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ドント・ルック・アップ・・・・・評価★★★★+0.8
2021年12月27日 (月) | 編集 |
人類滅亡はフェイクニュース?

アダム・マッケイ節が冴え渡る、インパクト大の社会風刺SF。
天文学者ランドール・ミンディと、博士過程に在籍する学生、ケイト・ディビアスキーが、未知の巨大彗星を発見。
軌道計算の結果、ほぼ100%の確率で地球に衝突することが判明する。
二人は大統領に対して、彗星の軌道を変えるため対策を取ることを進言するが、真に受けてもらえない。
そこで、あの手この手で人々に真実を知らせようとするも、ことごとく空回り。
彗星衝突による人類絶滅という未曾有の危機を前に、科学的エビデンスに基づいた情報を人々に伝え、危機を回避しようとする科学者たちと、そんなものには全く興味がない権力者との大バトルを描くブラックコメディ。
監督・脚本は、「バイス」のアダム・マッケイ。
主人公の科学者コンビをレオナルド・ディカプリオとジェニファー・ローレンスが演じ、トランプもどきの大統領をメリル・ストリープが怪演。
マッケイらしい、遊び心いっぱいのオールスターキャストも楽しい。

シカゴ大学の博士課程に在籍するケイト・ディビアスキー(ジェニファー・ローレンス)は、すばる天文台の観測データを分析中、地球に接近する彗星を発見し、ディビアスキー彗星と名付けられる。
しかしゼミのランドール・ミンディ博士(レオナルド・ディカプリオ)が軌道計算をした結果、この巨大彗星は地球とのコリジョンコースを進んでいることが分かる。
衝突の日までは、あと6ヶ月と14日しかない。
二人は直ちに当局と連絡を取り、惑星防衛調整局のオグルソープ博士(ロブ・モーガン)と共にオーリアン大統領(メリル・ストリープ)に面会するが、大統領は全く真剣に取り合わない。
業を煮やしたオグルソープのアイディアで、情報をマスコミにリークするものの、こちらも反応は鈍い。
このままでは何もしない間に、地球が滅びてしまう。
焦った二人はSNSでの発信を続けるものの、ある日突然FBIに連行される。
連れて行かれた先はホワイトハウスで、大統領は一転して彗星の危機を認めるというのだが・・・・


恐竜を絶滅させたものを上回る、巨大彗星がたった半年後に地球に衝突する。
この設定だけを聞くと、「アルマゲドン」や「ディープ・インパクト」と言ったスペクタクルなSF大作を思い浮かべるが、この作品は全然そういう方向には行かないのである。
むしろロン・パールマン演じる、脳みそ筋肉男を使って、その手のハリウッド映画を笑い飛ばす。
ここで浮かび上がるのは、正しい情報をきちんと人々に伝え、理解してもらうことの難しさ
人は自分の理解を超える出来事に直面すると、往々にして思考停止に陥り、信じたい情報だけを求めるようになる。
巷に広がる根拠のない陰謀論やフェイクニュースの類と、科学的知見に基づいた情報を一見して差別化することは難しい。

映画の前半は、なんとか彗星との衝突危機を信じてもらうおうと、TVショーに出演したり、SNSで発信したり、悪戦苦闘するランドールとケイトを描く。
後半は一転、自分の政治的な点数稼ぎのために、彗星危機を認めた大統領によって、二人は対策チームに入ることになるのだが、彗星に大量のレアメタルが含まれていることが分かり、状況は一変。
結局、儲け話と自分の支持率しか考えていない大統領と、彼女の周りに蠢く魑魅魍魎の様な人々によって散々振り回される。
虚実入り乱れる情報が飛び交い、彗星の存在すら信じない人たち、それは信じていても、政府の“対策”を盲信して危機を実感しない人たち。
いくつものバイアスによって、人々は分断されてしまうのである。
とは言っても、地球にぶつかるのだから、やがて彗星は地球の近くにやって来る。
彗星が目視出来るようになると、ランドールたちは「現実を見ろ」と“#look up”キャンペーンを始めるが、反対派はそれでも「信じるな」“#don’t look up”と対抗する。

住宅バブルの裏側に潜む矛盾に気付き、リーマンショック で大儲けした男たちを描いた「マネー・ショート 華麗なる大逆転」に、ブッシュ政権の影の大統領と呼ばれた、ディック・チェイニーのダークサイドをコミカルに描いた「バイス」など、アダム・マッケイはドラマ性よりもジャーナリズムとしての映画を撮ってきた。
彼の映画では、キャラクターの内面を掘り下げて、そこに成長や変化を描くことはファーストプライオリティーではない。
前者では、リーマンショックはなぜ起こったのか、拡大し続けけたバブルが弾けるまでの仕組みを、詳細かつ分かりやすく見せてくれた。
後者では、ダメ人間だったチェイニーが、どうやってワシントンで出世街道を駆け上がったのか、なぜ人々は彼の嘘にすっかり騙されてしまったのかを、カリカチュアを効かせて面白おかしく描いた。
マッケイの映画の目的は、アメリカ社会における大きな失敗はなぜ起こったのか、その仕組みを紐解き、未来への警鐘を鳴らすこと。

