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2019年03月05日 (火) | 編集 |
孤独な女王は、本当は何を欲しているのか。
18世紀初頭、スペイン継承戦争下のイギリス王宮を舞台に、三人の女たちの確執を描くグチャグチャドロドロの宮廷心理劇。
本年度のアカデミー主演女優賞に輝いた、オリビア・コールマンが怪演するアン女王を中心に、レイチェル・ワイズ演じるマールバラ公爵夫人サラ・ジェニングス、エマ・ストーン演じる上流階級から没落し、貪欲に再起を目指すアビゲイル・メイシャムが、女王の寵愛を巡って争奪戦を繰り広げる。
異才ヨルゴス・ランティモスによる、いい感じに狂ったブラックコメディだ。
先王ウィリアム3世の時代に始まったスペイン継承戦争は、ルイ十四世の孫である新スペイン王のフェリペ5世を支持するフランスと、フランスの影響力拡大を阻止したい周辺国の同盟との間で起こった戦争で、イギリスは同盟側につき参戦。
ぶっちゃけイギリス庶民には直接関係の無い、海の向こうの陣取り合戦なのだが、この時の指揮官がサラの夫のマールバラ公で、夫を助けたいサラは戦争推進派。
一方で、長引く戦争に当時すでに厭戦気分が広がり、イギリス政界では主戦派のホイッグ党と、和平派のトーリー党が、共に女王の権威を求めて対立している構図。
ヨーロッパの覇権を巡る戦争が、イギリス政界の争いとなり、それが最終的に王宮内の女の戦いに落とし込まれるマトリョーシカ人形の様な三重構造だ。
人間たちの醜いダークサイドが剥き出しになるドラマは、ランティモス節が全開。
前作の「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」は、ギリシャ悲劇を下敷きにしたサイコホラーだったが、今回のアプローチはシニカルなコメディ。
キャラクター造形はほぼ全員がエキセントリックで、女たちの配偶者は存在感無し。
数年間の出来事をコンパクトにまとめているとは言え、話の前半部分の頃にはまだ存命中だった女王の夫ジョージは、画面にすら出てこない。
サラとアビゲイルにまとわり付く政界の男たちは、極端に戯画化されている。
歪んだ広角レンズで映し出される宮殿内には、女王専用の隠し通路が迷路の様に張り巡らされ、まるで秘密を隠す洞くつの様。
衣装デザインは、この種の宮廷ものでは極めて珍しく、白黒を基調にしており、暗喩性と象徴性を高めている。
白の衣装を纏ったサラと黒の衣装のアビゲイルが鴨撃ちをしている時、アビゲイルが至近距離で発砲し、返り血がサラの白い衣装に降りかかる描写は、その後の二人の敵対関係を示唆する。
肥満体で体を病み、心も不安定な女王は、年上の幼馴染で親友でもあるサラに頼りっきり。
ホイッグ党との関係も深く、政界にも太いパイプを持つサラは、いわば摂政の様な存在で女王をコントロールしている。
だが彼女の女王に対するスタンスは、幼馴染として、また秘密の愛人としてのごく親しい部分と、政治家としてのビジネスライクな部分が並立している。
躁鬱の激しい女王が求め、サラが軽視する「癒し」の需要に、若く野心家のアビゲイルがスルリと入り込み、愛人の座も奪い取る。
アビゲイルは同時にトーリー党を率いるロバート・ハーレーとも関係を深め、両者の対立は政界を巻き込み激化してゆくのだ。
権謀術数渦巻く物語のノリ的には、まさしく時代劇の大奥物の西洋版の趣。
病や流産で17人の子供を失った女王は、17羽のウサギを飼い溺愛しているのだけど、この象徴的な使い方も巧み。
サラに勝利したアビゲイルが、女王の死角でそれまで可愛がっているフリをしていたウサギを、ジワリと踏みつけるのは本当にコワイ。
欲望剥き出し、本当にバチバチの火花が見えそうな、3人の名女優の三つ巴の演技合戦だけでお腹一杯だ。
しかし小市民としては、金と権力はあっても、あんなストレス溜まりそうな生活は嫌だな。
今回は、女王は女王でもカクテルの女王「マンハッタン」をチョイス。
カナディアン・ウィスキー45ml、スウィート・ベルモット15ml、アンゴスチュラ・ビターズ1dashをミキシンググラスでステアし、カクテルグラスに注いだ後ピンに刺したマラスキーノチェリーを沈めて完成。
このカクテルは英国にも縁があって、後の英国首相ウィンストン・チャーチルの母、ジェロニー・ジェロームが1876年の大統領選挙の時に、マンハッタン・クラブで開かれた民主党候補の応援パーティの時に、即興で作ったカクテルが後にマンハッタンと呼ばれる様になったという説がある。
ルビー色の美しい佇まいは、正にカクテルの女王、大人のお酒である。
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18世紀初頭、スペイン継承戦争下のイギリス王宮を舞台に、三人の女たちの確執を描くグチャグチャドロドロの宮廷心理劇。
本年度のアカデミー主演女優賞に輝いた、オリビア・コールマンが怪演するアン女王を中心に、レイチェル・ワイズ演じるマールバラ公爵夫人サラ・ジェニングス、エマ・ストーン演じる上流階級から没落し、貪欲に再起を目指すアビゲイル・メイシャムが、女王の寵愛を巡って争奪戦を繰り広げる。
