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ショートレビュー「サンセット・・・・・評価額1600円」
2019年03月22日 (金) | 編集 |
迷宮のブダペスト。

ナチスの絶滅収容所で、ユダヤ人でありながら収容所の労務作業を担う“ゾンダーコマンド”を描いた異色作、「サウルの息子」で脚光を浴びたハンガリーの異才、ネメシュ・ラースロー監督による大怪作。
舞台となるのは、第一次世界大戦直前のオーストリア・ハンガリー帝国の都市ブダペスト。
二歳の時に両親を亡くし孤児として育てられたイリス・レイターは、嘗て両親が経営していた高級帽子店に職を求めてやって来る。
王侯貴族が出入りする帽子店は、開店30周年記念行事と、皇太子夫妻の来訪の準備で忙しい。
現オーナーのブリルにとって招かれざる客であるイリスは、正式に雇われることはないものの、帽子職人の技術を持っていたため、成り行きで店の手伝いをすることになる。
そこで彼女は、会ったことのない生き別れの兄、カルマンの存在を知り、探し始めるのだ。

ここからの展開は、ラースロー版の「マルホランド・ドライブ」か「アンダー・ザ・シルバーレイク」かという、混沌としたミステリ。
オーストリア・ハンガリー帝国は、もともと多民族の寄り合い所帯。
ブダペストは二重帝国の一方の首都ではあったものの、マジャール人のドイツ系ハプスブルグ家支配に対する反発は根強く、政情不安とともに貴族たちを狙った暴動が頻発。
兄のカルマンも、伯爵を殺したとして逃亡中の身だ。
イリスの前には、ブリルをはじめ、殺された伯爵の未亡人、謎めいたユダヤ人のグループなど、次々と兄と繋がる人たちが現れるが、誰もが何かを隠していて核心はずっとぼやけたまま。
まるで取り憑かれたように、時には危険で無謀な行動をしてまでカルマンを探し求めるイリスは、知らず知らずのうちに、魔都ブダペストのダークサイドに入り込んでしまうのだ。

特徴的なテリングのスタイルは、「サウルの息子」と同じ。
狭いスタンダードサイズだったあの作品ほど極端ではないが、基本的にカメラは終始イリスに張り付いたまま、クローズアップから彼女が見ている対象物を描写する、長回しショットの連続で展開する。
観客の視点は、前作は絶滅収容所に生きるゾンダーコマンド、今回はブダペストに彷徨うイリスと同化し、カメラが捉える視界の外、映らないものへの渇望を募らせる。
この渇望こそが、彼女が兄を求め続ける理由だろう。
高級帽子店は、支配層である貴族階級という虚飾と、庶民である職人や売り子の女性たちという現実が交わる、いわば分断された社会の接点だ。
この店そのものも、深い闇を抱えているのだが、この世界は混沌として、イリスには何が本当なのか、自分は何者なのかも含めて分からない。
世界の縮図としてのブダペスト、そのさらに縮図としての帽子店は、一体どこに繋がっているのか。

21世紀に生きている我々は、映画に登場する帝国の皇太子、フランツ・フェルディナント大公と妻のゾフィーが、まもなくセルビア民族主義者の青年によって暗殺され、ヨーロッパ全体が破滅的な戦争に突入することを知っている。
イリスが感じている漠然とした不安と閉塞の正体は、開かずの扉の向こうにあるまだ見ぬ未来であり、その鍵こそが兄のカルマンなのである。
この兄の存在が、「サウルの息子」の“息子”と重なる。
ゾンダーコマンドのサウルは、ある日死んだ少年の遺体を見て、自分の息子だと確信。
なんとか正式の葬儀をするために、収容所の中を駆けずり回る。
サウルの精神は、異常な日常によって既に崩壊していて、少年の死体は彼の贖罪意識の触媒となる、作劇用語で言う所謂マクガフィン。
その死体が本当に彼の息子だったのか、他の死体を錯覚しただけだったのか、そもそも息子など最初からいなかったのかも知れない。
崩壊してゆく世界を描く本作においても、はたして兄はほんとうに存在していたのだろうか
最終的にイリスが見出したのが、自らの血の中に巣食う暗黒であり、映画の帰結する先がカオスの戦場で細胞の様に無限に増殖する“塹壕”というのが皮肉。
結論をきちんと明示してくれる、分かりやすい映画では無いが、作り手との心理戦を楽しむ様な挑戦的な力作である。

今回はヘビーな142分だったので、スッキリしたピルスナー「ゲッサー」をチョイス。
苦味は適度で、ドライで喉越し爽やか。
こちらは二重帝国のオーストリア産で、500年以上の歴史を持ち、同国でのシェアはNo. 1。
オーストリアはナチス・ドイツに併合され、第二次世界大戦後には米英仏ソの戦勝四カ国に分割統治されたが、1955年に独立を回復した時の祝宴でも飲まれたという。
苦味と酸味、キレのいい喉ごしのバランスが絶妙で、欠点らしい欠点の無い上品な味わいの一本だ。

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