2021年12月31日 (金) | 編集 |
コロナ禍の2年目も、今日で終わり。
今年も劇場がクローズする時期はあったものの、公開延期となっていた作品もほとんど劇場公開されたし、昨年公開された「鬼滅の刃」は遂に前人未到の興収400億に達した。
新作では「シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇」も、そのマニアックさと長尺をものともせずに、興収百億を突破し、少なくとも日本の映画館界隈は世界基準だとだいぶマシだったと言えるだろう。
一方で、配信シフトはますます進み、映画の未来形はまだ不確かだ。
それでは、今年の“忘れられない映画たち”をブログでの紹介順に。
選出基準はただ一つ、“今の時点でより心に残っているもの”だ。
「花束みたいな恋をした」ひょんなことから知り合った21歳の同い年カップルの、恋の始まりと終わりを描くリリカルな青春物語。一見バブル期のトレンディドラマのような、美男美女のお洒落な恋愛映画かと見せてかけて、実は若いオタクの青春の行き着く先を描いた、相当にエグい話だ。
「ヤクザと家族 The Family」90年代からはじまって現在まで、三つの時代を描くクロニクル。暴対法の影響で、徐々に滅びてゆくヤクザというモチーフから、21世紀の日本社会の閉塞を象徴的に描き出す。藤井道人監督の、キャリア・ベストの仕上がりと言える傑作だ。
「すばらしき世界」役所広司が演じる、元殺人犯のヤクザ者が長い刑期を終えて出所。すっかり浦島太郎化した男の奮闘を描く。西和美和監督らしい、社会からちょっとはみ出したアウトローの悲哀の物語が、半分くらい「ヤクザと家族 The Family」とかぶるのが面白い。
「シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇」25年間に作られた過去作の全てをアーカイブ的に内包し、全ての葛藤に決着をつける完結編。庵野秀明の究極の私小説であり、αでありω、極大でありながら極小。星をつぐものの壮大な神話が、超パーソナルな内面の葛藤に帰結するのは、実に日本的だ。
「ノマドランド」不況で家を失い、手製のキャンピングカーに荷物を詰め込んで旅に出た主人公が、各地で一期一会を繰り返しながら、日々を懸命に生きてゆく物語。劇映画でありながら、ドキュメンタリー的手法を盛り込んでいるのが新しい。本作でオスカーをかっさらったクロエ・ジャオ監督は、MCUの超大作「エターナルズ」でも自分のスタイルを貫いた。
「JUNK HEAD」“超大作”と形容したくなるスケール感を持つ、ストップモーションアニメーションの大労作。一つの世界を、ここまで徹底的に作り込んだ作品は久々に観た。本作がデビュー作となる堀貴秀監督が、7年をかけてゼロから全てを作り上げた、驚くべき没入感を持つ傑作だ。
「街の上で」今泉力哉監督が、円熟の技を見せる群像劇。端的に言えば、舞台となる下北沢を大きなフレームとして捉えた、点描画のような作品だ。一つひとつの小さなセカイは混じり合い、弾き合い、一つのユニークな風景となって、いつの間にか下北沢という”世界”の一部となっている。
「マ・レイニーのブラックボトム」うだるような熱波に包まれた1927年のシカゴで、伝説的なブルース歌手、マ・レイニーのレコーディングが行われる。幾つもの不協和音がぶつかり合い、浮かび上がってくるのは、ブルースに隠された哀しい歴史と、100年後の今なお続く差別と絶望への抵抗だ。
「ファーザー」ロンドンに住む老人と、彼を介護する娘の物語。この作品が特徴的なのは、認知症を患う老人の視点で描かれていること。認知症モチーフの作品は無数にあるが、この病気をこれほどディープに、体験的に理解させてくれる作品ははじめて。アンソニー・ホプキンスが圧巻。
「茜色に焼かれる」中学生の息子の視点で描かれる、母さんの生き様の物語。夫を交通事故で亡くしたシングルマザーに、ありとあらゆる理不尽が降りかかる。めっちゃヘビーで痛いけど、目が離せない。石井裕也監督が描き出したのは、コロナ禍の今の時代を映し出した、懸命に生きる庶民の物語だ。
