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ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~・・・・・評価額1650円
2021年06月25日 (金) | 編集 |
それぞれの、飛ぶ理由。

長野オリンピックのクライマックス、スキージャンプのラージヒル団体。
日本の逆転金メダルを影で支えた、25人のテストジャンパーたちの物語を「ステップ」が記憶に新しい飯塚健監督が映画化した、実話ベースの作品。
東京オリンピックに合わせた安易なタイアップ企画と思いきや、これはとても端正に作り込まれた秀作だった。
主人公は田中圭演じるリレハンメル五輪の銀メダリスト、西方仁也。
西方と、リレハンメルで金を逃した“戦犯“にされた原田雅彦との関係を軸に、長野までの四年間が描かれる。
脚本は杉原憲明と鈴木謙一のオリジナル。
西方の妻の幸枝を土屋太鳳、友人でライバルの原田雅彦を「カメラを止めるな!」の監督役でブレイクした、濱津隆之が演じる。

1994年、リレハンメル冬季五輪。
スキージャンプ日本代表の西方仁也(田中圭)は、金メダルをほぼ手中にしながら、チームメイトの原田雅彦(濱津隆之)の失敗ジャンプによって銀メダルに終わる。
四年後の長野へ向けて練習を再開し、順調に調整を重ねていたある日、西方はジャンプに失敗し、大怪我を負ってしまう。
妻の幸枝(土屋太鳳)との間には、子供が生まれたばかり。
諦めるわけにはいかない西方は、賢明なリハビリの末に最終選考前に復帰するも、結果は落選。
失意の西方の元に、コーチの神崎(古田新太)からオリンピックのテストジャンパーの話が持ち込まれる。
25人のテストジャンパーは、毎朝せっせとジャンプしてジャンプ台の雪を整え、競技場の安全を確かめる地味な役割。
一度は断った西方だったが、スキー連盟との関係も考えて引き受ける。
そして、ついに長野オリンピックが開幕するのだが・・・・


リレハンメルでは二回目のジャンプ、西方ら3人が飛んだ段階で日本は首位。
ところが最終ジャンパーの原田が失速し、二位に落ちてしまう。
もちろん銀メダルだって凄いことなのだが、選手も国民も金を信じて疑わなかった結果、銀メダルは敗北と受け取られ、それは「原田のせい」にされてしまうのだ。
この繰り返されるオリンピックの功罪とジレンマ、才能に恵まれた者にスポーツで生きる糧をもたらす反面、選手たちは巨大なプレッシャーにさらされ、負ければ国賊扱いされて、多くの確執を生んでしまうことをきちんと描いている。
単純にニッポンバンザイ、オリンピックバンザイではなく、かつては人の命すら奪ったオリンピックの負の部分を描いて、綺麗事の話にしなかったのがいい。

敗北の雪辱は長野で晴らすはずだったのだが、西方は代表選考の前に怪我をしてしまい、年齢的に後がないのに代表落ち。
それなのに、自分の「金」を奪い取った原田は、代表として再び大舞台に立っている。
そして、飛びたくもないのにスキー連盟とのしがらみでテストジャンパーを引き受けるに至って、西方は妬み嫉みの塊りになってしまう。
当然やる気なんて無く、毎夜宿舎で飲んで憂さ晴らし。
何しろこの人、冒頭に描かれる長野での原田の一回目のジャンプのシーンで「落ちろ、落ちろ」と呪いの言葉を吐くのである。
ここまでアスリートの嫉妬の毒を描いた作品は、他に記憶にない。
しかし、この時の西方は自分の悲運を慰めることで頭がいっぱいで、原田がどんな想いで飛んでいるのかを考えることが出来ていないのだ。

