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2020年01月23日 (木) | 編集 |
初恋の記憶は、なんと残酷でロマンティック。

岩井俊二監督が、故郷の宮城県を舞台に、手紙のやり取りから始まる初恋の記憶の覚醒と、二つの世代の喪失と再生を描くリリカルなラブストーリー。
初恋の人と再会するヒロイン・祐里を、自身の初主演作となった「四月物語」から22年ぶりの岩井作品出演となる松たか子が演じる。
裕里の少女時代と、娘の颯香の二役を「天気の子」で注目された森七菜、祐里の姉の未咲とその娘の鮎美を広瀬すず。
祐里の初恋の人である小説家の鏡史郎に、福山雅治と神木隆之介という豪華キャスト。
フォトジェニックな夏の宮城の情景はどこまでも広がる夏木立が美しく、映像を観ているだけで岩井ワールドへのトリップ感満点。
四半世紀前の長編映画デビュー作、「Love Letter」へのセルフ アンサームービーともなっており、前作の「リップヴァンウィンクルの花嫁」と共に、岩井俊二全部入りの集大成だ。
※核心部分に触れています。

自ら命を絶った姉の未咲の葬儀の席で、妹の祐里(松たか子)は未咲の娘の鮎美(広瀬すず)から同窓会の案内状を見せられる。
姉の死を知らせるために、代理のつもりで行った同窓会だったが、祐里は皆から生徒会長で学園のマドンナだった未咲と勘違いをされてしまう。
その場で自身の初恋の人である鏡史郎(福山雅治)と再会した祐里は、姉の名を語り住所を知らせないまま彼に手紙を送り始める。
同じころ、未咲の実家に届いた鏡史郎からの返事を読んだ鮎美と祐里の娘の颯香(森七菜)は、母たちの過去に興味を持ち、自分たちが未咲のふりをして返事を書く。
交錯する手紙の数々は、鏡史郎と未咲と祐里の、25年前の忘れえぬ初恋の記憶を紡ぎ出してゆく。
一方、仙台の祐里を訪ねた鏡史郎は、そこで初めて未咲の死を知らされる。
そして彼は、祐里の知らない未咲との思い出を語りはじめるのだが・・・・


喪の仕事からはじまる物語は、明らかに「Love Letter」と対になり、同時に精神的な続編となる様に作られている。
冬の小樽と神戸を舞台とした「Love Letter」では、雪山の遭難で婚約者の樹を亡くした中山美穂演じる博子が、今はもう取り壊されてしまったはずの彼の生家へと手紙を送る。
ところが彼女の手紙は、ひょんなことから彼と同姓同名で、中学の同級生だったもう一人の“藤井樹”へと届いてしまう。
相手を取り違えた不思議な文通は、いつしか懐かしくも切ない初恋の記憶を呼び起こし、主人公の喪失からの再生を後押しするのである。
初恋の彼とは性別違いの樹と主人公の博子を、中山美穂が二役で演じていることなど、本作とはテリングのロジックも含めて共通点が多い。
プロットはグッと複雑にはなっているが、現在の手紙のやり取りによって、過去の記憶が呼び起こされるのも共通。
実際、本作の序盤の展開は、まるで「Love Letter」の焼き直しの様だ。
だが、物語が進むにつれて、四半世紀の時を挟んで作られた二つの作品は、ハッキリと異なる顔を見せてくる。

北海道の雪景色が印象的だった「Love Letter」に対し、本作の舞台は万緑生い茂る真夏の宮城。
この映画が「Love Letter」と一番異なるのは、季節以上に初恋から現在までの期間だろう。
主要登場人物が、まだまだ青春真っ盛りの二十代だったあの作品に対し、本作は子供世代も出てくる四十代。
高校卒業から25年の間には、当然誰の人生にも色々な事件が起こり、輝かしい人生の黄金時代からの隔たりが、物語を圧倒的に深化させている。
「Love Letter」は、30歳そこそこの若き映画作家ならではの、初恋に対する想いが詰まったピュアな作品だったが、これは逆に酸いも甘いも嚙み分け、56歳のおっさんになった岩井俊二にしか撮れないなんともメロウな映画なのである。

映画の前半部分で、狂言回し的に物語を主導するのは松たか子の祐里だが、テーマ的な主人公は福山雅治演じる鏡史郎だ。
彼が現在の裕里を訪ね、彼女も知らなかった未咲の真実が語られ始めると、鏡史郎が前面に出て物語が大きく動き出す。
高校生の頃に、学園一の美少女の未咲に恋してしまった彼は、大学生の時に一度は初恋を成就させ、彼女と恋人同士になる。
しかし結局のところ、未咲は生真面目で誠実な鏡史郎とは正反対の得体の知れない怪人物、阿藤を選び、そのことが彼女の人生を大きく変えてしまう。
豊川悦司が怪演する阿藤と、その内縁の妻として中山美穂がスクリーンに現れた時、「Love Letter」ファンはショックを受けざるを得ないだろう。
あの作品の爽やかを絵にかいたような主人公カップルに、人生に疲れ果て底辺に生きる二人を演じさせる映画作家の悪意と残酷さよ。
本作が岩井俊二の出世作となったTVドラマ、「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」の様に、「Love Letter」のパラレルワールドだとしたら、二人にも別の人生があったということか。
そういえば「打ち上げ花火」も本作も、世界観が「夏休み」という非日常の時間枠にきれいにパッケージングされているという共通点がある。