「トゥルーノース」悪名高い北朝鮮の政治犯強制収容所の実態を、3DCGアニメーションで描く大労作。多くの脱北者からの聞き取り調査した内容をもとに構成された、ドキュメンタリーアニメーションだ。これは今も明日をも知れぬ強制収容所の中で苦しんでいる、実在する人々の物語。
「アメリカン・ユートピア」デヴィッド・バーンが2018年に発表した同名アルバムを元に、ブロードウェイで上演したコンサートショウを、スパイク・リーがドキュメンタリー映画化した作品。これは本当に、まだ見ぬユートピアを求めるバーンの、いやアメリカの遠大な旅を描いた骨太の作品だった。
「るろうに剣心 最終章 The Beginning」シリーズ最終作にしてベスト。幕末の動乱期、血の雨を降らせ、多くの人を殺めた抜刀斎は、いかにして心優しいるろうに剣心となったのか。前作までのド派手なスウォードアクションとは違い、最後の侍の時代を描くいぶし銀の本格時代劇だ。
「オクトパスの神秘:海の賢者は語る」ドキュメンタリストのおじさんが出会ったのは、貝殻のドレスをまとった一匹の若いタコ。彼女に魅了されたおじさんは、いつの間にかタコストーカーと化し彼女を追いはじめる。まるでドキュメンタリー版「シェイプ・オブ・ウォーター」の様な、異種純愛ラブストーリー。
「映画大好きポンポさん」映画オタクだが何の実績もない主人公が、天才映画プロデューサーのポンポさんから、いきなり長編映画の監督を任される。映画制作の内幕を巡る喜怒哀楽が、90分の尺に凝縮された傑作。おそらく映画史上はじめて、“編集”というプロセスをフィーチャーした作品だ。
「ジャスティス・リーグ: ザック・スナイダーカット」今年も素晴らしいアメコミ映画がたくさんあったが、「ブラック・ウィドウ」も「シャン・チー/テン・リングスの伝説」も、作者の執念ではこの作品にかなわない。愛娘の急逝で「ジャスティス・リーグ」を降板したザック・スナイダーが、作品本来の姿を取り戻した傑作。
「Arc アーク」人気作家ケン・リュウ作品初の映画化。人類で初めて不老不死の体を得た女性の、17歳から135歳までを描くクロニクル。必滅の存在である人間が、死する運命から解放された時、一体何が起こるのか。大いなる流れに身を委ね、静かに、ディープに命の円弧を考察する、深淵なる127分だ。
「ゴジラvsコング」怪獣クロスオーバー企画“モンスターバース”のクライマックスは、どこまでも正しい怪獣プロレス。まるで少年漫画のような圧倒的な熱量を持つ日米ライバル対決に、メカゴジラまで参戦し、怒涛のバトルのてんこ盛りにお腹いっぱい。まるで遊園地のライドの様な、実に楽しい作品だった。
「竜とそばかすの姫」細田守3本目のインターネットモチーフ作品は、「サマーウォーズ」の世界観の延長線上に、「美女と野獣」を独自の解釈でリメイクしたもの。映画作家として描きたいことはより純化されていて、いわば夏休み娯楽大作の仮面をつけたゴリゴリの作家映画となっている。
「少年の君」瑞々しくも痛々しい、ボーイ・ミーツ・ガール映画の傑作。凄惨ないじめの被害者となってしまうチョウ・ドンユイと、ひょんなことから彼女を守るナイトとなる不良少年のチェン・ニェン。最悪の状況の中でお互いを思う若い二人の、狂おしいまでの愛と罪の葛藤で魅せる。
「フリー・ガイ」ゲームの世界のモブキャラに、もし人格があったら?というメタ構造を最大限に利用して、ワクワクするエンターテイメンに仕上げたショーン・レビ監督のアドベンチャー映画。「この世界に“モブキャラ”はいない。さあ、想像力を広げよう!」というメッセージが自然に入ってくる。
「ドライブ・マイ・カー」今年の賞レースを席巻する三時間の大長編。わだかまりを抱えたまま妻に先立たれた舞台演出家が、全てを受け入れるまでの物語が、チェーホフの「ワーニャ伯父さん」の上演プロセスとして表現されている。濱口竜介監督はオムニバス映画「偶然と想像」も素晴らしい仕上がりだった。
