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2019年12月01日 (日) | 編集 |
人生、それは物語。
ニューヨークで起こった、ある悲劇的な交通事故を起点に、遠い過去と未来へ二つの家族の物語が紡がれてゆく。
「カーズ」「塔の上のラプンツェル」「ボルト」と言った、ディズニー/ピクサー作品の脚本家として知られ、近年ではTVドラマの「THIS IS US」をヒットさせた、ダン・フォーゲルマンの、“真実の愛”の詰まった小さな宝石箱。
この人は相当な音楽好きらしく、長編監督デビュー作の「Dearダニー 君へのうた」は、落ち目の歌手が、過去から届いたジョン・レノンの手紙に触発され、再起を決意する話だったが、本作は1997年に発売されたボブ・デュランのアルバム、「Time Out of Mind」が全体のモチーフになっているのが特徴だ。
アルバムから「Love Sick」「Not Dark Yet」など6曲が使われていて、シチュエーションやキャラクターのセリフなど、内容にも密接に関わってくるので、音楽ファンも注目すべき作品となっている。
と、ここまでで、この映画に興味をひかれた人は、かなりネタバレ気味な予告編はもちろん、このレビューも読むのをやめて、一切の情報を入れずに映画を観に行ったほうがいい。
本筋とは関係ないサミュエル・L・ジャクソンが紹介する、オスカー・アイザック演じるウィル・デンプシーの物語から、メタ的なパロディ気味に始まる映画は、序盤ではどんな話なのか、着地点がどこなのかさっぱり分からない。
いや、事故は早々に起こり、ある妊婦が犠牲となる。
そこから物語は、妊婦のおなかの中にいたデュランと名づけられる女児と、バスの中から事故を目撃していた少年ロドリゴ、この二人の未来の物語と、事故に至るまでの二人の両親の物語をバラバラに紡いでゆく。
ニューヨークを舞台としたデュランの両親の物語、生まれる前に母親を事故で失ったデュランの物語、スペインのオリーブ農家だったロドリゴの一家の物語、幼くして恐ろしい事故を目撃し、トラウマを抱えて成長するロドリゴの物語。
アメリカからスペイン、スペインからアメリカへ、時代も言語も、それぞれの描写が現実か虚構かもあいまいなまま、独立した「章」に別れた物語は、ほとんど無関係に展開してゆく。
しかし、ウェットな断片はやがて重なり合い、過去と未来にまたがる、壮大な命の樹の模様を描き出すのである。
そこに浮かび上がって来るのは、とても美しい「物語論」だ。
物語とは何か?人はなぜ物語るのか?とは、物語を生業とするものなら、一度は必ず考えるテーマだろう。
ダン・フォーゲルマンは、物語とは一人ひとりの人生そのものであり、それが悲劇であれ喜劇であれ、物語を突き動かすエネルギーは誰かが誰かを想う“真実の愛”であると説く。
過去と未来へと遠大に続いてゆく私たちの人生は、愛をつなげるためにあり、それが未来の誰かの語る物語となるのだと。
本人役で出てくるサミュエル・L・ジャクソンから始まって、オスカー・アイザック、オリビア・ワイルド、アネット・ベニング、アントニオ・バンデラスら主役級を含め、色んな人が出て来るが、明確な主人公はいない。
あえて言えば、「信頼のおけない語り部(Unreliable narrator)」としての「人生」そのものが主人公だ。
「信頼のおけない語り部」とは、評論家のウェイン・ブースが提唱した「客観性のない一人称の語り部は信頼できないので、読者を惑わせる」という言説から。
例えば「ジョーカー」は、終盤の1シーンを除いて、タイトルロールの一人称で語られているので、内容が現実なのか、病院の中で彼が見ている妄想か区別がつかない。
本作も一つひとつの物語はどこまでが本当なのかわからず、実際「これは妄想」と断っている描写もでてくる。
しかし、いくつもの視点が交錯することで、ただ一つ「愛」だけが人生の、そして物語の真実として残るのである。
本作は本国で批評家に酷評され、興行的にも失敗したという。
本来映画向きとは言えない文学的な内容を、トリッキーな作劇を使い、2時間を切る尺のなかで成立させた本作は、確かに好みの割れそうな作品ではあるが、「なぜ物語るのか?」というストーリテラーにとっての永遠の問いに、フォーゲルマンが真摯に向かい合った大変な力作だ。
