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2019年07月28日 (日) | 編集 |
戦艦大和とは、いったい何だったのか?
驚くべき傑作である。
戦争映画然とした予告編から想像出来る内容と、実際の映画は全く違う。
戦闘シーンはあるが、これは戦争映画ではない。
背景となるのは、海軍の次期艦艇を戦艦にするか空母にするかの、軍内部の派閥対立。
航空機の時代の到来を予測し、空母の建造を推す山本五十六は、空母よりも巨大な戦艦の予算見積もりが安すぎることに疑念を抱き、本当の建造予算を算出するために、菅田将暉演じる数学の天才を雇う。
本作は、現在までに作られた、戦争や大和をモチーフにしたあらゆる日本映画と異なっている。
当時の軍備を大規模な公共事業として、経済の視点から捉え、数字から読み解くと同時に、遠い未来までも視野に入れた、ある種の「日本論」となっている非常にユニークな作品だ。
三田紀房の同名漫画を原作に、例によって脚本・VFXを兼務する山崎貴監督は、キャリアベストといえる大変な力作を作り上げた。
✳︎核心部分に触れています。
不沈艦と呼ばれ、大日本帝国の栄光の象徴だった戦艦大和が、太平洋の海中に没する12年前。
昭和8年に第一航空戦隊司令となった山本五十六少将(舘ひろし)は、将来のアメリカとの艦隊決戦が航空機の戦いになることを予見していた。
だが、海軍の建造計画会議では、大艦巨砲主義に固執する軍令部の嶋田繁太郎少将(橋爪功)が、平山忠道造船中将(田中泯)の巨大戦艦計画を推進、空母を推す山本らと激しく対立し、結論は2週間後に持ち越された。
平山案の予算見積もりが、異常に安いことに気付いた山本は、ひょんなことから出会った元帝大生の数学の天才、櫂直(菅田将暉)を少佐に任官して海軍に招き入れ、平山案が本当にその予算で実現出来るのか、再計算させようとする。
ところが軍の機密の壁に阻まれて仕事は進められず、業を煮やした櫂は横須賀に停泊していた戦艦長門に乗り込み、寸歩を測って一から図面を引き始める・・・・
本作の冒頭、大和最後の戦いとなった、坊ノ岬沖海戦が“特撮屋”の矜持たっぷりに描かれる。
昭和20年4月7日、大和は沖縄へと向かう天一号作戦の途上、380機を超える米空母艦載機の波状攻撃を受けて沈没。
転覆し、火薬庫の大爆発で2つに裂けた巨体は、今も太平洋に眠っている。
印象的なのは、対空砲火で米軍機が撃墜されると、すかさず水上機が現れて脱出したパイロットを救出するのを、大和の乗組員が目撃して驚くシーン。
時間的には短いが、資料に基づきディテールに拘った戦闘描写の迫真性、爆沈に至るまでのシミュレーション性ともに、過去に作られた作品とは明確に一線を画す圧巻の仕上がりだ。
巨額の予算で建造された史上最大の戦艦は、戦争ではほとんど活躍することなく、軍幹部のための「大和ホテル」と揶揄されるも、悲劇的な最後を遂げたことで、大日本帝国の栄光と没落のシンボルとなったのは、誰もが知るところ。
だが、大和の建造に誰も知らないもう一つの秘められた目的があったとしたら?
