2019年06月27日 (木) | 編集 |
それは偽善か、愛情か。
今日のアメコミ映画全盛期の礎となった「X-MEN」シリーズ、7作目にして一応の完結編。
X-MENの活躍によって、ミュータントたちが一定のリスペクトを受けるようになった世界。
NASAのスペースシャトル救出ミッションに赴いた最強ミュータントのジーン・グレイが、予期せぬ事故に遭遇し、封印されていた記憶と共に、彼女の心のダークサイドが覚醒してしまう。
ジェームズ・マカヴォイやマイケル・ファスベンダーらおなじみの面々に加えて、鍵を握る新キャラクターにジェシカ・チャステイン。
前作の「X-MEN:アポカリプス」に引き続き、ソフィー・ターナーがタイトルロールの「ダーク・フェニックス」ことジーン・グレイを演じる。
「X-MEN:フューチャー&パスト」など、シリーズ数作品でプロデュースと脚本を務めたサイモン・キンバーグが初メガホンをとった。
1992年。
チャールズ・エグゼビア(ジェームズ・マカヴォイ)率いるX-MENの活躍によって、ミュータントは市民権を得て、子供たちのヒーローに。
しかしある時、遭難したスペースシャトル・エンデバーの救出ミッションに赴いたX-MENは、乗員全員の救出に成功するも、逃げ遅れたジーン・グレイ(ソフィー・ターナー)が謎の宇宙放射線を浴びてしまう。
彼女の能力は急速に増大し、それによって封印されていた記憶が蘇る。
遠い昔、チャールズは幼いジーンの心を操作し、恐ろしい事故の記憶を封印していたのだ。
チャールズへの不信感を募らせたジーンの中で、増大する力は制御不能となり、思わぬ悲劇が起こる。
帰る家を失い、追われる身となったジーンの元へ、彼女の力を狙う謎の女ヴーク(ジェシカ・チャステイン)が近づいてくる・・・
本国での評判があまりに酷かったので、地雷踏むつもりだったのだが、全然悪くないじゃないか。
やっぱり映画は自分で観るまで分からない。
宇宙で謎の放射線を吸収したことで、増大する力と共に、封印された記憶が蘇ってしまったジーン。
彼女はチャールズが自分の心を操って、記憶を改ざんしていたことを知ってしまう。
チャールズにしてみれば、能力の暴走によってジーンが最愛の母親を殺してしまい、娘の力に恐怖した父親に捨てられた記憶を封印したのは良かれと思ってのこと。
幼い彼女の心には、残酷すぎる事実だからだ。
しかし、親代わりだったチャールズの行為を裏切りと捉えたジーンは、だんだんと自己の制御を失い、ジェシカ・チャステイン演じるシェイプシフター系の宇宙人が、地球侵略のために彼女を操ろうと悪巧み。
宇宙人の陰謀を阻止し、壊れた信頼をいかにして取り戻すのか?という話。
今回はジーンとチャールズのダブル主人公体制で、同じイッシューを双方から描く。
シリーズの生みの親であるブライアン・シンガーは、ユダヤ人で、ゲイであることを公言している。
性的・民族的マイノリティである彼は、元々原作の「X-MEN」シリーズが内包していた反差別、反ナチズムのテーマを前面に出し、大人の鑑賞に堪えうる社会派アメコミ映画というムーブメントを作り出した。
2000年公開の第一作以来20年、シリーズのバックボーンとしてこのテーマは一貫しており、それは今回も変わらない。
ただ、サイモン・キンバーグは、マイノリティの葛藤はキープしつつも、疑似家族としての「ミュータント同士の信頼」というよりパーソナルな部分をフィーチャーする。
ジーンの増大する能力は、信頼の崩壊の要因となるものの、それ自体が問題ではない。
一応、ヴィランの宇宙人も出てくるが、彼らの物語上の位置付けも、信頼の再生のためのトリガーに過ぎないのである。
ここで描かれるのは、基本的には親離れ子離れの寓話。
チャールズは、X-MENのリーダーであるのと同時に、「恵まれし子らの学園」を主宰する教育者でもある。
ミュータントが差別と迫害の対象であることを誰よりも知る彼は、子供たちを庇護する一方で、X-MENの活躍をある種の広報活動として世間に広め、この世界にミュータントというマイノリティの安全な居場所を確保しようとしている。
だから、その大義のためなら自己犠牲を強いることもあり、もはや子供ではないX-MENメンバーには、自分たちを利用しているとして反発を招く。
チャールズの独善に個人として異議を唱えるのが、従順な男の子たちではなく、レイヴンであったり、ジーンであったり、現場で果敢にリーダーシップを取る“X-WOMEN”なのは象徴的だ。
また、本作が帰結する先は、特に「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」から始まった新シリーズが、多分にBLチックな愛憎を抱えた、チャールズとエリックの物語であることを改めて思い起こさせる。
