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ノマドランド・・・・・評価額1750円
2021年04月01日 (木) | 編集 |
「さようなら」は、言わない。

車に生活に必要な全てを積み込み、大陸を放浪して暮らす現代の「ノマド(遊牧民)」たち。
彼らの生き様を綴ったジェシカ・ブルーダーのノンフィクションを、「スリー・ビルボード」のフランシス・マクドーマンドが、プロデュース・主演を兼ねて映画化した作品。
監督・脚本を務めたのは、2017年に発表した「ザ・ライダー」で注目を集めた、中国出身の新鋭クロエ・ジャオ。
劇映画でありながら、ドキュメンタリー的な手法を取り込んだ、独特のストーリーテリングのスタイルが新しい。
不況で家を失い、手製のキャンピングカーに荷物を詰め込んで旅に出た未亡人が、各地で一期一会を繰り返しながら、日々を懸命に生きてゆく姿を味わい深く描いている。
第77回ベネチア国際映画祭で、最高賞の金獅子賞、第78回ゴールデングローブ賞でも作品賞、監督賞を受賞し、今年の賞レースの先頭を走る話題作だ。

リーマンショックがもたらした、不況の影響が色濃く残る2011年。
住んでいた町「エンパイア」が、所有する企業によって閉鎖されたことで、ファーン(フランシス・マクドーマンド)は突然家を失う。
彼女はキャンピングカーに改造したバンに荷物を積み込み、車上生活をしながら季節労働の働き口を求めて全米を移動する、「ノマド」として生きることを決意する。
感謝祭が終わって、ホリデーシーズンが本格化すると、ネバダにあるアマゾンの物流センターへ。
年が明けると、今度はアリゾナの砂漠で開催される、ノマドたちの集会「RTR(ラバー・トランプ・ランデブー)」へ向かう。
様々な理由で車上生活を送るノマドたちと出会い、ベテランたちから車上で生きる術を学んだファーンは、また新たな働き口を求めて荒野をさすらう。
ところが、ある時バンが故障し、やむを得ずファーンはずっと会っていなかった姉に助けを求めるのだが・・・・


本作の原作者ジェシカ・ブルーダーは、ノマドの生活を取材するために、ヴァン・ヘイレン号と名付けたバンに乗り込み、自ら旅に出たという。
3年間、24000キロに及ぶ旅の記録は、ノンフィクション「ノマド 漂流する高齢労働者たち」となって2017年に出版される。
この本の映画化権を獲得したフランシス・マクドーマンドは、「ザ・ライダー」を観てクロエ・ジャオに監督を依頼、快諾を受ける。
ジャオの出世作となった「ザ・ライダー」は、サスダコタ州のパインリッジ・リザベーションに暮らす、オグララ・スー族のロデオのスター、ブレディ・ジャンドローをモデルとした作品。
頭にロデオライダーとしては致命的な怪我を負った青年が、復帰への希望と後遺症の絶望との間で葛藤しながら、新たな生き方を探す物語だ。
主人公をジャンドロー自身が演じている他、登場人物の多くが本人役で登場するなど、劇映画でありながら半分ドキュメンタリーのような手法が特徴で、登場人物にそっと寄り添う作家の視点が印象的。
代々馬と共に生きてきた、オグララ・スー族の精神文化が物語のバックボーンとなっていて、中西部の雄大な風景の中で展開する物語は、ビターな詩情を感じさせるものだった。

独特の手法とムードは、本作でも健在だ。
フランシス・マクドーマンド演じる主人公のファーンは、60代の女性。
彼女は長い間夫と共に、ネバダ州に実在した「エンパイア」で暮らしてきた。
この町は、建築資材大手のUSジプサムが作ったもので、隣接する石膏鉱山と工場で働く人々のための”社宅”だった。
ところが、2008年のリーマンショックの余波で建築不況が押しよせ、USジプサムはエンパイアの閉鎖を決定し、郵便番号も廃止される。
ジプサムに勤めていた夫を病で亡ったのちも、彼の愛したエンパイアに住み続けていたファーンも、立ち退きを余儀なくされる。
近隣の町から100キロも離れた陸の孤島で、生活を維持することは不可能なのだ。
リーマンショックでは、サブプライムローンを組んでいた多くの低所得層の人たちが家を失ったが、ファーンのように建築・不動産の関連産業でも、家も職も無くしてしまったという人も少なくない。

