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2019年08月01日 (木) | 編集 |
誕生は祝福なのか、呪いなのか?
レバノンの貧民街に生まれ育ち、人を刺したとして少年刑務所に収監されている12歳の少年ゼインが、両親を訴える。
その罪状は「勝手に僕を産んだこと」。
彼には出生証明もなく、身分証明書もなく、両親は誕生日すら覚えていない。
書類上は「存在しない子供」であり、12歳という年齢も、逮捕された時の身体検査で医師が推察した数字にすぎないのだ。
当然学校も行ったことがなく、近所の店で雑用係としてこきつかわれ、希望のないクソみたいな毎日を過ごしている。
そんなゼインの心を支えていたのは、同じ境遇の兄妹たちの存在で、一歳違いの妹のサハルとはとりわけ仲がいい。
だが、ある時彼女が滞納していた家賃の代わりに、大家のロリコンオヤジと無理やり結婚させられたことで、ゼインはついにキレる。
両親と決別して家出し、一人で生きて行こうとするのだが、身元の分からない少年にそう簡単には仕事は見つからない。
ゼインを救ったのは、エチオピアからの不法移民で、シングルマザーのラヒル。
彼女は生まれて間もない息子、ヨナスのベビーシッターとして、ゼインを居候させることにする。
ヨナスも当然出生届など出されておらず、ゼインは図らずももう一人の「存在しない子供」と出会い、ある事件をきっかけに二人きりで取り残されてしまうのだ。
シリア難民には支援があるのに、レバノン人でも行政が把握してないゼインには、支援が届かないアイロニー。
これはいわば是枝裕和監督の「万引き家族」に描かれた、社会のセーフティネットから抜け落ちた「インビジブル・ピープル」のさらに極端なバージョン。
それでも、最初からどん底の境遇で生きてきたゼインは、様々なアイディアを駆使して、生き抜こうとするのだが、ヨナスを抱えていてはそれも限界がある。
そして、結婚した後のサハルに起こった事件を知った時、ゼインは世の中の全ての大人たち、全ての不条理に対する怒りを爆発させるのである。
驚くべきは、登場人物を演じる俳優たちのバックグラウンドで、同じ名前の主人公を演じるゼイン・アル=ラフィーアをはじめ、主要登場人物のほとんどが難民であったり、不法移民であったり、あるいは二級市民であったり、劇中で演じている役柄と極めて近い人生を送っていること。
ナディーン・ラバキー監督は、難民や移民の現実のリサーチに三年をかけ、演技未経験なだけでなく、まともな教育を受けられず、読み書きすら出来ない俳優たちと対話しながら、半年かけて丹念に撮影し、本編未使用のフッテージは実に500時間に及ぶという。
その努力と情熱は、恐ろしく自然なテリングのスタイルとして結実していると思う。
この映画は単なるフィクションではなく、現実の縮図であり、半ドキュメンタリーなのである。
子供の誕生は「神の祝福」だとする両親に対して、ゼインは「呪いだ」と切って捨て、裁判では「育てられないなら産むな」と両親を責める。
しかし、おそらくは両親も、もしかするとそのまた両親も、そもそも身分証明書をどう作ったらいいのかも知らず、絶望したままの人生を送ってきたのだろう。
本作の子供たちの背景には、多分に中東特有の事情があるにしろ、こういう人は日本にもいないとは、決して言い切れない。
「万引き家族」の是枝監督が2004年に発表した「誰も知らない」のモデルとなった、「巣鴨子ども置き去り事件」で、母親に置き去りにされた子供たちは、皆出生届を出されておらず、戸籍のない「存在しない子供」だった。
様々な事情で出生届が出ていない人は、日本国内にも1万人程度いると推察されているというが、やはり親だけの責任ではないだろう。
世知辛い現実を描きながらも、映画ではゼインとヨナスに、僅かな希望の光がさすのがせめてもの救い。
少なくともこの映画に出演した子供たちが、なんとか幸せになってほしいと心から思う。
幼い子供たちは本来天使であってほしいので、今回は「エンジェル・フェイス」をチョイス。
ドライ・ジン30ml、カルバドス15ml、アプリコット・ブランデー15mlをシェイクしてグラスに注ぐ。
ノルマンディー地方のリンゴのブランデー、カルヴァドスと、アプリコット・ブランデーを、ドライ・ジンの清涼さがスッキリとまとめ上げる。
優しい味わいの飲みやすいカクテルだが、芯はしっかりしている。
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レバノンの貧民街に生まれ育ち、人を刺したとして少年刑務所に収監されている12歳の少年ゼインが、両親を訴える。
その罪状は「勝手に僕を産んだこと」。
彼には出生証明もなく、身分証明書もなく、両親は誕生日すら覚えていない。
書類上は「存在しない子供」であり、12歳という年齢も、逮捕された時の身体検査で医師が推察した数字にすぎないのだ。
当然学校も行ったことがなく、近所の店で雑用係としてこきつかわれ、希望のないクソみたいな毎日を過ごしている。
そんなゼインの心を支えていたのは、同じ境遇の兄妹たちの存在で、一歳違いの妹のサハルとはとりわけ仲がいい。
だが、ある時彼女が滞納していた家賃の代わりに、大家のロリコンオヤジと無理やり結婚させられたことで、ゼインはついにキレる。
両親と決別して家出し、一人で生きて行こうとするのだが、身元の分からない少年にそう簡単には仕事は見つからない。
ゼインを救ったのは、エチオピアからの不法移民で、シングルマザーのラヒル。
彼女は生まれて間もない息子、ヨナスのベビーシッターとして、ゼインを居候させることにする。
ヨナスも当然出生届など出されておらず、ゼインは図らずももう一人の「存在しない子供」と出会い、ある事件をきっかけに二人きりで取り残されてしまうのだ。