異才ヨルゴス・ランティモスによる、いい感じに狂ったブラックコメディだ。
先王ウィリアム3世の時代に始まったスペイン継承戦争は、ルイ十四世の孫である新スペイン王のフェリペ5世を支持するフランスと、フランスの影響力拡大を阻止したい周辺国の同盟との間で起こった戦争で、イギリスは同盟側につき参戦。
ぶっちゃけイギリス庶民には直接関係の無い、海の向こうの陣取り合戦なのだが、この時の指揮官がサラの夫のマールバラ公で、夫を助けたいサラは戦争推進派。
一方で、長引く戦争に当時すでに厭戦気分が広がり、イギリス政界では主戦派のホイッグ党と、和平派のトーリー党が、共に女王の権威を求めて対立している構図。
ヨーロッパの覇権を巡る戦争が、イギリス政界の争いとなり、それが最終的に王宮内の女の戦いに落とし込まれるマトリョーシカ人形の様な三重構造だ。
人間たちの醜いダークサイドが剥き出しになるドラマは、ランティモス節が全開。
前作の「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」は、ギリシャ悲劇を下敷きにしたサイコホラーだったが、今回のアプローチはシニカルなコメディ。
キャラクター造形はほぼ全員がエキセントリックで、女たちの配偶者は存在感無し。
数年間の出来事をコンパクトにまとめているとは言え、話の前半部分の頃にはまだ存命中だった女王の夫ジョージは、画面にすら出てこない。
サラとアビゲイルにまとわり付く政界の男たちは、極端に戯画化されている。
歪んだ広角レンズで映し出される宮殿内には、女王専用の隠し通路が迷路の様に張り巡らされ、まるで秘密を隠す洞くつの様。
衣装デザインは、この種の宮廷ものでは極めて珍しく、白黒を基調にしており、暗喩性と象徴性を高めている。
白の衣装を纏ったサラと黒の衣装のアビゲイルが鴨撃ちをしている時、アビゲイルが至近距離で発砲し、返り血がサラの白い衣装に降りかかる描写は、その後の二人の敵対関係を示唆する。
肥満体で体を病み、心も不安定な女王は、年上の幼馴染で親友でもあるサラに頼りっきり。
ホイッグ党との関係も深く、政界にも太いパイプを持つサラは、いわば摂政の様な存在で女王をコントロールしている。
だが彼女の女王に対するスタンスは、幼馴染として、また秘密の愛人としてのごく親しい部分と、政治家としてのビジネスライクな部分が並立している。
躁鬱の激しい女王が求め、サラが軽視する「癒し」の需要に、若く野心家のアビゲイルがスルリと入り込み、愛人の座も奪い取る。
アビゲイルは同時にトーリー党を率いるロバート・ハーレーとも関係を深め、両者の対立は政界を巻き込み激化してゆくのだ。
権謀術数渦巻く物語のノリ的には、まさしく時代劇の大奥物の西洋版の趣。
病や流産で17人の子供を失った女王は、17羽のウサギを飼い溺愛しているのだけど、この象徴的な使い方も巧み。
サラに勝利したアビゲイルが、女王の死角でそれまで可愛がっているフリをしていたウサギを、ジワリと踏みつけるのは本当にコワイ。
欲望剥き出し、本当にバチバチの火花が見えそうな、3人の名女優の三つ巴の演技合戦だけでお腹一杯だ。
しかし小市民としては、金と権力はあっても、あんなストレス溜まりそうな生活は嫌だな。
今回は、女王は女王でもカクテルの女王「マンハッタン」をチョイス。
カナディアン・ウィスキー45ml、スウィート・ベルモット15ml、アンゴスチュラ・ビターズ1dashをミキシンググラスでステアし、カクテルグラスに注いだ後ピンに刺したマラスキーノチェリーを沈めて完成。
このカクテルは英国にも縁があって、後の英国首相ウィンストン・チャーチルの母、ジェロニー・ジェロームが1876年の大統領選挙の時に、マンハッタン・クラブで開かれた民主党候補の応援パーティの時に、即興で作ったカクテルが後にマンハッタンと呼ばれる様になったという説がある。
ルビー色の美しい佇まいは、正にカクテルの女王、大人のお酒である。

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この記事へのコメント
ノラネコさん☆
男性の野心を持った覇権争いとまた違って、進退が人生に大きく影響する女性の争いはドロついていて、なかなかの大奥宮中絵巻になっていましたね~
わがまま放題に見えて寂しげな女王の瞳が印象的でした。
最後誰も「成功」せず満たされなかったところも、なかなかでしたね☆
男性の野心を持った覇権争いとまた違って、進退が人生に大きく影響する女性の争いはドロついていて、なかなかの大奥宮中絵巻になっていましたね~
わがまま放題に見えて寂しげな女王の瞳が印象的でした。
最後誰も「成功」せず満たされなかったところも、なかなかでしたね☆
>ノルウェーまだ~むさん
結局人間の幸せはああいう世界には無いってことなんでしょうね。
まあその犠牲の代わりに彼女らは権力を得ている訳ですが。
ランティモスらしく狂ってて良かったです。
