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ディリリとパリの時間旅行・・・・・評価額1650円
2019年08月29日 (木) | 編集 |
時代と街を巡る冒険。

久々のミッシェル・オスロ。
劇場用長編作品としては2006年の「アズールとアスマール」以来となるが、独特の映像センスは健在で、相変わらず素晴らしい。
ベルエポックの時代、南の島からフランスへとやってきた好奇心旺盛な少女ディリリが、正義感の強い青年オレルと共に、誘拐された少女たちを探してパリの街を冒険する。
芸術家や科学者、様々なジャンルの著名人が次々と登場し、観光名所から寂れた怪しいエリアまで、魅惑的な都市の風景を巡る旅は、邦題通りにちょっとした時間旅行
これは巨匠オスロからパリへのラブレターであり、都市の持つ記憶を詰め込んだ愛すべき映画だが、浮かび上がるのはきれいごとだけではない非常に現在的、普遍的なテーマだ。
✳︎核心部分に触れています。

パリにやってきた少女ディリリ(ブリュネル・シャルル=アンブロン)は、パリっ子のオレル(エンゾ・ラツィト)と友だちになり、初めてのバカンスを楽しむ約束をして有頂天。
おりしもパリでは「男性支配団」と名乗る謎の組織によって、少女の誘拐事件が多発していて、ディリリも怪しい男に付きまとわれる。
そこで彼女は、配達人で顔の広いオレルが紹介してくれるパリの著名人と出会いながら、消えた少女たちの行方を探すことに。
二人は歌手のエマ・カルヴェ(ナタリー・デセイ)の協力を得て、男性支配団が地下の下水道を行き来していることを突き止め、彼らの宝石店の襲撃計画を阻止する。
男性支配団に一泡吹かせたお手柄は、新聞に大きく取り上げられ、一躍時の人となったディリリは彼らのターゲットになってしまうのだが・・・


劇中には、これが正確に何時の物語なのか言及がないのだが、史実と辻褄が合わない部分が出て来るので、あえて曖昧にしているのだと思う。
諸々の出来事や登場人物から推察するに、1890年代の終わりから1900年頃だろう。
19世紀が終わり、20世紀がやって来る、まさに時代の変わり目である。
主人公のディリリは、南太平洋にあるフランス海洋帝国の植民地、ニューカレドニア出身のカナック人の少女。
広い世界が見たくて船に忍び込み、親切な伯爵夫人の助けを借りてパリにやってきた。
流暢なフランス語は、ニューカレドニアに追放されていた無政府主義運動の先駆者、ルイーズ・ミシェルから学んだという。

無限の可能性を秘めたディリリは、少女誘拐事件の手がかりを求め、オレルの紹介してくれる様々な人と出会う。
キュリー夫人やパスツールといった世界を変えた科学者に、マティスやピカソら新進気鋭の画家、印象派の巨匠ルノアールやモネ、ロダンとカミーユ・クローデルのカップル。
映画「ショコラ 君がいて、僕がいる」にも描かれたピエロのショコラに、絡みはないもののショコラを現存するフィルムに収めたリュミエール兄弟もチラリと姿を見せる。
ドガに褒められて浮かれるロートレックとムーラン・ルージュに潜入し、オペラ座では歌姫エマ・カルヴェやドビュッシーと出会う。
ディリリは、綺羅星のごとき天才たちと触れ合うごとに刺激を受け、まだ見ぬ自分の未来を思い描いてゆくのである。
とても一回見ただけでは全員は把握できないが、登場する実在の著名人は100人を超えるという。
この時代のパリって、本当に世界の文化的な中心なんだな。
歴史上のオールスター総出演の楽しさは、“狂乱の20年代”への時間旅行を描いた、ウッディ・アレンの「ミッドナイト・イン・パリ」に通じるものがある。

