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空の青さを知る人よ・・・・・評価額1700円
2019年10月18日 (金) | 編集 |
青春の、忘れもの。

共に1976年生まれの長井龍雪、岡田麿里、田中将賀によるクリエイターズユニット、“超平和バスターズ”原作による秩父を舞台としたアニメーション作品第三弾。
幼い頃に両親を亡くし、13歳年上の姉と暮らすミュージシャン志望の女子高校生の前に、なぜか姉の元カレが13年前の姿で現れる。
いったい彼は何者なのか?幽霊?生き霊?それとも?
いかにもアニメーション的なぶっ飛んだ設定のもと、描かれるのは極めて繊細に紡がれる人間ドラマだ。
監督、脚本、キャラクターデザイン兼総作画監督は、もちろん超平和バスターズの三人がそれぞれ担当する。
音楽映画でもあり、あいみょんが担当する劇中歌と主題歌も素晴らしいのだが、昭和世代としては物語のキーとなる曲にゴダイゴの「ガンダーラ」が使われるのもたまらない。 
前二作からさらなる進化を見せる、痛くて切なくて優しい珠玉の青春ストーリーだ。
※核心部分に触れています。

ミュージシャン志望の17歳の高校生、相生あおい(若山詩音)は13年前に両親を亡くして以来、姉のあかね(吉岡里帆)と二人暮らし。
恋人の金室慎之介、通称しんの(吉沢亮)と共に上京する夢を諦めて、ずっと自分を育ててくれたあかねに対し、あおいは負い目を感じていて、高校を卒業したらこの街を出て、あかねの人生を自由にする、そう決めている。
そんな時、地元の音楽祭に人気演歌歌手の新渡戸団吉(松平健)が出演することになり、そのバックバンドのギタリストとして慎之介が13年ぶりに街に戻って来た。
ひょんなことから音楽祭で慎之介と共演することになったあおいは、すっかりやさぐれた大人になってしまった慎之介にショックを受ける。
同じ頃、あおいの前になぜか記憶の中にいる13年前の姿ままのもう一人のしんのが現れる。
大人の慎之介と、高校生の頃のしんの。
あおいは何とか現在の慎之介を更生させて、あかねの初恋を成就させようとするのだが、いつの間にか自分がしんのに恋をしていた・・・


フジテレビのノイタミナ枠で放送された「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。(あの花)」、劇場用作品として作られた「心が叫びたがってるんだ。(ここさけ)」、そしてタイトルから「。」が取れた本作の特徴は、30代のあかねと慎之介のエピソードが大きな比重を占めていることだろう。
主人公は高校生のあおいだが、彼女の抱えている問題はあかねと慎之介の関係と深く結びついているので、物語は三者それぞれの葛藤がほぼ三つ巴。
ティーンの群像劇だった前二作でも、当然ながら重要な役割を果たす大人のキャラクターはいたが、本作ほどではなかった。

「あの花」では幼くして亡くなった少女めんまの幽霊、「ここさけ」ではおしゃべりな主人公の声を封じる玉子の妖精と、超自然的な現象が起こっていたが、本作で日常に投げ込まれる怪異は、突然13年前の姿で現れるもう一人のしんのだ。
彼が出現するのは、ずっと音楽の練習に使われている古いお堂で、かつてはしんの自身もここでバンド演奏し、今はあおいがベースの練習に通っている。
しんの本人も自分が何なのか、なぜ13年後に現れたのか分からず、なぜかお堂からは出ることができない。
あかねと慎之介の再会に、あおいと非日常の存在であるしんのとの接触が触媒となって、人間関係の化学反応が起こる仕組みだ。

二人とも白目の中にホクロがある、“目玉スターズ”のあおいとしんのは元来似た者同士。
あおいが、山に囲まれた秩父の街を閉塞の象徴と捉えているのは「ここさけ」と同様で、しんのはギター、あおいはベースと楽器は違えど、同じようにミュージシャンとして東京で天下を取る夢を持っている。
だからこそ、あおいにとっては半分夢を叶えたものの、すっかりやさぐれて戻って来た慎之介がショックだし、逆に慎之介にとってはかつての自分のように、真っ直ぐに音楽に向かい合っていて、実力も備わったあおいの存在が気にさわる。
今の慎之介に失望すればするほど、あおいはその反作用で今の自分と同い年で、明るく朗らかだった13年前のしんのに惹かれてゆく。
「そこに行けば どんな夢も かなうというよ」と歌う「ガンダーラ」が慎之介とあおいに共通する思い出の曲であることが象徴するように、年齢の差こそあれ二人は目的地を探し続けているボヘミアンなのだ。