結局人間の幸せはああいう世界には無いってことなんでしょうね。
まあその犠牲の代わりに彼女らは権力を得ている訳ですが。
ランティモスらしく狂ってて良かったです。
こんにちは。風邪をひいてしまい、ご訪問が遅くなりました。すみません。
沢山の子供を失い、持病があり、政権には満足に参加できず、悲劇の立場の女王のはずなのに、毅然とした威厳を保たなければならないその立場をオリビア・コールマンが好演していたと思います。
けれどそんな彼女に対する描き方さえ一癖も二癖もある、これがヨルゴス・ランティモスといったところでしょうか…。
沢山の子供を失い、持病があり、政権には満足に参加できず、悲劇の立場の女王のはずなのに、毅然とした威厳を保たなければならないその立場をオリビア・コールマンが好演していたと思います。
けれどそんな彼女に対する描き方さえ一癖も二癖もある、これがヨルゴス・ランティモスといったところでしょうか…。
>ここなつさん
アン女王って可哀想な人なんですよね。
体も心もボロボロで、周りは自分を利用しようと近寄ってくる人ばかり。
幼馴染のサラだけが心の支えだったところに、アビゲイルがスルッと入れてしまう心理が面白かったです。
アン女王って可哀想な人なんですよね。
体も心もボロボロで、周りは自分を利用しようと近寄ってくる人ばかり。
幼馴染のサラだけが心の支えだったところに、アビゲイルがスルッと入れてしまう心理が面白かったです。
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愛情、地位…3人の女性がからまって(?)、どんなことになるのかが見もの。
2019/03/05(火) 23:44:57 | 或る日の出来事
まさに本日、アカデミー賞主演女優賞を獲得したオリヴィア・コールマン。
確かに醜女(しこめ)をここまで思い切って出来る女優がはたして他にいる??!「バイス」のクリスチャン・ベイルも20Kg増やして頑張ったけど…(≧▽≦)
2019/03/06(水) 14:25:34 | ノルウェー暮らし・イン・原宿
作品について http://cinema.pia.co.jp/title/176501/
↑あらすじ・配役はこちらを参照ください。
・アン女王: オリビア・コールマン
・サラ: レイチェル・ワイズ
・アビゲイル: エマ・ストーン☆ サラの従妹
アン女王のこと→参考
女王の寵愛が、サラからアビゲイルに、移っていくさまです。
宮廷の様子は、華やかですが...
2019/03/06(水) 23:35:30 | yutake☆イヴの《映画★一期一会》
うさぎよ うさぎよ うさぎちゃん 公式サイト http://www.foxmovies-jp.com/Joouheika 監督: ヨルゴス・ランティモス 「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリ
2019/03/07(木) 12:41:41 | 風に吹かれて
評価:A 映画公式サイトはこちら。 文句なしに面白い。オリヴィア・コールマンがア
2019/03/07(木) 16:16:11 | エンターテイメント日誌
1700年代初頭。 アン女王が統治するイングランドはフランスと戦争中で、女官長レディ・サラ・チャーチルの夫モールバラ公爵は最高司令官として戦場へ出ていた。 サラの従妹アビゲイルは没落貴族として貧しく育ったが、女王に取り入り召使から侍女に昇格。 女王の関心は次第に、幼馴染のサラからアビゲイルへと移っていく…。 実話から生まれた王朝物語。
2019/03/08(金) 00:07:40 | 象のロケット
特別招待作品。アイルランド、イギリス、アメリカ映画。監督は鬼才ヨルゴス・ランティモス。ヨルゴス・ランティモス節炸裂!!というような作品ではなかったが、それもまた良し。ヨルゴス・ランティモスってこんな(意味がよくわかる)作品を作るんだ!というある種の驚嘆をさせてくれた。そしてそれはちょっぴり嬉しい誤算でもある。華麗かつ闇が匂い立つ宮廷絵巻。イギリス王朝に花開く恐ろしき女の世界だ。以下は完全なネ...
2019/03/09(土) 12:51:49 | ここなつ映画レビュー
「ロブスター」「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」で注目を集めるギリシャの鬼才ヨルゴス・ランティモス監督が、18世紀イングランドの王室を舞台に、女王と彼女に仕える2人の女性の入り乱れる愛憎を描いた人間ドラマ。2018年・第75回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で審査員グランプリを受賞し、女王アンを演じたオリビア・コールマンも女優賞を受賞。第91回アカデミー賞でも作...
2019/03/20(水) 20:18:02 | 映画に夢中
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