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罪の声・・・・・評価額1750円
2020年11月08日 (日) | 編集 |
本当の罪人は誰なのか。

1984年から85年にかけて日本中を震撼させた劇場型犯罪、グリコ・森永事件をモチーフとした重量級の人間ドラマ。
現実の事件は全ての公訴時効が成立し、未解決のまま完全犯罪となったが、犯人グループの要求を伝える電話に子どもの声のテープが使われていたという事実から、フィクションの翼を広げ、驚くべき深度を持った作品に仕上げている。
ひょんなことから、テープに自分の声が使われていたことに気付いた平凡な男を星野源、社会部の記者をドロップアウトしたのに、過去の事件を追うことになる新聞記者を小栗旬が演じる。
運命に導かれるように二人が出会ったことにより、事件に翻弄された人々の本当のドラマが幕を開けるのである。
監督は、私的平成で一番泣ける映画「いま、会いにゆきます」の土井裕泰が務め、脚本は今や押しも押されもせぬヒットメーカーとなった野木亜紀子。
この二人のコンビで面白くない訳がないのだが、今年の邦画豊漁を象徴するような傑作だ。
※核心部分に触れています。

平成が終わろうとしている頃、京都で父親から受け継いだテーラーを営む曽根俊也(星野源)は、押入れの奥に仕舞われていた荷物の中から一本のカセットテープを見つける。
聞いてみると、それは何かの文章を読んでいる幼い頃の自分の声だった。
気になって内容を検索すると、それは昭和最大の未解決事件とされる、30数年前に起こったギンガ・満堂事件で犯人グループが使った脅迫テープだと分かる。
自分の声が犯罪に使われていた。真面目一徹だと思っていた父が、犯人だったのか?
ショックを受けた俊也は、密かに当時の家族の交友関係を調べ始める。
同じ頃、大日新聞大阪本社で文化部に所属する記者の阿久津英二(小栗旬)は、突然イギリス行きを命じられる。
彼は英語力を買われて、ギンガ・満堂事件の企画記事を作るチームのメンバーとなったのだ。
この事件は、前年にオランダで起こったビール会社社長の誘拐事件と酷似しており、当時誘拐事件を執拗に調べていた中国人を探すのが任務だった。
しかし、該当する人物は見つからず、帰国した英二は仕手筋などをあたるも、取材は難航する。
そんな時、犯人グループが会合を開いたという料理屋を訪れた英二は、直前に同じ話を聞きにきた男がいたことを知るのだが・・・・


映画の両輪であるストーリーとテリング、このどちらもが非常に丁寧に作り込まれている。
膨大な情報量を持つ脚本は細部まで綿密に計算されているし、決め込まれた映像にもスケール感があり、星野源と小栗旬をはじめ、宇野祥平や梶芽衣子らのキャスティングは完璧と言っていい。
どこから眺めても、痒いところまで手が届くように作られているのである。
「ギンガ・満堂事件」と名前は変えてあるものの、劇中で35年前に起こったとされる事件全体の流れは、現実のグリコ・森永事件とほぼ同じだ。
私は当時10代だったのだが、本作を観ているとどんどん記憶が呼び起こされて、「あーそうそう、そうだった」と映画のディテールが現実と一致してくるのだ。
グリコ社長の誘拐から始まって、青酸ソーダ入りの菓子がばら撒かれ、スーパーからグリコ・森永が消えた。
そして謎のキツネ目の男の目撃、本作の重要なモチーフとなった子どもの声の脅迫テープに、大捜査の末の空振りの数々。
このしっかりと作り込まれた再現ドラマ的な過去描写が、本作のリアリティを深めているのは間違い無いだろう。

しかし、本作はグリコ・森永事件の真実を探す物語でない。
事件に子どもの声のテープが使われていたことは、当時から知られていた。
おそらくは犯人グループの関係者の子弟なのだろうが「その子たちは、今どこで何をしているのだろう?」と、意外なところが着眼点。
幼い年齢ならば自分が事件に関与したことを知らないかもしれないし、仮に知っていたとしたら、事件の記憶は子どもたちの人生にどんな影響を及ぼしたのか。
本作はこの疑問を起点に、あくまでもフィクションとして物語を展開してゆく。
犯人探しはメインではない。
何しろ主人公である曽根俊也が声の主なのだから、少なくとも犯人のうちの一人は、彼の親族か親しい友人以外ではあり得ない。
映画の前半は、自分の声が使われたことを知った俊也が、少しずつ両親の交友関係から事件の関係者を探り当ててゆくプロセスと、新聞記者の阿久津英二がロンドンから始めて別ルートから事件の真相を探るプロセスが並走する。

そして中盤で二人が出会うと、それまでの点と点が徐々につながり、事件の全貌が見えてくるのだ。
本作は昭和から平成の30数年間を追いかけ、一つの犯罪がなぜ起こり、どんな影響を与えてゆくのか、本当の罪とは何かを描き出してゆく。
フィーチャーされるのは、犯人グループが事件を起こした動機と、脅迫に使われたテープの声の主が辿った人生だ。
本作では、テープに声が使われたのは三人。
一人は当時5歳だった俊也で、声紋鑑定の結果あとの二人はもう少し歳上の少年と、10代の少女だったと分かってる。
幼かった俊也は、テープを見つけるまでは声をとられたこと自体を忘れていたが、事実を知って激しくショックを受けた。
ならば、俊也よりも歳上だったはずの二人にとっては、自分の声が犯罪に使われたことの影響はずっと大きかったはず。
ここからは完全なフィクションのはずなのだが、緻密なディテール描写のおかげで、まるでこれがグリコ・森永事件の真相なのではと錯覚するほどのリアリティ。

