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荒野の誓い・・・・・評価額1650円
2019年09月15日 (日) | 編集 |
誰もが、鉄の十字架を背負っている。

ジェフ・ブリッジスに初のオスカーをもたらした、「クレイジー・ハート」で知られる、スコット・クーパー監督によるいぶし銀の西部劇。
北アメリカ大陸の支配をかけ、旧大陸からの移民と先住民が戦い、数百年に及んだインディアン戦争が終結した19世紀末の西部。
冷酷な殺人狂と噂される退役間近の軍人が、余命幾ばくもない宿敵シャイアンの族長を、モンタナ州の部族の聖地へと護送することになる。
千マイルを超える長い旅路は、困難の連続。
はたして彼らは遺恨を克服し、目的地へ到達することができるのか。
主人公のベテラン軍人を、「ファーナス/訣別の朝」に続いてクーパーと再タッグを組んだクリスチャン・ベールが演じ、シャイアンの族長には、西部開拓史を描いた数々の名作で知られるウェス・ステューディ。
ロザムンド・パイクやベン・フォスター、ティモシー・シャラメら、重量級のキャストが脇を固める。

1892年、ニューメキシコ。
インディアン戦争で活躍し、退役を間近に控えたジョー・ブロッカー大尉(クリスチャン・ベール)は、かつての宿敵であるシャイアンの族長イエロー・ホーク(ウェス・ステューディ)を、ニューメキシコのフォート・ベリンジャーから部族の聖地があるモンタナ州の“熊の渓谷”へと護送する任務につく。
末期の癌を患うイエロー・ホークは、最期を部族の地で迎えたいと願い、先住民との和解を演出したい合衆国政府も受け入れたのだ。
ブロッカーと部下たち、イエロー・ホークとその家族たち、かつて殺し合い、今も反目する両者はしかし、いやでも協力せねばならない状況に陥る。
コマンチの残党が入植者の家族を惨殺し、ブロッカーの一行が唯一生き残ったロザリー(ロザムンド・パイク)を保護するも、今度は自分たちがコマンチに襲撃され、若い兵士を失ってしまう。
ブロッカーはやむなくイエロー・ホークたちの鎖を解き、なんとか中継地点のコロラド州フォート・ウィンズローへとたどり着くのだが・・・・


北アメリカ大陸の「インディアン戦争」の定義には諸説ある。
コロンブス上陸からのおおよそ400年間とする説もあれば、毛皮貿易を巡る1609年のいわゆるビーバー戦争を起点とする説。
終わりに関しても、合衆国の支配に抵抗するアパッチ族の最後の襲撃があった1924年とする説や、メキシコにおけるヤキ族の蜂起が鎮圧された1929年とする説、そもそも今だに抵抗運動は続いていて戦争は終わっていないとする主張もある。

しかし本格的な戦争は、すでに十数年間にわたって入植者と小競り合いを繰り返していたポウハタン族が、1622年にジェームズタウン入植地を襲撃し、400人が殺害された“ジェームズタウンの虐殺”から、本作の重要なバックグラウンドとなっている1890年の“ウンデット・ニーの虐殺”までとするのが一般的だ。
ウンデット・ニーの虐殺は、ジェームズ・フォーサイス大佐指揮下の第七騎兵隊が、大半が非武装だった300人のスー族を一方的に虐殺した事件で、本作の主人公のブロッカーはじめ、彼の部下たちもこの現場にいた設定。
ちなみにディズニー映画で有名なポカホンタスは、小競り合いが起こっていた時代のポウハタンの族長の娘で、ジェームズタウンの虐殺の5年前にイギリスで客死している。

物語の背景にはインディアン戦争の因縁があるが、本作は「戦争の宿敵同士が困難な旅を通して、仲直りしました」という美談だけを描いた、ハリウッド映画にありがちな話ではない。
確かに両者は和解にいたるが、それは物語の一面に過ぎないのだ。
映画は、英国の作家D.H.ローレンスの引用から始まる。
「The essential American soul is hard, isolate, stoic, and a killer. It has never yet melted.(本質的なアメリカの魂は、厳しく、孤独で、禁欲的で、人殺しだ。いまだに和らがない。)」
彼の「アメリカ古典文学研究」中で、「ヨーロッパの民主主義は命の鼓動だが、アメリカの民主主義は自己犠牲であれ他者の犠牲であれ、常に死に向かっている戯曲のようなものだ」と解いた文章の一説だが、この言葉こそ本作の描く19世紀末のアメリカ西部の世界そのものだ。

引用に続いて、ロザムンド・パイク演じるロザリーの暮らしが映し出される。
妻と夫、3人の愛らしい子供たちに囲まれた「大草原の小さな家」を思わせる、牧歌的風景。
しかし、そこに一家の馬を狙うコマンチの残党が現れると、平和な日常は血塗られた殺戮のフィールドへと変貌するのである。
ロザリー以外の家族が惨殺されると、場面は一転。
今度は逃亡したアパッチの家族を、ブロッカー率いる軍の部隊が容赦なく痛めつけている。
捕まえた捕虜は動物のように引きずられ、吹きっさらしの粗末な牢に押し込められて、皆絶望の表情を浮かべている。
どちらの側も、大きな罪を犯していることを端的に表現し、単純なポリコレの風潮に阿らない本作のスタンスを示した秀逸なオープニング。

