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BLUE ブルー・・・・・評価額1700円
2021年04月17日 (土) | 編集 |
“ブルー”は、不屈の色。

これはむっちゃ切なくて、優しい映画だ。
誰よりも熱心だが、試合では勝てない男と、才能豊かで強いけど、体に爆弾を抱えた男、そしてなんちゃってボクサーのつもりが、本気になってしまった男。
同じジムに所属する、それぞれに個性的な三人のボクサーの物語。
タイトルの「BLUE ブルー」は、ボクシングの試合では、ランキング下位の選手が常に“青コーナー”、つまり“挑戦者”であることに由来する。
ボクサー三人の群像劇というと「アンダードッグ」が記憶に新しいが、あれは三者三様の“終わらせ方”の物語だった。
対してこちらは、ボクシング人生の“どこ”に立っているのかはそれぞれ違うが、とことん“諦めのわるい男たち”を描く。
松山ケンイチが負け続きの瓜田信人を、東出昌大がチャンピオン街道をひた走る小川一樹を、柄本時生がなんちゃってからプロを目指す楢崎剛を演じる。
男臭い物語の中で、瓜田の幼馴染で小川の婚約者となる天野千佳に、紅一点の木村文乃。
中学生の頃から30年に渡ってジムに通い、多くのボクサーたちの生き様を目撃してきたという吉田恵輔監督は、本作では“殺陣指導”も兼務。
従来の発想にとらわれない、ボクシング映画の新たな傑作を作り出した。

プロボクサーの瓜田信人(松山ケンイチ)は、理論派で分析力には長けているが、どんなに努力しても試合では負け続き。
一方、同じジムの後輩でライバルの小川一樹(東出昌大)は、豊かな才能に恵まれ日本チャンピオンにも手が届くポジションまで駆け上がり、瓜田の幼馴染の天野千佳(木村文乃)との結婚を控えていた。
瓜田にとって、千佳はボクシングをはじめるきっかけとなった初恋の人。
栄光も愛も、全てを持っていかれても、瓜田はひたすら練習に打ち込む。
ジムには女性にモテたいがため“ボクシングをやってる風”を目指す、楢崎剛(柄本時生)が入門し、最初こそヘタレを隠そうとしなかったが、瓜田の的確な指導で確実に強くなってゆく。
やがて、小川の日本タイトルへの挑戦が決まり、瓜田と楢崎も前座試合に出ることになる。
ところが、小川にパンチドランカーの症状が現れ、日増しに悪化してゆくのだが・・・・


吉田監督の作品で、諦めのわるい人々を描いた作品というと「ばしゃ馬さんとビッグマウス」だ。
脚本家を志して十数年、必死に努力を重ねるものの、一向に売れない麻生久美子演じるばしゃ馬さんと、まだ一行も脚本を書いたことがないのに、誰に対しても偉そうな上から目線でダメ出しをする、安田章大の自称天才ダメ男のビッグマウスが、好コントラストを形作る。
水と油の二人だが、実はこの二人のキャラクターは、創作にかけた青春の始まりと終わりの姿
自分は何でも出来る、何者にだってなれると、根拠無く思い込んでいる時期がビッグマウスで、どんなに努力しても、それが報われないこともあると、悟る時期に差し掛かっているのがばしゃ馬さん。
成功できるのは、ほんのひと握りの才能と幸運を兼ね備えた者のみの世界で、誰にでもいつかは大好きなことを続けるのか、やめるのかの決断の時がやって来る。
本作は、いわば「ばしゃ馬さんとビッグマウス」のボクシング版だ。
ボクシングには一応定年はあるが、それまでは自分で決めなければ終わりがない。
たとえ世界タイトルを取ったとしても、勝ち続けなかればチャンピオンではなくなってしまう。
これはボクシングに限ったことではないが、スポーツには見果てぬ夢であるという点で、創作と似た中毒性があるのかもしれない。

本作のキャラクターには、吉田監督が見てきた実際のモデルがいるという。
瓜田のモデルとなった人物は、映画と同じく日がな一日中ジムにいて、昼はダイエット目的の主婦にボクシングを教え、夜は自分の練習に打ち込む努力の人。
面倒見も良く、絵に描いたようないい人だったそうだが、ボクサーとしては芽が出ずに、万年四回戦ボーイのまま「2勝13敗」というある意味凄い記録を残して、最後の試合の翌日に誰にも告げずに突然ジムをやめてしまったそうだ。
彼が今何をしてるんだろう?という想いが、本作を執筆するきっかけとなったとか。
また瓜田と楢崎の対戦相手の元キックボクサー役を演じているのは、やはり監督のジム仲間で、ボクサーとしては開花することが出来なかった人だと言う。
この映画は、彼らのように懸命に努力しても夢を果たせなかった、無名のボクサーたちに手向けられたファンレターのような作品なのかも知れない。