シリア難民には支援があるのに、レバノン人でも行政が把握してないゼインには、支援が届かないアイロニー。
これはいわば是枝裕和監督の「万引き家族」に描かれた、社会のセーフティネットから抜け落ちた「インビジブル・ピープル」のさらに極端なバージョン。
それでも、最初からどん底の境遇で生きてきたゼインは、様々なアイディアを駆使して、生き抜こうとするのだが、ヨナスを抱えていてはそれも限界がある。
そして、結婚した後のサハルに起こった事件を知った時、ゼインは世の中の全ての大人たち、全ての不条理に対する怒りを爆発させるのである。
驚くべきは、登場人物を演じる俳優たちのバックグラウンドで、同じ名前の主人公を演じるゼイン・アル=ラフィーアをはじめ、主要登場人物のほとんどが難民であったり、不法移民であったり、あるいは二級市民であったり、劇中で演じている役柄と極めて近い人生を送っていること。
ナディーン・ラバキー監督は、難民や移民の現実のリサーチに三年をかけ、演技未経験なだけでなく、まともな教育を受けられず、読み書きすら出来ない俳優たちと対話しながら、半年かけて丹念に撮影し、本編未使用のフッテージは実に500時間に及ぶという。
その努力と情熱は、恐ろしく自然なテリングのスタイルとして結実していると思う。
この映画は単なるフィクションではなく、現実の縮図であり、半ドキュメンタリーなのである。
子供の誕生は「神の祝福」だとする両親に対して、ゼインは「呪いだ」と切って捨て、裁判では「育てられないなら産むな」と両親を責める。
しかし、おそらくは両親も、もしかするとそのまた両親も、そもそも身分証明書をどう作ったらいいのかも知らず、絶望したままの人生を送ってきたのだろう。
本作の子供たちの背景には、多分に中東特有の事情があるにしろ、こういう人は日本にもいないとは、決して言い切れない。
「万引き家族」の是枝監督が2004年に発表した「誰も知らない」のモデルとなった、「巣鴨子ども置き去り事件」で、母親に置き去りにされた子供たちは、皆出生届を出されておらず、戸籍のない「存在しない子供」だった。
様々な事情で出生届が出ていない人は、日本国内にも1万人程度いると推察されているというが、やはり親だけの責任ではないだろう。
世知辛い現実を描きながらも、映画ではゼインとヨナスに、僅かな希望の光がさすのがせめてもの救い。
少なくともこの映画に出演した子供たちが、なんとか幸せになってほしいと心から思う。
幼い子供たちは本来天使であってほしいので、今回は「エンジェル・フェイス」をチョイス。
ドライ・ジン30ml、カルバドス15ml、アプリコット・ブランデー15mlをシェイクしてグラスに注ぐ。
ノルマンディー地方のリンゴのブランデー、カルヴァドスと、アプリコット・ブランデーを、ドライ・ジンの清涼さがスッキリとまとめ上げる。
優しい味わいの飲みやすいカクテルだが、芯はしっかりしている。

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この記事へのコメント
こんにちは。
これは凄い作品でした。
内容もさることながら、役を演じた俳優・女優も実際に難民だったり不法滞在者だったりした所を監督と二人三脚で役柄を演じ、更には将来の夢を抱くようになっているという部分も興味深かったです。
これは凄い作品でした。
内容もさることながら、役を演じた俳優・女優も実際に難民だったり不法滞在者だったりした所を監督と二人三脚で役柄を演じ、更には将来の夢を抱くようになっているという部分も興味深かったです。
>ここなつさん
ほとんどドキュメンタリーですよね。
監督は未使用の膨大なフッテージを使って、テレビ番組やスピンオフを作ることも考えているようですが、彼らの世界がもっと知られるようになるのはいいことだと思います。
子供たちには幸せになってもらいたいです。
ほとんどドキュメンタリーですよね。
監督は未使用の膨大なフッテージを使って、テレビ番組やスピンオフを作ることも考えているようですが、彼らの世界がもっと知られるようになるのはいいことだと思います。
子供たちには幸せになってもらいたいです。
> 誕生は祝福なのか、呪いなのか?
子供は親を選べない。親だって不幸せにしたくて産んでる訳ではないだろうが、産めば稼いでくれたり、いざとなったら売ってしまったり、いやいやいやいや、何かイヤな事を考えさせられてしまう映画。
子供は親を選べない。親だって不幸せにしたくて産んでる訳ではないだろうが、産めば稼いでくれたり、いざとなったら売ってしまったり、いやいやいやいや、何かイヤな事を考えさせられてしまう映画。
2020/05/19(火) 01:08:14 | URL | fjk78dead #-[ 編集]
>ふじきさん
万引き家族のもっとひどい版。
どん底にいても、抜け出し方すら知らないし、それが当たり前になってしまってる人って、多分どこの社会にもいる。
万引き家族のもっとひどい版。
どん底にいても、抜け出し方すら知らないし、それが当たり前になってしまってる人って、多分どこの社会にもいる。
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非常に衝撃的な作品。何が衝撃的かというと、子供が両親を裁判に訴えること、その訴訟内容が「自分を産んだ事」だということはもちろんなのだが、そこに至るまでその少年が辿ってきた人生…人生というにはまだまだ短く、生きてきた日々といっていいのかもしれないが…この描写が衝撃的なのだ。いつものように、極力事前知識を入れないようにして鑑賞。なので、作品の中盤位まで、私はこの作品の舞台となっている国がどこだか...
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