比較的恵まれた環境で育ったチャールズに対し、ナチスの絶滅収容所で母を殺されたエリックは、マジョリティへの憎しみと疑心暗鬼を捨てられない訳だが、だからこそ本作のクライマックスが、“収容所行きの列車”である設定が生きる。
チャールズに裏切られ、エリックにも拒絶されたジーンの信頼を取り戻し、良き人間、良き家族としての彼女が蘇る物語は、X-MENとブラザーフッドの辿ってきた歴史を内包しているのである。
そしてチャールズとエリックは、自らが成し遂げたことの結末を見届け、自分たちの役割が終わったことを悟るのだ。
本作は基本的にはX-MENチーム内での人間関係の話で、案外こぢんまりとした内容だったりする。
既視感も多々あるし、スペクタクルなビジュアル的要素は相対的に少ない。
ぶっちゃけ、シリーズの大団円としては新旧のキャストが連合した「フューチャー&パスト」が最も相応しかったかも知れない。
シリーズの顔だったウルヴァリンも、既に「LOGAN ローガン」を最後にシリーズを去っているのも寂しい。
しかし、「フューチャー&パスト」でパラレルワールド設定となり、これを第1作には繋がらないチャールズとエリックの物語として捉えれば、、一応の完結編としても納得出来る作品だったと思う。
クイックシルバーがちょっと割りを食っていたが、それぞれのキャラクターに花を持たせるバランスもいい。
“居場所”を巡る疑似家族の寓話は、実にX-MENらしいエンディングだと思う。
敵がむちゃくちゃ強かった以外、全く意外性のなかった前作「アポカリプス」よりも、キンバーグの想いが感じられるこちらの方が、ずっと好きな作品だ。
今回は、タイトル通り「フェニックス」をチョイス。
ウオッカ30ml、ピーチリキュール25ml、アマレットリキュール5ml、パイナップルジュース45ml、オレンジジュース45mlをシェイクし、氷を入れたタンブラーに注ぐ。
マラスキーノチェリーとミントの葉を飾って完成。
フルーティでスッキリ、ジトジトした梅雨を吹き飛ばしてくれるカクテルだ。
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今日のアメコミ映画全盛期の礎となった「X-MEN」シリーズ、7作目にして一応の完結編。
X-MENの活躍によって、ミュータントたちが一定のリスペクトを受けるようになった世界。
NASAのスペースシャトル救出ミッションに赴いた最強ミュータントのジーン・グレイが、予期せぬ事故に遭遇し、封印されていた記憶と共に、彼女の心のダークサイドが覚醒してしまう。
ジェームズ・マカヴォイやマイケル・ファスベンダーらおなじみの面々に加えて、鍵を握る新キャラクターにジェシカ・チャステイン。
前作の「X-MEN:アポカリプス」に引き続き、ソフィー・ターナーがタイトルロールの「ダーク・フェニックス」ことジーン・グレイを演じる。
「X-MEN:フューチャー&パスト」など、シリーズ数作品でプロデュースと脚本を務めたサイモン・キンバーグが初メガホンをとった。
1992年。
チャールズ・エグゼビア(ジェームズ・マカヴォイ)率いるX-MENの活躍によって、ミュータントは市民権を得て、子供たちのヒーローに。
しかしある時、遭難したスペースシャトル・エンデバーの救出ミッションに赴いたX-MENは、乗員全員の救出に成功するも、逃げ遅れたジーン・グレイ(ソフィー・ターナー)が謎の宇宙放射線を浴びてしまう。
彼女の能力は急速に増大し、それによって封印されていた記憶が蘇る。
遠い昔、チャールズは幼いジーンの心を操作し、恐ろしい事故の記憶を封印していたのだ。
チャールズへの不信感を募らせたジーンの中で、増大する力は制御不能となり、思わぬ悲劇が起こる。
帰る家を失い、追われる身となったジーンの元へ、彼女の力を狙う謎の女ヴーク(ジェシカ・チャステイン)が近づいてくる・・・
本国での評判があまりに酷かったので、地雷踏むつもりだったのだが、全然悪くないじゃないか。
やっぱり映画は自分で観るまで分からない。
宇宙で謎の放射線を吸収したことで、増大する力と共に、封印された記憶が蘇ってしまったジーン。
彼女はチャールズが自分の心を操って、記憶を改ざんしていたことを知ってしまう。
チャールズにしてみれば、能力の暴走によってジーンが最愛の母親を殺してしまい、娘の力に恐怖した父親に捨てられた記憶を封印したのは良かれと思ってのこと。
幼い彼女の心には、残酷すぎる事実だからだ。
しかし、親代わりだったチャールズの行為を裏切りと捉えたジーンは、だんだんと自己の制御を失い、ジェシカ・チャステイン演じるシェイプシフター系の宇宙人が、地球侵略のために彼女を操ろうと悪巧み。
宇宙人の陰謀を阻止し、壊れた信頼をいかにして取り戻すのか?という話。
今回はジーンとチャールズのダブル主人公体制で、同じイッシューを双方から描く。