しかし、これは単にパリの綺麗な部分、栄光の歴史だけを描く作品ではない。
煌びやかな芸術と科学が、より寛容で自由な世界を指向する人間の知性の象徴だとすれば、不寛容を指向する者たちの武器は暴力と抑圧だ。
「男性支配団」と言う分かりやすい悪の組織の名称が示唆する通り、全編を貫くのは病的なミソジニーとの戦いである。
映画が始まる前に、本作とコラボしたユニセフのCM 「女の子に未来を創造する力を」が流れるのだが、本編を見てから思い返すとなかなか刺さる。
CMの中でディリリは言う。
「女の子たちはみな、平和のなかで、自由に生き生きと過ごさなきゃ。わたしたちには、成長し、世界を探求し、安全に学ぶ権利があるのだから。女の子の好奇心は、制限されてはならないのです。」
これはまさに本作が導き出すジンテーゼであり、アンチテーゼである男性支配団は、誰もが自由に生きる世界を認めず、女性を人間扱いせず、男性の奴隷として支配する。
少女を誘拐するのも、大人の女性よりも従順でコントロールしやすいから。
イスラム国の蛮行に代表される、現在も世界中にはびこる女性に対する抑圧を、カリカチュアした様な悪の秘密結社だ。
メンバーは男性が中心だが、彼らの思想に染まって手先となった女性もいるのが皮肉。

もっとも、ミソジニーは前面に出ている要素ではあるものの、オスロが俎上に上げているのは、性に関わるイシューだけでなく、子供たちから未来を奪いとるあらゆる差別である。
衝撃的なのは本作のオープニングだ。
ニューカレドニアの伝統的な集落が映し出されると、そこでは半裸の家族が生活をしていて、ディリリも家事を手伝っている。
しかし、彼女の目線の先にいるのは、好奇の目で家族を見つめる多くの白人たちなのである。
ディリリは、植民地帝国の博覧会などで、19世紀から20世紀前半にかけて行われていた植民地先住民の展示、いわゆる「人間動物園」の出演者なのだ。
現在の目で見たらとんでもなく差別的な催しだが、彼女自身はそのことをあまり気にかけている様には見えない。
差別があまりにも普通のことになってしまうと、人々は差別していること、差別さていることすら気づかないのだ。
男性支配団のミソジニーは露骨過ぎるので、誰が見ても差別だと思うが、実際には反差別の出発点に過ぎないのである。

彼らの陰謀を挫くプロットも一捻りある。
ディリリとオレルが軸となるのはもちろんだが、一見すると差別主義者に見えるあるキャラクターが重要な役割を果たす。
口が悪く、植民地人のディリリを「猿」と罵る様な男なのだが、あることによって自分のその様な思想が行き着く先を見て恐ろしくなってしまい、一転して正しいことをしようと考えを改める。
彼は「世の中は不公平だ」という被害妄想からくる、ちょっと差別的な考えを持っていて、その実差別の本質を深く考えたことのない、世の中のマジョリティとしての“プチ差別主義者”の象徴であって、現在で言えば“トランプに投票した人たち”だ。
彼の様な人たちの変節と善意の覚醒こそが、差別を受ける少女たちを救うための、現実的なカギとなるのは流石の慧眼。

オスロ自身が4年かけて撮影したという、パリの写真から作られたリアルな背景の中で、独特のフラットデザインのCGのキャラクターが動き出すビジュアルは、作品世界と現実との地続き感を作り出す。
対照的に、ヴェルヌの小説を思わせる地下世界を進む鉄の船に、エッフェル塔に浮かぶ人力飛行船などの完全フィクション要素はアニメーションならではのワクワク感がいっぱい。
秘密のパリを巡る少女の冒険という点では、クリスチャン・デスマールとフランク・エキンジ監督による、2015年のアヌシー国際アニメーション映画祭グランプリ作品「アヴリルと奇妙な世界」と共通する要素が多いのも面白い。
もっとも、スチームパンクなパラレルワールドを舞台とした、スペクタクルなジブリオマージュ的冒険譚だったあの映画に比べれば、こっちはより現実的かつ適度に教育的だけど。
芸術と科学が融合して作られたアニメーション映画は、抑圧によって暗闇に閉じ込められた少女たちを、光と色彩で照らし出す。
ベルエポックの時代を背景に、75歳の巨匠ミッシェル・オスロが、時代や国籍を問わず今を生きる全ての少女たちに送る、センス・オブ・ワンダーに溢れたパワフルなエールである。

今回は「カフェ・ド・パリ」をチョイス。
ドライ・ジン45ml、アニゼット1tsp、生クリーム1tsp、卵白1個を、氷を入れたシェイカーでよくシェイクして、グラスに注ぐ。
名前とは違って、実はアメリカはニューヨーク生まれ。
辛口のジンとアニスの風味が個性を主張するが、生クリームと卵白のマイルドさがうまくまとめ上げている。
フワリとした泡立ちの雪の様な白さが印象的で、上品な味わいのカクテルだ。

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