2020年11月07日 (土) | 編集 |
第33回東京国際映画祭の鑑賞作品つぶやきまとめ。
いくつかの作品は今後本記事を書く予定。
以下は鑑賞順。
新感染半島 ファイナル・ステージ・・・・・評価額1650円
なるほど、ひと言であらわすと「今度は戦争だ!」だな。
せっかく生き残ったのに、利益を求め死地に帰る辺りもアレに似てる。
一作目の「ソウルステーション」と二作目の「新感染」も世界観だけ同じでアプローチは違ったが、4年後を描く本作も全くの別物だ。
家族ものであることは変わらないが、ギュッと凝縮されていた前作に比べると人間ドラマは弱い。
かわりにポストアポカリプトものの色彩が強まり、世界が広がると共にゾンビ以外にも厄介な敵が続々。
アクション活劇としてのバリエーションとスケールは、大幅にパワーアップしている。
泣けるゾンビ映画ではなくなったが、マッドな世界でのヒャッハーな楽しさは増大したし、これはこれで十分面白い。
最後まで人間の醜さをこれでもかと強調する、ヨン・サンホ本来の作家性はむしろこっちだ。
ただファミリー映画の間口としては、今回はギリギリ許容範囲かな。
しかし列車縛りはなくなったんだから「新」は外せばよかったのに。
作品にそぐわないダジャレだけじゃなく、非常に語呂の悪い邦題になっちゃってるじゃないか。
「ファイナル・ステージ」も意味不明だし、前作以上のワースト邦題オブ・ザ・イヤーだな。
トゥルーノース・・・・・評価額1750円
北朝鮮の政治犯強制収容所の実態を、3DCGアニメーションで描く大労作。
主人公は北朝鮮へ戻った在日朝鮮人の家族に設定されているが、多くの脱北者からの聞き取り内容をもとに構成された、見応えたっぷりのドキュメンタリーアニメーションだ。
世界の不可視の場所、もしくはもう破壊されてしまった場所で起こったことを、カリカチュアされたアニメーションで描く試みは過去にも例があるが、時として生身の人間よりも雄弁なことがある。
これもアニメーションだからこそ、よりリアルに普遍的に受け取られるのではないか。
極限状態の中で変わってゆくもの、変わらないもの。
多くの登場人物がいる中で、体制側のキャラクターの描き方が面白い。
Q&Aで、看守たちは着任した時は皆ごく普通の人間だが、だんだんと悪辣になるものと、罪悪感に葛藤するものに分かれるという話が印象的だった。
今この瞬間も、収容所で苦しんでいる人たちがいる。
いつか北朝鮮が世界に開かれる時、かつてのナチスの様に、収容所を無かったことに出来ない様にするための、抑止力としての映画。
サラッと語っていたが、この発想は凄い。
来年の本公開時には、多くの人に観て欲しい秀作だ。
ポゼッサー・・・・・評価額1550円
息子クローネンバーグの第二作。
特殊な機械を使って他人の脳を乗っ取り、遠隔操作して標的を始末すると“宿主”を自殺させる殺し屋の話。
ある任務中、絶対に覚醒しないはずの宿主の人格が抵抗し、思わぬ事態を招く。
前作もそうだったけど、この人パパ大好きなんだな。
二世監督って親とテイストを大きく変えてくる人が殆どだけど、この人はモチーフの選び方を含めてまんま。
しかもパパよりも商売っ気がなくて、アート方向に純化させた様なスタイルなんだもの。
今回のも精神と肉体の関係を巡る話で、いわば息子版「スキャナーズ」なんだな。
模倣に近かった一作目の「アンチヴァイラル」よりもあらゆる点で洗練されているが、どんだけ血を流してもお下品にならないのは彼の個性。
しかしこの路線も面白いけど、7、80年代のパパみたいな俗っぽさがもうちょっと入ると、大化けする可能性もあるんじゃないかなあ。
悪は存在せず・・・・・評価額1700円
力作!
