2019年08月09日 (金) | 編集 |
隣は何をする人ぞ。
フレンチ・カナダ出身のフランソワ・シマール、アヌーク・ウィッセル、ヨアン=カール・ウィッセルによる、男女3人の映像ユニット「RKSS (Roadkill Superstar)」の長編第二作。
長編デビュー作の「ターボキッド」の様な、過激な趣味性を適度に抑えつつ、これはなかなか良い仕上がりだ。
1984年の夏、オレゴン州の郊外の町イプスウィッチで暮らす15歳の少年デイビーは、向かいの家に住む警察官マッキーが、近隣で13人の少年を殺害し、世間を騒がせている連続殺人鬼“ケープメイ・スレイヤー”ではないかと疑いを抱く。
彼は近所の仲の良い友達たちに、この考えを打ち明けるが、デイビーが陰謀論や都市伝説大好き少年だったことから、最初は信じてもらえない。
しかし、最後に行方不明になった犠牲者の姿を、デイビーがマッキーの家で目撃したことから、彼らは密かにマッキーを監視し、証拠を探し始めるのだ。
アメリカの7、80年代は、サバーブ(郊外)の時代と呼ばれる。
過密化する大都市から中流層が郊外へ脱出し、それまで田舎だった近郊の町に大規模な新興住宅街が急速に広がってゆく。
広い敷地に大きな家、都市への通勤も比較的便利で、いわば全米各地に豊かなアメリカの縮図が形作られた時代。
本作の背景となる84年頃に、サバーブに暮らすティーンたちを描いて全盛期を迎えたのが、スティーブン・スピルバーグ一派の一連の作品。
そしてそれらに影響を受けて、サバーブを舞台としたファンタジーやホラージャンルのジュブナイル映画が無数に生み出される。
好奇心旺盛でイケメンナイーブ系の主人公に、デブキャラ、不良キャラ、秀才キャラの少年四人組プラス、主人公が恋心を抱く、ちょっと年上のヒロインの組み合わせも80年代あるある。
隣人への疑念という話のとっかかりは「フライトナイト」を思わせ、「E.T.」で大ブームになったBMX、大統領選のレーガン&ブッシュ、ちょうど大ヒット中だった「グレムリン」、MTVのTシャツといったアイコンもあの時代の香りを感じさせる。
多感な思春期を80代に送ったクリエイターが、ハリウッドのメインストリームになったこともあって、最近はこの時代にオマージュを捧げた作品が目立つ。
例えばトラヴィス・ナイトの「バンブルビー」は、由緒正しいスピルバーグスタイルのSFファンタジーだし、「スパイダーマン:ホームカミング」は、同時代の青春映画の名手ジョン・ヒューズへのオマージュが熱かった。
しかし、同じく80年代の映画体験をベースとしながらも、RKSSの志向する先は、これらの陽性のノスタルジーに満ちた作品群とは明確に一線を画す。
チャリ版の「マッドマックス」と言われた前作の「ターボキッド」もそうだが、過去にRKSSが発表した短編作品も、どちらかというとこの時代の傍流である過激なB、C級のアクションやスラッシャーホラーの影響が色濃い。
パッケージはスピルバーグ的世界へのオマージュと見せかけて、むしろやってることはアンチテーゼなのだ。
一見すると平穏に見えるサバーブの生活の中で、色々なものが少しづつ壊れて行っている。
円満に見えたヒロインの両親は突然離婚し、彼女は引越しが決まっており、不良キャラの少年の家では毎日の様に喧嘩が絶えず、家庭は空中分解寸前。
全てが平均化されるサバーブでは、それぞれの家の問題は見えにくいが、崩壊は確実に進んでいる。
アメリカの離婚率がピークを迎えたのも、実はサバーブの時代真っ只中の1980年なのである。
そして、好奇心と正義感から事件に関わったことで、少年たちの世界も永遠に変わってしまう。
それまでがスピルバーグ的ジュブナイルのセオリー通りに展開してきたから、終盤のあるシーンの衝撃など、下手なスラッシャーホラーよりキツイ。
80年代を、若々しかったアメリカという国が、得体の知れないものにメタモルフォーゼしていった時代として描く感覚は、コーエン兄弟の「ノーカントリー」などの方に近い。
これは作者たちがアメリカ人ではなく、隣国のカナダ人だという視点の客観性の違いも大きいと思う。
「殺人鬼だって誰かの隣人だ」
少年たちは、恐怖が決して特別なものでないことを知ってしまう。
ここにあるのは、ノスタルジーとは対極にあるトラウマの過去であり、無邪気な少年時代の喪失を悪意たっぷりに描いた、ダークな寓話である。
今回はまさに悪夢的な夏休みの話なので「ナイトメア」をチョイス。
ドライ・ジン30ml、デュボネ30ml、チェリー・ブランデー15ml、オレンジジュース15mlを氷と共にシェイクし、グラスに注ぎ、マラスキーノチェリーを一つ飾って完成。
デュボネとチェリー・ブランデーの甘みと、オレンジの酸味のバランスがいい。
飲みやすいが、アルコール度数は高いので、飲みすぎると名前の通り悪夢に落ちる。
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フレンチ・カナダ出身のフランソワ・シマール、アヌーク・ウィッセル、ヨアン=カール・ウィッセルによる、男女3人の映像ユニット「RKSS (Roadkill Superstar)」の長編第二作。
