■ お知らせ
※基本的にネタバレありです。ご注意ください。
※当ブログはリンクフリーです。内容の無断転載はお断りいたします。
※ブログ環境の相性によっては、TB・コメントのお返事が出来ない事があります。ご了承ください
※エロ・グロ・出会い系のTB及びコメントは、削除の上直ちにブログ管理会社に通報させていただきます。 また記事と無関係なTBもお断りいたします。 また、関係があってもアフェリエイト、アダルトへの誘導など不適切と判断したTBは削除いたします。
■TITLE INDEX
※タイトルインディックスを作りました。こちらからご利用ください。
■ ツイッターアカウント※基本的にネタバレありです。ご注意ください。
※当ブログはリンクフリーです。内容の無断転載はお断りいたします。
※ブログ環境の相性によっては、TB・コメントのお返事が出来ない事があります。ご了承ください
※エロ・グロ・出会い系のTB及びコメントは、削除の上直ちにブログ管理会社に通報させていただきます。 また記事と無関係なTBもお断りいたします。 また、関係があってもアフェリエイト、アダルトへの誘導など不適切と判断したTBは削除いたします。
■TITLE INDEX
※タイトルインディックスを作りました。こちらからご利用ください。
※noraneko285でつぶやいてます。ブログで書いてない映画の話なども。
※noraneko285ツイッターでつぶやいた全作品をアーカイブしています。
2020年03月18日 (水) | 編集 |
そこは命の輪が回る場所。
きっかけは一頭の犬だった。
殺処分寸前で保護した愛犬トッドの鳴き声が止まず、ロサンゼルスのアパートを追い出されてしまったジョンとモリーのチェスター夫妻が一念発起し、昔からの夢だった農園経営の道に歩み出したのは2010年のこと。
これは二人の経営する「アプリコット・レーン・ファーム」の8年間の記録である。
野生動物を描く番組制作者でカメラマンでもあるジョンと、料理家のモリーが「本当に体に良いものを育てたい」と目指したのは、特定の作物や家畜だけを生産するのではなく、生態系を丸ごと作り上げ自然の恩恵を受け取るバイオダイナミック農法。
人智学のルドルフ・シュタイナーが、伝統的な農法を再解釈し1924年に提唱した循環型の有機農法で、高度に産業化し単作の食物工場となった現代農業とは異なり、農薬や化学肥料は使わず農園そのものを一個の完成した生態系と捉えるのが特徴だ。
ど素人だった二人はバイオダイナミック農法の本を読み漁り、経営企画を立てて出資を募る。
ヘルシー志向の高まりで、オーガニック食材の需要が大きくなっていたこともあり、出資を受けた夫妻が手に入れたのはロサンゼルスの北方、ムーアパークに位置する200エーカー(約900メートル四方)の土地。
柑橘類などが細々と植えられていたものの、溜池はすっかり干上がり、大きな石がゴロゴロ出てくる荒れた土地だった。
夫妻はネットで志を同じくする仲間を募って開墾を始めるのだが、ここで登場するのがバイオダイナミック農法のメンターとなるアラン・ヨークなる人物だ。
彼がまず行ったのは疲れ切った土地の再生だが、その方法が面白い。
当初モリーは果樹園で数種類の果物を栽培しようと考えていたのだが、アランが植えたのはなんと100種類以上の植物。
とにかく農園の植物、動物の多様性を高めてゆく。
そうすれば、やがてそこに独自の生態系が生まれて、車輪が回るように命の循環が始まるというのだ。
そして、そのようにして運営される農園は、産業化した農業よりもむしろ楽なのだという。
これは言わば原始採集生活に近い考え方だ。
完全な生態系が存在すれば、人間はそこで実る収穫だけで生きていける。
わざわざ農薬を撒いたり、害獣を駆除したりしないで済むのだ。
しかし言うは易く行うは難しで、生態系が完成し、勝手に回り始めるまでは人間が力を入れて守ってやらねばならない。
しかも農園のグランドデザイナーたるアランが、志半ばにして病死してしまう。
作りかけの生態系には、毎年のように多種多様な危機が降りかかる。
鶏の産む卵は農園の経済的な屋台骨でもあるのだが、飢えたコヨーテが執拗に襲ってくる。
ムクドリの群れは果樹を食い尽くし、大量発生したカタツムリが樹木を枯らす。
牛の糞からはハエの大群が生まれ、家畜たちに群がって健康を脅かす。
果樹園の地下に掘られたホリネズミの巣も、樹木にとっては大きな脅威だ。
気候変動も悩みの種で、1200年に一度の大干魃が終わったと思ったら、今度は集中豪雨に襲われる。
