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シラノ・・・・・評価額1700円
2022年02月27日 (日) | 編集 |
愛は純粋にして不条理。

1897年にパリのポルト・サン・マルタン劇場で初演を迎えて以来、一世紀以上にわたって愛され、世界中で舞台化や映像化された名作戯曲「シラノ・ド・ベルジュナック」を、英国の異才ジョー・ライトが映画化した作品。
本作はオリジナルの戯曲そのままではなく、エリカ・シュミットによって2019年にミュージカル化された舞台をベースとしている。
主人公の騎士にして詩人シラノを、「スリー・ビルボード」などで知られる名バイプレイヤーのピーター・ディンクレイジが演じ、彼の恋敵であり同盟者となるクリスチャンにケルビン・ハリソン・Jr. 、二人から愛を捧げられるロクサーヌを「Swallow/スワロウ」が記憶に新しいヘイリー・ベネットが演じる。
ジョー・ライトらしい外連味は影を潜めているが、適度に現代的になったシラノは、魅力的なミュージカルナンバーと共に、聴きごたえも十分。
そして、後述するある理由によって、図らずも強烈な時事性をも獲得することになった。

パリ、17世紀。
新兵のクリスチャン(ケルビン・ハリソン・Jr.)は、馬車で観劇にやって来たロクサーヌ(ヘイリー・ベネット)の姿を見て一目惚れ。
劇場ではロクサーヌの幼なじみで小人症の騎士シラノ(ピーター・ディンクレイジ)を、貴族のバルバート(ジョシュア・ジェームズ)が侮辱し、決闘になる。
シラノはバルバートを倒すが、ロクサーヌに結婚を迫っている有力者のド・ギーシュ(ベン・メンデルスゾーン)の不興を買い、彼の部下に暗殺されそうになるも返り討ちに。
翌日、シラノはロクサーヌに愛を告白しようとして、ロクサーヌから劇場で見かけたクリスチャンに恋していると打ち明けられ、ショックを受ける。
シラノと同じ連隊に配属されたクリスチャンは、ロクサーヌに手紙を書こうとするも文才がなく、優れた詩人でもあるシラノに助言を求め、結局丸ごと代筆してもらう。
クリスチャンの名で、ロクサーヌに愛の言葉を届けることに複雑な想いを抱えていたシラノだが、ある日クリスチャンが直接彼女と話をすると言い出す・・・・・


17世紀のフランスに実在した人物、シラノ・ド・ベルジュナックをモデルにした、エドモン・ロスタンの同名戯曲の主人公のトレードマークといえば巨大な鼻である。
博学で語彙力豊かな詩人にして稀代の剣豪、正義漢で軍での信頼も厚い、オールマイティなパーフェクトヒューマン、しかし容姿だけがコンプレックスで、愛しのロクサーヌに告白出来ない。
悶々としている間に、ロクサーヌはハンサムだがちょっとおバカなクリスチャンに一目惚れし、シラノはクリスチャンの手紙を代筆する羽目になる。
この特異なキャラクターは、舞台だけでなく多くの映画でも歴代の名優たちに演じられてきた。
ホセ・ファーラーにアカデミー主演男優賞をもたらした1950年のマイケル・ゴードン版、ジェラール・ドバルデューが主演した1990年のジャン=ポール・ラプノー版、中には現在を舞台としたスティーブ・マーティン主演の「愛しのロクサーヌ」や、日本で翻案した三船敏郎主演の「或る剣豪の生涯」なんて作品もある。
これらの全てで、シラノの特徴的な鼻の設定は踏襲されていた。

ところが、本作のシラノは鼻がデカいのではなく小人症で、ロクサーヌと不思議な三角関係となるクリスチャンはアフリカ系
ずいぶん振り切った脚色だなと思ったが、意外にも物語の展開はロスタンの戯曲に忠実。
本作はエリカ・シュミットによる舞台ミュージカル版を原作としていて、彼女が映画の脚本も手がけている。
そして、シュミットの夫は、本作シラノを演じるピーター・ディンクレイジなのだ。
ディンクレイジは舞台版の主演も務めていたため、脚本は彼のシラノを前提に当て書きされている。
確かに肉体的コンプレックスを持たせるなら、別に鼻でなくても良いわけだ。
むしろ単にデカい鼻を付けていた過去の作品よりも、「私は愛される価値がない」という絶望がより切実に伝わってくる。
リーチが短いから、剣豪設定は無理では?と思ったが、この辺は演出で上手く見せている。
現実のディンクレイジとシュミットの写真を見ていると、まさに本作のシラノとロクサーヌそのもので、悲劇的な映画と幸福な現実が別の世界線に見えてくる。
ちなみに、監督のジョー・ライトとロクサーヌ役のヘイリー・ベネットも、私生活のパートナー同士で、現実ではリア充な作り手たちが、愛の不条理を描いているのも皮肉っぽくて面白い。
クリスチャン(と彼の上官の士官も)がアフリカ系なのは、さすがに17世紀のパリにアフリカ系の士官がいたとは思えないが、ミュージカルという非日常性のクッションがあるゆえ、あまり気にならない。