濱津隆之が演じる原田雅彦という人は、デフォの顔がちょっとはにかんだような笑顔で、照れ隠しなのか言動もわりと軽い感じ。
そのためか、リレハンメルの悲劇のジャンプ後には「ふざけている」と受け取られて世間から激しいバッシングを受けている。
どんなに綺麗事を言っても、金メダルと銀メダルでは選手生活はもちろん、キャリアを終えた後の人生すら変わってくる。
四年前は、チームメイトの金メダルのチャンスを、自分の失敗で潰してしまった。
もし、自国開催の長野で、同じことを繰り返してしまったら・・・。
この時の原田は、長野オリンピックに参加したどの選手よりも、確実に重いプレッシャーを背負っているのである。

それぞれの理由で”敗者“となった二人の男の葛藤に、テストジャンパーとして集った25人の若者たち、そして古田新太演じるコーチの神崎の物語が絡み合う。
25人全員がそれぞれの物語を持っている、とは言っても流石に多すぎるので、主に描かれるのは日向坂46の小坂菜緒演じる、北海道からやってきた女子高生ジャンパーの小林賀子と、山田裕貴の聴覚障害を抱えたジャンパー高橋竜二だ。
当時の冬季五輪にはまだ女子ジャンプ競技はなく、女子が五輪で飛びたければテストジャンパーになるしかない。
地味な裏方だったとしても、それしか道がないのである。
一方、普段は耳が聞こえないせいで様々な困難や差別にさらされている高橋は、飛んでいる時だけは自由だと言う。
彼らはそれぞれに飛ぶ意味を見出して、テストジャンパーと言う役割に向かい合っている。
そして代表コーチとして西方らを鍛え、長野でテストチームを束ねる神崎は、現役時代には代表になったことがない。
いわば悔しさしか知らない男なのだ。

本作に登場するジャンパーは、全員が表舞台に立てない、あるいは表舞台で失敗した敗者たちだ。
だが敗者は敗者なりに、飛ぶ理由はある。
雪辱を晴らすため、後身に道を切り開くため、世話になった人たちに報いるため、自らの経験を積むため。
そんな彼らに、突然金メダルのチャンスがやってくる。
ラージヒル一回目を飛んだ後、日本チームは四位。
ところが吹雪が激しくなり、審判団はテストジャンパー25人が全員ジャンプを成功させることを競技再開の条件とする。
つまり、飛べれば日本の金メダルも可能だが、飛べなければメダル無しが確定する。
裏方のはずの彼らは図らずも、リレハンメルの原田と同じような状況に立つことになる。

ただし、危険を冒して成功しても世間から讃えられることもなく、貰えるメダルもない。
ここで、徐々に周りの影響を受けていたものの、心を閉ざしていた主人公の西方のジャンプ人生が問われる。
なぜ飛ぶのか、飛んでいたのか。
自分にとってスキージャンプとは何なのか。
それまで、飛ぶ理由を失っていた西方が、最後の最後に妬み嫉みのネガティブな心を氷解させ、大切な人を思い浮かべて飛ぶ、と言う怪我から復帰できた初心を思い出すのは感動的。
銀メダルという”敗北“で生まれた葛藤を出発点として、表舞台に立てない閉塞を抱えた者たちの不屈を描く群像劇。
作り込まれた時代性、映像的なクオリティも高く、実に観応えのある人間ドラマだ。

しかし、本来ならば現実のオリンピックと合わせて盛り上げていきたかったのだろうが、始まる前から厭戦気分でオリンピックそのものへの拒否感が広がってしまうと言うのは、本作の企画時には想像も出来なかったのだろう。
実際興行的には相当に苦戦していて、このままだとオリンピック開幕まで持たなそうで、つくづく不運すぎる作品だ。
私はコロナ禍での東京オリンピック開催には反対だが、もちろん選手にも作品にも罪はない。
返す返すもIOCの銭ゲバっぷりと、この国の組織委員会、為政者の無能っぷりが恨めしい。

