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2020年02月12日 (水) | 編集 |
37秒の運命の分岐点。
心震える秀作が誕生した。
「37セカンズ」は生まれた時に37秒間だけ呼吸が止まったことで、脳性麻痺となった23歳の女性の成長を描き、第69回ベルリン国際映画祭で、パノラマ部門観客賞とCICAEアートシネマ賞をダブル受賞した注目作だ。
主人公のユマは超過保護な母親と二人暮らし。
非常に才能豊かで、友人の漫画家のゴーストライターをしてるが、存在を消された日陰者扱いに納得しておらず、自分の名前で漫画を出したいとアダルト漫画にトライする。
しかしセックスの経験が無いので思うように描けず、編集者からダメ出しを食らってしまう。
このことがきっかけとなり、それまで母親に依存して生きてきた彼女の成長スイッチが入り、急激に大人になろうとするのである。
監督・脚本はこれが長編デビュー作となるHIKARI。
主人公のユマをオーディションで選ばれた佳山明、彼女の母親を神野三鈴が演じる。
生まれた時に、37秒間無呼吸だったため体に障害を抱えたユマ(佳山明)は、母親の恭子(神野三鈴)と暮らしながら、漫画家で人気YouTuberでもある友人のゴーストライターの仕事をしている。
しかし、名前を消され表舞台に出ることもできない人生に息苦しさを感じたユマは、偶然手にしたアダルト雑誌への挑戦を思いつく。
持ち前の才能で漫画を仕上げ編集部へ持ち込むも、肝心の官能描写のリアリティのなさを指摘され、「セックスを経験したらまた持ち込んで」と言われてしまう。
ユマはそれまで生きてきた小さな世界に限界を感じるが、直ぐに彼氏ができるわけもなく、出会い系や風俗にも手を出すがうまくいかず。
そんな時、ひょんなことから障害者専門のセックスワーカーをしている舞(渡辺真起子)と介護士の俊哉(大東駿介)と出会ったことで、ユマの前に新しい世界が広がりはじめる・・・
性への興味と欲求は、あくまでも成長の取っ掛かり。
それまでのユマの世界は、母親と二人だけの家、あとは名ばかりの友情と経済的な利害で繋がった漫画家との関係だけ。
ごく小さな範囲で生きてきた彼女は、いまだに広い世界をほとんど知らないのだ。
メンターとなる舞との出会いが起点となり、家と仕事以外に交友関係が広がると共に、仲間と一緒に遊んだり飲み明かしたり、新しい楽しみも増えてゆく。
それは本来誰もが通る青春の通過儀礼なのだが、生活の全てをユマに捧げ、無垢なる娘を保護することが自分の人生の拠り所となってしまってる母親とっては、娘を危険に晒す悪しき誘惑。
たとえ障害を抱えていなかったとしても、問題を抱えた母娘の成長物語は数多い。
大人になりたい!自立したい!という普遍的な欲求に突き動かされたユマと、彼女を自分の保護下に置きたい母親が葛藤を深め、人生で初めて激しくぶつかり合うのと同時に、物語は大きく動き出す。
ユマの家には父親がいない。
彼女は子供の頃に父親が送ってくれた絵手紙を大切にしていて、その達者な絵から漫画の才能は父親譲りだということが分かる。
家を飛び出したユマが会ったことのない父親を探す旅をはじめると、映画は一気にスケールアップ。
ここからの展開はある種の貴種流離譚神話のようだ。
ギリシャ/ローマ神話では、しばしば神が人間と交わり、残された子が成長して試練の旅に出るが、ユマもまた運命の見えざる手に導かれ自らのルーツへと近付いてゆく。
なぜ父親はユマの元を去ったのか?なぜ母親は過剰に彼女を束縛しようとするのか?