イランの死刑制度にまつわる物語を、表題作を含む四つのエピソードで構成したオムニバス。
本作がユニークなのは、死刑の話なのに死刑囚を描かないこと。
これは知らなかったのだが、イランの刑務所は軍が運営していて、看守は徴兵された若い兵士なんだな。
だから死刑の執行も、彼らにとっては任務であり義務。
戦争でもないのに人を殺すことを強制された時、兵士たちはどうするのか?が問われる。
特筆すべきは作劇で、四つのエピソードは先を読ませず、最初のうちはどう死刑が関わってくのかも不明なままミステリアスに展開する。
それぞれのエピソードは独立しているが、あるエピソードの選択の結果が、他のエピソードに反映されていたり、物語の深みと一体感を作り出す工夫も凝らされている。
サクッと観られるが、印象が軽くなりがちなオムニバス映画で、ここまで重厚に「映画を観た!」という感覚を抱かせるのだから素晴らしい。
しかし大胆なタイトルを含めて、物議を醸しそうな映画だなと思ったら、案の定監督はイラン当局と揉めているらしい。
まあ完全に表現が封じられた社会よりは、まだマシなんだろうけど。
デリート・ヒストリー・・・・・評価額1600円
コメディ作品では珍しくベルリン銀熊賞に輝いた作品だが、なるほどかなり面白い。
フランスの郊外の低所得者むけ住宅地に住む、3人の男女の物語。
バーで出会った男にセックスビデオを撮られ、脅迫された女。
ネットショッピングのやりすぎで、借金漬けになった男。
フランス版ウーバーの運転手で、どんなにサービスしても星一つしか貰えない女。
彼らに共通するのは、ネット社会に翻弄されているところと、金に困っていること。
そして情弱で欲望に弱いダメ人間。
しかし三人は、必ずしも現状に甘んじている訳ではないのだ。
彼らは数年前からフランス全土で吹き荒れているイエロージャケットのデモに参加していて、そのことを誇りに思っている。
意識高い系なのに人生思い通りにならない理不尽さが、彼らを消したい過去に対する、むっちゃアナログな戦いに駆り立てる。
ネットに人生を左右されていても、人生に本当に大切なものは”GAFA “のクラウドには存在しない。
そのことに、ようやくの気付きを得るまでの物語。
ダメダメ三人に、いつの間にか自分を重ねてる愛すべき作品。
スカイライン-逆襲-・・・・・評価額1450円
10年続く楽しいB級SFシリーズ第三弾。
今回は前作から15年後の”ハーベスター”の星が舞台で、圧倒的な敵の力を見せつけた前二作とはだいぶ趣きが異なる。
キャラも少ないし、怪物のバリエーションもあんまり出てこないので、お金は一番かかって無いんじゃないかな。
しかしまあ新しい世界観に慣れてきて、前作のキャラ設定とか思い出してくると、「エイリアン2」から「ピッチブラック」まで、既視感全開でもこれはこれで面白い。
終盤、キャラ全員がそれぞれの因縁の敵と戦うあたりは、結構手に汗握った。
ぶっちゃけかなり雑な映画だけど、SFなのにエンドクレジットのジャッキー映画みたいなNG集とか、役者自身もオファーを受けて驚いたという「あいつ前作で死んだけど、生きてても別にいいよね?」とかのトンデモ展開まで、全編B級マインドMAXなので全て許せちゃう。
とりあえず、本公開ではシネコンのちっちゃなスクリーンが割り当てられそうな作品なので、六本木の9番で観られる機会は貴重だった。
息子の面影・・・・・評価額1600円
メキシコからアメリカへ行くと言い残し、消息を絶った息子を探す母と、アメリカから送還され、母の家へ向かう青年。
対照的な二人の旅が、いつしか交錯する。
はたして息子に何があったのか?生きているのか?
これ、最近公開されたある日本映画にテーマが似ている。
しかし、背景となる社会の違いは凄まじい。
とにかくメキシコ恐ろし過ぎるだろ。
完全に修羅の国じゃん。
自然描写は美しく、基本的には非常に静かに進んでゆく分、そこで起こっていることの凄惨さが際立って見える。
人間が人間として生きられない世界。
物語が帰結する先も、およそ考えうる最も残酷なもの。
もちろん地域差はあるんだろうけど、これじゃいくらトランプが壁を建てても脱出しようとするよ。
動物界並みの弱肉強食社会はイヤだ。
ドーンとヘビーに考えさせる映画だが、全く出口が見えないのも絶望を強く感じさせる。
