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2020年02月25日 (火) | 編集 |
楽園の花には、毒がある。

なるほど夏至とは生と死の季節。
アメリカ人の大学生たちが友だちに誘われて、スウェーデンのど田舎の村の白夜の夏至祭(ミッドソンマル)を訪れたら、それはそれはヤバイ祭りだった。
ホラー者なら、もうこの設定だけで何が起こるかは分かるだろう。
長編デビュー作となった「ヘレディタリー 継承」で映画ファンの度肝を抜いたアリ・アスター監督の第二作は、燦々と降り注ぐ白夜の陽光の下で展開する世にも恐ろしい奇祭を描く。
作家の悪意全開、ダウナー系ドラッグでも決めて、天国とも地獄ともつかない白日夢を味わう様な2時間27分だ。(ちなみに2時間51分のディレクターズカット版もあるらしい)
前作に輪をかけて奇妙な世界観は観る者を戸惑わせ、「怪作」の名に相応しい。
主人公のダニーを、「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」でアカデミー助演女優賞にノミネートされた注目株、フローレンス・ビューが演じる。
※以下、ラストおよび核心部分に触れています。

大学生のダニー(フローレンス・ビュー)は、心を病んだ姉が両親を巻き添えに無理心中した事件のトラウマに苦しんでいた。
恋人のクリスチャン(ジャック・レイナー)は彼女のことを重荷に感じながらも、惰性で付き合い続けている。
ある日、ダニーはクリスチャンが友人のマーク(ウィル・ポールター)、ジョシュ(ウィリアム・ジャクソン・ハーパー)と共に、留学生のペレ(ヴィルヘルム・ブロングレン)の故郷の村で90年に一度だけ開かれる夏至祭を訪れることを知る。
クリスチャンとの関係を修復したいダニーは、一緒にスウェーデンの片田舎へと向かう。
そこは雄大な自然に囲まれた絵のように美しい村で、人々がプライバシーや所有の概念を持たない原始的な共同体だった。
やがて祭が始まると、ダニーたちは初めて恐ろしい秘密を知る。
この村の夏至祭は単に豊穣を願う祝祭ではなく、生と死のサイクルを再現する奇祭だったのだ・・・


冒頭、主人公のダニーは恐ろしい予感に取り憑かれている。
双極性障害を持ち、昔から自殺願望を隠さなかった姉と突然連絡が取れなくなる。
不安を抑えられなかったダニーは恋人のクリスチャンに頼ろうとするが、彼はむしろ彼女の問題と関わることに嫌気がさしているようだ。
結果としてダニーの予感は的中し、姉は両親を道連れにして自殺し、彼女は突如として天涯孤独となってしまうのである。
絶望のどん底へと落とされても寄り添う人はなく、一人悲しみに耐えなければならないダニーが、クリスチャンらと共に招かれるのが、スウェーデンの辺境にある村“ホルガ”で開かれる90年に一度の夏至祭
ホルガの出身だという留学生ペレによって導かれたアメリカ人の若者たちが見たのは、大自然の恵みを受けて暮らすキリスト教伝来以前の自然崇拝の伝統を受け継ぐ村。
ここで描かれるのは、心に深い傷を負ったダニーの救済と目覚のための通過儀礼の物語だ。

文化人類学者のアルノルト・ファン・ヘネップは、人生で経験する通過儀礼をそれまでの状態や属性からの「分離」、異なる存在になるための「移行」、新たな身分や属性を得る「合体」の三段階と定義したが、本作で夏至祭を通してダニーが経験するのもこの三つのプロセスである。
そしてその変化の背景となるのが、厳格な父系社会である清教徒たちが作ったアメリカと、アブラハムの子らの国とは正反対の価値観を持つ、原始共産制の母系社会の価値観の対立だ。

まんま「キリスト教徒」という意味の名前を持つ、ダニーの恋人のクリスチャンのキャラクターが象徴的に二つの文化の違いを表す。
彼は徹底した個人主義者で、他人の問題には立ち入らない。
ダニーの心が壊れそうになっていても、本気で悲しみを共有したりはしないし、友人のジョシュがヨーロッパの夏至祭を研究して論文を書いていることを知りながら、ちゃっかりテーマをパクっても悪びれない。
俺は俺、お前はお前という思想の持ち主で、面倒を嫌うので惰性でダニーとも付き合いを続けているが、本当はもう面倒くさいので別れたがっている。
だからクリスチャンといても彼女の心は休まらず、孤独なのである。