「アイダよ、何処へ?」ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争末期、スレブレニツァで起こった虐殺事件の顛末を、一人の女性の目線で描いたハードな人間ドラマ。どんな残酷な事実があったとしても、戦いが終われば全てを許すことはできるのか?いつまで経っても繰り返される、人類の罪と罰の物語。
「由宇子の天秤」ドキュメンタリー作家の主人公の身にふりかかった、家族が犯した罪。社会正義のために仕事をしている主人公は、我が身を守るためにあっさりと嘘をつく。分かりやすいダブルスタンダードの葛藤から始まって、やがて浮かび上がるのは、決して埋まることのない“真実の空白”だ。
「DUNE/デューン 砂の惑星」フランク・ハーバードの古典SF、27年ぶりの映画化。まだ前後編の前編のみとは言え、ハーバートの原作の映画化としても、ドゥニ・ヴィルヌーヴの作家映画としても、これ以上何を望む?という見事な仕上がり。後編制作にはGOサインが出たそうなので、非常に楽しみ。
「最後の決闘裁判」中世フランスで起こった強姦事件。しかし加害者とされた男は疑惑を否定。被害者の夫は神のみぞ知る真実を証明するために、敗者が死刑となる決闘裁判の決行を王に訴える。関係者の言い分が異なる、典型的ラショウモンケースから浮かび上がるのは、男性中心の歴史の歪さだ。
「アイの歌声を聴かせて」なぜか人を幸せにしたがるアンドロイドの”シオン”に振り回される、高校生の主人公と仲間たち。シオンの隠された目的が明らかになる時、観客は皆涙腺を決壊させるだろう。「イヴの時間」の吉浦康裕が、人とAIの未来を希望的に描いた、爽やかな青春SFファンタジー。
「マリグナント 凶暴な悪夢」現在最高のホラー・マイスター、ジェームズ・ワン監督が、80年代ホラーにオマージュを捧げたグチャグチャドロドロのモンスターホラー。小出しされる恐怖の正体が、遂にその姿を表す瞬間は、脳内で変な声が出た(笑 )いい意味で悪趣味な、懐かしいテイストのジャンル映画だ。
「パワー・オブ・ザ・ドッグ」名匠ジェーン・カンピオン、12年ぶりの新作。100年前のモンタナ州の農場を舞台に、ある秘密を抱えた牧場主の物語が描かれる。二つの世界大戦の戦間期で、様々な価値観が生まれた過渡期の時代。秘められた愛によって、雁字搦めになってしまった男の哀しい寓話だ。
「tick, tick... BOOM!: チック、チック…ブーン!」若くして亡くなったミュージカル作家、ジョナサン・ラーソンの物語を、現代ブロードウェイを代表するリン=マニュエル・ミランダが描く。青春の終わりに怯えるラーソンの葛藤を、現在から俯瞰することで、切なくも輝かしい一つの青春の物語が浮かび上がる。
「ラストナイト・イン・ソーホー」現在のソーホーに引っ越してきた霊媒体質の主人公が、1965年に同じ部屋に住んでいた女性の心とシンクロする。華やかな大都会の影に見えてくるのは、成功を夢見る若い女性たちが、男たちに搾取される恐ろしい時代。エドガー・ライトのキレキレの演出を堪能できる。
「ドント・ルック・アップ」アダム・マッケイ節が冴え渡る、社会風刺SFの怪作。巨大彗星の接近で地球に滅亡の時が半年後に迫る中、人々は危機そっちのけで争い、分断を深めてゆく。彗星は地球温暖化のメタファーで、人々が信じたいものだけを見たトランプの時代が徹底的に戯画化される。
「レイジング・ファイア」アクション全部入りの豪華幕の内弁当。どんな不正も許せないドニー・イェン刑事が、因縁の敵ニコラス・ツェーと戦う。悪と正義は紙一重ではあるが、結局その紙一枚分の矜持を持ち続けられるかどうかで運命が決まる。ベニー・チャン監督の遺作にして最高傑作。
以上、洋邦取り混ぜて33本。
これ以外では、洋画なら「聖なる犯罪者」「ミナリ」「サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~」「モーリタニアン 黒塗りの記録」などが印象的だった。
相変わらず豊作の日本映画は「あのこは貴族」「いとみち」「騙し絵の牙」「浜の朝日の嘘つきどもと」「BLUE ブルー」「空白」など。
劇場用アニメーションも「サイダーのように言葉が湧き上がる」や「漁港の肉子ちゃん」など優れた作品が多かったが、イラストレーターのloundrawが、自主制作体制で作り上げた「サマーゴースト」は注目すべき作品だ。