メコン2030・・・・・評価額950円
10年後のメコン川をモチーフに、流域出身の5人の監督が描くオムニバス。
しかしどれも出来の悪い学生映画みたいなノリ。
一応川は出てくるものの、メコンであることも2030年の時代設定も意味を見出せない。
環境問題をとって付けた様な最初の3本は稚拙過ぎる。
4本目は全く意味不明の典型的マスターベーション。
最後の作品はやりたいことは分かるが、効果的に描けているとは思えず。
正直、どの作品も国際映画祭への出品作品のクオリティに達しておらす、今回のTIFFではダントツのガッカリ作だった
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いくつかの作品は今後本記事を書く予定。
以下は鑑賞順。
新感染半島 ファイナル・ステージ・・・・・評価額1650円
なるほど、ひと言であらわすと「今度は戦争だ!」だな。
せっかく生き残ったのに、利益を求め死地に帰る辺りもアレに似てる。
一作目の「ソウルステーション」と二作目の「新感染」も世界観だけ同じでアプローチは違ったが、4年後を描く本作も全くの別物だ。
家族ものであることは変わらないが、ギュッと凝縮されていた前作に比べると人間ドラマは弱い。
かわりにポストアポカリプトものの色彩が強まり、世界が広がると共にゾンビ以外にも厄介な敵が続々。
アクション活劇としてのバリエーションとスケールは、大幅にパワーアップしている。
泣けるゾンビ映画ではなくなったが、マッドな世界でのヒャッハーな楽しさは増大したし、これはこれで十分面白い。
最後まで人間の醜さをこれでもかと強調する、ヨン・サンホ本来の作家性はむしろこっちだ。
ただファミリー映画の間口としては、今回はギリギリ許容範囲かな。
しかし列車縛りはなくなったんだから「新」は外せばよかったのに。
作品にそぐわないダジャレだけじゃなく、非常に語呂の悪い邦題になっちゃってるじゃないか。
「ファイナル・ステージ」も意味不明だし、前作以上のワースト邦題オブ・ザ・イヤーだな。
トゥルーノース・・・・・評価額1750円
北朝鮮の政治犯強制収容所の実態を、3DCGアニメーションで描く大労作。
主人公は北朝鮮へ戻った在日朝鮮人の家族に設定されているが、多くの脱北者からの聞き取り内容をもとに構成された、見応えたっぷりのドキュメンタリーアニメーションだ。
世界の不可視の場所、もしくはもう破壊されてしまった場所で起こったことを、カリカチュアされたアニメーションで描く試みは過去にも例があるが、時として生身の人間よりも雄弁なことがある。
これもアニメーションだからこそ、よりリアルに普遍的に受け取られるのではないか。
極限状態の中で変わってゆくもの、変わらないもの。
多くの登場人物がいる中で、体制側のキャラクターの描き方が面白い。
Q&Aで、看守たちは着任した時は皆ごく普通の人間だが、だんだんと悪辣になるものと、罪悪感に葛藤するものに分かれるという話が印象的だった。
今この瞬間も、収容所で苦しんでいる人たちがいる。
いつか北朝鮮が世界に開かれる時、かつてのナチスの様に、収容所を無かったことに出来ない様にするための、抑止力としての映画。
サラッと語っていたが、この発想は凄い。
来年の本公開時には、多くの人に観て欲しい秀作だ。
ポゼッサー・・・・・評価額1550円
息子クローネンバーグの第二作。
特殊な機械を使って他人の脳を乗っ取り、遠隔操作して標的を始末すると“宿主”を自殺させる殺し屋の話。
ある任務中、絶対に覚醒しないはずの宿主の人格が抵抗し、思わぬ事態を招く。
前作もそうだったけど、この人パパ大好きなんだな。
二世監督って親とテイストを大きく変えてくる人が殆どだけど、この人はモチーフの選び方を含めてまんま。
しかもパパよりも商売っ気がなくて、アート方向に純化させた様なスタイルなんだもの。
今回のも精神と肉体の関係を巡る話で、いわば息子版「スキャナーズ」なんだな。
模倣に近かった一作目の「アンチヴァイラル」よりもあらゆる点で洗練されているが、どんだけ血を流してもお下品にならないのは彼の個性。
しかしこの路線も面白いけど、7、80年代のパパみたいな俗っぽさがもうちょっと入ると、大化けする可能性もあるんじゃないかなあ。
悪は存在せず・・・・・評価額1700円
力作!
