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2020年11月01日 (日) | 編集 |
母なるものへの共感。

特別養子縁組制度で息子を授かり、懸命に育てている40代の夫婦のもとに、6年後に突然息子の産みの母を名乗る女性が訪ねて来てお金を要求される。
だが夫婦には、息子が生まれた時に一度だけ会った母性に溢れた少女の記憶と、目の前の変わり果てた姿の女性が同一人物だとはどうしても思えない。
辻村深月の同名小説を、ハンセン病をモチーフにした「あん」の河瀬直美監督が映像化した作品。
現れた女性は本当に少女なのか、もしそうなら一体何が彼女を変えてしまったのか。
映画は深い共感によって母なる存在に寄り添い、子どもの誕生から6年の間に何があったのか、じっくりと二人の母の物語を描き上げてゆく。
不妊に悩む栗原夫婦を永作博美と井浦新が演じ、14歳で妊娠する少女ひかりを「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」で強い印象を残した蒔田彩珠が好演する。
一つの事象を多面から丁寧に捉え、映画的な完成度が非常に高く、河瀬直美のベストだと思う。
※ラストに触れています。

東京のタワーマンションに住む栗原佐都子(永作博美)と清和(井浦新)の夫婦は、長い不妊治療の結果、一度は子どもを持つことを諦める。
そんな時、特別養子縁組の制度を知り、望まない妊娠をした母親のケアをするベイビーバトンというNGOを通じて男の赤ちゃんを授かり「朝斗」と名付ける。
慣れない子育てに悩みつつ、夫婦はだんだんと大きくなる息子の姿に喜びを感じるようになる。
6年後が経った頃、突然朝斗の産みの母の「片倉ひかり」を名乗る女性から、「子どもを返して欲しいんです。だめならお金をください」という電話がかかってくる。
朝斗を引き取った時に一度だけ会ったひかり(蒔田彩珠)は、14歳で産んだばかりの子を涙ながらに佐都子に託した心優しい少女だった。
ところが、夫婦の家を訪ねてきた金髪の女性には、6年前の面影がまったく無かった。
戸惑う二人は彼女に問いかける「あなたは誰ですか?」と・・・・


観る前は、赤ん坊の取り違えを描いた是枝裕和監督の「そして父になる」みたいな、親権をめぐる話かと思っていたが、全く違った。
いやもちろん、「本当の家族とは?親子とは?」という部分は描かれているのだが、父親としての葛藤を描いたあの作品とはアプローチがまったく違うのである。
「そして父になる」の劇中で、子どもの血筋にこだわる福山雅治が「これから成長するにしたがって、子どもはどんどん相手の家族に似てくる。それでも今まで通り愛せますか?」と、相手家庭の妻の真木よう子に問うシーンがある。
すると彼女は「愛せますよ、もちろん。似てるとか似てないとか、そんなことに拘ってるのは、子どもとつながってるって実感のない男だけよ」と即答するのである。
これは実感の無い父親とは違って、産みの母と育ての母、本能的に子どもを愛する二人の母親目線で描かれる物語なのだ。

長年努力はしたものの、夫の清和が無精子症で子どもを欲しても持てない、栗原夫婦の苦悩はじっくり描かれている。
しかし本作の主人公は、蒔田彩珠演じる産みの母のひかりだ。
奈良の田舎に暮らすごく普通の少女だったひかりは、中学生の時にボーイフレンドになった巧と性行為をして、予期せぬ妊娠をしてしまう。
この時彼女にはまだ初潮も来ておらず、まさか妊娠するとは夢にも思わなかったのだろう。
妊娠が発覚したときにはすでに中絶できる期間を過ぎていて、世間体を気にするひかりの家族はベイビーバトンに助けを求める。
彼女の妊娠は隠され、病気療養を理由に広島の離島にあるベイビーバトンの寮に移り、そこで密かに出産することになるのだ。
ベイビーバトンにはそれぞれの理由で子どもを育てられない妊婦がいて、彼女らの境遇がインタビュー風に表現されるのは面白い。
多くの観客にとって、遠い存在である子どもを手放す妊婦一人ひとりにリアリティを与え、様々な形の母の愛を具現化する演出だが、浅田美代子演じる施設を運営する浅見静恵を含め、彼女たちに共通するのがベイビーバトンという小さなコミュニティを離れたら孤独だということだ。

ひかりの場合も、家族やボーイフレンド、一番寄り添って欲しかった人たちは、肝心な時そばにいてくれない。
彼女がベイビーバトンの寮に行く時もひとりだったし、出産するまで誰も訪ねてこない。
それどころか、彼女が妊娠し子を産み、幸せを願って泣く泣く手放したという事実そのものが消し去られてしまう。
まだ中学生の母は、心の中にポッカリと空いた我が子の喪失に、ひとりぼっちで向き合わねばならないのだ。
そして、子を手放しても全てが元どおりにはならない。
ボーイフレンドとは別れ、受験も失敗し、彼女を腫れ物のように扱う家族とも急速に心が離れてゆく。
特別養子縁組で子どもを授かった夫婦の話は、たまにメディアにも取り上げられる。
しかし子どもを手放した母親たちのその後は、殆ど目にすることがない。
本作が描くのは、報道などによって私たちが知り得ることの、そのさらに奥にある一つの真実なのである。