80年代に起こった事件そのものだけでなく、さらに時代を遡り60年代の学園闘争まで広がってゆく作劇には驚いた。
映画の終盤で、事件に決定的に関与した人物が二人とも、当時の心境を「奮い立つ」という表現で語るシーンがある。
二人は学生の頃、社会の理不尽に対して戦い、敗れた。
そして大人になった時に巡って来た、社会や権力に対する復讐のチャンス。
それこそが、十数年後に新たな事件を引き起こした動機だというのである。
しかし、大企業を苦しめ、警察権力を翻弄した二人は溜飲を下げたかもしれないが、知らぬ間に犯罪に利用され、加担してしまった声の主たちを深く傷つけ、人生をめちゃくちゃにしてしまったことには気付かない。
全てのピースがはまった時に浮かび上がってくるのは、巻き込まれた子どもたちの悲しき慟哭であり、大人たちが犯した未必の故意こそ、彼らに一生続く呪いを背負わせた真の罪。
さらに、罪を犯した世代の因縁はその上の世代から続いていたことも明らかになり、ある意味昭和史の暗部として捉えられている。
この視点は新左翼運動の欺瞞を糾弾し、今に続く日本社会の内向化、幼児化の原点として描いた「マイ・バック・ページ」を思い出したのだが、本作が下すあの世代に対する評価も非常に辛辣だ。

本作はまた、報道する側される側が、ある種の友情で結ばれる物語でもある。
報道される側の複雑な葛藤を秘めた星野源が素晴らしく、考え抜かれた台詞の数々がグサグサ刺さってくる。
一方、報道する側である小栗旬演じる英二は、優しすぎるために一度は新聞記者の本流をドロップアウトするが、物語を通して過去の隠された真実を見つけ出し、明らかにすることの意義に目覚め、記者としての矜持を取り戻す。
これは当時事件を報道したテレビ局製作の作品ゆえ、自らの報道姿勢に対する総括の意味もあるのだろう。
史実との距離感が絶妙で、実に映画的に“物語”の素晴らしさを堪能出来る作品だった。

今回は舞台となる京都の地酒、増田徳兵衛商店の「月の桂 純米酒」をチョイス。
純米酒らしい適度な香りと旨味、酸味のバランスがよく、澄んだ仕上がり。
喉越し爽やかで冷酒でも燗でもうまい。
クセの無いすっきりとした味わいはシチュエーションを選ばない。

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コメント
この記事へのコメント
重厚
ノラネコさん☆
事実とフィクションを絶妙に配置して、実にリアリティーのある作品になっていましたね。
小栗旬が番宣で「取材した記者の方は、ほとんどが報道できないものばかりだったと言っていた」と話していて、案外「本当の」部分を映画にしているかも?と思ったりもしました。情報量も多いのに整理整頓されていて物語に厚みがありました。
役者たちが皆さん素晴らしかったです!
2020/11/09(月) 00:26:09 | URL | ノルウェーまだ~む #gVQMq6Z2[ 編集]
こんばんは
>ノルウェーまだ~むさん
本当に、この映画は普通私たちが目にする事件報道の奥にあるものを見せてくれますよね。
映画のストーリーが事実に近いかは別として、表に出てくるのは起こったことのほんの一部に過ぎないのだなと感じます。
全く違った作品ですが、その意味では「朝が来る」も報じられない部分を見せてくれる作品でした。
2020/11/14(土) 23:00:34 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
> 星野源と小栗旬をはじめ、宇野祥平や梶芽衣子らのキャスティングは完璧と言っていい。

橋本じゅんが余りに自然にうっかりするので、うっかり着いちゃったりしないよなとちょっと心配した。そして、宇野祥平が凄かった。本当にそういう人生を歩んだ人を連れてきたみたい。
2020/11/14(土) 23:34:32 | URL | fjk78dead #-[ 編集]
こんばんわ
実話の映画化と言われても、綿密に調査をして作り上げた作品だと思ってしまうくらいに、リアリティのある丁寧な造りの映画でした。
しかも自分の子供の頃の事件をモチーフにしているだけに、どこか昔の感情が少しだけですが蘇ってくると、俊也や総一郎、望の感情がより伝わってくるんですよね。
だから思ってしまいます。モチーフとなった本当の事件では、こんな不幸なことがありませんようにと。
2020/11/15(日) 00:05:14 | URL | にゃむばなな #-[ 編集]
こんばんは
>ふじきさん
宇野翔平は演技賞もんでしょう。
割と素の印象が強い人だからちょっと驚きました。

>にゃむばななさん
実話と錯覚するくらい徹底的に作り込んでますよね。
観ているうちに、現実のグリコ森永もこれに近いんじゃないかと思えてくる。
声の子供たちは、映画と違って幸せになれていると良いなと思いました。
2020/11/19(木) 14:24:33 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
こんにちは
こんにちは。
誰もが知っている事件を、一旦は前線を外れたジャーナリストと、子供の時知らない内に自分の声を使われていた男が探る内に協業していくという展開がとても良かったです。
派手過ぎない配役も好みでした。
2020/12/08(火) 16:33:53 | URL | ここなつ #2gmiGI6Y[ 編集]
>ここなつさん
これは筋立ての妙を味わえる傑作でした。
着想も面白いし、もしかしたら現実もこうだったのでは?と錯覚させるほどのリアリティ。
役者も素晴らしかったですね。
2020/12/11(金) 22:36:56 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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