2020年09月10日 (木) | 編集 |
青春は、いろいろ痛い。
俳優のジョナ・ヒルの長編監督デビュー作は、「Mid90s ミッドナインティーズ」のタイトル通り、90年代半ばのロサンゼルスを舞台とした青春映画。
13歳の少年スティーヴィーは、シングルマザーの母と兄と三人暮らし。
体格で圧倒的に劣るため、暴力的な兄には虐められているが、それなりに満ち足りた典型的な西海岸の中流家庭だ。
そんなある日、スティーヴィーは街のスケボーショップにたむろする、イケてるスケボー少年たちと出会い、様々な経験をしながら成長してゆく。
主人公のスティーヴィーを「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」のサニー・スリッチ、母をキャサリン・ウォーターストン、兄をルーカス・ヘッジズが演じる。
ジョナ・ヒルと言えば、出世作の「スーパーバッド 童貞ウォーズ」などのコメディ映画の印象が強く、脚本家としても「21ジャンプストリート」というコメディ作品を書いているので、観る前はもうちょっとポップなものを想像していたが、かなりしっとりした作品。
作者が83年生まれだから、90年代半ばに13歳の主人公は彼の分身と言って良いのだろう。
特に大きな事件が起こる訳ではなく、スタンダードの小さな画面に閉塞した、輝かしくもクソみたいな少年たちの日常を描く私小説的な物語だ。
思春期の入り口に立ったスティーヴィーにとって、兄と同世代で3、4歳年上のボーダー少年たちは憧れ。
ちょっと不良っぽいスケボーカルチャーにどっぷりつかった毎日が、大人への通過儀礼となる。
カッコいいスケボーを買うために親の金をくすね、禁止の場所で滑って警察に追い回され、酒とたばこを知り、年上のおねえさんにイケないことをされ、むちゃな技にトライして大けがする。
おとなしい少年の世界が一気に広がり、そのために起こる成長痛。
ストーリーテリングのタッチはノスタルジックだが、甘ったるいわけではない。
13歳の頃にモヤモヤと感じていたことを、大人になった作者が優しく客観視し、物語に落し込んだことで、シングルマザーの母や兄との関係を含めて、味わい深い話となった。
あまり喋らない兄は、スティーヴィーが生まれてから母は変わったと話す。
以前はもっと遊んでいて、家にも男たちが訪れることも多かったという。
このエピソード一つで、母のキャラクターの多面性が浮き彫りになり、おそらくは父親が違う兄が抱いているわだかまりも明らかになる。
スティーヴィーのメンターとなる、それぞれに訳ありの4人のスケボー少年たちもいい。
なんでも全員が著名なスケートボーダーだそうだが、役者としても見事な仕事をしてるじゃないか。
中でも作中でプロを目指している、リーダー格のレイを演じるネイケル・スミスの存在感。
この人はボーダーで、ファッションデザイナーで、ラッパーで、ソングライターという才人なのだが、スティーヴィーが母と大喧嘩した後、「自分が最悪の状況だと思っても、周りを見れば違うと分かる」と諭すように声をかけるシーンは本作の白眉だ。
スケボーカルチャーにドンピシャにハマる楽曲のプレイリスト、時代感を強調する荒い粒子の16ミリフィルム映像など、テリングも丁寧に考えられている。
最近公開された「WAVES/ウェイブス」や「ハニーボーイ」などと同様、本作もまたマジックアワーの情景が素晴らしい。
こう言うのはやっぱ、アメリカのインディーズ映画ならではのテイストだな。
なぜか全作ルーカス・ヘッジズが出てるのも面白い偶然。
そういえばジョナ・ヒルの妹の、ビーニー・フェルドスタイン主演の「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」もマジックアワー映画だった。
今回は、スケボーで乾いた喉を癒したい、南カリフォルニアのクラフトビール「ストーンIPA」をチョイス。
三種類の大量のホップが作り出す、IPAの名に恥じぬ強烈なホップ感と共に、フルーティーで複雑なアロマがウェーブのようにやってくる。
量産メーカーのビールとはハッキリと一線を画する、クールな味わいの一本だ。