アイデンティティを探すユマの想いと共に、映画は国境をも超えて愛ゆえにバラバラになった一つの家族の歴史を描き出すのである。
ユマを演じる佳山明が素晴らしい。
実際に生まれた時に呼吸がとまったことが原因で、脳性麻痺を抱えている社会福祉士の方なのだとか。
もともと本作の主人公は交通事故で脊髄損傷を負った女性の設定だったのが、彼女がオーディションに現れたことで設定から変更されたという。
はにかみながらの小声の発声が実にキュートで、役が自分に近いキャラクターに引き寄せられたとはいえ、演技経験無しとは信じられないレベル。
母親の深すぎる愛と苦悩を表現する神野美鈴も、キャリアベストの名演と言える。
作品のストーリー、そしてテリングの完成度も非常に高い。
監督・脚本のHIKARIはロサンゼルス在住で、十代からアメリカで芸術教育を受けていたそうで、撮影や編集も向こうの人が加わってる。
それゆえか、画が日本のインディーズ映画にありがちな沈んだ色彩ではなく、シネマスコープのサイズに明るくクリアに決め込まれている。
プロットもロジカルに構成されていて、アメリカンインディーズ的な作品カラーを強く感じさせるのである。
テリングの手法で面白いのが、シフトレンズを使い東京の街をミニチュアの様に鳥瞰したショット。
劇中でユマが「宇宙から見たら、私たち人間の人生なんて、ほんの一瞬の出来事なんですよね。たまに思うんですよね。私の人生って、宇宙人の夏休みの課題みたいなものなのかなあって」と語る印象的なシーンがある。
この台詞は前記したユマのルーツを辿る旅の寓話性とも重なり、ミニチュア風の映像は社会からの疎外感を抱えているからこそ、この世界を宇宙人の視点から見つめる、ユマの心象と重なり合う。
自分が何者で、なぜ生まれ、なぜ障害を抱え生きなければならないのか。
神話の英雄のように冒険の結果全ての真実に行き着き、自分が愛に包まれていることを知った彼女は、もう他者に依存していたか弱い存在ではなく、地にしっかりと車輪をつけて生きる、自立した大人の女性へと成長している。
同時に知らず知らずのうちに自分自身を追い込んでいた母親も、娘の成長によってずっと抱え込んでいた罪悪感から解放される。
青春映画の枠を超え、高い普遍性を持つ人間ドラマの秀作だ。
今回は、大人の階段を上ったユマに相応しいエレガントなカクテル、「シャンパンフランボワーズ」をチョイス。
シャンパングラスにシャンパンまたはスパークリングワイン80ml、クレーム・ド・フランボワーズ20mlを注ぎ、軽くステア。
ほのかにピンクに染まった色合いも美しく、さっぱりした味わいはアペリティフとしても食中酒としても使い勝手がよい。
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心震える秀作が誕生した。
「37セカンズ」は生まれた時に37秒間だけ呼吸が止まったことで、脳性麻痺となった23歳の女性の成長を描き、第69回ベルリン国際映画祭で、パノラマ部門観客賞とCICAEアートシネマ賞をダブル受賞した注目作だ。
主人公のユマは超過保護な母親と二人暮らし。
非常に才能豊かで、友人の漫画家のゴーストライターをしてるが、存在を消された日陰者扱いに納得しておらず、自分の名前で漫画を出したいとアダルト漫画にトライする。
しかしセックスの経験が無いので思うように描けず、編集者からダメ出しを食らってしまう。
このことがきっかけとなり、それまで母親に依存して生きてきた彼女の成長スイッチが入り、急激に大人になろうとするのである。
監督・脚本はこれが長編デビュー作となるHIKARI。
主人公のユマをオーディションで選ばれた佳山明、彼女の母親を神野三鈴が演じる。
生まれた時に、37秒間無呼吸だったため体に障害を抱えたユマ(佳山明)は、母親の恭子(神野三鈴)と暮らしながら、漫画家で人気YouTuberでもある友人のゴーストライターの仕事をしている。
しかし、名前を消され表舞台に出ることもできない人生に息苦しさを感じたユマは、偶然手にしたアダルト雑誌への挑戦を思いつく。