一方、ふられた形となった鏡史郎は、未咲との思い出をもとにした小説、その名も「未咲」によって作家としてデビューしたものの、その後は全く書けていない。
彼は今も輝かしい初恋の記憶に囚われ、そこから一歩も前へ進めない魂の囚人なのだ。
裕里との再会をきっかけにしてはじまった、裕里、鮎美、颯香との手紙のやり取りは、鏡史郎の中にあった記憶を手紙という形であらためて具現化する。
そして、何者かになりたくて、結局何者にもなれなかった、阿藤というもう一人の自分の鏡像との再会を通し、ようやく過去の自分と向き合うことになるのである。
心の中で美化された、初恋の妄想に生きる男の再生劇の仕上げは、今は廃墟と化した懐かしの高校での、鮎美と颯香との出来すぎなくらいに美しく映画的な邂逅だ。
少女性を強調するワンピース姿の二人は、思い出トリップ中の鏡史郎には、まるで25年前から来た幽霊のように見えたはず。
もう存在しないはずの過去が、かつての恋人の死と、その子供世代というリアルな形で現われたことで、魂の囚人はついに現実へと解放されるのである。
それにしても、同じ初恋の記憶を共有していても、すっかり地に足を付けて、新たな家族を作っている女性側と、25年もの間未練タラタラに立ち止ったままの男の体たらく。
この差を無慈悲に描けることこそ、「Love Letter」からの岩井俊二の進化の証明なのかも知れない。

本作は「物を書くこと」に関する物語でもあり、登場人物は皆、記憶を文章とすることで過去と向き合う。
一個人の中にあった人が人を思いやる記憶が、手紙や小説という形ある器に入ることで、当事者だけでなく世代を超えて継承されてゆく、ある種の物語論的な作品でもあるのがユニークだ。
本作の劇中で紡がれる文章は、基本的にすべて過去を描写したものだが、唯一の例外が高校時代の鏡史郎が文面を手伝い、未咲が卒業式で読んだ卒業生代表の挨拶。
「私たちの未来には無限の可能性があり、数えきれないほどの人生の選択肢があると思います」
自殺した未咲が娘の鮎美に残した遺書が、過去ではなくまだ見ぬ未来について書いたこの文章なのは、本作が思い出へのレクイエムであり、同時に未来へのエールであることを示して象徴的。

非常に緻密に、隅々まで計算して作り込まれている作品だが、特に複雑に入り組んだ形で役をシェアしている俳優たちが素晴らしい。

演技指導が行き届いているだけでなく、松たか子と森七菜なんてよっぽどディテールのすり合わせをしたのだろう。

同窓会で鏡史郎に気づく表情とか、なるほど高校生のあの子が成長したら、こんな大人になるという説得力抜群。

ワンシーンのみの出演だが、豊川悦司の怪人っぷりと、どこまでも対照的な福山雅治のナチュラルな記憶の器としての人物像など、一人ひとりのキャラクター造形が見事だ。
そしてこのところグッと洗練されてきた広瀬すずと、森七菜の成長途中の危うい可憐さ。
師匠の篠田昇から岩井組の撮影監督を引き継いだ、神戸千木によるノスタルジックな情景のフレームの中で、二人の美少女が佇む映像はそれだけで眼福としか言いようがない。
あと裕里の夫で、鏡史郎への嫉妬に狂う庵野秀明が、実に味のあるキャラクター(笑
彼が描いてる設定の劇中漫画を、鶴田謙二が担当してたりするのもマニアック過ぎだろう。 
初恋の記憶から紡ぎ出される、愛と死と喪失と再生の物語は、単体でも充分に成立しているが、やはり「Love Letter」とセットで鑑賞するのが、ダブルで面白いしオススメだ。

今回は舞台となる仙台と白石のちょうど真ん中辺、宮城県村田町の大沼酒造店の「乾坤一 純米酒 辛口」をチョイス。
典型的な淡麗辛口。
豊かな米の旨みと柔らかな口当たり、キレの良い喉越し。
非常にバランスの良い酒で飲みやすく、食欲を刺激されて自然と箸が進む。
初恋の人と再会したら、一緒に飲んでみたくなる酒だ。

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コメント
この記事へのコメント
ロマンティック
こんにちは。
本当に本当にロマンチックな作品でした。
宮城県って岩井さんの故郷なんですってね。
1シーン1シーンに愛が感じられました。
2020/01/28(火) 13:36:25 | URL | ここなつ #/qX1gsKM[ 編集]
こんばんは
>ここなつさん
ああ、ロマンチックと捉えられたのですね。
SNSなどで女性の意見を見ると、25年も初恋妄想引きずってる男はキモいというのが結構あって、鏡史郎の気持ちでちょっと傷ついてましたw
ほんと、愛のあるロマンチックな映画だと思います。
2020/01/30(木) 22:47:20 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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