原作漫画は残念ながら未読。
まだ連載中なので、かなりの部分は脚色なのだろうが、史実とフィクションをシームレスに織り込む作劇が見事だ。
舞台となる昭和8年は、前年に大陸で満州国が建国され、反発する欧米諸国との対立が深まり日本が国際連盟を脱退する一方で、いまだ有効な海軍軍縮条約によって、主力艦の大きさや数が制限されている時代。
米英に対して、少ない艦艇しか持てない海軍にとって、何を建造するのかは非常に重要だが、まだ海のものとも山のものとも分からず、実戦で検証されていない空母派の旗色は悪い。
この辺りの設定は、スマホ時代の到来を読めず、没落していった数多くのガラケーメーカーを思い浮かべると分かりやすいだろう。
過去の実績の無い空母派の突破口が、平山案の不自然に安い予算見積もりというワケで、映画はここから天才数学者の櫂を軸に、平山案の嘘を突き崩すプロセスを丁寧に描いてゆく。
軍人嫌いだという櫂を口説き落とす、山本の理屈はこうだ。
このままだと将来、アメリカと戦争が起こる。
理屈では勝てないと分かっていても、巨大で美しい世界一の戦艦を見せられたら、大衆はそれが日本の実力だと勘違いしてしまう。
だから、危険なシンボルとなりうる巨大戦艦を作らせてはならない。
この理屈に突き動かされ、山本に協力することを決めた櫂たちは、嶋田少将らの妨害に苦しめられながらも、その頭脳と情熱を頼りに真実に迫ってゆく。
長門で戦艦の構造を知り、一夜漬けで造船の基本を学んでしまうのは、現実的にはいくら何でも無茶過ぎだが、菅田将暉のキャラクターには強引に納得させられてしまう説得力がある。
やがて、浜辺美波演じる櫂に思いを寄せる財閥令嬢と、鶴瓶師匠がはまり役の大阪の造船会社社長の協力を得て、少しずつ巨大戦艦の本当の建造費が見えてくるのである。
そして浮かび上がる、利権のカラクリ。
ここまでの物語の展開は、止まらない公共事業、特に決定後に予算が膨れ上がった東京オリンピックを連想させる。
巨大で美しいニッポンの誇りが旗印なのも、どこかで聞いた様な話だ。
ちなみに山崎監督は、オリンピックの開会式・閉会式のクリエーティブチームの人でもあるんだが、こんなの作っちゃって大丈夫なのだろうか(笑
しかしこの映画の凄さは、単に過去を現代日本のシニカルなカリカチュアにし、権力の不正を正すカタルシスで終わらせないことにある。
私たちは、結局巨大戦艦は建造され、やがて沈んだことを知っている。
結末の分かっている話を、いかにして導いてゆくのか。
映画は、櫂が追求している「真実」と「正義」が、平山案の裏にある軍と財閥の癒着した利権構造を暴き出すところから、さらに二転三転する。
面白いのは、海軍のお偉いさんたちの描き方で、会議が紛糾して言い争いになると、お互いの愛人暴露大会みたいになってしまったり、総じて中学生がそのまま大人になったような、子供っぽい大人に造形されている。
一般に戦争反対派として描かれることの多い山本五十六も、櫂には戦争を避けるためと協力を要請しながら、自分は空母を使ってアメリカと戦うことを考えている。
空母機動部隊によるハワイ攻撃計画を嬉々として語る山本を見て、國村隼演じる上官の永野修身が「君も軍人なのだな」と意外そうに言う。
避けられれば避けたい、しかし避けられないならば、勝つしかないという軍人の共通のベースが現れる秀逸なシーンだ。
彼らにとって勝つことが正義だとすれば、海軍幹部の中で一人だけ異なる視点、異なる大義を持っているのが、田中泯が好演する平山造船中将。
会議で自らの設計ミスを櫂に看破されると、平山は計画を取り下げて、空母派が勝利する。
ところが、彼は後日密かに櫂を呼び出し、巨大戦艦を完成させるために数式を教えて欲しいという。
軍人でありながら科学者、エンジニアでもある平山は、戦争はすでに避けられないとして、その先にある未来を見ているのである。
実は彼も、将来の海戦の主役が空母になることは分かっている。
にも関わらず、なぜ巨大戦艦の建造が必要なのか。