対して、ホルガには「個」という概念そのものが無い。
全ての「個」は延々と受け継がれてきた、ホルガという巨大な一つの生命のために存在する。
彼らの社会では「9」という数字が全てにおいて重要な意味を持っているが、これは命の樹ユグドラシルに九つの世界が内包されているという北欧神話から。
人間の生涯も9の倍数で構成されいていて、生まれてから18歳までは育ちの春、36歳までが巡礼の夏、54歳までが労働の秋、72歳までが賢者の冬。
6月20日前後の夏至は夏の入り口の季節だから、大学生のダニーたちはちょうど夏至の年齢ということになる。
祭りのゲストとしてダニーたちがホルガへ入るときにゲートを通って来るのだが、このゲート一見すると太陽の様だが、同時に女性器を象ったものにも見える。
村の広場には一般的な夏至祭でも見られる夏至柱が建てられているが、これは元々男性器を模したもの。
彼らの暮らす建物の壁画やタペストリーも、キリスト教ではタブーとされそうな性的な表現に満ちている。
アメリカで生まれた育ったダニーは、最初この全く異なる価値観を持つ文化に戸惑う。

特に祭が始まって直ぐに、この世界での役割を終えた年老いた男女が自ら命を絶つ自殺の儀式を目の当たりにして、彼女はずっと背を向けてきた家族の死という現実に直接的に向き合わざるを得ない。
だがこの村では死の持つ意味自体がアメリカとは異なるのだ。
死は忌むべきことでも悲しむべきこともはなく、新しい誕生をもたらす祝うべき犠牲なのである。
ホルガではゲルマンの古代文字であるルーン文字が使われているが、最初の食事のシーンで村人たちが座っているテーブルの形にも注目したい。
このテーブルは上から見ると「遺産・伝統」を意味する「ᛟ(オーザル)」の形をしていて、この祭自体が先祖代々受け継がれてきた財産であることを表している。
オーザルはしばしばキリスト教伝来以降の文明に対する、北欧の民族至上主義の象徴としても使われていて、1992年にオーザルから名をとったオダリズム運動を提唱するノルウェーの過激派ヴァルグ・ヴィーケネスが、複数のキリスト教会に放火するテロ事件を起こしている。
劇中で生贄の一人となる英国人のサイモンが、ヴァイキング時代に行われていた生きたまま肺を背中から引きずり出し、翼の様に広げる「血のワシ」という残酷な処刑法にかけられていたことからも、この村はおそらくは勢力を広げるキリスト教に対抗しながら、千年以上に渡って頑なに伝統を守り続けていたのだろう。

ダニーの通過儀礼は、自殺の儀式がトリガーとなり「移行」の段階へ進み、いよいよクライマックスで「合体」を迎える。
夏至祭の主役を務めるのが、村の娘たちから選ばれるMay Queenだ。
本作では“倒れるまで踊る競争”の結果、ダニーがホルガの新たなMay Queenになると、彼女は急速に村の社会と「合体」してゆくのである。
ちなみに映画のホルガは当然ながら架空の村だが、ホルガという地名はスウェーデンに実在し、映画の中で語られる悪魔に死ぬまで踊らされる伝説も「Hårgalåten(ホルガローテン、ホルガの歌) 」という民謡として実際に語り継がれているものだ。
May Queenのダニーが祭の儀式を執り行っている最中に、クリスチャンが村の娘のマヤと交わり、その行為を目撃してしまうと、まだ彼のことを愛していた彼女は激しく動揺し嗚咽する。
すると村の女たちが彼女の周りに集まり、同じ様に嗚咽の声を合わせて大合唱するのだ。
この共感を超えた共鳴のカタルシスにより、ダニーが家族を失った時温もりを与えてくれず、いま再び彼女を裏切ったクリスチャンの運命は決まってしまう。
いや、もちろんトリックスターのペレに夏至祭に招待された時から全ては仕組まれていて、ダニーは意識しないうちに選択肢を排除されているのだけど。
哀れなクリスチャンがクマの毛皮の中に縫い込まれ、九人の生贄の一人として燃やされたことにより、魂の復讐を遂げたダニーはそれまでの父系社会での「個」を失い、共鳴し合うホルガの細胞として新たな生を受けるのである。

