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2021年08月01日 (日) | 編集 |
声で、伝えるということ。
スマホの取り違えで出会った、コミュニケーションが苦手な俳句少年チェリーと、コンプレックスをひた隠すマスク少女のスマイルが、とある老人の思い出が詰まった、50年前のレコードの捜索を手伝うことに。
夏休みを共に過ごすうちに、二人の距離は急速に詰まってゆく。
地方のショッピングモールを舞台に、ポップなビジュアルで描かれる、まさに湧き上がる真夏のサイダーのような、フレッシュなボーイ・ミーツ・ガール・ムービー。
音楽レーベル「フライングドッグ」の設立10周年記念作品で、TVアニメーション版「四月は君の嘘」などで知られるイシグロキョウヘイが本作で長編映画監督デビューを飾った。
総作画監督とキャラクターデザインを務めるのは、監督の妻でもある愛敬由紀子。
主人公のチェリーを八代目市川染五郎、スマイルを杉咲花が演じ、潘めぐみや花江夏樹、山寺宏一らが脇を固める。
俳句作りが趣味の高校生チェリー(市川染五郎)は、人との会話が苦手で、話しかけられないようにいつも大きなヘッドホンをつけている。
彼はぎっくり腰の母の代わりに、ショッピングモールにあるデイケアセンター「陽だまり」でバイトをしているのだが、ひょんなことから、モールに来ていたスマイル(杉咲花)とスマホを取り違えてしまう。
スマイルはカワイイを探す動画チャンネル、「キュリオ・ライブ」で人気のインフルエンサーだが、出っ歯がコンプレックスで矯正中。
矯正具の付いた前歯を隠すために、いつもマスクをしている。
共に思春期のコンプレックスを抱えた二人は親しくなり、スマイルもデイケアセンターでバイトを始める。
そんな時、利用者のフジヤマ(山寺宏一)が、亡き妻のレコードをずっと探し続けていることを知った二人は、彼を手伝うことにするのだが・・・・
まずはアニメーションならではの斬新なビジュアルが、未見性を演出する。
リーニュクレールの技法のアーティストたち、特にわたせせいぞうのイラストを彷彿とさせる、ポップでカラフルな美術はインパクト大だ。
舞台となる架空の地方都市「小田市」には、イオンモールっぽい巨大なショッピングモールがあり、市民たちの生活の中心となっている。
モールの周辺の一面の田んぼに、遠くに山並みが見える風景は、スカーン!と空が抜けている。
この広い空を心象のキャンバスに、刻々と色合いを変える雲の表情で画面の奥行きとメリハリを表現して秀逸。
どこでもなく、どこでもあり得る、いわば現代日本の原風景だ。
これは主人公のチェリーが、言葉を声にして想いを伝えることの大切さに気付く物語で、彼は趣味が俳句作りのくせに人前で話すのが苦手でコミュ症気味。
音楽を聴いているわけでもないのに、人から話しかけられないために、いつも大きなヘッドホンをつけている。
自分の心の情景は俳句として言語化するのに、それを他人に伝える気はない。
だから基本俳句を作っても作りっぱなし。
代わって友人の日本とメキシコとのミックスの少年、ビーバーが彼の俳句を見たまま街の至るところにタギングしている。
ただし日本語は「話せるが書けない」ので、結構漢字の間違いがある。
移民のビーバーは、無意識に言葉を伝えることの重要性を認識しているのだ。
一方のスマイルは、人気動画配信者でインフルエンサーなのに、リスみたいな出っ歯が自分の理想とする容姿と相容れずコンプレックスに。
モールの歯科医で矯正中だが、絶対に矯正具をつけた歯を見られたくなくて、いつもマスクで顔を覆っている。
外界を拒絶するチェリーのヘッドホンとスマイルのマスクが、それぞれの思春期の悩みと自信の無さを可視化する。
作劇にも工夫が凝らされている。
若い二人の葛藤が、50年前の恋人たちの想いに触れて解消してゆく仕掛け。
物語の序盤で、俳句の先生に皆の前で自作の句を詠むよう指示されたチェリーは、俳句は文字の芸術だから、わざわざ声にして読まなくてもいいと言う。
この時点でのチェリーは、人生で人と繋がることの本当の意味を知らないのである。
フジヤマがいつも持っている空のレコードジャケットには、「YAMAZAKURA」というタイトルが。
これはシンガーソングライターだったフジヤマの亡き妻のレコードで、ショッピングモールが出来る以前、レコードのプレス工場があったこの場所で、フジヤマ自身が作ったもの。
いつの間にか、中身だけがなくなってしまった。
「もう一度、愛する妻の声を聞きたい」
チェリーとスマイルは、フジヤマの願いを叶えるべく、消えたレコードのことを調べはじめるのだが、この探索が若い二人の葛藤に触れて徐々に影響してゆく。
登場人物の周りに配された、俳句に動画配信、タギング、そしてレコードと全て「想いを伝える」ことリンクしている。
山桜は葉(歯)と花(鼻)が同時に出ることから、「出っ歯」を意味する俗称でもあり、ジャケットの写真に残るフジヤマの妻はスマイルと同じような出っ歯。
だけど彼女はそのことをコンプレックスに思ったりはせず、自らのレコードのタイトルにしていて、愛した夫はずっとそのレコードを探し続けている。
スマイルが昭和の同世代少女に心を動かされている時、チェリーもまた迷っている。
言葉だけでは足りない、声にしなければ伝わらないこともあるということに、スマイルとの淡い恋を通してようやく気付くのだ。
そしてついに探し当てた「YAMAZAKURA」の中身、劇中歌を歌うのは大貫妙子!
