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ナイトメア・アリー・・・・・評価額1700円
2022年03月29日 (火) | 編集 |
悪夢小路にようこそ。

「シェイプ・オブ・ウォーター」で初のオスカーに輝いたギレルモ・デル・トロの最新作。
ウィリアム・リンゼイ・グレシャムが、1946年に発表した「ナイトメア・アリー 悪夢小路」の二度目の映画化となる。
ブラッドリー・クーパー演じる流れ者のスタンが、カーニバルの一座に身を寄せ、そこで読心術のノウハウを身につける。
やがて彼は、一座の人気者のモリーと恋仲となり、独立して都会で独自のショウを行う様になるのだが、読心術で稼げる金に満足できず、心理学者のリッター博士と手を組み、心に傷を抱えた金持ち相手の降霊術という、禁断の果実に手を出してしまう。
デル・トロと彼の妻で映画史家のキム・モーガンが共同で脚本を執筆し、ルーニー・マーラー、ケイト・ブランシェット、リチャード・ジェンキンスら曲者揃いの重厚なキャストが揃った。
ハリウッドデビュー作の「ミミック」以来、デル・トロとは複数回コンビを組んでいる撮影監督、ダン・ローストセンによるムーディーな画作りも素晴らしい。
※核心部分に触れています。

1939年9月。
ナチス・ドイツによるポーランド侵攻のニュースが流れる中、流れ者のスタン・カーライル(ブラッドリー・クーパー)は、巡業中のカーニバルの一座のボス、クレム(ウィレム・デフォー)に気に入られ職を得る。
雑用係として一座に馴染んでゆくスタンだったが、飲んだくれのピート(デヴィッド・ストラザーン)の持つ読心術のスキルに興味を持つ。
ピートはほんの僅かな手がかりから、相手の心の状態を探り、言い当てるという、本当の超能力のような見事な読心術を完成させていた。
彼の技を自分の物にしたいスタンは、泥酔したピートに酒と偽ってメタノールを渡し殺害。
長年の研究をしたためたノートを奪い取り、恋仲になっていた一座の人気者モリー(ルーニー・マーラー)と共にカーニバルを去る。
二年後、スタンとモリーは、都会のホテルで読心術のショウを主催し成功していたが、ある夜彼らのショウの観客として、心理学者のリッター博士(ケイト・ブランシェット)が訪れる。
彼女の挑発をいなしたスタンだったが、金持ちの顧客を多く抱えるリッターに、ある取引を持ちかける・・・・・


いかにもデル・トロらしい、ダークな空気が充満するノワール。
主人公のスタンは、典型的なピカレスク小説のキャラクターだ。
冒頭、彼はいきなり父親の死体を引きずり、建物ごと燃やすというショッキングな登場の仕方をする。
そして飛び乗った長距離バスの終点で、カーニバルの一座と運命的な出会いをするのだ。
人間でありながら、獣のような振る舞いをする“獣人”を売りにする一座で、逃げ出した獣人を捕まえる手伝いをしたことから、スタンは一座のボスであるクレムの知遇を得て雑用の仕事につく。
どこで獣人を見つけるのかとスタンから問われたクレムは、食い詰め者が集まる”悪夢小路”で、行く宛のない流れ者を「一時的な仕事がある」と誘い、アヘン漬けにして理性を奪い、獣人にするのだと言う。
もともと頭が良く、手先の器用なスタンは、みるみる内に一座に受け入れられると、ピートの編み出した読心術という金の生る木に出会う。
彼は、単純なエンターテイメントして人々を喜ばせるのではなく、人の心を惑わすことで金を生み出す、その仕掛けに魅了されるのである。
ショウと言う虚構を、本物に見せることに生きる道を見出したスタンは、やがてピートから言われた警告を忘れ、種も仕掛けもある読心術を、何でも出来ると能力と勘違いしてしまう。
自分の中で、虚構と現実が境界を失ってしまっているのに気付かない。

彼が禁断の扉を開けるきっかけとなるのが、あるホルマリン漬けの標本だ。
クレムは奇形の動物や胎児の標本をコレクションしていて、その中でも出産時に暴れて母親を殺したという、一つ目の巨大な胎児の標本に“エノク”と言う名をつけて大切にしている。
エノクとは、旧約聖書の創世記の登場人物で、現世で死することなく、神に連れられて天上に上がったとされている。
つまり親を殺した禍々しい子でありながら、同時に死を超越した神性を併せ持つ存在だ。
「パシフィック・リム」の怪獣と同じように、デル・トロがエンドクレジットでエノクをどアップで舐め回すように描写していることからも分かるように、物語の筋立てには直接からまない、物言わぬホルマリン漬けの奇形胎児の標本こそが、この物語の影の主役なのだ。
タイトルの“悪夢小路”とは、具体的な地名ではなく、この世の何処にでもある底辺の人間が堕ちて朽ち果てる所。
私はエノクとの出会いこそが、スタンにとっての更なる親殺しの呪いの始まりであり、悪夢小路への鍵だったと思う。

物語の中で、スタンは父親のような年齢の男たちを何人も殺す。
原体験としての実の父親を、実際に手にかける描写は無いが、家ごと死体を燃やす。
そして、読心術の秘密を得るためにピートを殺し、更なる成功を求めた結果ついに嘘が破綻し、降霊術の雇い主であるエズラ・グリンドル判事をも殺すハメになる。
しかし、エノクの呪いを受けたスタンの破滅は、実は綿密に計画されているのだ。
物語のターニングポイントとなるのは、ケイト・ブランシェット演じるリッター博士の登場だ。
彼女によって、息子を亡くした判事のキンボール、次いでドリーという女性への激しい贖罪の念を抱えた、同僚のグリンドル判事に引き合わされたスタンは、身の破滅につながる降霊術に手を出してしまう。
単に相手が何を思っているのかを当てる読心術なら、「へー凄いね」で終わる。
だが、テクニックとしては同じでも、降霊術を求める相手は罪悪感や喪失感といった何らかの心の傷を抱え、死者とのコンタクトを切望している人たちだ。
亡くなった人の魂を呼び出すとうたう偽りの降霊術は、残された者の心を弄ぶ行為。
拝金主義者を自認し、大金を得ようとしたスタンは自分が仕掛けた罠の外に、もう一つの罠があることに気付かず、自分からハマってゆく。