そしてカリフォルニア名物となってしまった、乾季の山火事。
ここでへこたれて安易に農薬を使ったり、害獣を人力で駆除しても結局はキリがない。
アランという絶対的なメンターを失った夫妻は、今度は自分たちの力で困難を克服しなければならないのだ。
賢者のような目で農園を見つめる犬のトッドに習い、夫妻は農園で起こってることを観察し、自然の声に耳を傾け、命の仕組みを学び、少しずつ解決策を見出してゆく。
カモたちを果樹園に放してみると無数のカタツムリは瞬く間に彼らの胃袋に入り、フンがそのまま肥料となる。
増え続ける牛の糞のウジ虫は鶏が食べてくれ、結果的にハエも減る。
牧羊犬を訓練し鶏を守るように同居させると、コヨーテは鶏をあきらめてホリネズミをエサとするようになり、夜にはやはりホリネズミを捕食するフクロウも現れる。
果樹園を荒らすムクドリが増えると、彼らを狙ってタカがやって来る。
最初の歯車が噛み合うと、次々と他の歯車が回り始め、やがて巨大な生態系が機能しはじめる。
実はアランは生前にある予言を残していた。
それは「7年目には自然から味方が現れる」というもの。
農園の生態系が充実すれば、その恩恵にあやかろうと、いわゆる害獣・害虫と呼ばれる生物たちが集まって来るが、その次には彼らを捕食するものも出現するということ。
7年目に本当に猛禽類が現れたのには、思わず鳥肌。
アラン凄すぎる。どんな仙人なんだ。
こうして農園という一つの生態系が完成し、命の車輪が回り始める。
全てがバランスした、アプリコット・レーン・ファームのなんと美しいこと。
エデンの園のような理想郷が実在したとしたら、こんな光景が広がっていたのだろう。
しかし、この生態系の中で一番危ういのは人間の役割だろう。
もしも完全な命の循環の中で、人間が特定の何かだけをより多く求めたとしたら、バランスは崩れてしまう。
もっと果実を、もっと肉を、もっと卵を。
おそらくはそれを繰り返した結果、出来上がったのが自然の生態系から大きく外れた現代の文明なのだ。
世界のサスティナビリティが叫ばれる今、人類の進むべき道はどこにあるのか?
仮にこの農場をドームか何かで覆って外界と隔絶させたら、もしかしたら人類が滅びた後も一つの生態系として生き残るのではないだろうか。
自然を愛する二人のはじめた生態系の構築という小さな実験には、我々の文明が抱える大きな問いの答えが隠されているような気がしてならない。
夫のジョン・チェスターが監督を務めているのだけど、もともと動物のカメラマンというだけあって、野生を含め農園に暮らす動物たちの表情がとても素敵。
豚の母さんのエマが、子供を産めなくなってもベーコンにされることなく、農園のマスコットとして大切にされているのはホッとした。
まあ出荷された子豚たちは美味しくいただかれたのだろうけど、バイオダイナミック農法はヴィーガンのための農法とは違うので、これもまた命の循環。
ジョンによると、この8年で育ってきた生態系は目に見えるものだけではないという。
農園の土中には90億以上の微生物が存在し、土壌の免疫システムが作られ、守られている。
それゆえに、アプリコット・レーン・ファームは伝染病などにも強いのだ。
自然の複雑さに驚嘆するばかりだが、緑豊かな農園の風景に癒されるだけでなく、自分たちが食べている食材がいかにして生まれるのか、生態系がどのように回っているのかを学ぶ機会ともなる秀作だ。
今回はアプリコット・レーン・ファームからも程近い、ワインどころサンタバーバラの「ヒッチングポスト ピノ・ノワール ハイライナー」の2016をチョイス。
日本でもリメイクされた呑んべえ映画、「サイドウェイ」で世界的に有名になった。
サンタバーバラでも特級クラスの畑から集められたブレンド・キュヴェ。
程よい酸味とフルーティで複雑な香りが口の中に広がる、ピノ・ノワールの特徴を生かしたブルゴーニュスタイル。
南カリフォルニアの自然の恩恵を凝縮した、まろやかで優しい味わいは、飲む者の心を豊かなにしてくれる。
記事が気に入ったらクリックしてね
きっかけは一頭の犬だった。
殺処分寸前で保護した愛犬トッドの鳴き声が止まず、ロサンゼルスのアパートを追い出されてしまったジョンとモリーのチェスター夫妻が一念発起し、昔からの夢だった農園経営の道に歩み出したのは2010年のこと。
これは二人の経営する「アプリコット・レーン・ファーム」の8年間の記録である。
野生動物を描く番組制作者でカメラマンでもあるジョンと、料理家のモリーが「本当に体に良いものを育てたい」と目指したのは、特定の作物や家畜だけを生産するのではなく、生態系を丸ごと作り上げ自然の恩恵を受け取るバイオダイナミック農法。