そう、本作は70年代後半から80年代にかけて流行した、シティポップへの大いなるオマージュ。
レコードの制作年代の設定はなぜか半世紀ちょっと前と少しズレているが、シティポップと「ハートカクテル」との同時代性を考えると、わたせせいぞう風の絵柄も合点がいく。
そしてこの頃こそ、日本人の生活スタイルが大きく変わり、モータリゼーションの発達と共に郊外が開発され、巨大なショッピングモールがいくつも作られるようになった時代。
音楽レーベルの記念映画だけあって、物語は日本のポップシーンの歴史を紐解きながら、俳句や歌といった作品を声にして伝えることの大切さを描き出してゆく。
たとえ歌詞を知っていても、歌になって初めて思い出となるように、タギングで見たことのある俳句も、作者が想いをこめて詠んでこそ、気持ちとなって突き刺さるのである。
クライマックスは夏祭りに花火大会と、まさにザ・ニッポンの夏!
コロナ禍でどこにもいけない夏休みに観るのに、これほど相応しい映画もあるまい。
映画館は安全だし、ファーストデートムービーにはピッタリだ。
今回は、真夏の青空のようなサイダーを使ったカクテル「ブルーキュラソー&サイダー」をチョイス。
氷を入れたタンブラーにブルーキュラソーを45ml注ぎ、サイダーで満たして軽くステア。
最後にスライスしたライムを添えて完成。
スッキリとした甘口のカクテルは、初恋の味。
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スマホの取り違えで出会った、コミュニケーションが苦手な俳句少年チェリーと、コンプレックスをひた隠すマスク少女のスマイルが、とある老人の思い出が詰まった、50年前のレコードの捜索を手伝うことに。
夏休みを共に過ごすうちに、二人の距離は急速に詰まってゆく。
地方のショッピングモールを舞台に、ポップなビジュアルで描かれる、まさに湧き上がる真夏のサイダーのような、フレッシュなボーイ・ミーツ・ガール・ムービー。
音楽レーベル「フライングドッグ」の設立10周年記念作品で、TVアニメーション版「四月は君の嘘」などで知られるイシグロキョウヘイが本作で長編映画監督デビューを飾った。
総作画監督とキャラクターデザインを務めるのは、監督の妻でもある愛敬由紀子。
主人公のチェリーを八代目市川染五郎、スマイルを杉咲花が演じ、潘めぐみや花江夏樹、山寺宏一らが脇を固める。
俳句作りが趣味の高校生チェリー(市川染五郎)は、人との会話が苦手で、話しかけられないようにいつも大きなヘッドホンをつけている。
彼はぎっくり腰の母の代わりに、ショッピングモールにあるデイケアセンター「陽だまり」でバイトをしているのだが、ひょんなことから、モールに来ていたスマイル(杉咲花)とスマホを取り違えてしまう。
スマイルはカワイイを探す動画チャンネル、「キュリオ・ライブ」で人気のインフルエンサーだが、出っ歯がコンプレックスで矯正中。
矯正具の付いた前歯を隠すために、いつもマスクをしている。
共に思春期のコンプレックスを抱えた二人は親しくなり、スマイルもデイケアセンターでバイトを始める。
そんな時、利用者のフジヤマ(山寺宏一)が、亡き妻のレコードをずっと探し続けていることを知った二人は、彼を手伝うことにするのだが・・・・
まずはアニメーションならではの斬新なビジュアルが、未見性を演出する。
リーニュクレールの技法のアーティストたち、特にわたせせいぞうのイラストを彷彿とさせる、ポップでカラフルな美術はインパクト大だ。
舞台となる架空の地方都市「小田市」には、イオンモールっぽい巨大なショッピングモールがあり、市民たちの生活の中心となっている。
モールの周辺の一面の田んぼに、遠くに山並みが見える風景は、スカーン!と空が抜けている。
この広い空を心象のキャンバスに、刻々と色合いを変える雲の表情で画面の奥行きとメリハリを表現して秀逸。
どこでもなく、どこでもあり得る、いわば現代日本の原風景だ。
これは主人公のチェリーが、言葉を声にして想いを伝えることの大切さに気付く物語で、彼は趣味が俳句作りのくせに人前で話すのが苦手でコミュ症気味。
音楽を聴いているわけでもないのに、人から話しかけられないために、いつも大きなヘッドホンをつけている。
自分の心の情景は俳句として言語化するのに、それを他人に伝える気はない。
だから基本俳句を作っても作りっぱなし。
