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ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語・・・・・評価額1800円
2020年06月14日 (日) | 編集 |
女たちの生きる道。

グレタ・ガーウィク、シアーシャ・ローナンという「レディ・バード」の監督・主演コンビが、ルイーザ・メイ・オルコットによる米国文学の不朽の名作「若草物語」を映画化。
ガーウィクは、南北戦争下のマサチューセッツに暮らす、マーチ家の四姉妹の物語を巧みに脚色し、詩情に溢れ21世紀に相応しい視点を持ったフレッシュな作品に仕上げた。
原作は四部作だが、本作で描かれるのはニューヨークで作家修行中の次女ジョーの“今”を起点とした第二部と、四姉妹の輝かしい少女時代を描く第一部がほとんど。
この二つの時代が、時系列を行き来する形で平行に描かれることで、モダンなテーマが導き出されるという構造を持つ。
キャストの素晴らしさは言うまでもなく、撮影監督のヨリック・ル・ソーが紡ぐ美しくリリカルな映像、アカデミー賞を受賞したジャクリーヌ・デュランによる四姉妹それぞれの個性が際立つ衣装デザインなど、テリング面も非常に完成度が高い。
コロナ禍によって日本公開が三ヶ月も延期されていたが、十分に待った甲斐のある傑作だ。

マーチ家の次女ジョー(シアーシャ・ローナン)は作家志望。
ニューヨークで住み込みの家庭教師をしながら、大衆小説を書いている。
しかし、売るために読者に媚びた小説になってしまっていることを、同じ下宿に住む大学教授のフレデリック(ルイ・ガレル)に見抜かれて、意気消沈。
そんな時、マサチューセッツの実家から病気がちの三女ベス(エリザ・スカンレン)の具合が悪いと言う連絡が入り、久しぶりに故郷へ戻る列車に乗り込んだジョーは、懐かしい夢をみる。
それは南北戦争下、マーチ家の女たちが出征した父の留守を守っていた7年前の記憶。
美しい長女のメグ(エマ・ワトソン)、慈愛に満ちた三女のベス、絵が得意でおしゃまな四女のエイミー(フローレンス・ピュー)、そしてボーイッシュで勝気なジョー。
隣家に住むローリー(ティモシー・シャラメ)を加えた5人で、青春を謳歌していた時代の夢。
やがて故郷へと帰り着いたジョーは、すっかり痩せ細ってしまったベスと共に、海辺の街に療養に出ることを決める。
同じ頃、おば(メリル・ストリーブ)の世話係としてヨーロッパへと渡っていたエイミーは、ローリーと思わぬ再会を果たすのだが・・・・


「若草物語」は非常に愛された小説で、過去に映画やテレビドラマ、果ては日本のテレビアニメーションまで何度も映像化されている。
中でも評価が高い1933年のジョージ・キューカー版ではキャサリン・ヘプバーンが、49年のマーヴィン・ルロイ版ではジューン・アリソンが、94年のジリアン・アームストロング版ではウィノナ・ライダーと、常に旬の若手女優がジョーを演じてきた。
本作のシアーシャ・ローナンは、歴代ジョーの中でも後述する物語の視点の違いもあって、一味違ったキャラクターになっている。

基本的なプロットは、原作に忠実。
四者四様のマーチ姉妹の物語を通して、女性の生き方や幸せの意味が描かれてゆくのだが、22歳となったジョーの葛藤を物語の起点としたことがポイント。
彼女は一応作家となったものの、売れるものを欲しがる編集者の言いなりで、クリエイターとして描きたいものを書けていない。
その背景となっているのが、19世紀の女性の置かれた社会環境だ。
映画の中でも繰り返し言われるのが、「女の幸せは結婚にしかない」と言う言葉。
女性は経済的に自立できない。
結婚して子供が生まれても、その子供は夫のもの。
まともに稼げる女性の職業は、女優か売春婦くらいしかない。
そんな風潮に反発するジョーは、ローリーの熱烈な求婚を断ってでも、作家として成功することで家族を含む世間に自分を認めさせようとしている。
そのためには売れるものを書かなければならないのだけど、虚無感は強まるばかり。
一方、幸せな結婚をしたはずの長女のメグは経済的に困窮し、画家を目指しているエイミーも才能に限界を感じ家族の安定のためにも金持ちとの結婚を考えている。
そして、自分よりも他人のことを思いやっていた優しいベスは、重い病で死の淵にある。

今よりもはるかに、女性が自由に生きることが難しかった時代。
四姉妹それぞれが、思い通りにならない人生の現実に翻弄される第二部を物語のベースとし、ジョーを語り部に記憶としての第一部を描く構造とすることで、オルコットが本当に描きたかった物語が見えてくると言うわけ。
本作では基本的に過去の描写は全てジョーの見た夢であり、物語の終盤で彼女が執筆する「若草物語」というフィクションに封じ込まれている。
面白いのは“現在=現実”は冬の季節で寒色基調、戦時下でも家族皆が幸せだった“少女時代=フィクション”は暖かみのある暖色基調で描かれていること。
原作小説がオルコットの自伝的な作品であることはよく知られているが、ガーウィクは物語上のジョーを原作者オルコットと同一視する工夫を取り入れている。
小説のジョーは自分の理解者となったフレデリックと結婚するのだが、本作ではここで物語が二つに分かれる。
一つは「若草物語」を脱稿し編集者と契約交渉をするジョー、もう一つは同じくジョーを主人公とした小説のエンディング。
もちろん前者は寒色で、後者は暖色で描かれている。