平山は、「日本人は負け方を知らない」という。
明治以来の日清、日露、第一次世界大戦は全て勝ち戦で、戦争をして負けるという概念そのものが無い。
だからどこかの時点で「ああ、負けた」と思わせる落日の象徴が必要で、それは艦載機がなければただのデカイ箱でしかない空母には務まらない。
帝国の総力を具現化した、この上なく巨大で美しい戦艦で、名は日本そのものを意味する「大和」でなければならない。
平山と櫂が、誰も思い描けていないIFの未来を見た瞬間、思わずゾーッとして鳥肌が立った。
完成した大和を見て櫂が流す涙は、この美しい艦がそう遠く無い未来に、多くの命を乗せて沈むことで日本という国の人柱となる運命を知っているから。
この視点には、ドイツ軍の暗号を解読することで、誰も知らない未来を見てしまった科学者を描く、「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」に共通する無常を感じた。
自らが作り上げるものが何を引き起こすのか知った上で、それでも完成させたいというモノづくりの狂気という点では、「風立ちぬ」にも通じるかも知れない。
だが、本作の本当の恐ろしさは、作中では描かれなかったその後にある。
平山にも誤算があった。
彼の予想した通り戦争は起こり、大和は沈んだものの、それで日本人の心は折れ、世論は降伏へと向かっただろうか。
いや、そうはならなかった。
大和の母港だった呉を舞台とした「この世界の片隅に」には、工廠の空襲で負傷した義父を軍病院に見舞った主人公が「大和が沈んだらしい」とこっそりと耳打ちされる描写があるが、大和の沈没はそれ自体が軍事機密となり、世間一般に知られることは無かったのである。
結果的に日本人の心が折れたのは、更に数十万人が犠牲となった二発の原爆と、ソ連の突然の参戦によってだったのは歴史の通り。
そして戦後74年が過ぎた今、大和は沈んだことにより伝説化され、もはや物理的に破壊することのできない、美しく巨大な民族の象徴へと戻ってしまったのである。
史実をベースとしてフィクションの物語を展開させ、その先にある史実の中にテーマを結実させる。
数式では定義しきれないのが、人間の歴史。
正直どこまでが作者の計算なのかは分からないが、まことに驚くべき作品となった。
今回は、呉のお隣にある、東広島市に本拠を置く広島を代表する銘柄で、実際に大和にも積まれていたという賀茂鶴酒造の「賀茂鶴 純米吟醸 一滴入魂」をチョイス。
現在の海上自衛隊はアメリカ流に艦内禁酒だが、帝国海軍はイギリス流にある程度の飲酒は嗜みとして許されていたそうで、本作にも長門の艦長がウィスキーで櫂をもてなすシーンがある。
賀茂鶴といえばリーズナブルな上等酒を冬にぬる燗で飲むのが美味いが、こちらの純米吟醸は暑い夏に冷やして飲むのがいい。
米のふくよかな香り、やや辛口の飽きのこない酒で、CPも高く料理を選ばない。
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驚くべき傑作である。
戦争映画然とした予告編から想像出来る内容と、実際の映画は全く違う。
戦闘シーンはあるが、これは戦争映画ではない。
背景となるのは、海軍の次期艦艇を戦艦にするか空母にするかの、軍内部の派閥対立。
航空機の時代の到来を予測し、空母の建造を推す山本五十六は、空母よりも巨大な戦艦の予算見積もりが安すぎることに疑念を抱き、本当の建造予算を算出するために、菅田将暉演じる数学の天才を雇う。
本作は、現在までに作られた、戦争や大和をモチーフにしたあらゆる日本映画と異なっている。
当時の軍備を大規模な公共事業として、経済の視点から捉え、数字から読み解くと同時に、遠い未来までも視野に入れた、ある種の「日本論」となっている非常にユニークな作品だ。
三田紀房の同名漫画を原作に、例によって脚本・VFXを兼務する山崎貴監督は、キャリアベストといえる大変な力作を作り上げた。
✳︎核心部分に触れています。