「MINAMATA ミナマタ」や「ONODA 一万夜を越えて」など、外国人監督による日本の話も一昔前には考えられない完成度。
世界的に女性監督の活躍が目立ったのと、今年はやっぱり有村架純イヤーだったな。
さて、コロナ禍は三年目で終わるのか。
それでは皆さん、よいお年をお迎えください。
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今年も劇場がクローズする時期はあったものの、公開延期となっていた作品もほとんど劇場公開されたし、昨年公開された「鬼滅の刃」は遂に前人未到の興収400億に達した。
新作では「シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇」も、そのマニアックさと長尺をものともせずに、興収百億を突破し、少なくとも日本の映画館界隈は世界基準だとだいぶマシだったと言えるだろう。
一方で、配信シフトはますます進み、映画の未来形はまだ不確かだ。
それでは、今年の“忘れられない映画たち”をブログでの紹介順に。
選出基準はただ一つ、“今の時点でより心に残っているもの”だ。
「花束みたいな恋をした」ひょんなことから知り合った21歳の同い年カップルの、恋の始まりと終わりを描くリリカルな青春物語。一見バブル期のトレンディドラマのような、美男美女のお洒落な恋愛映画かと見せてかけて、実は若いオタクの青春の行き着く先を描いた、相当にエグい話だ。
「ヤクザと家族 The Family」90年代からはじまって現在まで、三つの時代を描くクロニクル。暴対法の影響で、徐々に滅びてゆくヤクザというモチーフから、21世紀の日本社会の閉塞を象徴的に描き出す。藤井道人監督の、キャリア・ベストの仕上がりと言える傑作だ。
「すばらしき世界」役所広司が演じる、元殺人犯のヤクザ者が長い刑期を終えて出所。すっかり浦島太郎化した男の奮闘を描く。西和美和監督らしい、社会からちょっとはみ出したアウトローの悲哀の物語が、半分くらい「ヤクザと家族 The Family」とかぶるのが面白い。
「シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇」25年間に作られた過去作の全てをアーカイブ的に内包し、全ての葛藤に決着をつける完結編。庵野秀明の究極の私小説であり、αでありω、極大でありながら極小。星をつぐものの壮大な神話が、超パーソナルな内面の葛藤に帰結するのは、実に日本的だ。
「ノマドランド」不況で家を失い、手製のキャンピングカーに荷物を詰め込んで旅に出た主人公が、各地で一期一会を繰り返しながら、日々を懸命に生きてゆく物語。劇映画でありながら、ドキュメンタリー的手法を盛り込んでいるのが新しい。本作でオスカーをかっさらったクロエ・ジャオ監督は、MCUの超大作「エターナルズ」でも自分のスタイルを貫いた。
「JUNK HEAD」“超大作”と形容したくなるスケール感を持つ、ストップモーションアニメーションの大労作。一つの世界を、ここまで徹底的に作り込んだ作品は久々に観た。本作がデビュー作となる堀貴秀監督が、7年をかけてゼロから全てを作り上げた、驚くべき没入感を持つ傑作だ。
「街の上で」今泉力哉監督が、円熟の技を見せる群像劇。端的に言えば、舞台となる下北沢を大きなフレームとして捉えた、点描画のような作品だ。一つひとつの小さなセカイは混じり合い、弾き合い、一つのユニークな風景となって、いつの間にか下北沢という”世界”の一部となっている。
「マ・レイニーのブラックボトム」うだるような熱波に包まれた1927年のシカゴで、伝説的なブルース歌手、マ・レイニーのレコーディングが行われる。幾つもの不協和音がぶつかり合い、浮かび上がってくるのは、ブルースに隠された哀しい歴史と、100年後の今なお続く差別と絶望への抵抗だ。