しかしこの「ドンと・ルック・アップ」は、過去の作品と違って、明確にモデルとなっているケースが無い。
それではこの地球そのものを滅亡させうる、破滅の使者としての彗星は、何をカリカチュアしたものなのか。
これはもちろん、“地球温暖化”だろう。
ドナルド・トランプ前大統領は、地球温暖化に関する報告書をフェイクニュースと言って信じず、温暖化対策の国際的な枠組み、パリ協定からも一方的に離脱。
トランプ任期中、彼の盲信的な支持者と反対勢力の間で、アメリカ社会は決定的に分裂してしまった。
この映画でメリル・ストリープが怪演するオーリアン大統領のキャラクター造形は、行き当たりばったりの行動、科学とエビデンスの軽視、儲け話最優先など、トランプ的特徴が多く見られる。
彼女の盟友となるマーク・ライランスのIT社長は、GAFA各社の経営者たちをミックスしたような人物で、抑揚の無い喋り方と人形のような表情が不気味。
数十年単位で地球を蝕む温暖化という実感し難い静かな脅威を、彗星の衝突という“分かりやすい事件”に置き換えたのが本作と言えるが、ここまで明確な危機であっても、“#don’t look up”な人々の存在に説得力があるのがある意味コワイ。
さすがに、皆ここまでおバカではないと信じたいが、政権末期のトランプ支持者の愚行を見るとさもありなん。
はたして、全員が”#look up“するのは、破滅への道のりのいつの段階なのか。
いまだに進化論を認める人が、ようやく人口の過半数に達したに過ぎないアメリカが、いかにフェイクニュースと陰謀論が入り込みやすい社会か、本当の破滅の瞬間まで、分断は続くのではないのかという危機感が伝わって来る。

一応終盤にフォローはあるが、アメリカ以外の国々がここまで何にもしないとかありえないとか、いくら金持ちでも半年で脱出手段を用意するのは無理とか、真面目に観ると突っ込みどころはいくらでもあるが、これはあくまでもブラックコメディで風刺劇
その辺は、マーベル映画みたいに、クレジット中と後にある二段階のオマケでシニカルなオチをつけるためと割り切っていいだろう。
バラエティ豊かなキャラクターの造形が、ちょっとやり過ぎの部分があったり、モデルケースが無いゆえに、風刺じゃなくなってしまっている部分があるのは気になるが、言いたいことはしっかり言い切った力作だ。
ランドールたちと大統領たち、はたして最後に幸せだったのはどちらなのだろう。

ユーモアたっぷりだが、ビターな物語には「ナイトメア・オブ・レッド」をチョイス。
ドライ・ジン30ml、カンパリ30ml、パイナップル・ジュース30ml、オレンジ・ビターズ2dashを氷で満たしたグラスに注ぎ、ステアする。
ドライ・ジンの清涼感、パイナップル・ジュースの甘さと、カンパリとビターズの苦みが生み出すビタースウィートな後味。
ディテールは笑えるけど、内容は笑えない、この話にピッタリだ。

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コメント
この記事へのコメント
どちらが幸せ?
ノラネコさん☆
とっても面白かったです~
外国人の私たちが見たステレオタイプなアメリカ人と言う印象そのものをちゃんと自らさらけ出しているところに拍手を送りたいデス。
AIの未来予測がしっかり当たっていて怖かったですねぇ。
でも年寄りの金持ちだけが脱出ポッドで移住しても、人類の未来が無いことに気が付かなかったのでしょうかね(笑
2021/12/27(月) 23:27:04 | URL | ノルウェーまだ~む #gVQMq6Z2[ 編集]
こんばんは
>ノルウェーまだ~むさん
さすがにどストレートすぎて、アメリカでは本気で怒ってる人も多いようですよ。
さすがにここまでいじり倒されると、トランプ支持者とかは怒り心頭でしょうね。
日本から見たらひたすら可笑しいですけど。
脱出した人たちは、とりあえず自分だけ生き残ればいいので、人類の未来なんて考えてないという皮肉でしょう。
2021/12/31(金) 20:18:01 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
「彗星が地球の軌道を通ると言うなら、南極に巨大なロケットを付けて地球の軌道を変えてしまえばいいのだ」
「フェイク・ニュースだ!」
2022/01/20(木) 15:49:01 | URL | fjk78dead #-[ 編集]
こんばんは
>ふじきさん
それ、昔なら「ゴラス」一択だったけど、最近中華SFでも同じことやってるから、意外とアリなのかも(ない)
2022/01/25(火) 22:30:08 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
こんにちは♪
キツイジョークが最高でしたね!ブラックジョークに笑えるか笑えないか、って結構性格によるところが多いのかもしれませんが、この地獄っぷりに結構辟易しながらも、いかにもアメリカらしくて笑っちゃいました。
最後に「ダイエットおめでとう」でもクスっと笑えました。確かに全地球が無に帰すんですから、壮大なダイエットと言えますよね爆
2022/08/13(土) 13:20:03 | URL | とらねこ #ssofcN/c[ 編集]
>とらねこさん
これぞアメリカンジョークと言える作品で、私的には大好きなんですけど、結構本国でも評価が割れてるみたいです。
まあこれだけトランプはじめ、各方面に喧嘩を売ったらそりゃそうなりますよね。
ある意味終末物では一番スッキリキリのいい終り方かも。
2022/08/16(火) 22:43:54 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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天文学者ランドール・ミンディと教え子のケイトは、巨大彗星(すいせい)が地球に衝突する可能性を察知する。 テレビで警告を発したり、政府高官に訴えても、情報が氾濫する世界では誰ひとり耳を貸そうとしないのだった…。 ブラック・コメディ。
2021/12/30(木) 09:35:15 | 象のロケット
◆『ドント・ルック・アップ』シネリーブル池袋2 ▲笑うと負けよ、アップップ。 五つ星評価で【★★★よく出来てるけど勧善懲悪が好き】 ネタバレ的である。 ツイッターでの最初の感想↓ 明確にコメディーの立脚点なのに設定がリアルで苦笑い。「博士の異常な愛情」的であるにも関わらず、予言の書みたいで、うーん。 地球人類滅亡コメディー。ラストまで容赦なし。ただ設定が「ブラックやなあ」とは思うが...
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