今回は長野県小布施の桝一市村酒造場の「純米大吟醸 鴻山」をチョイス。
日本酒度7の、辛口の純米大吟醸。
フルーティーにして、キレキレのシャープさ。
米の旨味と適度なコクもあり、付け合わせる肴を選ばない。
鴻山とは桝一市村酒造場の12代目高井鴻山のことで、葛飾北斎の門人で、晩年の北斎を小布施に招いたことでも知られる。
信州の、豊な歴史を感じさせる酒だ。

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コメント
この記事へのコメント
意外な秀作
ノラネコさん☆
意外と言っては失礼ですが、本当に中々の秀作に仕上がっていましたよね。私なんて最初のほうからかなり泣いてしまいました。
人間の本質的な部分を包み隠さず描いたところに、真実だからこその感動があったと思います。
こうして裏方の努力を見るとオリンピックはメダルを取るとかではなく、最終的にはコロナに打ち勝って勝利を勝ち取って欲しいと思います。
2021/06/29(火) 23:54:47 | URL | ノルウェーまだ~む #gVQMq6Z2[ 編集]
こんばんは
>ノルウェーまだ~むさん
私自身もオリンピックにすっかり興味を失っている状態で観たので、嬉しい驚きでした。
アスリートのダークサイドと言う切り口は新しい。
まあどこまで事実かは分かりませんが、まあそりゃそうなるよね、人間だもの、と相田みつおみたいなことを思ってしまいましたw
2021/07/01(木) 21:16:44 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
こんにちわ
そうですよね、ここまでアスリートの精神的な負の部分を描いた作品は、邦画ではなかったかも。
でも自分のためではなく、日本のためというよりも、友人のために飛ぶ西方と、その友人の想いに応えるために大ジャンプを成功させた原田。その両選手に改めて拍手を送りたいですね。
2021/07/08(木) 16:03:52 | URL | にゃむばなな #-[ 編集]
こんばんは
>にゃむばななさん
負け方にも色々あるんだなあと思いました。
表舞台の原田と裏に回った西方、裏の方が辛いようでいて、実は表の方が何倍も重い荷物を背負っているとか、人生ですよね。
オリンピックに限らない普遍性がありました。
2021/07/11(日) 18:58:37 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
こんにちは
こんにちは。遅ればせながらコメントさせてください。
スキージャンプという競技だけでなく、人生で連綿と繋がっている線を描いた作品だったと思います。
西方氏だけでなく、女性ジャンパーや障がいのあるジャンパー、そして何よりリレハンメルからの苦悩を背負い続けた原田氏の心情も描いていたところが良かったです。
2021/07/20(火) 13:41:17 | URL | ここなつ #/qX1gsKM[ 編集]
こんにちは
>ここなつさん
そうですね。
負の感情を背負ってしまった者たちが、つなげて行くことでそれを克服してゆく。
現実のオリンピックは逆に残念なことばかり繋がってますが、映画はとても真摯ないい作品だと思います。
2021/07/23(金) 14:57:46 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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1998年の長野オリンピック。 日本スキージャンプチームがラージヒル団体で4位に後退していたところで、猛吹雪により競技が中断。 このまま競技が終れば1本目のジャンプの結果のみで順位決定となるが、テストジャンパー25人が全員無事に飛べたら競技を再開することになった。 日本の金メダルへの道は、元日本代表・西方仁也が率いる25人のテストジャンパーたちへ託される…。 実話から生まれた物語。
2021/06/26(土) 23:27:21 | 象のロケット
人生は点ではなく線であることが判る作品。私は、長野オリンピックの事はものすごくよく覚えている。日本で札幌以来久し振りに開催された事はもとより、個人的に人生のトピックがあった年でもあり、強烈な印象がある。特に、本作でメインで取り上げられているスキージャンプ団体競技については、マスコミの取り上げ方も加味されているのかもしれないが、鮮烈な記憶だ。しかし、リレハンメルオリンピックから、脈々と続いてい...
2021/07/20(火) 13:37:31 | ここなつ映画レビュー