「ファーザー」ロンドンに住む老人と、彼を介護する娘の物語。この作品が特徴的なのは、認知症を患う老人の視点で描かれていること。認知症モチーフの作品は無数にあるが、この病気をこれほどディープに、体験的に理解させてくれる作品ははじめて。アンソニー・ホプキンスが圧巻。
「茜色に焼かれる」中学生の息子の視点で描かれる、母さんの生き様の物語。夫を交通事故で亡くしたシングルマザーに、ありとあらゆる理不尽が降りかかる。めっちゃヘビーで痛いけど、目が離せない。石井裕也監督が描き出したのは、コロナ禍の今の時代を映し出した、懸命に生きる庶民の物語だ。
「トゥルーノース」悪名高い北朝鮮の政治犯強制収容所の実態を、3DCGアニメーションで描く大労作。多くの脱北者からの聞き取り調査した内容をもとに構成された、ドキュメンタリーアニメーションだ。これは今も明日をも知れぬ強制収容所の中で苦しんでいる、実在する人々の物語。
「アメリカン・ユートピア」デヴィッド・バーンが2018年に発表した同名アルバムを元に、ブロードウェイで上演したコンサートショウを、スパイク・リーがドキュメンタリー映画化した作品。これは本当に、まだ見ぬユートピアを求めるバーンの、いやアメリカの遠大な旅を描いた骨太の作品だった。
「るろうに剣心 最終章 The Beginning」シリーズ最終作にしてベスト。幕末の動乱期、血の雨を降らせ、多くの人を殺めた抜刀斎は、いかにして心優しいるろうに剣心となったのか。前作までのド派手なスウォードアクションとは違い、最後の侍の時代を描くいぶし銀の本格時代劇だ。
「オクトパスの神秘:海の賢者は語る」ドキュメンタリストのおじさんが出会ったのは、貝殻のドレスをまとった一匹の若いタコ。彼女に魅了されたおじさんは、いつの間にかタコストーカーと化し彼女を追いはじめる。まるでドキュメンタリー版「シェイプ・オブ・ウォーター」の様な、異種純愛ラブストーリー。
「映画大好きポンポさん」映画オタクだが何の実績もない主人公が、天才映画プロデューサーのポンポさんから、いきなり長編映画の監督を任される。映画制作の内幕を巡る喜怒哀楽が、90分の尺に凝縮された傑作。おそらく映画史上はじめて、“編集”というプロセスをフィーチャーした作品だ。
「ジャスティス・リーグ: ザック・スナイダーカット」今年も素晴らしいアメコミ映画がたくさんあったが、「ブラック・ウィドウ」も「シャン・チー/テン・リングスの伝説」も、作者の執念ではこの作品にかなわない。愛娘の急逝で「ジャスティス・リーグ」を降板したザック・スナイダーが、作品本来の姿を取り戻した傑作。
「Arc アーク」人気作家ケン・リュウ作品初の映画化。人類で初めて不老不死の体を得た女性の、17歳から135歳までを描くクロニクル。必滅の存在である人間が、死する運命から解放された時、一体何が起こるのか。大いなる流れに身を委ね、静かに、ディープに命の円弧を考察する、深淵なる127分だ。
「ゴジラvsコング」怪獣クロスオーバー企画“モンスターバース”のクライマックスは、どこまでも正しい怪獣プロレス。まるで少年漫画のような圧倒的な熱量を持つ日米ライバル対決に、メカゴジラまで参戦し、怒涛のバトルのてんこ盛りにお腹いっぱい。まるで遊園地のライドの様な、実に楽しい作品だった。
「竜とそばかすの姫」細田守3本目のインターネットモチーフ作品は、「サマーウォーズ」の世界観の延長線上に、「美女と野獣」を独自の解釈でリメイクしたもの。映画作家として描きたいことはより純化されていて、いわば夏休み娯楽大作の仮面をつけたゴリゴリの作家映画となっている。
「少年の君」瑞々しくも痛々しい、ボーイ・ミーツ・ガール映画の傑作。凄惨ないじめの被害者となってしまうチョウ・ドンユイと、ひょんなことから彼女を守るナイトとなる不良少年のチェン・ニェン。最悪の状況の中でお互いを思う若い二人の、狂おしいまでの愛と罪の葛藤で魅せる。
「フリー・ガイ」ゲームの世界のモブキャラに、もし人格があったら?というメタ構造を最大限に利用して、ワクワクするエンターテイメンに仕上げたショーン・レビ監督のアドベンチャー映画。「この世界に“モブキャラ”はいない。さあ、想像力を広げよう!」というメッセージが自然に入ってくる。
