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Mank /マンク・・・・・評価額1750円
2020年11月28日 (土) | 編集 |
歴史は、ウソで作られる。

「ゴーン・ガール」以来6年ぶりとなるデヴィッド・フィンチャーの最新作は、父のジャック・フィンチャーが残した遺稿をもとに、「市民ケーン」の脚本家として知られるハーマン・J・マンキーウィッツ、通称“マンク”を描いた作品だ。
映画は「市民ケーン」執筆中のマンクと、いかにして彼がこの作品を着想したのか、虚実を取り混ぜ、時系列を行きつ戻りつしながら、30年代のハリウッド史を紐解いてゆく。
モノクロ撮影技法に「市民ケーン」へのオマージュをにじませ、皮肉屋でウィットに富むマンクの目を通し、虚飾の街ハリウッドを描き出す。
タイトルロールをゲイリー・オールドマンが好演。
およそ80年前に作られた、映画史上のマスターピースをモチーフに、現在のアメリカが見えてくるという、いかにもフィンチャーらしい、トリッキーな構造を持つ傑作だ。
※核心部分に触れています。

脚本家のハーマン・J・マンキーウィッツ(ゲイリー・オールドマン)は、RKOと契約した若き天才、オーソン・ウェルズ(トム・バーク)の新作のために、脚本執筆を任される。
アルコール依存症に苦しみながら、郊外の一軒家にカンヅメとなったマンクの頭には、ある人物のことが浮かんでいた。
それはマンクの友人でもあり、当時のハリウッドで絶大な権力をふるっていた新聞王ウィリアム・ハースト(チャールズ・ダンス)と、彼の愛人で女優のマリオン・デイヴィス(アマンダ・セイフライド)のこと。
ハーストはマリオンをスターにするために、わざわざ映画会社を設立してまで売り出していたが泣かず飛ばず。
二人に気に入られたマンクは、頻繁にサン・シメオンにある”ハースト・キャッスル“に招かれて親交を深めていった。
しかしマンクには、ハーストをモデルとした映画を構想するきっかけとなる記憶があった。
それは1934年のカリフォルニア州知事選挙の結果起こった、衝撃的な事件だった・・・・


オーソン・ウェルズの代表作で、しばしば世界映画史上のベストワンにも名が挙がる「市民ケーン」は、孤独な新聞王チャールズ・フォスター・ケーンが、荒れ果てた城“ザナドゥ”で「rosebud(バラのつぼみ)」という謎めいた言葉を残して死ぬところから始まる。
ケーンの生涯を描くニュース映画を制作していた記者トンプソンは、彼の愛人だったスーザン・アレクサンダーをはじめ、若い頃から晩年までのケーンを知る人々に取材してゆくのだが、結局だれも「rosebud」の意味を知らない。
実は「rosebud」とは、ケーンが幼いころ持っていたソリのこと。
正確には、大人になってから買った、新品の紛いものの名前。
望むものを総て手に入れた大富豪が、最期に思い出したのが、何も持っていない無垢なるころの記憶で、それすら紛いもので満たすしかなかった、という切ない寓話だ。

脚本の初稿完成までに与えられた時間は60日。
本作は交通事故で足を骨折し、身動きがとれないまま脚本執筆のためにカンヅメにされる1940年のマンクを“現在”とし、彼がこの映画史に燦然と輝く名作をいかにして書くことが出来たのか、30年代初めからの数年間を回想しながら描いてゆく。
その過程で、ケーンのモデルとなったウィリアム・ランドルフ・ハーストをはじめ、愛人のマリオン・デイヴィス、MGMのドン、L・B・メイヤー、夭折の天才プロデューサーのアーヴィング・タルバーグ、後に「イヴの総て」を撮るマンクの実弟ジョセフ・L・マンキーウィッツなど、30年代ハリウッドのオールスターズが次々に登場する。
映画史好きにはたまらない、ゾクゾクする顔ぶれだ。

名作誕生の背景となったのが、1934年のカリフォルニア州知事選挙だったというのが面白い。
大恐慌の影響が色濃く残り、当選したばかりの民主党のフランクリン・ルーズベルト大統領が、政府が積極的に市場介入する“社会主義的な”ニューディール政策を推し進めている時代。
アメリカの二大政党は、現在では民主党=リベラル、共和党=保守という枠組みになっているが、19世紀までは真逆。
徐々に政策と支持層が入れ替わり、30年代のルーズベルトによるニューディール政策と、60年代のリンドン・ジョンソンによる公民権法の制定によって、保革の色分けが決定的となった。
34年の州知事選挙では、社会主義者の小説家アプトン・シンクレアが民主党から出馬。
富の分配を主張する彼の政策に、ハリウッドの権力者たちは戦々恐々となり、シンクレアが当選したらスタジオをフロリダへ移すと表明し揺さぶりをかけ、ハーストらの保守系メディアは結託して徹底的な反シンクレアのキャンペーンを張る。