不沈艦と呼ばれ、大日本帝国の栄光の象徴だった戦艦大和が、太平洋の海中に没する12年前。
昭和8年に第一航空戦隊司令となった山本五十六少将(舘ひろし)は、将来のアメリカとの艦隊決戦が航空機の戦いになることを予見していた。
だが、海軍の建造計画会議では、大艦巨砲主義に固執する軍令部の嶋田繁太郎少将(橋爪功)が、平山忠道造船中将(田中泯)の巨大戦艦計画を推進、空母を推す山本らと激しく対立し、結論は2週間後に持ち越された。
平山案の予算見積もりが、異常に安いことに気付いた山本は、ひょんなことから出会った元帝大生の数学の天才、櫂直(菅田将暉)を少佐に任官して海軍に招き入れ、平山案が本当にその予算で実現出来るのか、再計算させようとする。
ところが軍の機密の壁に阻まれて仕事は進められず、業を煮やした櫂は横須賀に停泊していた戦艦長門に乗り込み、寸歩を測って一から図面を引き始める・・・・
本作の冒頭、大和最後の戦いとなった、坊ノ岬沖海戦が“特撮屋”の矜持たっぷりに描かれる。
昭和20年4月7日、大和は沖縄へと向かう天一号作戦の途上、380機を超える米空母艦載機の波状攻撃を受けて沈没。
転覆し、火薬庫の大爆発で2つに裂けた巨体は、今も太平洋に眠っている。
印象的なのは、対空砲火で米軍機が撃墜されると、すかさず水上機が現れて脱出したパイロットを救出するのを、大和の乗組員が目撃して驚くシーン。
時間的には短いが、資料に基づきディテールに拘った戦闘描写の迫真性、爆沈に至るまでのシミュレーション性ともに、過去に作られた作品とは明確に一線を画す圧巻の仕上がりだ。
巨額の予算で建造された史上最大の戦艦は、戦争ではほとんど活躍することなく、軍幹部のための「大和ホテル」と揶揄されるも、悲劇的な最後を遂げたことで、大日本帝国の栄光と没落のシンボルとなったのは、誰もが知るところ。
だが、大和の建造に誰も知らないもう一つの秘められた目的があったとしたら?
原作漫画は残念ながら未読。
まだ連載中なので、かなりの部分は脚色なのだろうが、史実とフィクションをシームレスに織り込む作劇が見事だ。
舞台となる昭和8年は、前年に大陸で満州国が建国され、反発する欧米諸国との対立が深まり日本が国際連盟を脱退する一方で、いまだ有効な海軍軍縮条約によって、主力艦の大きさや数が制限されている時代。
米英に対して、少ない艦艇しか持てない海軍にとって、何を建造するのかは非常に重要だが、まだ海のものとも山のものとも分からず、実戦で検証されていない空母派の旗色は悪い。
この辺りの設定は、スマホ時代の到来を読めず、没落していった数多くのガラケーメーカーを思い浮かべると分かりやすいだろう。
過去の実績の無い空母派の突破口が、平山案の不自然に安い予算見積もりというワケで、映画はここから天才数学者の櫂を軸に、平山案の嘘を突き崩すプロセスを丁寧に描いてゆく。
軍人嫌いだという櫂を口説き落とす、山本の理屈はこうだ。
このままだと将来、アメリカと戦争が起こる。
理屈では勝てないと分かっていても、巨大で美しい世界一の戦艦を見せられたら、大衆はそれが日本の実力だと勘違いしてしまう。
だから、危険なシンボルとなりうる巨大戦艦を作らせてはならない。
この理屈に突き動かされ、山本に協力することを決めた櫂たちは、嶋田少将らの妨害に苦しめられながらも、その頭脳と情熱を頼りに真実に迫ってゆく。
長門で戦艦の構造を知り、一夜漬けで造船の基本を学んでしまうのは、現実的にはいくら何でも無茶過ぎだが、菅田将暉のキャラクターには強引に納得させられてしまう説得力がある。
やがて、浜辺美波演じる櫂に思いを寄せる財閥令嬢と、鶴瓶師匠がはまり役の大阪の造船会社社長の協力を得て、少しずつ巨大戦艦の本当の建造費が見えてくるのである。
そして浮かび上がる、利権のカラクリ。
ここまでの物語の展開は、止まらない公共事業、特に決定後に予算が膨れ上がった東京オリンピックを連想させる。
巨大で美しいニッポンの誇りが旗印なのも、どこかで聞いた様な話だ。