個人的には、デュランの詩のように余韻が長く後を引き、愛おしく忘れがたい作品となった。
本作ではオリーブ農園が重要な舞台となるが、オリーブはギリシャ神話では知恵の象徴とされ、旧約聖書では鳩がくわえたオリーブの枝が、ノアに地上に平和が戻ったことを知らせたことから、鳩と共に平和の象徴とされる。
美しく枝分かれするオリーブは、いわば命の樹。
今回は、オリーブを使うカクテル、「マティーニ」をチョイス。
ドライ・ジン45ml、ドライ・ベルモット15mlをステアしてグラスに注ぎ、オリーブを一つ沈める。
非常にシンプルなカクテルだが「カクテルの王」と呼ばれるだけあって、味わいは奥深い。
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ニューヨークで起こった、ある悲劇的な交通事故を起点に、遠い過去と未来へ二つの家族の物語が紡がれてゆく。
「カーズ」「塔の上のラプンツェル」「ボルト」と言った、ディズニー/ピクサー作品の脚本家として知られ、近年ではTVドラマの「THIS IS US」をヒットさせた、ダン・フォーゲルマンの、“真実の愛”の詰まった小さな宝石箱。
この人は相当な音楽好きらしく、長編監督デビュー作の「Dearダニー 君へのうた」は、落ち目の歌手が、過去から届いたジョン・レノンの手紙に触発され、再起を決意する話だったが、本作は1997年に発売されたボブ・デュランのアルバム、「Time Out of Mind」が全体のモチーフになっているのが特徴だ。
アルバムから「Love Sick」「Not Dark Yet」など6曲が使われていて、シチュエーションやキャラクターのセリフなど、内容にも密接に関わってくるので、音楽ファンも注目すべき作品となっている。
と、ここまでで、この映画に興味をひかれた人は、かなりネタバレ気味な予告編はもちろん、このレビューも読むのをやめて、一切の情報を入れずに映画を観に行ったほうがいい。
本筋とは関係ないサミュエル・L・ジャクソンが紹介する、オスカー・アイザック演じるウィル・デンプシーの物語から、メタ的なパロディ気味に始まる映画は、序盤ではどんな話なのか、着地点がどこなのかさっぱり分からない。
いや、事故は早々に起こり、ある妊婦が犠牲となる。
そこから物語は、妊婦のおなかの中にいたデュランと名づけられる女児と、バスの中から事故を目撃していた少年ロドリゴ、この二人の未来の物語と、事故に至るまでの二人の両親の物語をバラバラに紡いでゆく。
ニューヨークを舞台としたデュランの両親の物語、生まれる前に母親を事故で失ったデュランの物語、スペインのオリーブ農家だったロドリゴの一家の物語、幼くして恐ろしい事故を目撃し、トラウマを抱えて成長するロドリゴの物語。
アメリカからスペイン、スペインからアメリカへ、時代も言語も、それぞれの描写が現実か虚構かもあいまいなまま、独立した「章」に別れた物語は、ほとんど無関係に展開してゆく。
しかし、ウェットな断片はやがて重なり合い、過去と未来にまたがる、壮大な命の樹の模様を描き出すのである。
そこに浮かび上がって来るのは、とても美しい「物語論」だ。
物語とは何か?人はなぜ物語るのか?とは、物語を生業とするものなら、一度は必ず考えるテーマだろう。
ダン・フォーゲルマンは、物語とは一人ひとりの人生そのものであり、それが悲劇であれ喜劇であれ、物語を突き動かすエネルギーは誰かが誰かを想う“真実の愛”であると説く。
過去と未来へと遠大に続いてゆく私たちの人生は、愛をつなげるためにあり、それが未来の誰かの語る物語となるのだと。
本人役で出てくるサミュエル・L・ジャクソンから始まって、オスカー・アイザック、オリビア・ワイルド、アネット・ベニング、アントニオ・バンデラスら主役級を含め、色んな人が出て来るが、明確な主人公はいない。
あえて言えば、「信頼のおけない語り部(Unreliable narrator)」としての「人生」そのものが主人公だ。
「信頼のおけない語り部」とは、評論家のウェイン・ブースが提唱した「客観性のない一人称の語り部は信頼できないので、読者を惑わせる」という言説から。