持ち前の才能で漫画を仕上げ編集部へ持ち込むも、肝心の官能描写のリアリティのなさを指摘され、「セックスを経験したらまた持ち込んで」と言われてしまう。
ユマはそれまで生きてきた小さな世界に限界を感じるが、直ぐに彼氏ができるわけもなく、出会い系や風俗にも手を出すがうまくいかず。
そんな時、ひょんなことから障害者専門のセックスワーカーをしている舞(渡辺真起子)と介護士の俊哉(大東駿介)と出会ったことで、ユマの前に新しい世界が広がりはじめる・・・
性への興味と欲求は、あくまでも成長の取っ掛かり。
それまでのユマの世界は、母親と二人だけの家、あとは名ばかりの友情と経済的な利害で繋がった漫画家との関係だけ。
ごく小さな範囲で生きてきた彼女は、いまだに広い世界をほとんど知らないのだ。
メンターとなる舞との出会いが起点となり、家と仕事以外に交友関係が広がると共に、仲間と一緒に遊んだり飲み明かしたり、新しい楽しみも増えてゆく。
それは本来誰もが通る青春の通過儀礼なのだが、生活の全てをユマに捧げ、無垢なる娘を保護することが自分の人生の拠り所となってしまってる母親とっては、娘を危険に晒す悪しき誘惑。
たとえ障害を抱えていなかったとしても、問題を抱えた母娘の成長物語は数多い。
大人になりたい!自立したい!という普遍的な欲求に突き動かされたユマと、彼女を自分の保護下に置きたい母親が葛藤を深め、人生で初めて激しくぶつかり合うのと同時に、物語は大きく動き出す。
ユマの家には父親がいない。
彼女は子供の頃に父親が送ってくれた絵手紙を大切にしていて、その達者な絵から漫画の才能は父親譲りだということが分かる。
家を飛び出したユマが会ったことのない父親を探す旅をはじめると、映画は一気にスケールアップ。
ここからの展開はある種の貴種流離譚神話のようだ。
ギリシャ/ローマ神話では、しばしば神が人間と交わり、残された子が成長して試練の旅に出るが、ユマもまた運命の見えざる手に導かれ自らのルーツへと近付いてゆく。
なぜ父親はユマの元を去ったのか?なぜ母親は過剰に彼女を束縛しようとするのか?
アイデンティティを探すユマの想いと共に、映画は国境をも超えて愛ゆえにバラバラになった一つの家族の歴史を描き出すのである。
ユマを演じる佳山明が素晴らしい。
実際に生まれた時に呼吸がとまったことが原因で、脳性麻痺を抱えている社会福祉士の方なのだとか。
もともと本作の主人公は交通事故で脊髄損傷を負った女性の設定だったのが、彼女がオーディションに現れたことで設定から変更されたという。
はにかみながらの小声の発声が実にキュートで、役が自分に近いキャラクターに引き寄せられたとはいえ、演技経験無しとは信じられないレベル。
母親の深すぎる愛と苦悩を表現する神野美鈴も、キャリアベストの名演と言える。
作品のストーリー、そしてテリングの完成度も非常に高い。
監督・脚本のHIKARIはロサンゼルス在住で、十代からアメリカで芸術教育を受けていたそうで、撮影や編集も向こうの人が加わってる。
それゆえか、画が日本のインディーズ映画にありがちな沈んだ色彩ではなく、シネマスコープのサイズに明るくクリアに決め込まれている。
プロットもロジカルに構成されていて、アメリカンインディーズ的な作品カラーを強く感じさせるのである。
テリングの手法で面白いのが、シフトレンズを使い東京の街をミニチュアの様に鳥瞰したショット。
劇中でユマが「宇宙から見たら、私たち人間の人生なんて、ほんの一瞬の出来事なんですよね。たまに思うんですよね。私の人生って、宇宙人の夏休みの課題みたいなものなのかなあって」と語る印象的なシーンがある。
この台詞は前記したユマのルーツを辿る旅の寓話性とも重なり、ミニチュア風の映像は社会からの疎外感を抱えているからこそ、この世界を宇宙人の視点から見つめる、ユマの心象と重なり合う。
自分が何者で、なぜ生まれ、なぜ障害を抱え生きなければならないのか。
神話の英雄のように冒険の結果全ての真実に行き着き、自分が愛に包まれていることを知った彼女は、もう他者に依存していたか弱い存在ではなく、地にしっかりと車輪をつけて生きる、自立した大人の女性へと成長している。