人智学のルドルフ・シュタイナーが、伝統的な農法を再解釈し1924年に提唱した循環型の有機農法で、高度に産業化し単作の食物工場となった現代農業とは異なり、農薬や化学肥料は使わず農園そのものを一個の完成した生態系と捉えるのが特徴だ。
ど素人だった二人はバイオダイナミック農法の本を読み漁り、経営企画を立てて出資を募る。
ヘルシー志向の高まりで、オーガニック食材の需要が大きくなっていたこともあり、出資を受けた夫妻が手に入れたのはロサンゼルスの北方、ムーアパークに位置する200エーカー(約900メートル四方)の土地。
柑橘類などが細々と植えられていたものの、溜池はすっかり干上がり、大きな石がゴロゴロ出てくる荒れた土地だった。
夫妻はネットで志を同じくする仲間を募って開墾を始めるのだが、ここで登場するのがバイオダイナミック農法のメンターとなるアラン・ヨークなる人物だ。
彼がまず行ったのは疲れ切った土地の再生だが、その方法が面白い。
当初モリーは果樹園で数種類の果物を栽培しようと考えていたのだが、アランが植えたのはなんと100種類以上の植物。
とにかく農園の植物、動物の多様性を高めてゆく。
そうすれば、やがてそこに独自の生態系が生まれて、車輪が回るように命の循環が始まるというのだ。
そして、そのようにして運営される農園は、産業化した農業よりもむしろ楽なのだという。
これは言わば原始採集生活に近い考え方だ。
完全な生態系が存在すれば、人間はそこで実る収穫だけで生きていける。
わざわざ農薬を撒いたり、害獣を駆除したりしないで済むのだ。
しかし言うは易く行うは難しで、生態系が完成し、勝手に回り始めるまでは人間が力を入れて守ってやらねばならない。
しかも農園のグランドデザイナーたるアランが、志半ばにして病死してしまう。
作りかけの生態系には、毎年のように多種多様な危機が降りかかる。
鶏の産む卵は農園の経済的な屋台骨でもあるのだが、飢えたコヨーテが執拗に襲ってくる。
ムクドリの群れは果樹を食い尽くし、大量発生したカタツムリが樹木を枯らす。
牛の糞からはハエの大群が生まれ、家畜たちに群がって健康を脅かす。
果樹園の地下に掘られたホリネズミの巣も、樹木にとっては大きな脅威だ。
気候変動も悩みの種で、1200年に一度の大干魃が終わったと思ったら、今度は集中豪雨に襲われる。
そしてカリフォルニア名物となってしまった、乾季の山火事。
ここでへこたれて安易に農薬を使ったり、害獣を人力で駆除しても結局はキリがない。
アランという絶対的なメンターを失った夫妻は、今度は自分たちの力で困難を克服しなければならないのだ。
賢者のような目で農園を見つめる犬のトッドに習い、夫妻は農園で起こってることを観察し、自然の声に耳を傾け、命の仕組みを学び、少しずつ解決策を見出してゆく。
カモたちを果樹園に放してみると無数のカタツムリは瞬く間に彼らの胃袋に入り、フンがそのまま肥料となる。
増え続ける牛の糞のウジ虫は鶏が食べてくれ、結果的にハエも減る。
牧羊犬を訓練し鶏を守るように同居させると、コヨーテは鶏をあきらめてホリネズミをエサとするようになり、夜にはやはりホリネズミを捕食するフクロウも現れる。
果樹園を荒らすムクドリが増えると、彼らを狙ってタカがやって来る。
最初の歯車が噛み合うと、次々と他の歯車が回り始め、やがて巨大な生態系が機能しはじめる。
実はアランは生前にある予言を残していた。
それは「7年目には自然から味方が現れる」というもの。
農園の生態系が充実すれば、その恩恵にあやかろうと、いわゆる害獣・害虫と呼ばれる生物たちが集まって来るが、その次には彼らを捕食するものも出現するということ。
7年目に本当に猛禽類が現れたのには、思わず鳥肌。
アラン凄すぎる。どんな仙人なんだ。
こうして農園という一つの生態系が完成し、命の車輪が回り始める。
全てがバランスした、アプリコット・レーン・ファームのなんと美しいこと。
エデンの園のような理想郷が実在したとしたら、こんな光景が広がっていたのだろう。
しかし、この生態系の中で一番危ういのは人間の役割だろう。
もしも完全な命の循環の中で、人間が特定の何かだけをより多く求めたとしたら、バランスは崩れてしまう。
もっと果実を、もっと肉を、もっと卵を。
おそらくはそれを繰り返した結果、出来上がったのが自然の生態系から大きく外れた現代の文明なのだ。
世界のサスティナビリティが叫ばれる今、人類の進むべき道はどこにあるのか?