突然家を追い出された人たちの中には、「フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法」で描かれたように、補償金のいらないモーテルなどを、束の間の安息地として再起を図る者もいれば、残された全財産を車に積み込み、ノマドとなる者もいた。
このようなライフスタイの人はもともと存在していたが、この時期に急増したという。
そして新たなノマドの多くは、新たに家を買おうにもローンが組めない高齢者なのである。
還暦を過ぎてから路上に放り出された人々に、取り得る生活の手段は多くない。
ファーンは古いバンに手を加え、キャンピングカーに仕立て上げると、愛する夫との思い出の品と共に旅に出る。
まずは同じネバダにある、アマゾンの物流センターへ。
11月の感謝祭が終わると、ブラックフライデーとクリスマス商戦の繁忙期が始まり、大量の短期雇用の募集があるからだ。
ホリデーシーズンが終わると、アリゾナの砂漠で開かれるノマドの祭典「RTR」へ向かい、放浪生活の先輩たちから様々なことを学ぶ。
夏休みシーズンにはサウスダコタのバッドランズ国立公園のRVパークと、ウォールドラッグで働き、秋にはネブラスカで収穫期を迎えたテンサイの加工工場に職を得る。
閉鎖されたエンパイアから始まる旅は、一期一会を繰り返しながら1年をかけて中西部諸州を巡ってゆく。

このアメリカン・ニューシネマの血統を受け継ぐ、実にアメリカ的な物語を、中国出身の女性監督が作ったのが面白い。
自分を「反抗的なティーンだった」と語るジャオを、両親は英語が話せないにも関わらず、厳格な教育で知られるイギリスの寄宿舎学校へと送り、高校時代にアメリカへと移る。
十代で故郷を遠く離れ、アメリカで映画の旅を続けるジャオにとって、反骨精神にあふれるファーンはもう一人の自分であり、共感できる主人公なのだろう。
多くのキャストが俳優ではなく、実際のノマド。
前作と同様の半ドキュメンタリースタイルがもたらすのは、圧倒的なリアリティだ。
この映画に登場する人々は、普通の映画のような作劇上の明確な“役割”を持たない。
マクドーマンドが演じる極めて繊細で複雑な葛藤を秘めたファーンという軸は存在するが、誰もが自然に彼女の人生と出会い、別れてゆく。
中には何のために出てきたのか分からない人もいるが、現実の人生もそんなものだろう。
その出会いが意味あるものかどうかなんて、その時には分からない。
ロケ地はどこも荒涼とした風景だが、同時に荘厳で息を呑むほど美しい。
無限の地平線を意識させるゆっくりとしたパンが象徴的に使われているが、撮影監督のジョシュア・ジェームズ・リチャーズは、「ザ・ライダー」に続いて素晴らしい仕事をしている。

タフな世界で生きる人たちには、確固たる芯がある。
「おばさんはホームレスになったの?」と知人の子どもに聞かれたファーンは、「私はホームレスじゃないよ、ハウスレスよ」と答える。
「ホーム」は常に心の中にあり、モノである「ハウス」とは別物。
物語の終盤、ファーンは車の修理代を借りるために、カリフォルニアに住む姉の家を訪れ、次いで元ノマドで彼女に思いを寄せるデヴィッドの家の感謝祭に招かれる。
この二つのシークエンスで、ファーンには定住して生きる選択も示されるが、結局彼女はノマド生活を続けることを選ぶ。
彼女が閉塞していない訳ではない。
たった一人で季節労働をしながら、各地を転々とする生活は孤独だし、還暦を過ぎた身には辛い面も多いだろう。
しかし心の中に「ホーム」を持つファーンは、路上でこそ解放されているのだ。
ノマドの生活には、本当の「さようなら」がない。
出会って別れても、その人とはたぶんどこかの路上でまた会える。
だから皆「またね」が合言葉。
言い換えれば、喜びも悲しみも、希望も絶望も、大陸を網の目のように巡る道が全て記憶していて、ノマドの誰かがもうそこにいない愛する人のことを話す時、それは別の誰かの思い出となるのである。
高齢者のノマドは社会問題であり、アメリカのネガティブな側面だという意見もある。
だが、知らない誰かとでも、通じ合い思いやることができるというこの映画は、コロナ禍で未来が見えず、誰もが不安を抱える2021年にあって、むしろ人と人とのシンプルな関係の美しさを思い出させてくれる。
厳しくも純粋な、人生の旅路の物語だ。