ちなみに山崎監督は、オリンピックの開会式・閉会式のクリエーティブチームの人でもあるんだが、こんなの作っちゃって大丈夫なのだろうか(笑
しかしこの映画の凄さは、単に過去を現代日本のシニカルなカリカチュアにし、権力の不正を正すカタルシスで終わらせないことにある。
私たちは、結局巨大戦艦は建造され、やがて沈んだことを知っている。
結末の分かっている話を、いかにして導いてゆくのか。
映画は、櫂が追求している「真実」と「正義」が、平山案の裏にある軍と財閥の癒着した利権構造を暴き出すところから、さらに二転三転する。
面白いのは、海軍のお偉いさんたちの描き方で、会議が紛糾して言い争いになると、お互いの愛人暴露大会みたいになってしまったり、総じて中学生がそのまま大人になったような、子供っぽい大人に造形されている。
一般に戦争反対派として描かれることの多い山本五十六も、櫂には戦争を避けるためと協力を要請しながら、自分は空母を使ってアメリカと戦うことを考えている。
空母機動部隊によるハワイ攻撃計画を嬉々として語る山本を見て、國村隼演じる上官の永野修身が「君も軍人なのだな」と意外そうに言う。
避けられれば避けたい、しかし避けられないならば、勝つしかないという軍人の共通のベースが現れる秀逸なシーンだ。
彼らにとって勝つことが正義だとすれば、海軍幹部の中で一人だけ異なる視点、異なる大義を持っているのが、田中泯が好演する平山造船中将。
会議で自らの設計ミスを櫂に看破されると、平山は計画を取り下げて、空母派が勝利する。
ところが、彼は後日密かに櫂を呼び出し、巨大戦艦を完成させるために数式を教えて欲しいという。
軍人でありながら科学者、エンジニアでもある平山は、戦争はすでに避けられないとして、その先にある未来を見ているのである。
実は彼も、将来の海戦の主役が空母になることは分かっている。
にも関わらず、なぜ巨大戦艦の建造が必要なのか。
平山は、「日本人は負け方を知らない」という。
明治以来の日清、日露、第一次世界大戦は全て勝ち戦で、戦争をして負けるという概念そのものが無い。
だからどこかの時点で「ああ、負けた」と思わせる落日の象徴が必要で、それは艦載機がなければただのデカイ箱でしかない空母には務まらない。
帝国の総力を具現化した、この上なく巨大で美しい戦艦で、名は日本そのものを意味する「大和」でなければならない。
平山と櫂が、誰も思い描けていないIFの未来を見た瞬間、思わずゾーッとして鳥肌が立った。
完成した大和を見て櫂が流す涙は、この美しい艦がそう遠く無い未来に、多くの命を乗せて沈むことで日本という国の人柱となる運命を知っているから。
この視点には、ドイツ軍の暗号を解読することで、誰も知らない未来を見てしまった科学者を描く、「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」に共通する無常を感じた。
自らが作り上げるものが何を引き起こすのか知った上で、それでも完成させたいというモノづくりの狂気という点では、「風立ちぬ」にも通じるかも知れない。
だが、本作の本当の恐ろしさは、作中では描かれなかったその後にある。
平山にも誤算があった。
彼の予想した通り戦争は起こり、大和は沈んだものの、それで日本人の心は折れ、世論は降伏へと向かっただろうか。
いや、そうはならなかった。
大和の母港だった呉を舞台とした「この世界の片隅に」には、工廠の空襲で負傷した義父を軍病院に見舞った主人公が「大和が沈んだらしい」とこっそりと耳打ちされる描写があるが、大和の沈没はそれ自体が軍事機密となり、世間一般に知られることは無かったのである。
結果的に日本人の心が折れたのは、更に数十万人が犠牲となった二発の原爆と、ソ連の突然の参戦によってだったのは歴史の通り。
そして戦後74年が過ぎた今、大和は沈んだことにより伝説化され、もはや物理的に破壊することのできない、美しく巨大な民族の象徴へと戻ってしまったのである。