その中にはいわゆるフェイクニュースも含まれていて、映画会社が俳優を使って有権者の声を捏造していたのである。
ジャック・フィンチャーによる脚本は1990年代に書かれたそうだが、映画の中の選挙戦はまるで今年の大統領選を見ているようで、アメリカはずーっと同じことを繰り返しているのだなあと、変な意味で感慨深い。
映画の中では、マンクの友人であるテストショットディレクターのシェリー・メトカーフが、監督への昇格を餌にフェイクニュースを作らされ、結果的にシンクレアが共和党のメリアムに敗れたことで、良心の呵責に耐えかねて自殺してしまう。
この事件がマンクの中で、「市民ケーン」執筆の重要な動機になるのだが、実はメトカーフは架空の人物で、モデルとなった実際にフェイクニュースを作った人物は天寿を全うしている。
また、本作のマンクはシンクレアにシンパシーを抱いている社会主義者として描かれているが、現実のマンクの政治的な立場は明らかになっていない。
彼自身は組合にも入っておらず、政治的には中道保守だったようだ。
ただ、劇中で語られるナチスに迫害されたユダヤ人の支援活動などは実際にやっていたことで、社会正義には敏感だったのは事実だろう。

34年の選挙とともに、マンクがハーストに抱いている感情を変化させるのが、「オルガン弾きのサル」という寓話だ。
ハースト・キャッスルでの宴の最中、泥酔し「市民ケーン」のひな型となる「現代のドン・キホーテ」の企画を語るマンクに、自分の話だと気づいたハーストがふつふつと怒りを募らせながら語るのがこの話。
オルガン弾きのサルは、きれいな衣装を着て街の人気者だが、いつの間にか人間のペットで、金を稼ぐ道具に過ぎないということを忘れて、自分が主役だと思い込む。
要するに「お前はサルで、俺たち人間(パトロン)に食わせてもらっているのだから、調子にのるなよ」という脅しである。
だから「市民ケーン」は、自らをペットのサル扱いしたハーストに対して、マンクが対等な立場であることを証明した作品でもある。

もっとも、この映画はあくまでも、「マンクは、どうやってあの名作を書けたのだろう」という疑問から、ジャック・フィンチャーが想像の翼を広げたフィクションだ。
だから実際に映画と同じだったわけではないだろが、いくつもの出来事を通してマンクの中に芽生えた権力への虚無感は、友人だったはずのウィリアム・ハーストとマリオン・ディヴィスを露骨にモデルとした、一本の映画として結実する。
完成した「市民ケーン」を起点に、創作者の頭の中で何がどう繋がって、斬新なものが生み出されるのか、そのプロセスこそが見どころであり、刺激的だ。
現実のハーストがフィクションのケーンに落とし込まれた様に、現実世界を捻じ曲げるフェイクニュースの罪を、フィクションという別のウソで描き出すシニカルな構造も、皮肉屋マンクには相応しい。
彼がRKOと契約した時に、クレジットに載せない、つまりはウェルズのゴーストライターとして執筆するとなっていたのに、いざ書き上げてみるとあまりの出来の良さに欲が出るあたりも映画業界あるあるだが、本作は様々な問題を抱えたマンクが壁を乗り越えて、ライターとしての矜持を取り戻す物語にもなっているのである。

本作はフィンチャーらしい、捻りの効いた歴史劇だが、彼の代表作である「ソーシャル・ネットワーク」も、全てを手に入れたはずの大富豪が、実は一番欲しかったものを失っているという物語の構造と虚無感が、「市民ケーン」と奇妙に共通しているのが興味深い。
そう言えばあの映画もアカデミー賞で本命視されながら、結果的には脚色賞他三部門の受賞に止まったあたりも通じるものがある。
しかし、2時間11分に詰め込まれた情報量がとんでもなく膨大な上に、全く説明要素がないので、ある程度の映画史と米国史の知識は必須。
次々と登場しては消えてゆく登場人物に「これ誰?あれ誰?」と置いていかれないために、少なくともハーストとハリウッドの関係、34年の知事選については予習した方がベター。
「市民ケーン」を観てることも一応前提にはなってるが、これに関してはどっちが先でも良いと思う。

今回は、「ソーシャル・ネットワーク」にも合わせた「ミリオネアー」をチョイス。
ラム15ml 、スロー・ジン15ml、 アプリコット・ブランデー15ml、 ライム・ジュース15mlまたは1個 、グレナデン・シロップ1dashをシェイクしてグラスに注ぐ。
名前はアレだが、実際には適度なライムの酸味が心地良い、スッキリとした飲みやすいカクテルだ。
それにしても、世の中のミリオネアーのうち、どのくらいの人が本当の幸せを手にしているのだろうな。

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