ブロッカーの年齢と劇中の会話の内容から推測するに、彼は南北戦争はギリギリ経験していない世代で、軍歴のほとんど全てがインディアン戦争の渦中だったのだろう。
その戦い方は冷酷で、誰よりも多くの敵を、戦士だけでなく女子供も容赦なく殺し、軍内では伝説化しているほど。
一方で、彼が護送することになるイエロー・ホークも、ブロッカーの目の前で彼の部下を何人も殺しているという、まさに不倶戴天の天敵同士
途中で合流することになるロザリーや、ベン・フォスター演じる先住民の一家を殺して逃亡中のブロッカーの元部下も含めて、登場人物の誰もが弱肉強食のフォロンティアに生きて、大いなる喪失と罪の記憶を持っている。
彼らにとって、この世界で唯一確実に実感できるのは「死」のみ。
「神を信じるか?」と問われたブロッカーは、「神は信じるが、彼はここで起こっていることを見ていない」と言う。

死期の迫ったイエロー・ホークを送り届けるための彼らの旅路は、コマンチの襲撃から始まって、次から次へと困難が襲い、決して許されない原罪を抱えた人間たちは、一人また一人と、約束された死へと向かってゆく。
苦悩する人間たちの愚かさと小ささを、雄大な自然とのコントラストとして活写した、撮影監督・高柳雅暢の仕事が素晴らしい。
思えば、クーパーとベール、そして高柳が組んだ「ファーナス/訣別の朝」も、基本的な世界観は本作と共通している。
無法者によって弟を理不尽に惨殺され、復讐を誓う兄の物語だが、映画のバックグラウンドとなるのは、鉄鋼の街、鹿狩り、賭け、イラク戦争、そして二度と帰らない穏やかな日常の記憶。
西部劇とマイケル・チミノの傑作「ディアハンター」にオマージュを捧げた男臭いドラマで、タイトルの意味は主人公が働く鉄鋼所の溶鉱炉のことであるのと同時に、燃え上がる情念の炎。
この映画は現代劇だったが、プロットの時代設定を150年前にすれば、そのまま西部劇として成立してしまう。
アメリカ人が信奉する、着実に死に向かう血と鉄と銃の掟は、ローレンスが言うように、今なお和らぐことなく生きているのである。

本作は危機また危機の古典的な構造を持つが、ここにハリウッド大作的な派手さは無く、物語は終始淡々と進み、ドラマチックな抑揚にはやや乏しい。
その分、死の絶望と生への渇望を知る人間たちの心理劇として、なかなかの見応えだ。
犯した罪の大きさには関係なく、死せる運命の者はことごとく死に、そうでない者は生き残る。
もとから神は見ていないのだから、生と死のドラマには何の恣意性もなく、生き残った者たちは、死んでいった者たちの一部を受け継ぎ、記憶の器として生きて行く。
登場人物たちの“今”が歴史となる瞬間を描いたラストショットが、美しくも切ない。
ここには、敵味方の因縁を超えた生き様と死に様、普遍的な人間性についてのドラマがある。
インディアン戦争の終わりを、西部開拓時代というアメリカの幼年期の終わりに重ねた、スコット・クーパーらしい味わい深いフロンティアの寓話だ。

いぶし銀の映画にはいぶし銀のバーボンを。
ジム・ビームの少量生産プレミアム銘柄「スモールバッチ ブッカーズ」をチョイス。
美しい琥珀色が印象的で、深い熟成を感じさせるコクと、フルーテイな香りの中のほろ苦さが喉にしみる。
もともとはビーム家のパーティで賓客に提供していたものを、あまりに好評なので商品化したもの。
バランスの良さが光るバーボンは、古い友人と昔話を語りながら飲みたくなる。

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1890年代、アメリカ。 インディアン戦争(1622〜1890年)の英雄で現在は看守のジョーは、収監中のシャイアン族の長とその家族を、インディアン居留地となった彼らの故郷モンタナへ護送する任務を命じられる。 途中、コマンチ族の残党に家族を殺された女性ロザリーを加えた一行は北を目指すが、それは危険に満ちた旅だった…。 西部劇。
2019/09/16(月) 02:36:41 | 象のロケット
「ファーナス 訣別の朝」でもタッグを組んだクリスチャン・ベールとスコット・クーパー監督による、産業革命後の開拓地を舞台にした西部劇。ブロッカー役をベール、ロザリー役を「ゴーン・ガール」のロザムンド・パイク、イエロー・ホーク役を「ジェロニモ」「アバター」のウェス・ステューディがそれぞれ演じる。あらすじ:1892年、産業革命によって急速に開拓地や街へと変貌を遂げつつあるアメリカ・ニューメキシコ州...
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