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アンダードッグ 前編/後編・・・・・評価額1700円
2020年12月19日 (土) | 編集 |
負け犬、最後の意地。

「百円の恋」の監督・武正晴、脚本・足立紳コンビによる、ボクシング映画の新たな金字塔。
一発のパンチで日本チャンピオンを逃し、輝けなくなったベテランボクサーと、過去の罪を引きずる若きライジングスター、TVの番組企画でプロライセンスを取得した笑えないお笑い芸人、三人のプロボクサーの物語
物語の軸となる元日本ランク1位の末永晃に森山未來、彼に憧れる新人ボクサーの大村龍太に北村匠海、お笑い芸人の宮木瞬を勝地涼が演じる。
前後編合わせて4時間36分に及ぶ大長編だが、完全な続きものなので間違っても後篇だけ先観ちゃうとかしないように。
前編・後編を二作続けて観ないと意味がない。
ABEMAプレミアムでの配信が前提となっていて、そちらは再構成され全8話となるそうだ。

プロボクサーの末永晃(森山未來)は、かつては日本ランク1位にまでなった元スター選手。
だがチャンピオンを賭けた試合で劇的なKO負けを喫して以来、不遇の生活を送っている。
妻の佳子(水川あさみ)と息子の太郎(市川陽夏)とは別居し、ずるずると続けているボクシングでは、噛ませ犬状態。
普段は幼馴染の木田五郎(二ノ宮隆太郎)が経営するデリヘルで、運転手として働いて食いつないでいる。
近所のジムに通うプロ志望の大村龍太(北村匠海)には慕われているが、練習にも身が入らない日々。
大村のプロテストと同じ日、お笑い芸人の宮木瞬(勝地涼)が番組企画でテストを受けて合格。
テレビ放送される、4ラウンドのエキシビションマッチの話が持ち込まれる。
自暴自棄になっていた末永は、“引退試合”として金のためにオファーを受けるのだが、それは末永を更なるどん底へと突き落とす悪魔の誘いだった・・・・


ボクシングが題材で配信前提の前後編というと、寺山修司の小説を岸善幸が映画化した「あゝ、荒野」が記憶に新しい。
しかし題材が同じでも、両作のアプローチは全く異なる。
オリンピック後の近未来を舞台とし、きわめて社会性の強かったあの映画に対して、こちらはあくまでもパーソナルな闘う理由に拘った作り。
これは”終わらせ方”に関する物語で、主人公の末永はタイトル戦を落とした後も、ずるずるとボクシングを続け、いつに間にかロートルの“アンダードッグ=噛ませ犬”に身を落としている。
明日をも知れぬ生活を送り、妻にはとっくに見捨てられていて別居状態。
息子の太郎だけは、ダメダメな父親の昔のビデオを見て、「すごい」と言ってくれるので、彼の期待には少しでも応えたいと思っている。
でも、いいところを見せようと足掻けばあがくだけ空回り。
末永には、もはや自分が何のためにボクシングを続けているのかも、どう終わらせていいのかも分からないのだ。

そんなドン詰まりの主人公の葛藤に、前後編で異なる理由で彼と戦うことになる二人の若者が、解決のためのヒントをくれる。
前編のクライマックスとなるのは、お笑い芸人の宮木瞬とのエキシビションマッチだ。
もともと売れない芸人の、苦し紛れの一発芸。
いくら過去の人とは言え、実戦で元日本ランク1位とまともに闘えるとは、誰も思っていない。
末永は番組のために宮木に見せ場を作るという八百長行為を受け入れるのだが、チャラけた企画の裏で宮木は人知れず死に物狂いの努力を重ねているのだ。
いざエキシビションマッチが始まると、末永は何度もダウンしてもその都度起き上がり、鬼の形相でかかってくる宮木をKOすることが出来ない。
見せ場を作ってやるどころか、危うく自分がKOされそうになってしまうのだ。
芸人としての才能のなさを痛感していた宮木は、この試合を最後に芸人引退を決めていて、”最後まで立っている”ことにすべてをかけている。
好きなものをやめることの難しさ、自分をどう納得させるのかはボクシングに限った話じゃないが、その覚悟を決めた宮木を末永はなめていたのである。