このスタンスを作品として具現化するのが、ボクシング映画としては異色のアプローチ。
観客がこのジャンルの映画に期待するのは物語的、映像的なカタルシスである。
そのためには勝利が必要だ。
できればどん底からの復活劇ならば、なおのこと盛り上がるだろう。
リアリティを重視して、最終的に敗北させるとしても、それは判官贔屓の観客の感情移入を誘う、勝利に等しい敗北であるべきだ。
三幕の構造を生かし、第一幕で落ちぶれた主人公を、第二幕で葛藤と共に成長させ、第三幕のクライマックスで迫力満点の激闘を描く。
歴史的に名作の多いボクシング映画だが、殆どの作品はこういったお約束を背負ってきた。

ところが、本作は全く異なる視点からボクサーという人種を描く。
主人公のポジションにいる瓜田は、勝てないけど落ちぶれてはいない。
ライバルの小川は全てを手にしているように見えて、全てを失おうとしている。
楢崎に至っては、そもそもやる気がない。
作劇と編集もユニークだ。
中盤までは試合の描写がほとんどなく、代わりに練習とスパーリング。
劇中で何かが起こっても、その結論はスルー。
ドラマチックな脚本のセオリーは、三幕の構造の中に、いくつもの小さな三幕を盛り込んでゆくことだが、ここではニ幕までを繰り返すことによって、全ては途中、終わってないことが強調される。
試合のシークエンスも独特で、相手に呆気なくKOされたり、目蓋のカットで試合を止められたり、盛り上がる前に試合が終わってしまう。
ここでも、肝心の三幕目は描かれないのである。
だからこの映画には、多くのボクシング映画のような、試合そのものの描写には胸のすくカタルシスは無いかも知れない。
しかし、好演する俳優たちの肉体を含め、極めてリアリティを感じさせる三人の人生の物語があり、作られたドラマではなく、ホンモノを観たという深い満足感を得られる。

ボクサーとは元々複雑に矛盾した人々だ。
人は誰でも他人から殴られたくないだろうが、ボクサーは殴り殴られてなんぼ。
瓜田のように負け続けてもやめない人もいるし、小川のようにその後の人生と引き換えにしても続けたいという人もいる。
経済的報われるのは全体の1パーセントもいないだろうし、普通に考えればデメリットの方が多い仕事なのは確実なのに、なぜボクシングの魔力に魅せられた彼らの生き方はこれほど輝いて見えるのか。
これはボクシング映画ではなく、ボクサー人生の映画だ。
彼らの物語に、決着はまだついていない。
今プロのリングに立っていなかったとしても、心の中にリングがある限り、終わりは来ない。
だからこそ、ラストショットの瓜田の後ろ姿は、鳥肌が立つくらいカッコいいのである。

今回は、タイトルにちなんで佐藤酒造の青い日本酒「清藍」をチョイス。
透明な日本酒を、ハーブティーなどでも人気のバタフライピーで青く色付けしたもの。
バタフライピーそのものには味がないので、味はしっかりと日本酒。
レモンを絞ると、化学変化が起こって紫色に変化する色変も楽しめる。
香り豊かでスッキリしたお酒で、冷やして目と舌で涼んでもいいが、深みやコクはややもの足りないので、色を生かして日本酒カクテルのベースにするのがピッタリだ。

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コメント
この記事へのコメント
かっこいい!
ノラネコさん☆
ボクシングだけでなく多くのアスリートにも同じようなドラマがあるように感じました。
ヒーローアクションもののようなボクシング映画と違って、心に染み渡るリアリティがありましたね☆
瓜田は努力の人なのにきっと格闘技をやるには優しすぎたのでしょう。とにかくリングに立つことを諦めたけど、ボクシングを大好きな瓜田の最後のシーンは超カッコよかったです!!
2021/04/18(日) 13:26:16 | URL | ノルウェーまだ~む #gVQMq6Z2[ 編集]
こんばんは
>ノルウェーまだ~むさん
スポーツって終わりを決められるのは、自分だけっていうのがあると思うんです。
その点が創作と似ているのかなと。
瓜田は確かに優しすぎますね。だから彼はいい指導者になると思うんだけど、彼の中ではそれは違うんでしょうね、
生き様はすごくカッコよかったけど。
2021/04/21(水) 20:25:28 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
やはり、心が優しい人や努力してる人には成功してほしい。だから、「ロッキー」とかは盛り上がる。でも、現実のスポーツの世界では勝った者が正義みたいなのはよくよくありそうな話で切ない。
2021/04/25(日) 21:32:33 | URL | fjk78dead #-[ 編集]
こんにちは
こんにちは。

>だからこそ、ラストショットの瓜田の後ろ姿は、鳥肌が立つくらいカッコいいのである。

本当におっしゃる通りです。
私はこのシーンだけでもこの映画の価値があると思いました。
2021/04/30(金) 15:37:09 | URL | ここなつ #/qX1gsKM[ 編集]
こんばんは
>ふじきさん
まあでも格闘技の世界なんて「あいつぶっ殺す」くらいの人じゃないと勝てないんでしょう。
優しくて理論派のマツケンは向いてなかったけど、ボクシングが好きだということと、向いているということは関係ないですからねえ。

>ここなつさん
あの後ろ姿はむちゃくちゃカッコいいですよね。
すっかりボクシングとは離れた生活をしているんだけど、心はいまだボクサーという。
ラストショット・オブ・ザ・イヤーをあげたいです。
2021/05/03(月) 21:34:00 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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