胸に大きな傷を持つリッター博士は、過去に権力者であるグリンドルと何らかのトラブルを抱え、その結果として傷を負ったことを示唆する。
つまり彼女はグリンドルへ恨みを抱いていてもおかしくないのだが、もはや金に目が眩んでいるスタンはそこまで考えが至らない。
グリンドルがコンタクトを取りたがっている亡くなったドリーは、グリンドルの子を出産時に死亡したことになっているので、明示こそされないものの、その時の赤ん坊こそがエノクだということもあり得るだろう。
スタンに呪いをかけ、リッターを利用し、自分の母に酷い扱いをして、彼女の死に贖罪の念を抱いている父グリンドルを殺す。
全ては初めからエノクの復讐だったと考えると、一番しっくり来る。
金銭的な成功こそ全てで、自分はなんでも出来る偉大な男だと勘違いしたスタンは、本当のキレもののリッター博士に取り込まれていることに気付かず、リッター博士の計画もまたエノクの超自然的な呪いに導かれている。

基本的に誰もが腹に一物を持つ物語の中で、唯一の感情移入キャラクターと言えるのが、ルーニー・マーラーが演じるモリーで、このキャラクターを常にスタンと一緒にさせるシナリオ上のポジショニングが秀逸。
第二次世界大戦の勃発という恐怖の時代を背景に、幾つもの伏線と暗喩が一点に収束してゆく、ストーリーテリングの妙は、最後に大きなカタルシスを感じさせる。
スタンをはじめ男性原理的な嗜虐性で罪を犯した者は、女性(リッター)と子供(エノク)から復讐され破滅してゆく。
因果応報の行き着く先は、人間が理性を保てない”悪夢小路”だ。
フィルモグラフィーの中ではファンタジー色は薄いものの、ムーディーなノワールに奇形偏愛もしっかりぶち込んできて、濃いめのデル・トロ節を堪能できる秀作である。

タイトル通りに全体が悪夢を見ているような物語には、「ナイトメア」をチョイス。
ドライ・ジン30ml、デュボネ30ml、チェリー・ブランデー15ml、オレンジジュース15mlを氷と共にシェイクし、グラスに注義、最後にマラスキーノチェリーを飾って完成。
どれほど強いカクテルかと思和される名前だが、実はけっこう飲みやすい。
デュボネの香味とチェリー・ブランデーの甘み、オレンジの酸味が好バランスし、スッキリとした飲み味だ。
ただ、それなりにアルコール度数は高いので、飲み過ぎには注意。

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コメント
この記事へのコメント
因果応報
ノラネコさん☆
ドリーの出産したのがエノクですか~!?それは思い至りませんでした。
白いドレスのドリーは胃のあたりが真っ赤だったので、てっきり彼女はグリンドルの愛人かなにかで彼に殺されたから、しつこく贖罪の気持ちに囚われているのかな?と思いました。
読心術といいながら、結局人の心の中を読めなかったスタンは哀れでしたね~
2022/04/08(金) 17:43:03 | URL | ノルウェーまだ~む #gVQMq6Z2[ 編集]
こんばんは
>ノルウェーまだ~むさん
エンドクレジットの描き方を見る限り、エノクは主役だったんだなとしか思えず。
ならば、物語の中で繋がるものはといえば、ドリーしかいないんですね。
原作未読なので、原作の設定なのかオリジナルの脚色かは分からないですが、デル・トロがこの胎児に意味を持たせるとするとこれしかないかと。
2022/04/10(日) 21:45:48 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
こんにちは
こんにちは。
権力者ほど占いやカルトにハマっていくという皮肉を描いていたのも興味深かったです。ただ、エノクの解釈については思い浮かばなかったなぁ!
2022/04/25(月) 16:00:43 | URL | ここなつ #/qX1gsKM[ 編集]
こんばんは
>ここなつさん
権力者のそばに怪しげな占い師や僧侶がいるのは、歴史のいろんなところで見られますからねえ。
エノクは単なる標本でないのはエンドクレジットで確信して、そこから遡った解釈です。
2022/05/07(土) 19:04:58 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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1939年。 流れ者の青年スタンがたどり着いたのは、正体不明の獣人(ギーク)などを出し物にしている怪しげなカーニバル(見世物小屋)一座。 そこで読心術を身に付けた彼は、座員の女性モリーと一座を抜け独立。 一流ホテルのステージで読心術を披露するうちに、リリスという女性と出会う…。 サスペンス・スリラー。
2022/03/30(水) 22:19:13 | 象のロケット
「禍々しい(まがまがしい)」という表現が昇華した作品。禍々しさはギレルモ・デル・トロの真骨頂である。これは、ギレルモ・デル・トロの世界観を堪能する作品。ただそれだけである、と言い切っても良い。オーラスの、スタン(ブラッドリー・クーパー)のセリフ…私はこのオーラスのセリフが作品を一気通貫した肝(キモ)だと思っているのだが…を発する際に、彼をして表される愉悦に満ちたカッと見開いた瞳は、歌舞伎でい...
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