今回は、どんなアメリカの僻地でも売っている、「バドワイザー」をチョイス。
1876年に発売されてから、実に140年の歴史を誇るアメリカン・ビールの代表格。
水みたいに薄いのだけど、カラカラに乾燥し切った砂漠地帯で飲むと、まさに命の水のように美味しく感じる。
馬鹿でかいピッチャーで売ってる店も多いが、バドワイザーは余裕で飲めてしまうのだ。
酒というより水分補給(笑

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コメント
この記事へのコメント
アメリカ人のルーツ
ノラネコさん☆
アメリカ人のルーツでもある放浪生活を描いたのが、アジア人監督というのも面白いですよね。
開拓民としての記憶が残るのは、今や後から入植してきた彼らだからこそなのかもしれませんね。
半分ドキュメンタリーのような映像の中で、国立公園の岩の間を走り回るマクドーマンドの姿が印象に残りました。
2021/04/01(木) 23:10:44 | URL | ノルウェーまだ~む #gVQMq6Z2[ 編集]
こんにちは。
こんにちは。
壮大なアメリカの風景と、ノマドの生き方を選んだ人々に対する優しい視点とが上手く融合した作品だと思いました。
おっしゃるように、人と人とのシンプルな関係性が、ノマド生活では浮き彫りにされるのかもしれません。
2021/04/02(金) 11:36:42 | URL | ここなつ #/qX1gsKM[ 編集]
こんばんわ
この作品に登場する風景はどれもスタッフがやっとこさ作品に合うものを見つけてきたというものではなく、本物のノマドに聞いたらすんなり教えてもらったような、ノマド生活と無縁の者には到底知り得なかった「本物の大自然」を感じました。
そこにフランシス・マクドーマンドが自然に溶け込んでいるのが凄いんですけどね~。
2021/04/04(日) 00:46:08 | URL | にゃむばなな #-[ 編集]
アメリカ的なものを他国の監督が描くというので、インティペンデンスデイのローランドエメリッヒ監督を思い出しました。外部の視点のほうが、よりよくわかるのかもしれないですね。

車でドライブしている風景は、まさにあの辺の風景だなぁーとしみじみしました。フロリダプロジェクトの言及はまさにそうで、これってグローバリズムの経済成長からはじかれた人々への視点なんですが、これが悲惨な方向というよりは、こうして自由に放浪してのたれ死ねたらそれもありじゃないかという方向に突き抜ける感じは、アメリカ的だなぁと思いました。自然の美しさでかさがすごいです。
2021/04/05(月) 12:48:35 | URL | ペトロニウス #-[ 編集]
こんばんは
>ノルウェーまだ~むさん
たぶん、後からきた人たちほど、アメリカ的なるものへのノスタルジーが強いんだと思います。
「ミナリ」もそうですけど、クロエ・ジャオなんて素材からして現在の西部劇ですもん。
元から住んでいる人たちには見えなくなっている、原アメリカ的風景を見出しているのかもしれません。

>ここなつさん
10年代の高齢者ノマドは、現象だけ見ると社会問題であり、無い方がいい存在なんでしょうけど、それでも彼らが路上で生きる理由を丁寧にすくい出している。
息子や家族の心情だと、定住して欲しいとは思うんですが、どこかで心にホームを持つ放浪生活には憧れてしまいます。
2021/04/05(月) 21:18:45 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
こんばんは
>にゃむばななさん
半分ドキュメンタリーですからね。
この映画に登場する場所は中西部の典型的な風景で、決して特別ではないんですが、撮り方でここまでフォトジェニックになるのかという。
まさにマスターショットでした。

>ペトロニウスさん
なるほどエメリッヒ。
確かに彼の映画も呆れるほどアメリカ的ですよね。
シチュエーションだけ見たら、悲惨なものであるはずのこの映画に、憧れに近い感情を抱いてしまうのは、今のアメリカが向かう先に対するアンチテーゼとなっているからなんでしょう。
若い頃なら、むしろこんな生活してみたかった。
2021/04/05(月) 21:29:28 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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