長編デビュー作の「ターボキッド」の様な、過激な趣味性を適度に抑えつつ、これはなかなか良い仕上がりだ。
1984年の夏、オレゴン州の郊外の町イプスウィッチで暮らす15歳の少年デイビーは、向かいの家に住む警察官マッキーが、近隣で13人の少年を殺害し、世間を騒がせている連続殺人鬼“ケープメイ・スレイヤー”ではないかと疑いを抱く。
彼は近所の仲の良い友達たちに、この考えを打ち明けるが、デイビーが陰謀論や都市伝説大好き少年だったことから、最初は信じてもらえない。
しかし、最後に行方不明になった犠牲者の姿を、デイビーがマッキーの家で目撃したことから、彼らは密かにマッキーを監視し、証拠を探し始めるのだ。
アメリカの7、80年代は、サバーブ(郊外)の時代と呼ばれる。
過密化する大都市から中流層が郊外へ脱出し、それまで田舎だった近郊の町に大規模な新興住宅街が急速に広がってゆく。
広い敷地に大きな家、都市への通勤も比較的便利で、いわば全米各地に豊かなアメリカの縮図が形作られた時代。
本作の背景となる84年頃に、サバーブに暮らすティーンたちを描いて全盛期を迎えたのが、スティーブン・スピルバーグ一派の一連の作品。
そしてそれらに影響を受けて、サバーブを舞台としたファンタジーやホラージャンルのジュブナイル映画が無数に生み出される。
好奇心旺盛でイケメンナイーブ系の主人公に、デブキャラ、不良キャラ、秀才キャラの少年四人組プラス、主人公が恋心を抱く、ちょっと年上のヒロインの組み合わせも80年代あるある。
隣人への疑念という話のとっかかりは「フライトナイト」を思わせ、「E.T.」で大ブームになったBMX、大統領選のレーガン&ブッシュ、ちょうど大ヒット中だった「グレムリン」、MTVのTシャツといったアイコンもあの時代の香りを感じさせる。
多感な思春期を80代に送ったクリエイターが、ハリウッドのメインストリームになったこともあって、最近はこの時代にオマージュを捧げた作品が目立つ。
例えばトラヴィス・ナイトの「バンブルビー」は、由緒正しいスピルバーグスタイルのSFファンタジーだし、「スパイダーマン:ホームカミング」は、同時代の青春映画の名手ジョン・ヒューズへのオマージュが熱かった。
しかし、同じく80年代の映画体験をベースとしながらも、RKSSの志向する先は、これらの陽性のノスタルジーに満ちた作品群とは明確に一線を画す。
チャリ版の「マッドマックス」と言われた前作の「ターボキッド」もそうだが、過去にRKSSが発表した短編作品も、どちらかというとこの時代の傍流である過激なB、C級のアクションやスラッシャーホラーの影響が色濃い。
パッケージはスピルバーグ的世界へのオマージュと見せかけて、むしろやってることはアンチテーゼなのだ。
一見すると平穏に見えるサバーブの生活の中で、色々なものが少しづつ壊れて行っている。
円満に見えたヒロインの両親は突然離婚し、彼女は引越しが決まっており、不良キャラの少年の家では毎日の様に喧嘩が絶えず、家庭は空中分解寸前。
全てが平均化されるサバーブでは、それぞれの家の問題は見えにくいが、崩壊は確実に進んでいる。
アメリカの離婚率がピークを迎えたのも、実はサバーブの時代真っ只中の1980年なのである。
そして、好奇心と正義感から事件に関わったことで、少年たちの世界も永遠に変わってしまう。
それまでがスピルバーグ的ジュブナイルのセオリー通りに展開してきたから、終盤のあるシーンの衝撃など、下手なスラッシャーホラーよりキツイ。
80年代を、若々しかったアメリカという国が、得体の知れないものにメタモルフォーゼしていった時代として描く感覚は、コーエン兄弟の「ノーカントリー」などの方に近い。
これは作者たちがアメリカ人ではなく、隣国のカナダ人だという視点の客観性の違いも大きいと思う。
「殺人鬼だって誰かの隣人だ」
少年たちは、恐怖が決して特別なものでないことを知ってしまう。
ここにあるのは、ノスタルジーとは対極にあるトラウマの過去であり、無邪気な少年時代の喪失を悪意たっぷりに描いた、ダークな寓話である。
今回はまさに悪夢的な夏休みの話なので「ナイトメア」をチョイス。
ドライ・ジン30ml、デュボネ30ml、チェリー・ブランデー15ml、オレンジジュース15mlを氷と共にシェイクし、グラスに注ぎ、マラスキーノチェリーを一つ飾って完成。
デュボネとチェリー・ブランデーの甘みと、オレンジの酸味のバランスがいい。
飲みやすいが、アルコール度数は高いので、飲みすぎると名前の通り悪夢に落ちる。

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2019/10/05(土) 15:47:19 | 映画に夢中
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