ジョーが最初の小説を売り込みに行った時、編集者に言われるのが「女性キャラを出すなら最後は結婚させること。さもなくば殺せ」という当時の娯楽小説のお約束。
オルコット自身は生涯独身を貫いた急進的なフェミニストであり、自由な生き方を模索するジョーが結婚して幸せになるというラストを本当は描きたくなかったはず。
そこで本作はジョーの人生を現実とフィクションに分け、メタ構造とすることで小説のラストはあくまでも出来過ぎたフィクションという扱いにしているのである。
同時に、大人になった四姉妹の迎える経済的な苦境や、著作権を安値で買い取ろうとする編集者とジョーのウィットに富んだ会話を通して、フェミニズムの目指す人生の選択の多様性は、結局女性が自立し経済力を持たねば得られないことを説く。
本作では3人の登場人物が“第四の壁”を越えてスクリーンのこちら側に語りかけてくる描写もあるが、物語を重層的なメタ構造にすることで、作者が本当に意図したであろう原作のその先を描き出したのは見事だ。

それにしてもマーチ家の女優陣凄過ぎ。
キャプテン・シアーシャに率いられるのは、メリル・ストリーブ、ローラ・ダーン、エマ・ワトソン、エリザ・スカンレン、フローレンス・ピューと、ベテランから若手までまさに演技派女優のアベンジャーズ状態。
ティモシー・シャラメをはじめ男性陣も頑張っているけど、この迫力にはタジタジだ。
彼女たちの中では一番知名度の低いベス役のエリザ・スカンレンが地味に素晴らしく、その薄幸の人生が本作の作り出す情感の多くを占めている。
ジョーが「若草物語」を生み出すきっかけとなるのも、彼女との死別なのである。
映画の最後で、ジョーの想いのこもった「若草物語」はとうとう本になるのだが、一冊の本が丁寧に仕上げられてゆく描写と、その作業を見守るジョーの優しい眼差しが、創作物へのリスペクトに満ちていてとても素敵だった。
ちなみに「若草物語」の初版には、映画に出てきた赤色装丁の他にも緑や茶など複数色があるらしいのだが、赤が選ばれているのは、本作の衣装デザインでジョーのキーカラーが赤に設定されているからだろう。

ところで、一大ムーブメントとなった「Black lives matter」の影響で本作と同じ時代を舞台とした「風と共に去りぬ」への風当たりが強くなっているという。
まあスパイク・リーの「ブラック・クランズマン」でも槍玉に上がっていたし、降って湧いた話ではないのだけど、南北戦争前の南部を美化して差別的だとして、配信サービスから消えつつあるとか。
同じ女性の自立を描いていても、今なお愛されリメイクされる「若草物語」とは対照的な扱いだが、これに限ったことではないけど、現在の基準に当てはめて単純に否定して蓋をするより、作品が作られた時代背景や問題点を知らせつつ、アクセシビリティは確保される方が文化として健全だと思うんだけどな。
めちゃめちゃ面白い映画であることは確かだし。

今回はジョーが夢を追うニューヨークの地ビール「ブルックリンラガー」をチョイス。
伝統のウィンナースタイルで作られるこのビールは、禁酒法以前のニューヨークに多く存在した、ドイツ系醸造所の味を復活させるため、1998年に創業した銘柄。
おそらくジョーの時代のニューヨークでも飲まれていたであろう、フルーティで適度な苦みと深いコク、ホップ感を持つ欧州風の一本だ。

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コメント
この記事へのコメント
こんばんわ
女性が書いた原作を女性監督が女性の気持ちを汲み取りながら描いているにもかかわらず、男性が見てもフェミニスト映画特有の疎外感やらが全くなく、逆に凄く見易い。
だから編集長の娘たちが「若草物語」の続きを読みたいと懇願するくだりも含めて、様々な女性が同じ女性の生き方に共感しながら輝いていく様が本当に素晴らしい作品でした。
これは男性監督には撮れない作品ですわ。
2020/06/15(月) 00:28:59 | URL | にゃむばなな #-[ 編集]
こんばんは
>にゃむばななさん
本当にコロナで精神的に疲れ切ってる時だったから、心が洗われました。
これぞ映画の力を感じた作品ですね。
優等生的ではあるのだけど、しっかりと現在性も入って、素晴らしい仕上がりでした。
2020/06/23(火) 22:06:25 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
評判の悪い邦題ですが、見終わった後だと、そう推したかった気持ちも分からなくはない、となる。でも「若草物語」でいいでしょ。「リトル・ウーメン」というのが最悪手なのは間違いないけど。
2020/07/07(火) 10:21:21 | URL | fjk78dead #-[ 編集]
こんばんは
>ふじきさん
実際私の友人もこの映画が「若草物語」だと分からなかったそうで。
邦題もわからないではないんだけど、なんか主客転倒を起こしているように感じちゃったのですよね。
2020/07/09(木) 21:30:02 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
こんにちは
こんにちは。
まあ、フェミニズムっちゃそうも取れるんですけど、時代には抗えないというか。
色々な社会的制約が加わると、もはや古典文学は死滅するしかないですねぇ…。
2020/07/28(火) 16:29:37 | URL | ここなつ #/qX1gsKM[ 編集]
こんばんは
>ここなつさん
「若草物語」は元々フェミニズム文学の括りで語られる作品だから、古典だから現在的に改変されているかと言えばそうでも無いです。
むしろあの時代には書けなかった核心を突いた作劇だと思いました。
2020/07/28(火) 22:21:38 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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19世紀、南北戦争時代のアメリカ・マサチューセッツ州ボストン。 父が北軍の従軍牧師として出征し、マーチ家の四姉妹メグ、ジョー、ベス、エイミーは、優しい母と共に慎ましく暮らしていた。 次女ジョーは、ダンスパーティーで資産家の息子ローリーと出会い惹かれ合うが、小説家を目指すため単身ニューヨークへ渡る…。 ドラマ。
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