本作と同じく、ヨーロッパの非キリスト教の伝統社会を描いた作品として、ロビン・ハーディ監督が1973年に発表した傑作民俗学ホラー、「ウィッカーマン」がある。
行方不明の少女を探して、イギリスのとある島にやってきた敬虔なキリスト教徒の刑事が、古代ケルトの宗教を信仰する村人によって、五月祭の生贄として巨大な藁人形のウィッカーマンの中で燃やされる。
イギリスの五月祭は、北欧の夏至祭と同義の豊穣を願う祭。
キリスト教と自然崇拝の対立構造を含め、本作とは多くの共通点があり、一定の影響を与えている可能性は高い。
もっとも、恐怖の仕掛け人が身内か他人かという違いはあるが、物語の構成要素としては「ヘレディタリー 継承」と重なる要素も多いのだ。
相変わらず嬉々として人体破壊をやってるし、画面のどこかが気持ち悪く歪みウネウネと動くビジュアルは、ゾワゾワする不快なムードに満ちているので、基本的には相当なホラー耐性がある変態さん向けの作品だと思う。
しかし、ホルガで起こっていることは、私たちの価値観から見ると狂気の蛮行だが、一旦その社会の一部となってしまえば、それはこの上なく美しい至福の時でもある。
生贄にされちゃった人たちにとってはまさに悪夢の様なバッドエンドの夏休みだけど、これはダニーにとっては祝祭か、それとも最も忌まわしい呪いか。
どちらと捉えるかで、メンタルの状態が問われそう。

今回は内容どおりの「ナイトメア」をチョイス。
ドライ・ジン30ml、デュボネ30ml、チェリー・ブランデー15ml、オレンジジュース15mlを氷と共にシェイクし、グラスに注ぐ。
最後にマラスキーノチェリーを一つ飾って完成。
デュボネとチェリー・ブランデーの甘みと、オレンジの酸味がバランスよく飲みやすい。
ただし、アルコール度数はけっこう高いので、飲みすぎると名前の通り悪夢をもたらす。

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コメント
この記事へのコメント
変態村
ノラネコさん☆
北欧こわっ!と思ってしまいそうですが、象徴的なポールも祭りの様子も実際のものとあまり変わらないというのが、一番怖かったデス(笑)
ノルウェーではクリスマスにツリーの周りを一日中ぐるぐる回ります・・・
2020/03/08(日) 14:29:21 | URL | ノルウェーまだ~む #gVQMq6Z2[ 編集]
こんばんは
>ノルウェーまだ~むさん
相当研究したようで、ぶっ飛んでるように見えて、祭りの儀式とかはちゃんと文献に残ってるものなんですよね。
ぐるぐる回るのは北欧文化の一部なのかも。
回るというのは命の循環とか暦を表すのかもしれませんね。
2020/03/10(火) 22:29:54 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
こんばんわ
日本にもこういう生贄の儀式を含む奇祭はよく聞きますよね。その多くはグロい部分だけカットしたり、変更したりして現在に至ってますけど。
でもどの祭りも基本は夜がメインイベントなのに、こちらは白夜というのが面白いところ。
怖い映画ではありませんでしたが、恐ろしい映画だと感じましたよ。恐怖の種類も様々ですね。
2020/03/15(日) 23:51:51 | URL | にゃむばなな #-[ 編集]
こんにちは
こんにちは。
最後はギャグかと思う位のシーンの連発ですが、これがマジになってしまうところが「洗脳」の恐ろしさだと思いました。
2020/03/17(火) 09:50:41 | URL | ここなつ #/qX1gsKM[ 編集]
こんばんは
>にゃむばななさん
さすがに白夜は日本にはありませんからねえ。
「人柱」 なんて恐ろしい言葉が残ってる国なので、共同体のために誰かが犠牲になるということは結構近い時代まで残っていたのだと思います。

>ここなつさん
これは価値観の違いを楽しむ映画なので、視点の置きどころによって作品の印象がまるで違うのが面白いです。
ホルガの人たちにとっては単なる祝祭ですからねw
2020/03/18(水) 22:03:53 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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2020/03/17(火) 09:53:51 | ここなつ映画レビュー