同時に知らず知らずのうちに自分自身を追い込んでいた母親も、娘の成長によってずっと抱え込んでいた罪悪感から解放される。
青春映画の枠を超え、高い普遍性を持つ人間ドラマの秀作だ。
今回は、大人の階段を上ったユマに相応しいエレガントなカクテル、「シャンパンフランボワーズ」をチョイス。
シャンパングラスにシャンパンまたはスパークリングワイン80ml、クレーム・ド・フランボワーズ20mlを注ぎ、軽くステア。
ほのかにピンクに染まった色合いも美しく、さっぱりした味わいはアペリティフとしても食中酒としても使い勝手がよい。

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この記事へのコメント
私も37セカンズ見ました
これがあれを呼び、あれがそれに繋がる的なストーリーテリングは見事に物語だけでエンタメになっていました。でも全てのよさは佳山明さんの魅力に通じるのでした
10年代ベストへの投稿もありがとうございました
集計結果発表までもうすこしお待ち下さい
これがあれを呼び、あれがそれに繋がる的なストーリーテリングは見事に物語だけでエンタメになっていました。でも全てのよさは佳山明さんの魅力に通じるのでした
10年代ベストへの投稿もありがとうございました
集計結果発表までもうすこしお待ち下さい
>しんさん
お疲れ様です。
10年前に比べたら映画ブログ自体が激減しちゃいましたから、集めるのも大変ですね。
楽しみにしています。
お疲れ様です。
10年前に比べたら映画ブログ自体が激減しちゃいましたから、集めるのも大変ですね。
楽しみにしています。
いや~、素晴らしい作品でした。
特に仰る通り、主演の佳山明さんの演技が、存在感が、そして表情が素晴らしい。
世界が拡がっていくのを実感していく時のあの「いい表情」こそ、人生を豊かにする糧だと改めて思いましたよ。
特に仰る通り、主演の佳山明さんの演技が、存在感が、そして表情が素晴らしい。
世界が拡がっていくのを実感していく時のあの「いい表情」こそ、人生を豊かにする糧だと改めて思いましたよ。
>にゃむばななさん
これは佳山明に合わせてシナリオを当て書きし直したのが良かったですね。
演技経験なしとは言え、本人に寄り添ったキャラクターにしたことで、素晴らしい結果になったと思います。
ラストの表情は演技を超えた本物でした。
これは佳山明に合わせてシナリオを当て書きし直したのが良かったですね。
演技経験なしとは言え、本人に寄り添ったキャラクターにしたことで、素晴らしい結果になったと思います。
ラストの表情は演技を超えた本物でした。
愛の伝道師・渡辺真紀子によって世界が広がっていくのはとても面白い。でも、海外まで足を運ばなくても良かったんじゃないかな? あの辺でちょっとダレてしまった。
2020/03/08(日) 22:01:57 | URL | fjk78dead #-[ 編集]
>ふじきさん
これは貴種流離譚なので、やっぱり日常から遠く離れた場所に旅しないと。
やっぱ海外くらい行かないとダメだと思います。
これは貴種流離譚なので、やっぱり日常から遠く離れた場所に旅しないと。
やっぱ海外くらい行かないとダメだと思います。
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5本くらいまとめてレビュー。
◆『恐竜超伝説』ユナイテッドシネマ豊洲4
▲画像は後から。
五つ星評価で【★★うお、恐竜やん、みたいな感じに最初バリバリ騙される】
まあ恐竜は見てるだけでそこそこワクワクできる。
逆に言えばそれが全てで、それが生命線で、それ以外大した事がなかったのが単純にあかんのだ。ストーリー仕立てになってるけど、そのストーリーが屑いし。
羽毛恐竜は違和感がある。それはやは...
2020/03/08(日) 21:57:32 | ふじき78の死屍累々映画日記・第二章
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