仮にこの農場をドームか何かで覆って外界と隔絶させたら、もしかしたら人類が滅びた後も一つの生態系として生き残るのではないだろうか。
自然を愛する二人のはじめた生態系の構築という小さな実験には、我々の文明が抱える大きな問いの答えが隠されているような気がしてならない。
夫のジョン・チェスターが監督を務めているのだけど、もともと動物のカメラマンというだけあって、野生を含め農園に暮らす動物たちの表情がとても素敵。
豚の母さんのエマが、子供を産めなくなってもベーコンにされることなく、農園のマスコットとして大切にされているのはホッとした。
まあ出荷された子豚たちは美味しくいただかれたのだろうけど、バイオダイナミック農法はヴィーガンのための農法とは違うので、これもまた命の循環。
ジョンによると、この8年で育ってきた生態系は目に見えるものだけではないという。
農園の土中には90億以上の微生物が存在し、土壌の免疫システムが作られ、守られている。
それゆえに、アプリコット・レーン・ファームは伝染病などにも強いのだ。
自然の複雑さに驚嘆するばかりだが、緑豊かな農園の風景に癒されるだけでなく、自分たちが食べている食材がいかにして生まれるのか、生態系がどのように回っているのかを学ぶ機会ともなる秀作だ。
今回はアプリコット・レーン・ファームからも程近い、ワインどころサンタバーバラの「ヒッチングポスト ピノ・ノワール ハイライナー」の2016をチョイス。
日本でもリメイクされた呑んべえ映画、「サイドウェイ」で世界的に有名になった。
サンタバーバラでも特級クラスの畑から集められたブレンド・キュヴェ。
程よい酸味とフルーティで複雑な香りが口の中に広がる、ピノ・ノワールの特徴を生かしたブルゴーニュスタイル。
南カリフォルニアの自然の恩恵を凝縮した、まろやかで優しい味わいは、飲む者の心を豊かなにしてくれる。

記事が気に入ったらクリックしてね
スポンサーサイト
この記事へのコメント
ノラネコさん
記事と関係ないコメントで恐縮ですが
大変お待たせしました
2010年代映画ベストテンまとめ記事完成しました
リンク先からどうぞ
ありがとうご゛ざいました
記事と関係ないコメントで恐縮ですが
大変お待たせしました
2010年代映画ベストテンまとめ記事完成しました
リンク先からどうぞ
ありがとうご゛ざいました
> 仮にこの農場をドームか何かで覆って外界と隔絶させたら、もしかしたら人類が滅びた後も一つの生態系として生き残るのではないだろうか。
動物がいないんだけど、それはある意味「サイレント・ランニング」のドーム宇宙船。
動物がいないんだけど、それはある意味「サイレント・ランニング」のドーム宇宙船。
2020/05/05(火) 10:03:12 | URL | fjk78dead #-[ 編集]
>ふじきさん
言われてみればw
でもこの農園、永遠に残したいと思うでしょ。
言われてみればw
でもこの農園、永遠に残したいと思うでしょ。
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
アメリカの大都会ロサンゼルスで映画やテレビ番組の制作・監督・カメラマンをしていた夫ジョンと料理家の妻モリーは、殺処分寸前で保護した愛犬トッドの鳴き声がうるさいと言われ、アパートを追い出されてしまう。 郊外へ移り住むことにした夫婦は、200エーカー(東京ドーム17個分)の荒れ果てた農地を農場へと創り上げて行く…。 農業ドキュメンタリー。
2020/03/19(木) 09:19:30 | 象のロケット
◆『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』シネスイッチ銀座1
▲昔のWindowsのデフォルト壁紙みたいな農園。
五つ星評価で【★★★目に優しいドキュメンタリー】
荒れ地を自給自足の小さな生態系が循環する農地へと変えるドキュメンタリー。
成功したかと思えば、失敗に洗われ、
失敗したかと思えば、成功に洗われる。
そのリズムの良さがドキュメンタリーをドラマのように見せている。
元...
2020/05/05(火) 10:03:52 | ふじき78の死屍累々映画日記・第二章
| ホーム |