「ドライブ・マイ・カー」今年の賞レースを席巻する三時間の大長編。わだかまりを抱えたまま妻に先立たれた舞台演出家が、全てを受け入れるまでの物語が、チェーホフの「ワーニャ伯父さん」の上演プロセスとして表現されている。濱口竜介監督はオムニバス映画「偶然と想像」も素晴らしい仕上がりだった。
「アイダよ、何処へ?」ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争末期、スレブレニツァで起こった虐殺事件の顛末を、一人の女性の目線で描いたハードな人間ドラマ。どんな残酷な事実があったとしても、戦いが終われば全てを許すことはできるのか?いつまで経っても繰り返される、人類の罪と罰の物語。
「由宇子の天秤」ドキュメンタリー作家の主人公の身にふりかかった、家族が犯した罪。社会正義のために仕事をしている主人公は、我が身を守るためにあっさりと嘘をつく。分かりやすいダブルスタンダードの葛藤から始まって、やがて浮かび上がるのは、決して埋まることのない“真実の空白”だ。
「DUNE/デューン 砂の惑星」フランク・ハーバードの古典SF、27年ぶりの映画化。まだ前後編の前編のみとは言え、ハーバートの原作の映画化としても、ドゥニ・ヴィルヌーヴの作家映画としても、これ以上何を望む?という見事な仕上がり。後編制作にはGOサインが出たそうなので、非常に楽しみ。
「最後の決闘裁判」中世フランスで起こった強姦事件。しかし加害者とされた男は疑惑を否定。被害者の夫は神のみぞ知る真実を証明するために、敗者が死刑となる決闘裁判の決行を王に訴える。関係者の言い分が異なる、典型的ラショウモンケースから浮かび上がるのは、男性中心の歴史の歪さだ。
「アイの歌声を聴かせて」なぜか人を幸せにしたがるアンドロイドの”シオン”に振り回される、高校生の主人公と仲間たち。シオンの隠された目的が明らかになる時、観客は皆涙腺を決壊させるだろう。「イヴの時間」の吉浦康裕が、人とAIの未来を希望的に描いた、爽やかな青春SFファンタジー。
「マリグナント 凶暴な悪夢」現在最高のホラー・マイスター、ジェームズ・ワン監督が、80年代ホラーにオマージュを捧げたグチャグチャドロドロのモンスターホラー。小出しされる恐怖の正体が、遂にその姿を表す瞬間は、脳内で変な声が出た(笑 )いい意味で悪趣味な、懐かしいテイストのジャンル映画だ。
「パワー・オブ・ザ・ドッグ」名匠ジェーン・カンピオン、12年ぶりの新作。100年前のモンタナ州の農場を舞台に、ある秘密を抱えた牧場主の物語が描かれる。二つの世界大戦の戦間期で、様々な価値観が生まれた過渡期の時代。秘められた愛によって、雁字搦めになってしまった男の哀しい寓話だ。
「tick, tick... BOOM!: チック、チック…ブーン!」若くして亡くなったミュージカル作家、ジョナサン・ラーソンの物語を、現代ブロードウェイを代表するリン=マニュエル・ミランダが描く。青春の終わりに怯えるラーソンの葛藤を、現在から俯瞰することで、切なくも輝かしい一つの青春の物語が浮かび上がる。
「ラストナイト・イン・ソーホー」現在のソーホーに引っ越してきた霊媒体質の主人公が、1965年に同じ部屋に住んでいた女性の心とシンクロする。華やかな大都会の影に見えてくるのは、成功を夢見る若い女性たちが、男たちに搾取される恐ろしい時代。エドガー・ライトのキレキレの演出を堪能できる。
「ドント・ルック・アップ」アダム・マッケイ節が冴え渡る、社会風刺SFの怪作。巨大彗星の接近で地球に滅亡の時が半年後に迫る中、人々は危機そっちのけで争い、分断を深めてゆく。彗星は地球温暖化のメタファーで、人々が信じたいものだけを見たトランプの時代が徹底的に戯画化される。
「レイジング・ファイア」アクション全部入りの豪華幕の内弁当。どんな不正も許せないドニー・イェン刑事が、因縁の敵ニコラス・ツェーと戦う。悪と正義は紙一重ではあるが、結局その紙一枚分の矜持を持ち続けられるかどうかで運命が決まる。ベニー・チャン監督の遺作にして最高傑作。
以上、洋邦取り混ぜて33本。