イランの死刑制度にまつわる物語を、表題作を含む四つのエピソードで構成したオムニバス。
本作がユニークなのは、死刑の話なのに死刑囚を描かないこと。
これは知らなかったのだが、イランの刑務所は軍が運営していて、看守は徴兵された若い兵士なんだな。
だから死刑の執行も、彼らにとっては任務であり義務。
戦争でもないのに人を殺すことを強制された時、兵士たちはどうするのか?が問われる。
特筆すべきは作劇で、四つのエピソードは先を読ませず、最初のうちはどう死刑が関わってくのかも不明なままミステリアスに展開する。
それぞれのエピソードは独立しているが、あるエピソードの選択の結果が、他のエピソードに反映されていたり、物語の深みと一体感を作り出す工夫も凝らされている。
サクッと観られるが、印象が軽くなりがちなオムニバス映画で、ここまで重厚に「映画を観た!」という感覚を抱かせるのだから素晴らしい。
しかし大胆なタイトルを含めて、物議を醸しそうな映画だなと思ったら、案の定監督はイラン当局と揉めているらしい。
まあ完全に表現が封じられた社会よりは、まだマシなんだろうけど。
デリート・ヒストリー・・・・・評価額1600円
コメディ作品では珍しくベルリン銀熊賞に輝いた作品だが、なるほどかなり面白い。
フランスの郊外の低所得者むけ住宅地に住む、3人の男女の物語。
バーで出会った男にセックスビデオを撮られ、脅迫された女。
ネットショッピングのやりすぎで、借金漬けになった男。
フランス版ウーバーの運転手で、どんなにサービスしても星一つしか貰えない女。
彼らに共通するのは、ネット社会に翻弄されているところと、金に困っていること。
そして情弱で欲望に弱いダメ人間。
しかし三人は、必ずしも現状に甘んじている訳ではないのだ。
彼らは数年前からフランス全土で吹き荒れているイエロージャケットのデモに参加していて、そのことを誇りに思っている。
意識高い系なのに人生思い通りにならない理不尽さが、彼らを消したい過去に対する、むっちゃアナログな戦いに駆り立てる。
ネットに人生を左右されていても、人生に本当に大切なものは”GAFA “のクラウドには存在しない。
そのことに、ようやくの気付きを得るまでの物語。
ダメダメ三人に、いつの間にか自分を重ねてる愛すべき作品。
スカイライン-逆襲-・・・・・評価額1450円
10年続く楽しいB級SFシリーズ第三弾。
今回は前作から15年後の”ハーベスター”の星が舞台で、圧倒的な敵の力を見せつけた前二作とはだいぶ趣きが異なる。
キャラも少ないし、怪物のバリエーションもあんまり出てこないので、お金は一番かかって無いんじゃないかな。
しかしまあ新しい世界観に慣れてきて、前作のキャラ設定とか思い出してくると、「エイリアン2」から「ピッチブラック」まで、既視感全開でもこれはこれで面白い。
終盤、キャラ全員がそれぞれの因縁の敵と戦うあたりは、結構手に汗握った。
ぶっちゃけかなり雑な映画だけど、SFなのにエンドクレジットのジャッキー映画みたいなNG集とか、役者自身もオファーを受けて驚いたという「あいつ前作で死んだけど、生きてても別にいいよね?」とかのトンデモ展開まで、全編B級マインドMAXなので全て許せちゃう。
とりあえず、本公開ではシネコンのちっちゃなスクリーンが割り当てられそうな作品なので、六本木の9番で観られる機会は貴重だった。
息子の面影・・・・・評価額1600円
メキシコからアメリカへ行くと言い残し、消息を絶った息子を探す母と、アメリカから送還され、母の家へ向かう青年。
対照的な二人の旅が、いつしか交錯する。
はたして息子に何があったのか?生きているのか?
これ、最近公開されたある日本映画にテーマが似ている。
しかし、背景となる社会の違いは凄まじい。
とにかくメキシコ恐ろし過ぎるだろ。
完全に修羅の国じゃん。
自然描写は美しく、基本的には非常に静かに進んでゆく分、そこで起こっていることの凄惨さが際立って見える。
人間が人間として生きられない世界。
物語が帰結する先も、およそ考えうる最も残酷なもの。
もちろん地域差はあるんだろうけど、これじゃいくらトランプが壁を建てても脱出しようとするよ。
動物界並みの弱肉強食社会はイヤだ。
ドーンとヘビーに考えさせる映画だが、全く出口が見えないのも絶望を強く感じさせる。
メコン2030・・・・・評価額950円
10年後のメコン川をモチーフに、流域出身の5人の監督が描くオムニバス。
しかしどれも出来の悪い学生映画みたいなノリ。
一応川は出てくるものの、メコンであることも2030年の時代設定も意味を見出せない。
環境問題をとって付けた様な最初の3本は稚拙過ぎる。
4本目は全く意味不明の典型的マスターベーション。
最後の作品はやりたいことは分かるが、効果的に描けているとは思えず。
正直、どの作品も国際映画祭への出品作品のクオリティに達しておらす、今回のTIFFではダントツのガッカリ作だった

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この記事へのコメント
こんにちは。
この中では、「トゥルー・ノース」「デリート・ヒストリー」「息子の面影」を観ました。
当方の感想はゆっくりとぼちぼちと書いていくつもりですが、ノラネコさんのレビューを拝見しにまたお邪魔させてくださいね。
この中では、「トゥルー・ノース」「デリート・ヒストリー」「息子の面影」を観ました。
当方の感想はゆっくりとぼちぼちと書いていくつもりですが、ノラネコさんのレビューを拝見しにまたお邪魔させてくださいね。
>ここなつさん
今年はやっぱ祭りと名のつくものには腰が引けて、同時開催になったフィルメックスはお休み、TIFFも8本だけでした。その割には結構いい作品が多くて良かったです。
今年はやっぱ祭りと名のつくものには腰が引けて、同時開催になったフィルメックスはお休み、TIFFも8本だけでした。その割には結構いい作品が多くて良かったです。
2020/11/19(木) 14:31:34 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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