ジョー・ライトの作品で舞台絡みと言えば、「アンナ・カレーニナ」が印象深い。
原作は広く知られたトルストイの古典小説だが、ライトはサンクトペテルブルグとモスクワの貴族社会に生きる登場人物たちを、物語ごと“劇場”に閉じ込めるという奇策に出た。
なぜ劇場なのかと言えば、当時のロシア貴族はフランスかぶれで、フランス語を話し、フランス風の生活をし、まるで人生を演じているようだったから。
主人公のアンナにとっては、世界は丸ごと劇場だったのである。
歌わないミュージカルのような「アンナ・カレーニナ」は外連味たっぷりだったが、本作は舞台のムードを残しながらもさほどトリッキーなことはして来ない。
だが、テリングは実に映画的だ。
シラノと言えばウィットに富んだ比喩の達人だが、ライトは比喩のモンタージュで魅せる。
例えば愛の官能をパンを焼くプロセスに見立てるシーンや、シラノがド・ギーシュへの怒りを語るのと、クリスチャンの大立ち回りを並行で描くシーンなどは見事で、「ウェスト・サイド・ストーリー」とは別の意味で、舞台版をリスペクトしつつも映画ならではの作品となっている。
スピルバーグのように、カメラが縦横無尽に動き回るスペクタクルな演出はないが、パンフォーカスがあったり、被写界深度を生かしたショットがあったり、画面構成は象徴的で美しい。
ディンクレイジをはじめとする俳優陣も素晴らしい歌声を聞かせてくれて、ここでは音楽も映像もミュージカル表現の一部なのである。

しかし、この作品が強いインパクトを持って、人々の前に現れた理由は他にある。
本作の公開は、多くの国で2022年2月25日。
この前日に、ロシアがウクライナへの侵略を開始し、第二次世界大戦以降のヨーロッパで、最大規模の戦争が始まってしまった。
「シラノ」は情熱的なロマンスを描く作品であるのと同時に、戦争で人生を無茶苦茶にされ、愛する者を奪われる物語でもある。
シラノとクリスチャンの連隊が無謀な突撃に従事させられ、次々と兵士たちが倒れてゆく描写などは、映像的にもリアリスティックなため、どうしても現実の戦場を連想させる。
自分の復讐のために、他人を死地に追いやるド・ギーシュ がプーチンに見えたのは私だけではあるまい。
愛という感情の尊さが、人間を動かす最大の力であるのは普遍。
戦争が愛の対極にある、人間の最大の悪であるいうのも普遍。
神の意志か偶然の悪戯か、現実の戦争とほぼ同時に公開されたことによって、本作は本来意図していなかった強い時事性をも獲得してしまった。
これもまた、時代に呼ばれた作品なのかも知れない。

ところで、バルコニーのシーンは「ウエスト・サイド・ストーリー」とそっくり。
このシーンはどちらの原作にも元からあるし、「ロミオとジュリエット」にもあるから、ロスタンがシェイクスピアの影響を受けたのか。
まあバルコニーって、舞台で生かしやすいシチュエーションではあるけど。

今回は、平和への祈りを込めて「グリーン・ピース」をチョイス。
メロン・リキュール30ml、ブルー・キュラソー20ml、パイナップル・ジュース15ml、レモンジュース1tsp、生クリーム15mlを氷と共にシェイクし、グラスに注ぐ。
ターコイズを思わせる美しい青緑。
生クリームが全体をまとめ上げて、優しい口当たりの甘口のカクテルだ。

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コメント
この記事へのコメント
こんにちは
シラノのハンサム役にアフリカ系を据えるのなら、いっそ時間を1世紀半くらいずらして18世紀末にしちゃえば、大デュマの親父さんみたいな黒い肌の将軍も出てくるんですけどね。
2022/03/03(木) 13:07:08 | URL | 焼き鳥 #9L.cY0cg[ 編集]
こんばんは
>焼き鳥さん
そうですねえ。17世紀だとまだフランスが植民地帝国の建設に乗り出したばかりで、少し違和感があったのですが、100年くらい時代をずらしても問題ない世界観でしたよね。
2022/03/06(日) 19:59:01 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
リアルな戦争があると、バーチャルな戦争を100パー楽しむ事が出来なくなっていかんわい。
2022/03/13(日) 06:42:24 | URL | fjk78dead #-[ 編集]
こんばんは
>ふじきさん
本当にそうだけど、映画に啓蒙という役割がある以上、仕方ないですね。
本作の場合は意図したことじゃないけど。
2022/03/14(月) 21:56:56 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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17世紀フランス。 騎士シラノ・ド・ベルジュラックは優れた剣の腕前と詩の才能を持っており、仲間から絶大な信頼を得ていた。 しかし外見に自信が持てず、愛する女性ロクサーヌに告白できずにいる。 シラノと同じ隊に配属された青年クリスチャンに恋をしたロクサーヌは、シラノに仲立ちを依頼。 シラノは文才がないクリスチャンに代わって、ロクサーヌへのラブレターを書くことに…。 ラブストーリー。
2022/02/27(日) 22:47:40 | 象のロケット
『シラノ』トーホーシネマズ日比谷8 ▲画像は後から。 五つ星評価で【★★★非日常を煽るもう一つの手法】 ツイッターでの最初の感想(↓) 原点にほぼ忠実だけど、シラノの容姿改変が凄く効果をあけている。個人的に今一つ乗り気になれないのはロクサーヌが私の中ではあーではない。 と、うおー、ここから物凄く書いた感想レビューが全部吹っ飛んだ。 下書きの定期的な保存機能もオンしてるのに何で、どーして...
2022/03/13(日) 06:49:47 | ふじき78の死屍累々映画日記・第二章