これ以外では、洋画なら「聖なる犯罪者」「ミナリ」「サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~」「モーリタニアン 黒塗りの記録」などが印象的だった。
相変わらず豊作の日本映画は「あのこは貴族」「いとみち」「騙し絵の牙」「浜の朝日の嘘つきどもと」「BLUE ブルー」「空白」など。
劇場用アニメーションも「サイダーのように言葉が湧き上がる」や「漁港の肉子ちゃん」など優れた作品が多かったが、イラストレーターのloundrawが、自主制作体制で作り上げた「サマーゴースト」は注目すべき作品だ。
「MINAMATA ミナマタ」や「ONODA 一万夜を越えて」など、外国人監督による日本の話も一昔前には考えられない完成度。
世界的に女性監督の活躍が目立ったのと、今年はやっぱり有村架純イヤーだったな。
さて、コロナ禍は三年目で終わるのか。
それでは皆さん、よいお年をお迎えください。

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この記事へのコメント
ノラネコさん☆
明けましておめでとうございます。
突出した作品はなかったものの、良作が多かった年でしたね。
おすすめの「フリー・ガイ」と「アイダ~」と「最後の決闘裁判」はとても気になっているので近々見たいと思っています。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
明けましておめでとうございます。
突出した作品はなかったものの、良作が多かった年でしたね。
おすすめの「フリー・ガイ」と「アイダ~」と「最後の決闘裁判」はとても気になっているので近々見たいと思っています。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
>ノルウェーまだ~むさん
確かにムービー・オブ・ザ・イヤー的なものすごい作品は無かったですね。
しかし洋邦共に優れた作品が満遍なくあった印象です。
三年目のコロナがどうなることやら。
今年もよろしくお願いします。
確かにムービー・オブ・ザ・イヤー的なものすごい作品は無かったですね。
しかし洋邦共に優れた作品が満遍なくあった印象です。
三年目のコロナがどうなることやら。
今年もよろしくお願いします。
ノラネコさんこんばんわ♪明けましておめでとうございます。
あ、『いとみち』も豊作枠に入れてくださって嬉しい^^地元びいきもあるものの、自分も去年の特に印象に残った作品の一つです。
劇場作品も洋邦共に良作が多かったですが、配信作品も『ドント・ルック・アップ』などの面白いものが多かった気がしますし、劇場で見逃した作品なども2か月くらい待てば配信作品になる辺りも近場映画館が閉店した自分にとっては正直凄く有難くで、そういう利便性込で2021年は配信作品鑑賞も更に加速した年だったかなぁというような気がしました。
あ、『いとみち』も豊作枠に入れてくださって嬉しい^^地元びいきもあるものの、自分も去年の特に印象に残った作品の一つです。
劇場作品も洋邦共に良作が多かったですが、配信作品も『ドント・ルック・アップ』などの面白いものが多かった気がしますし、劇場で見逃した作品なども2か月くらい待てば配信作品になる辺りも近場映画館が閉店した自分にとっては正直凄く有難くで、そういう利便性込で2021年は配信作品鑑賞も更に加速した年だったかなぁというような気がしました。
>メビウスさん
津軽だったのですね。
「いとみち」は愛すべき小品という感じで、とても好きです。
確かにこの2年で配信は急速に普及しましたよね。
そろそろ劇場との棲み分けも、難しくなってくるのかなと思います。
映画の未来形はまだ見えないですね。
今年もよろしくお願いします。
津軽だったのですね。
「いとみち」は愛すべき小品という感じで、とても好きです。
確かにこの2年で配信は急速に普及しましたよね。
そろそろ劇場との棲み分けも、難しくなってくるのかなと思います。
映画の未来形はまだ見えないですね。
今年もよろしくお願いします。
明けましておめでとうございます。