映画の前編は閉塞する末永、駆け上がる大村、覚悟を決めた宮木、三人のボクサーの生きざまを縦糸として進み、後篇になると今度は末永の周りにいる人たちのエピソードが横糸として描かれてゆく。
この映画に出てくる人物は、全員が何かを終わらせることを迫られている。
ボクシングの咬ませ犬だけでは当然食えないので、末永は普段幼馴染の木田五郎が経営しているデリヘルで運転手をしているのだが、近所に出来た競合店に女の子を引き抜かれ、経営的にはもはや風前の灯。
彼はいつ、どうやって店を閉めるかをずっと迷っている。
瀧内公美が演じるデリヘル嬢の明美は、男運に恵まれずDV男に暴力を振るわれているが、自分もイライラをつのらせて幼い娘に手を出してしまっている。
彼女は、いつかわが子を殺してしまうのではないかと恐れ、いかにして今の生活を終わらせるかを悩んでいる。
また明美の客である田淵は、過去のある事件によって車椅子となり、引きこもり生活。
彼は自分をこんな体にした者を呪い、復讐を終わらせなければならないと思っている。

彼らに共通するのは、全員が負け犬のようなクソみたいな人生を送っているのに、心のどこかで終わらせるのを恐れていること。
ボクシングだろうが、デリヘルだろうが、それが日常になってしまったら、日常を失うのは不安で恐ろしい。
それが僅かでも好きなことであれば、諦めるのはなおさら辛いのだ。
そして、物語の横糸がだんだんと縦糸と絡み合って繋がってゆき、プロデビュー後にライジングスターとなっていた大村にも、思わぬ形で終わりがくる。
因果応報の形でボクサーとしては致命的な負傷をし、あと1試合しかできなくなった大村は、自分の引退試合の相手に、ボクシングを始めるきっかけとなった末永を指名する。

前編のVS宮木戦が素晴らしい出来だったので、はたしてあれを超えられるのか?と疑問だったのだが、ボクシングというよりも喧嘩に近かった泥臭い宮木戦とは対照的な、退路を断ったプロ同士の素晴らしく熱血な死闘が展開する。
いやもちろん演技なんだけど、演出の助けがあればここまで肉体に説得力を持たせられる役者ってスゲーなと素直に思わされる。
数あるスポーツ映画の中でも、ボクシング映画には名作が多いが、本作のファイトシーンは特に熱く、手に汗握ってしまった。
このクライマックスは、それぞれの理由でどん底まで転落した人々が、復活へむけて歩み出す象徴として描かれていて、ダメダメだけど足掻き続ける人間たちに対するディープな愛情と、ドンと背中を押すようなパワフルなエールがスクリーンから迸る。
そしてやっぱり、本当に好きなものから完全に足を洗うのは難しい。
後編のエンドクレジット中のあるシーンは、そのことを端的に表現しているのだが、山を乗り越える前と後では、再チャレンジの意味も違ってくる。
諦めの悪い負け犬たちのドラマを堪能するためにも、本作は前編の熱気が冷めないうちに後編を鑑賞して欲しい。

今回は、小山本家酒造の「丸眞正宗 純米吟醸」をチョイス。
東京23区内に唯一残った酒蔵、北区赤羽の小山酒造が醸造していた江戸っ子の銘柄だったのだが、2018年に惜しまれつつ廃業。
その後、親戚筋にあたる埼玉の小山本家酒造が引き継いだ
庶民の酒だけあって、コスパも高く辛口でさっぱりとした飽きのこない味わい。
適度な吟醸香と米の旨みも感じられ、とても飲みやすい。
赤羽のおでん屋、丸健水産にはこのワンカップを、おでん汁で割った有名なメニューもある。
冷えた体を温めるにはピッタリの一杯だ。

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コメント
この記事へのコメント
こんにちは。
こんにちは。
本作良かったですね~。
己のためにだけ戦う姿が拳闘士の真髄のような気がしたので、3人に対するアプローチの仕方がとても良かったです。
2020/12/23(水) 13:05:55 | URL | ここなつ #/qX1gsKM[ 編集]
こんばんは
>ここなつさん
三者三様の闘う理由、終わる理由が物語をぐっと深くしていました。
5時間近い前後編も、この作品なら納得です。
2020/12/24(木) 20:13:16 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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