代わって友人の日本とメキシコとのミックスの少年、ビーバーが彼の俳句を見たまま街の至るところにタギングしている。
ただし日本語は「話せるが書けない」ので、結構漢字の間違いがある。
移民のビーバーは、無意識に言葉を伝えることの重要性を認識しているのだ。
一方のスマイルは、人気動画配信者でインフルエンサーなのに、リスみたいな出っ歯が自分の理想とする容姿と相容れずコンプレックスに。
モールの歯科医で矯正中だが、絶対に矯正具をつけた歯を見られたくなくて、いつもマスクで顔を覆っている。
外界を拒絶するチェリーのヘッドホンとスマイルのマスクが、それぞれの思春期の悩みと自信の無さを可視化する。
作劇にも工夫が凝らされている。
若い二人の葛藤が、50年前の恋人たちの想いに触れて解消してゆく仕掛け。
物語の序盤で、俳句の先生に皆の前で自作の句を詠むよう指示されたチェリーは、俳句は文字の芸術だから、わざわざ声にして読まなくてもいいと言う。
この時点でのチェリーは、人生で人と繋がることの本当の意味を知らないのである。
フジヤマがいつも持っている空のレコードジャケットには、「YAMAZAKURA」というタイトルが。
これはシンガーソングライターだったフジヤマの亡き妻のレコードで、ショッピングモールが出来る以前、レコードのプレス工場があったこの場所で、フジヤマ自身が作ったもの。
いつの間にか、中身だけがなくなってしまった。
「もう一度、愛する妻の声を聞きたい」
チェリーとスマイルは、フジヤマの願いを叶えるべく、消えたレコードのことを調べはじめるのだが、この探索が若い二人の葛藤に触れて徐々に影響してゆく。
登場人物の周りに配された、俳句に動画配信、タギング、そしてレコードと全て「想いを伝える」ことリンクしている。
山桜は葉(歯)と花(鼻)が同時に出ることから、「出っ歯」を意味する俗称でもあり、ジャケットの写真に残るフジヤマの妻はスマイルと同じような出っ歯。
だけど彼女はそのことをコンプレックスに思ったりはせず、自らのレコードのタイトルにしていて、愛した夫はずっとそのレコードを探し続けている。
スマイルが昭和の同世代少女に心を動かされている時、チェリーもまた迷っている。
言葉だけでは足りない、声にしなければ伝わらないこともあるということに、スマイルとの淡い恋を通してようやく気付くのだ。
そしてついに探し当てた「YAMAZAKURA」の中身、劇中歌を歌うのは大貫妙子!
そう、本作は70年代後半から80年代にかけて流行した、シティポップへの大いなるオマージュ。
レコードの制作年代の設定はなぜか半世紀ちょっと前と少しズレているが、シティポップと「ハートカクテル」との同時代性を考えると、わたせせいぞう風の絵柄も合点がいく。
そしてこの頃こそ、日本人の生活スタイルが大きく変わり、モータリゼーションの発達と共に郊外が開発され、巨大なショッピングモールがいくつも作られるようになった時代。
音楽レーベルの記念映画だけあって、物語は日本のポップシーンの歴史を紐解きながら、俳句や歌といった作品を声にして伝えることの大切さを描き出してゆく。
たとえ歌詞を知っていても、歌になって初めて思い出となるように、タギングで見たことのある俳句も、作者が想いをこめて詠んでこそ、気持ちとなって突き刺さるのである。
クライマックスは夏祭りに花火大会と、まさにザ・ニッポンの夏!
コロナ禍でどこにもいけない夏休みに観るのに、これほど相応しい映画もあるまい。
映画館は安全だし、ファーストデートムービーにはピッタリだ。
今回は、真夏の青空のようなサイダーを使ったカクテル「ブルーキュラソー&サイダー」をチョイス。
氷を入れたタンブラーにブルーキュラソーを45ml注ぎ、サイダーで満たして軽くステア。
最後にスライスしたライムを添えて完成。
スッキリとした甘口のカクテルは、初恋の味。

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◆『サイダーのように言葉が湧き上がる』ユナイテッドシネマ豊洲11
▲老いも若きも男がわたせせいぞう感から大きく逸脱してるのだな。女性もわたせせいぞうの描く女性とはまた違うのだけど。わたせせいぞうの描く男女にあまり悩みはないと思うので、起用しなかったのは正しいだろう(ラッセンの描くイルカくらいには悩むかもしれない)。
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