ノラネコさんのセレクション、興味深く拝見しました。
「ノマドランド」と「トゥルー・ノース」は2020年の鑑賞でした。ああ、これも去年なのか、いや一昨年なのか…と、自身で顧みると、最近月日の経つのが早くかつ混沌としているな、と感じます。そういった意味でも(私にとっては)1年のベストを選ぶ作業は大切なのですが。
いずれにしても、「少年の君」「レイジング・ファイア」は一食抜いても観るべき!だと思いました。
ノラネコさんのセレクション、興味深く拝見しました。
「ノマドランド」と「トゥルー・ノース」は2020年の鑑賞でした。ああ、これも去年なのか、いや一昨年なのか…と、自身で顧みると、最近月日の経つのが早くかつ混沌としているな、と感じます。そういった意味でも(私にとっては)1年のベストを選ぶ作業は大切なのですが。
いずれにしても、「少年の君」「レイジング・ファイア」は一食抜いても観るべき!だと思いました。
>ここなつさん
「トゥルーノース」は一昨年から通算三回観てるのですが、ようやく劇場公開され、年末にはNetflixで世界配信されたことが感慨深いです。
いろいろな意味で光陰矢の如しですが、忘れてはいけない映画はたくさんあったと思います。
とりあえず、年の終わりがドニーさん祭りだったのは、お互いよかったですねw
「トゥルーノース」は一昨年から通算三回観てるのですが、ようやく劇場公開され、年末にはNetflixで世界配信されたことが感慨深いです。
いろいろな意味で光陰矢の如しですが、忘れてはいけない映画はたくさんあったと思います。
とりあえず、年の終わりがドニーさん祭りだったのは、お互いよかったですねw
ネトフリ等の配信ドラマについては書かれたりなさいますか?
勝手ながら、『イカゲーム』とか『ゲーム・オブ・スローンズ』とか『愛の不時着』とか読みたいなって…ww
突然来てワガママ言ってすみません笑
『ヤクザと家族』は面白かったですね! 『ジャンクヘッド』は見る予定です。
『マリグナント』も必須ですかね。『アイダよ、どこへ?』『ドライブ・マイ・カー』は気になります。
私にオススメしていただくなら、何でしょうか?
そうそう、クリプトズーはすご〜く興味深い、好みのアートアニメでした。最高です!
勝手ながら、『イカゲーム』とか『ゲーム・オブ・スローンズ』とか『愛の不時着』とか読みたいなって…ww
突然来てワガママ言ってすみません笑
『ヤクザと家族』は面白かったですね! 『ジャンクヘッド』は見る予定です。
『マリグナント』も必須ですかね。『アイダよ、どこへ?』『ドライブ・マイ・カー』は気になります。
私にオススメしていただくなら、何でしょうか?
そうそう、クリプトズーはすご〜く興味深い、好みのアートアニメでした。最高です!
>とらねこさん
配信ドラマに関しても書きたいのですが、多すぎるので、主だったものはFilmarksの方にまとめています。
とらねこさんは文学的な作品がお好みという印象があるので、「パワー・オブ・ザ・ドッグ」や「Arc アーク」あたりはどうでしょうか。
配信ドラマに関しても書きたいのですが、多すぎるので、主だったものはFilmarksの方にまとめています。
とらねこさんは文学的な作品がお好みという印象があるので、「パワー・オブ・ザ・ドッグ」や「Arc アーク」あたりはどうでしょうか。
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新年明けましておめでとうございます。年末から年始にかけてかなりバタバタでしたので、コメントを頂いた方にも即レスできず、ご無礼致しました。私的な賀状も書けず仕舞い。でも最近は賀状よりもSNSでのご挨拶が主流ですよね〜。気持ちも新たに、2021年に観た映画のベストを書きたいと思います。まず、2021年私が観た作品の総括。※2020年に引き続き、コロナ禍で、遂に劇場が完全閉鎖となってしまった時期も...
2022/01/06(木) 10:47:41 | ここなつ映画レビュー
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