シリーズの生みの親であるブライアン・シンガーは、ユダヤ人で、ゲイであることを公言している。
性的・民族的マイノリティである彼は、元々原作の「X-MEN」シリーズが内包していた反差別、反ナチズムのテーマを前面に出し、大人の鑑賞に堪えうる社会派アメコミ映画というムーブメントを作り出した。
2000年公開の第一作以来20年、シリーズのバックボーンとしてこのテーマは一貫しており、それは今回も変わらない。
ただ、サイモン・キンバーグは、マイノリティの葛藤はキープしつつも、疑似家族としての「ミュータント同士の信頼」というよりパーソナルな部分をフィーチャーする。
ジーンの増大する能力は、信頼の崩壊の要因となるものの、それ自体が問題ではない。
一応、ヴィランの宇宙人も出てくるが、彼らの物語上の位置付けも、信頼の再生のためのトリガーに過ぎないのである。
ここで描かれるのは、基本的には親離れ子離れの寓話。
チャールズは、X-MENのリーダーであるのと同時に、「恵まれし子らの学園」を主宰する教育者でもある。
ミュータントが差別と迫害の対象であることを誰よりも知る彼は、子供たちを庇護する一方で、X-MENの活躍をある種の広報活動として世間に広め、この世界にミュータントというマイノリティの安全な居場所を確保しようとしている。
だから、その大義のためなら自己犠牲を強いることもあり、もはや子供ではないX-MENメンバーには、自分たちを利用しているとして反発を招く。
チャールズの独善に個人として異議を唱えるのが、従順な男の子たちではなく、レイヴンであったり、ジーンであったり、現場で果敢にリーダーシップを取る“X-WOMEN”なのは象徴的だ。
また、本作が帰結する先は、特に「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」から始まった新シリーズが、多分にBLチックな愛憎を抱えた、チャールズとエリックの物語であることを改めて思い起こさせる。
比較的恵まれた環境で育ったチャールズに対し、ナチスの絶滅収容所で母を殺されたエリックは、マジョリティへの憎しみと疑心暗鬼を捨てられない訳だが、だからこそ本作のクライマックスが、“収容所行きの列車”である設定が生きる。
チャールズに裏切られ、エリックにも拒絶されたジーンの信頼を取り戻し、良き人間、良き家族としての彼女が蘇る物語は、X-MENとブラザーフッドの辿ってきた歴史を内包しているのである。
そしてチャールズとエリックは、自らが成し遂げたことの結末を見届け、自分たちの役割が終わったことを悟るのだ。
本作は基本的にはX-MENチーム内での人間関係の話で、案外こぢんまりとした内容だったりする。
既視感も多々あるし、スペクタクルなビジュアル的要素は相対的に少ない。
ぶっちゃけ、シリーズの大団円としては新旧のキャストが連合した「フューチャー&パスト」が最も相応しかったかも知れない。
シリーズの顔だったウルヴァリンも、既に「LOGAN ローガン」を最後にシリーズを去っているのも寂しい。
しかし、「フューチャー&パスト」でパラレルワールド設定となり、これを第1作には繋がらないチャールズとエリックの物語として捉えれば、、一応の完結編としても納得出来る作品だったと思う。
クイックシルバーがちょっと割りを食っていたが、それぞれのキャラクターに花を持たせるバランスもいい。
“居場所”を巡る疑似家族の寓話は、実にX-MENらしいエンディングだと思う。
敵がむちゃくちゃ強かった以外、全く意外性のなかった前作「アポカリプス」よりも、キンバーグの想いが感じられるこちらの方が、ずっと好きな作品だ。
今回は、タイトル通り「フェニックス」をチョイス。
ウオッカ30ml、ピーチリキュール25ml、アマレットリキュール5ml、パイナップルジュース45ml、オレンジジュース45mlをシェイクし、氷を入れたタンブラーに注ぐ。
マラスキーノチェリーとミントの葉を飾って完成。
フルーティでスッキリ、ジトジトした梅雨を吹き飛ばしてくれるカクテルだ。

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最後って言われてもなー。
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摘まんで5本まとめてレビュー。トーホーシネマズ縛りで。
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▲画像は後から。
五つ星評価で【★★★思ったよりは面白いけど問題は私ジーンが嫌いなのだ】
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