史実をベースとしてフィクションの物語を展開させ、その先にある史実の中にテーマを結実させる。
数式では定義しきれないのが、人間の歴史。
正直どこまでが作者の計算なのかは分からないが、まことに驚くべき作品となった。
今回は、呉のお隣にある、東広島市に本拠を置く広島を代表する銘柄で、実際に大和にも積まれていたという賀茂鶴酒造の「賀茂鶴 純米吟醸 一滴入魂」をチョイス。
現在の海上自衛隊はアメリカ流に艦内禁酒だが、帝国海軍はイギリス流にある程度の飲酒は嗜みとして許されていたそうで、本作にも長門の艦長がウィスキーで櫂をもてなすシーンがある。
賀茂鶴といえばリーズナブルな上等酒を冬にぬる燗で飲むのが美味いが、こちらの純米吟醸は暑い夏に冷やして飲むのがいい。
米のふくよかな香り、やや辛口の飽きのこない酒で、CPも高く料理を選ばない。

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この記事へのコメント
原作は今、15巻くらいまで出てるそうなのですが、今回の部分に当たるのは1~3巻で、講談社が映画原作分3冊セットで売りだしていて、そう言うやり方もあるのね、と感心しました。
私、漫画喫茶で2巻まで読むという半端な事をしてしまったのですが、映画化によって付け加えられた物と省かれた物などがあり、比べると面白いです。
私、漫画喫茶で2巻まで読むという半端な事をしてしまったのですが、映画化によって付け加えられた物と省かれた物などがあり、比べると面白いです。
2019/08/26(月) 00:06:49 | URL | fjk78dead #-[ 編集]
>ふじきさん
あー、あの3冊セットはそういうことだったのか。
買っておけばよかったなあ。
まだ売っているかしら。
あー、あの3冊セットはそういうことだったのか。
買っておけばよかったなあ。
まだ売っているかしら。
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『アルキメデスの大戦』 を試写会で鑑賞しました。
【ストーリー】
昭和8年(1933年)、第2次世界大戦開戦前の日本。日本帝国海軍の上層部は世界に威厳を示すための超大型戦艦大和の建造に意欲を見せるが、海軍少将の山本五十六は今後の海戦には航空母艦の方が必要だと主張する。進言を無視する軍上層部の動きに危険を感じた山本は、天才数学者・櫂直(菅田将暉)を軍に招き入れる。その狙いは、彼の卓越した数...
2019/07/28(日) 23:12:18 | 気ままな映画生活 -適当なコメントですが、よければどうぞ!-
戦艦大和の建造をめぐるさまざまな謀略を描いた三田紀房による同名マンガを、菅田将暉主演、「ALWAYS 三丁目の夕日」「永遠の0」の山崎貴監督のメガホンで実写映画化。菅田が櫂役、舘ひろしが山本五十六役を演じるほか、浜辺美波、柄本佑、笑福亭鶴瓶らが顔をそろえる。あらすじ:日本と欧米の対立が激化する昭和8年、日本帝国海軍上層部は巨大戦艦・大和の建造計画に大きな期待を寄せていたが、海軍少将・山本五十...
2019/08/03(土) 23:21:41 | 映画に夢中
摘まんで5本まとめてレビュー。そこそこ良いの二つとアレアレアレ三つ。
◆『アルキメデスの大戦』109シネマズ木場6
▲画像は後から。
五つ星評価で【★★★★原作マンガに対する演出とか脚色が成功】
面白かった。
監督、そんな大人みたいな映画作れるようになったんすかと言う驚きがあった。何故だか割とそういうの作れないみたいに思ってた。もちろん、これは読んでないから分からないが(正確には今回の分...
2019/08/26(月) 00:08:45 | ふじき78の死屍累々映画日記・第二章
大和建造を阻止せよ!
2020/05/17(日) 19:00:13 | 或る日の出来事
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