過去と現在に“外”を志向した二人とは逆に、“内”である秩父の大地に地にどっしりと足をつけているのがあかね。
若くして大人にならねばならなかった彼女は、あおいやしんの、現在の慎之介よりもずっと大人で、母親に近い感情で皆を見守っている。
あおいは姉の青春を奪ったという、慎之介は迎えに来る約束を果たせなかったという負い目をあかねに対して感じていて、そのことが二人の人生の足かせとなっているのだが、当のあかねは全然そんなことを思っていない。
なぜなら彼女は「空の青さを知る人」だから。
この映画のタイトルは、有名な「井の中の蛙」の諺に、後世に付け加えられた文言から来ている。
いくつかバリエーションはあるようだが、「井の中の蛙大海を知らず」に「されど空の青さを知る」と続く。
井戸の中のような秩父の町から、海は見えない。
だけど空しか見えないからこそ、外の世界では気にも留めない、ここにしかない大切なことに気づける。
あかねはそういう人生を送って来た人であり、13年前からやって来たしんのの存在に触発された小さな冒険の先に、あおいと慎之介はあかねの本当の想いを知るのだ。
それは同時に、過ぎ去ったはずの青春そのものであるしんのが、なぜ今現れたのかという疑問に対する明確なアンサーでもある。

「あの花」「ここさけ」がそれぞれTVドラマ、映画で実写化されたことでも分かるように、本作も基本的には写実的でリアルな世界観。
田中将賀による魅力的なキャラクターが、すっかりお馴染みになった美しい秩父の情景の中で生き生きと躍動する。
特にあかねとあおいの眉太姉妹は、対照的な性格が造形から滲み出て秀逸。
「君の名は。」以来、新海誠作品でもすっかり有名になったが、やはりデザインの持つ作品世界での比重という点では超平和バスターズ作品の方が印象深い。
いかにも意思が強そうなあおい役を好演する若山詩音、二作続けて男を投げ飛ばすあかね役の吉岡里帆、31歳と18歳をきっちり演じ分けた吉沢亮ら、ボイスキャストも素晴らしい。
吉岡里帆は、この一ヶ月の間にすっかりお気に入りの役者になってしまった。
また本作は音楽映画でもあり、凝りに凝った音響演出も面白い。
冒頭の、あおいがイヤホンをして、サイレントな世界に重低音でベースを響かせながら「ガンダーラ」を弾くシーンで、いきなり作品世界に引き込まれる。
楽器はもちろんだが、実写作品以上に自然音も丁寧に付けられていることで、この世界の現実感がグッと高まるのである。
物語の決着は本編でキッチリつけ、あいみょんの素敵な主題歌を聴かせながら、エピローグ的に余韻に浸れるエンドクレジットまで、見事な仕上がりとなった。
三作目にして、超平和バスターズは魅惑的な独特のカラーを持つ“秩父ユニバース”を確立した感があり、相性抜群のこのチームの次回作を早速期待したくなる。
ところで、これも実写化されそうな気がするのだけど、キャストは誰が良いだろう。

今回は秩父の武甲酒造から、「武甲正宗 特別純米 無濾過原酒」をチョイス。
この蔵は、「ここさけ」とコラボしてその名も「秩父ここさけ」なるコラボ酒も出していたのだけど、今回は特にコラボは無いようだ。
無濾過原酒らしく、吟醸香がふわりと広がり、口に含むと非常に濃厚な米の旨みが強烈に広がる。
慎之介は酒弱かったけど、あかねさんと飲み明かしたい酒だ。

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コメント
この記事へのコメント
しょせん物語だからどんな嘘でも付けるのだけど、逆にその嘘の中ではカッチリ理屈が通っていてほしかった。「しんの」って何者という説明はなく、情緒的にその物語の中にあってほしい物になってた部分が私は好かない。そこを読み取ってあげるのが大人と言われれば私は大人ではないのだ。
役者の声充ては上手い。本職じゃないと思えない。プロの声優を使わないのなら、このクラスとか、このレベルとかを維持して作品作りをしてほしい。
2019/10/29(火) 13:09:07 | URL | fjk78dead #-[ 編集]
こんばんは
>ふじきさん
これはかっちり理屈が付いてないのがいいんですよ。
頭柔らかくしないとw
一応、彼はギターに宿った青春の記憶が現れたものと理解しました。
2019/11/06(水) 22:01:33 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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2019/10/20(日) 03:06:56 | 象のロケット
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