例えば「ジョーカー」は、終盤の1シーンを除いて、タイトルロールの一人称で語られているので、内容が現実なのか、病院の中で彼が見ている妄想か区別がつかない。
本作も一つひとつの物語はどこまでが本当なのかわからず、実際「これは妄想」と断っている描写もでてくる。
しかし、いくつもの視点が交錯することで、ただ一つ「愛」だけが人生の、そして物語の真実として残るのである。
本作は本国で批評家に酷評され、興行的にも失敗したという。
本来映画向きとは言えない文学的な内容を、トリッキーな作劇を使い、2時間を切る尺のなかで成立させた本作は、確かに好みの割れそうな作品ではあるが、「なぜ物語るのか?」というストーリテラーにとっての永遠の問いに、フォーゲルマンが真摯に向かい合った大変な力作だ。
個人的には、デュランの詩のように余韻が長く後を引き、愛おしく忘れがたい作品となった。
本作ではオリーブ農園が重要な舞台となるが、オリーブはギリシャ神話では知恵の象徴とされ、旧約聖書では鳩がくわえたオリーブの枝が、ノアに地上に平和が戻ったことを知らせたことから、鳩と共に平和の象徴とされる。
美しく枝分かれするオリーブは、いわば命の樹。
今回は、オリーブを使うカクテル、「マティーニ」をチョイス。
ドライ・ジン45ml、ドライ・ベルモット15mlをステアしてグラスに注ぎ、オリーブを一つ沈める。
非常にシンプルなカクテルだが「カクテルの王」と呼ばれるだけあって、味わいは奥深い。

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この記事へのコメント
文章力のない私には、感想を書くのが難しい映画でした。
ノラネコさんはさすがですねえ。
予想外な展開と、事実かそうでないのかすぐにはわからず、
度々驚かされました。
登場人物が、みな愛のある人たちで心にしみました。
ノラネコさんはさすがですねえ。
予想外な展開と、事実かそうでないのかすぐにはわからず、
度々驚かされました。
登場人物が、みな愛のある人たちで心にしみました。
>風子さん
最初っからどこまでが現実か分からないように作ってますよね。
結局それがフィクションでも現実でも、私たちは愛だけは真実だと信じたいんだということでしょう。
流石にディズニープリンセスの脚本家だけあって、愛のある映画でした。
最初っからどこまでが現実か分からないように作ってますよね。
結局それがフィクションでも現実でも、私たちは愛だけは真実だと信じたいんだということでしょう。
流石にディズニープリンセスの脚本家だけあって、愛のある映画でした。
こんにちは。評価が高いですね。確かに愛に溢れる作品でしたし。
おっしゃるように、評価が分かれる作品なのではないかと思います。
私はちょっと合わなかったようで、役者さんの無駄遣いのように感じたチャプターもありました。
おっしゃるように、評価が分かれる作品なのではないかと思います。
私はちょっと合わなかったようで、役者さんの無駄遣いのように感じたチャプターもありました。
>ここなつさん
独特の文学的な語り口と手法を、あざといと取るか、ユニークと取るかではないですかね。
描きたいことが物語論なので、私は高く評価しましたが、逆も然りだと思います。
独特の文学的な語り口と手法を、あざといと取るか、ユニークと取るかではないですかね。
描きたいことが物語論なので、私は高く評価しましたが、逆も然りだと思います。
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2020年の一番最初に観た作品が本作である。例年だと年頭に観る作品は非常に重要で、あれやこれや吟味しながらチョイスするのであるが、今年は最後のTOHOシネマズの1ヶ月フリーパスポートを昨年末ギリギリにゲットした為、ともかく時間と場所が合うものでバシバシと観て行くしか仕方がない。と、こういう書き方になってしまっていることについて、では本作が年頭一番最初に観るのに不本意であったのか?と問われると...
2020/01/08(水) 19:12:55 | ここなつ映画レビュー
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