の特典となっているカラー版での上映。
おそらく共同配給がスターチャンネルの関係でカラー版が選ばれているのだと思うが、本国版がモノクロなのは、凄惨な処刑シーンなどバイオレンス描写を抑制し、全体を様式化する狙いもあるのだろう。
相当に彩度は落としてあるものの、日本公開版は色があるだけ余計にリアルでキツイ。
ホラーじゃないけど、人体破壊の描写は酸鼻を極めるもので、観客には相当なホラー耐性が要求される作品なので、血に弱い人は注意が必要だ。
なによりも衝撃的なのは、これが平凡な青年が実際に起こした事件であり、同じような状況に置かれれば、誰もがヘロルトになり得るという事実。
そして一度暴走を始めたら、間違っていることを頭では理解しながらも、自分ではもう止められない。
ヘロルトの“部下”たちも彼がホンモノの空軍大尉で無いことに薄々気付いているが、誰一人として逆らえない。
なぜなら将校の権威が宿っているのは、中身ではなく制服だからだ。
映画では数名だが、実際のヘロルトの部隊では最盛期には80人もの兵士たちが活動していたというから、正に事実は小説より、いや映画よりも奇なり。
一見すると、戦争という特殊な状況下で起こった特殊な事件にも思えるが、人間そのものではなく、その人のポジションや制服という見た目に服従してしまうのは、平時にも十分に起こり得ることで、いわゆるパワーハラスメントなども、構造的には同じだろう。
遠い昔に起こった歴史上の事件が、一気に普遍的寓話性を持つエンディングが秀逸だ。
今回は、劇中でもナチス将校たちが浴びるように飲んでいるドイツの蒸留酒、シュナップスを。
「オルデスローエ キュンメル」は、キャラウェイとスパイスでハーブのフレーバーをつけたもの。独特の香りが特徴で、ハーブ系のお酒が好きな人にはオススメだ。
シュナップスは消化を助ける効果があるとされ、食後酒としてよく飲まれる。
ヘロルトの場合は、飲んで不安を紛らわせていたのかもしれないな。

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この記事へのコメント
こんばんは。
これが実話でないことを祈ってしまうような作品でした。…でも実話であるということ、貴記事によると現実の処刑はもっと残虐だったとのこと、本当に恐ろしいことです。
書かれていらっしゃるように、「将校の権威が宿っているのは中身ではなく制服」…その部分が真に恐ろしいことであり、また、身近なことでもあるのだと思います。若い人にはこの出来事を反面教師として、権威を鵜呑みにしないようにして欲しいと思います。
これが実話でないことを祈ってしまうような作品でした。…でも実話であるということ、貴記事によると現実の処刑はもっと残虐だったとのこと、本当に恐ろしいことです。
書かれていらっしゃるように、「将校の権威が宿っているのは中身ではなく制服」…その部分が真に恐ろしいことであり、また、身近なことでもあるのだと思います。若い人にはこの出来事を反面教師として、権威を鵜呑みにしないようにして欲しいと思います。
>ここなつさん
これは極端なケースでしょうけど、こういう人はどこにでもいますよね。
アメリカであった「ストリップサーチ悪戯電話詐欺」なんてこの典型でしょう。
電話で警官を名乗られただけで思考停止しちゃうんだから。
支配する方も、される方も人は権威に弱いのでしょうね。
これは極端なケースでしょうけど、こういう人はどこにでもいますよね。
アメリカであった「ストリップサーチ悪戯電話詐欺」なんてこの典型でしょう。
電話で警官を名乗られただけで思考停止しちゃうんだから。
支配する方も、される方も人は権威に弱いのでしょうね。
こんにちは。遅ればせながら観劇。劇中で、兵士たちがカンカン飲ってたのは、こんなお酒だったのですね。ハーブ風味なんて、あの状況にはそぐわぬような…
同胞に対してもホロコーストみたくできちゃうんだ…と、キツい映画でしたが、エンドロールもまた渾身で、最後まで見ちゃいました(^_^;)
同胞に対してもホロコーストみたくできちゃうんだ…と、キツい映画でしたが、エンドロールもまた渾身で、最後まで見ちゃいました(^_^;)
2019/03/13(水) 18:36:36 | URL | さるこ #-[ 編集]
>さるこさん
シュナップスは結構銘柄によって味の幅があって、あんまりハーブの風味がしないのも多いんですよ。
まあ酒でも飲まないと精神が持たないんでしょうね。
ある意味、常に酔っている様な状況だったのでしょう。
シュナップスは結構銘柄によって味の幅があって、あんまりハーブの風味がしないのも多いんですよ。
まあ酒でも飲まないと精神が持たないんでしょうね。
ある意味、常に酔っている様な状況だったのでしょう。
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1945年4月。 第二次世界大戦末期のドイツ。 部隊を命からがら脱走した兵士ヴィリー・ヘロルトは、道端に乗り捨てられた軍用車両の中にナチス将校の軍服を発見し、寒さをしのぐためそれを着用した。 通りすがりの兵士から「お供させてください」と言われ、そのまま大尉に成りすました彼は、架空の任務をでっち上げ部下を増やしてゆく…。 実話から生まれた戦争ドラマ。
2019/02/17(日) 11:52:53 | 象のロケット
丈の長い軍服 借り物の権力狂乱の戦時下、狂乱の人心。それはただ単に「生き延びる」為に存在した訳ではない。最初はそうであったのかもしれないが、じわじわと表皮が剥かれていく。それは、どの時代にも誰かの心の奥底に潜む悪の顕示欲なのである。ヘロルト(マックス・フーバッヒャー)は第二次世界大戦終盤にヨーロッパ大陸に赴任していたドイツ軍の一等兵であったが、いよいよ敗戦の色が濃くなった1945年4月、隊...
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