特別養子縁組は、養子となる子どもと生みの親との法的な関係を解消し、新たな親と実子と同じ関係を結ぶ。
望まない妊娠の結果、養育能力のない親のもとで暮らして、虐待やネグレクトの悲劇を出さないようにするために作られた制度だ。
法的な親子関係は切れているのだから、本来ならお金を要求することなど出来ない。
若くして家を出て、一人で暮らさなければならなかったひかりは、そんなことすらも知らないのである。
ところがこの時点で、ひかりが6年間どんな人生を送ってきたのかを知るよしもない佐都子は、現れた女性と過去に一度だけ会った時のひかりの印象のギャップを埋めることが出来ない。
派手なスタジャンに金髪の、見るからにやさぐれた姿に、ただ息子を不良から守りたいという意識が先走り、彼女を追い返してしまうのだ。

二人の母を救い、結びつけるのが、ひかりが出産した時に佐都子に託した手紙。
彼女が書こうとして消した「無かったことにしないで」という言葉が心を打つ。
ひかりは確かに愛する人の子を宿し、十ヶ月の間お腹で育て、痛みに耐えてこの世に産んだ母だったのだ。
その事実を無かったことにしてはいけないのは、今は朝斗の母となった佐都子には痛いほど分かる。
時に実に主観的にドラマチックに、時にドキュメンタリーを思わせる引いたタッチで展開する切実な物語の行き着く先は、母なるもの持つ共感力が導き出す美しく優しい世界だ。
C&Kの主題歌「アサトヒカリ」が、作中ではしつこく感じるくらいに繰り返し使われているのだが、エンドクレジットの最後の最後のある仕掛けに落涙。
いつのもの奈良こだわりを含めて、さすが河瀬直美。
これは男性作家には絶対に撮れない、母なるものの映画だ。

今回は河瀬監督の前作のタイトルにして、本作の主人公の名前から新潟県佐渡の北雪酒造の「純米大吟醸 光」をチョイス。
この蔵はもろみを絞るのではなく、遠心分離する技術を使ったユニークな酒造りをしているところで、「光」はその最高峰にあたる高級酒。
独特の六角形の赤いボトルが美しい。
芳潤で心地よい甘味と旨味が広がり、喉越しすっきり。
非常に軽やかで、なおかつ華のある味わい。
さすがに普段使いはできないけど、たまにはこんな酒も飲みたい。

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コメント
この記事へのコメント
こんばんわ
女性監督が女性を主役にする作品が多い2020年においても、これは本当に素晴らしい。
「なかったことにしないで」もEDロールでの最後の仕掛けも、あれは男性には絶対に描けないものばかり。
特に最後の仕掛けは涙しただけでなく、安堵感も覚えたところが本当に良かったです。
2020/11/09(月) 00:23:29 | URL | にゃむばなな #-[ 編集]
こんばんは
>にゃむばななさん
あーよかったねーっていう母同士の優しさに溢れた最後でしたね。
ここまで強調する必要あるのだろうか?と思ってた主題歌が、最後にガンガンに響いて来て、あの仕掛けで涙がブワッと・・・
2020/11/14(土) 22:57:11 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
こんにちは
こんにちは。
河瀬監督の作品は初見なのですが、非常に繊細で美しい作品だと思いました。
私は女性だからかなのか、作品の根底にある理不尽さについつい憤ってしまったので、ぐっとくるラストシーンにもそれほど涙できなかったのですが…あそこで涙する気持ちは十二分に理解できます。
2020/12/07(月) 11:19:22 | URL | ここなつ #2gmiGI6Y[ 編集]
こんばんは
>ここなつさん
河瀬監督の作品は非常にクセのあるものも多いので、初河瀬には良い作品を選ばれたと思います。
日本は家族の形に関してはまだまだ保守的で、いろいろ理不尽な部分も多いのですが、本作のような作品が変わってゆくきっかけとなればいいですね。
2020/12/11(金) 22:34:13 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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邦画を再び頻繁に鑑賞するようになったのはここ数年のことなので、私は河瀬直美監督の作品はこれまで未見であったことに気付いた。印象としては、芸術性の高い作品。だからといって難解なわけでもなく。本作、ひりひりとした感覚と柔らかな感覚が同居している感じだった。展開も、映像も、時間軸が交差する構成も(ただ、演出についてはちょっとあざといなぁ、と感じる部分があったとは付け加えておく)。そして圧巻は出演者...
2020/12/07(月) 11:15:09 | ここなつ映画レビュー