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ザ・ピーナッツバター・ファルコン・・・・・評価額1650円
2020年04月19日 (日) | 編集 |
人生を変える内海の大航海。

老人養護施設に押し込められている身寄りのないダウン症の青年が、プロレスラーになると言う夢を叶えるために脱走することを決意。
ひょんなことから、シャイア・ラブーフ演じる逃亡中のならず者とバディを組み、筏で海と川を遡りプロレス学校を目指すロードムービーの佳作だ。
共にこれが長編監督デビュー作となる、タイラー・ニルソンとマイケル・シュワルツのリリカルなオリジナル脚本。
全米でわずか17スクリーンでの封切りにも関わらず、週末トップ20位に食い込みロングランヒットとなった話題作だ。
二人を追いかける施設の介護士に、「サスペリア」のダコタ・ジョンソン、他にジョン・ホークス、ブルース・ダーンといった渋いキャストが脇を固める。
風光明媚なノースカロライナの内海の、独特の情景が素晴らしい。

プロレスラーに憧れているダウン症のザック(ザック・ゴッツァーゲン)は、家族に捨てられノースカロライナ州北部の老人養護施設に収容されている。
ある日ザックは、悪役レスラーのソルトウォーター・レッドネック(トーマス・ヘイデン・チャーチ)が、エイデンという街で開設しているプロレス学校で学ぶために施設を脱走。
事件を公にしたくない施設長は、介護士のエレノア(ダコタ・ジョンソン)にザックを見つけて連れ戻すことを命じるが、彼の行方は知れない。
同じ頃、漁師のタイラー(シャイア・ラブーフ)はカニ漁をしている仲間のダンカン(ジョン・ホークス)から獲物を盗んでいたことが発覚し、埠頭に放火してボートで逃亡を図る。
ところが、ボートにはザックが隠れていて、図らずも逃亡者となった二人は、人目を避けるように南を目指す。
二人は逃亡中に筏を手に入れると、追ってきたエレノアも巻き込み、パムリコ湾を超えてエイデンを目指す。
しかし、そこにタイラーを追ってきたダンカンと手下のラットボーイが現れ、銃を突きつけるのだが・・・・・


舞台となるノースカロライナ州の東海岸は、アウターバンクスと呼ばれる南北320キロに及ぶ非常に細長い半島と砂州の島々によって、大西洋の荒波から隔てられている。
内側に位置するパムリコ湾、アルベマール湾は遠浅の海で、パムリコ川、チョーワン川などの河川が流れ込み、鬱蒼とした森林に覆われた非常に複雑な地形をしている。
不慮の病で一家の大黒柱を失った母娘の再生を描いた「パパの木」で、オーストラリアの大自然をスピリチュアルに活写したナイジェル・ブリックのカメラが、どこまでもフラットなアウターバンクスの内側の世界を象徴的に写し取る。
川と海が複雑に混じり合い、時には広大な海に、時には密林の川に、時には葦繁る湖や沼にも見える魅惑的なロケーションは、バラエティに飛んだビジュアルをワクワクする冒険の旅に与えているのだ。

劇中でも言及があるが、内海を舞台に海から川を巡る筏の冒険譚は、アメリカ文学の源流であるマーク・トウェインの小説「ハックルベリー・フィンの冒険」を思わせる。
もともと身寄りのない自由人のハックがザックで、奴隷制からの逃亡者のジムがタイラーである。
この二人が出会い、バディを組んで冒険の旅の起点となるのが、不思議話好きにはおなじみ、かつて植民者全員が謎の失踪を遂げたロアノーク島のマンテオなのも、これがある種のフォークロア的寓話であると考えれば合点がいく。
ただ、19世紀半の小説で、社会性の象徴となったのは逃亡黒人奴隷のジムだったが、21世紀のトランプの時代の物語で、物語の背景となるのはタイラーに代表されるプアホワイトだ。