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俳優のジョナ・ヒルの長編監督デビュー作は、「Mid90s ミッドナインティーズ」のタイトル通り、90年代半ばのロサンゼルスを舞台とした青春映画。
13歳の少年スティーヴィーは、シングルマザーの母と兄と三人暮らし。
体格で圧倒的に劣るため、暴力的な兄には虐められているが、それなりに満ち足りた典型的な西海岸の中流家庭だ。
そんなある日、スティーヴィーは街のスケボーショップにたむろする、イケてるスケボー少年たちと出会い、様々な経験をしながら成長してゆく。
主人公のスティーヴィーを「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」のサニー・スリッチ、母をキャサリン・ウォーターストン、兄をルーカス・ヘッジズが演じる。
ジョナ・ヒルと言えば、出世作の「スーパーバッド 童貞ウォーズ」などのコメディ映画の印象が強く、脚本家としても「21ジャンプストリート」というコメディ作品を書いているので、観る前はもうちょっとポップなものを想像していたが、かなりしっとりした作品。
作者が83年生まれだから、90年代半ばに13歳の主人公は彼の分身と言って良いのだろう。
特に大きな事件が起こる訳ではなく、スタンダードの小さな画面に閉塞した、輝かしくもクソみたいな少年たちの日常を描く私小説的な物語だ。
思春期の入り口に立ったスティーヴィーにとって、兄と同世代で3、4歳年上のボーダー少年たちは憧れ。
ちょっと不良っぽいスケボーカルチャーにどっぷりつかった毎日が、大人への通過儀礼となる。
カッコいいスケボーを買うために親の金をくすね、禁止の場所で滑って警察に追い回され、酒とたばこを知り、年上のおねえさんにイケないことをされ、むちゃな技にトライして大けがする。
おとなしい少年の世界が一気に広がり、そのために起こる成長痛。
ストーリーテリングのタッチはノスタルジックだが、甘ったるいわけではない。
13歳の頃にモヤモヤと感じていたことを、大人になった作者が優しく客観視し、物語に落し込んだことで、シングルマザーの母や兄との関係を含めて、味わい深い話となった。
あまり喋らない兄は、スティーヴィーが生まれてから母は変わったと話す。
以前はもっと遊んでいて、家にも男たちが訪れることも多かったという。
このエピソード一つで、母のキャラクターの多面性が浮き彫りになり、おそらくは父親が違う兄が抱いているわだかまりも明らかになる。
スティーヴィーのメンターとなる、それぞれに訳ありの4人のスケボー少年たちもいい。
なんでも全員が著名なスケートボーダーだそうだが、役者としても見事な仕事をしてるじゃないか。
中でも作中でプロを目指している、リーダー格のレイを演じるネイケル・スミスの存在感。
この人はボーダーで、ファッションデザイナーで、ラッパーで、ソングライターという才人なのだが、スティーヴィーが母と大喧嘩した後、「自分が最悪の状況だと思っても、周りを見れば違うと分かる」と諭すように声をかけるシーンは本作の白眉だ。
スケボーカルチャーにドンピシャにハマる楽曲のプレイリスト、時代感を強調する荒い粒子の16ミリフィルム映像など、テリングも丁寧に考えられている。
最近公開された「WAVES/ウェイブス」や「ハニーボーイ」などと同様、本作もまたマジックアワーの情景が素晴らしい。
こう言うのはやっぱ、アメリカのインディーズ映画ならではのテイストだな。
なぜか全作ルーカス・ヘッジズが出てるのも面白い偶然。
そういえばジョナ・ヒルの妹の、ビーニー・フェルドスタイン主演の「ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー」もマジックアワー映画だった。
今回は、スケボーで乾いた喉を癒したい、南カリフォルニアのクラフトビール「ストーンIPA」をチョイス。
三種類の大量のホップが作り出す、IPAの名に恥じぬ強烈なホップ感と共に、フルーティーで複雑なアロマがウェーブのようにやってくる。
量産メーカーのビールとはハッキリと一線を画する、クールな味わいの一本だ。

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