カニ漁のライセンスを失ったタイラーは、ダンカンの獲物を失敬していたことがバレ、手酷く殴られるのだが、仕返しに彼の装備に放火して逃げる。
物語の中盤でタイラーに追いついたダンカンは、放火の損害額を「1万2千ドル。年間の稼ぎと同じだ」と言う。
平均年収が5万ドルを超える国で、彼らはわずか1万2千ドルの年収を巡り争っているのである。
またザックが憧れているプロレスラーのリングネーム、“ソルトウォーター・レッドネック”も、“海水の田舎者”、つまりは漁師のことだ。
もちろん、漁師にも色々あるので一概には言えないだろうが、ここでは内海でカニをとる漁師という職業がプアホワイトの象徴として使われている。

厳しい現実の中、それでも生きてゆくためには、心で支え合える仲間が必要だ。
主要登場人物三人は、全員が喪失と閉塞を抱えている。
ザックはダウン症ゆえに親に捨てられ、老人ばかりの養護施設に閉じ込められた。
プロレスラー志望だけあって、小柄な体格の割には怪力で健康なのに、社会の事なかれ主義によって自立の道を閉ざされ、自由に生きる権利を奪われているのである。
一方、タイラーは共にカニ漁を営んでいた自慢の兄のマイケルがいたのだが、タイラーの過失による交通事後で亡くなってしまい、贖罪の意識に取り憑かれ生活を立て直せない。
そして当初は二人の逃避行を追う者だったエレノアもまた、若くして夫を亡くした未亡人。
はじめは成り行きでザックを連れていたタイラーは、スパーリングの相手をしながらの旅の間に、ザックを尊敬すべき仲間として受け入れる。
やがてエレノアが二人に追いついた時、長年の親友同士の様な二人を見て、自分がザックを対等な存在として見ていなかったことに気づかされるのだ。

それぞれに家族を失った三人は、ちっぽけな筏の冒険を通してお互いへの共感を強め、プロレスラーになりたいというザックの夢を軸とした疑似家族のような関係となってゆく。
本作は言わば、ジェフ・ニコルズ監督がマーク・トウェイン的な川の文化を背景に、主人公の少年の一夏の成長を描いた「MUD-マッド-」ミーツ、偶然出会った疑似家族の愛と絆の物語をビターに綴った「チョコレートドーナツ」
ついにエイデンにたどり着いた一行が見た世知辛い現実は、ザックの見ているプロレス学校のプロモーションCMが昔懐かしいVHSテープに入っていたことからも想像はついた。
しかしここでもまたザックの存在が、元ソルト・ウォーターレッドネックこと、クリスの眠っていたレスラースピリットに再び火を点ける。
クリスやタイラー、エレノアは喪失にプラスして精神的な閉塞を感じているが、ザックだけは施設に監禁という物理的な閉塞だけだったので、自由になった今は人々の道を照らす光となっているのである。
ハリウッド的な映画のウソに落とし込まず、無理に泣かせようとしない演出もセンス良し。
ザックとタイラーとエレノアは、幸運にも巡り会うことができたが、コロナ禍の殺伐とした世界で支え合い小さな幸せを求めるにはどうすればいいのか。
ジンワリとした余韻の中、思わず人恋しくなってそんなことを考えてしまった。

今回は舞台となるノースカロライナの「トポ エイトオークウイスキー」をチョイス。
ノースカロライナには蒸留所が多くあり、こちらは内陸のチャペルヒルにあるトポ蒸留所のウィスキー。
赤冬小麦100パーセントを原料に、8種のオーク樽を使用して熟成した一本だ。
ボトルを見ると、何やら角材状の物体が沈んでいるのだが、これは樽材の一部を切り出した物だそうで、出荷後の熟成を進める効果があるとか。
口当たりはドライな感じだが、徐々に甘みが出てくるタイプ。
ハイボールのベースにしても美味しそう。

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アメリカ・ジョージア州。 兄を亡くしヤケになっていた漁師タイラーは、とんでもない事件を起こし逃亡中。 一方、老人ばかりの養護施設で暮らすダウン症の青年ザックは、プロレスラーを目指して脱走中。 偶然出会った2人は、ザックを探しに来た看護師エレノアも巻き込み、冒険の旅に出る…。 コメディ。
2020/04/24(金) 01:37:02 | 象のロケット