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2022年07月02日 (土) | 編集 |
YouTuberラプソディー。
岸井ゆきの演じるポンコツYouTuberに、恩を仇で返された神のように優しい男、ムロツヨシがキレる。
昨年は「BLUE ブルー」と「空白」と二本の秀作が公開され、演者を生かし切った脂の乗った演出で観客を魅了した吉田恵輔監督。
これは彼の作品の中でも、ダントツにストレートで分かりやすい風刺劇だ。
吉田作品の特徴でもあるダサイ、カッコ悪い人間たち。
良きパートナーの関係から、激しく潰し合うまでになってしまう、この物語の二人の中心人物は、誰の中にもある人間のダメな部分を抽出したようなキャラクターだ。
人間だからこそ見返りを求めてしまう、田母神尚樹を演じるムロツヨシと、彼を裏切る女、河合優里を演じた岸井ゆきの、そして二人の間で有ること無いこと触れ回り、トリックスターの役割を果たす梅川葉を絵じた若葉竜也が素晴らしい。
とある合コンで出会った、 田母神尚樹(ムロツヨシ)と、コールセンターで働く河合優里(岸井ゆきの)。
彼女はダサイ動画ばかり配信するので再生回数が全く伸びない、底辺YouTuberでもあった。
イベント会社に勤める田母神は、優里を不憫に思い、自分のスキルを生かして彼女の動画制作を手伝うようになる。
優里も見返りを求めない田母神を頼りにし、人気は大して出ないものの、2人は良きパートナーとして力を合わせて頑張ってゆく。
しかしある時、人気YouTuberの番組に招かれたことがきっかけになり、優里がブレイク。
売れっ子のデザイナーやクリエイターがチームに入り、田母神の出番は無くなってゆく。
追い討ちをかけるように、田母神の人生を揺るがす出来事が起こり、彼はリッチになっていた優里に助けを求めるのだが、態度を豹変させた彼女は田母神を拒絶する。
恩を仇で返されたことにショックを受けた田母神は、暴露系YouTuberの“ゴッディー”を名乗り、優里いかに酷い女なのか、彼女を非難する番組配信をはじめるのだが・・・・
吉田恵輔の代表作の一つ「ヒメアノ〜ル」では、森田剛が怪演する森田正一というシリアルキラーが登場する。
ただし彼は生まれながらの悪人ではなく、元々は平凡で気弱な少年。
だが学生時代に凄惨なイジメを受け、耐えられなくなってイジメの主犯を殺してしまった。
この事件が彼の中に、もう一人の自分を目覚めさせてしまうのだ。
制御を失ったモンスターは、本能の赴くままに無関係の人々を殺しまくる。
映画は快楽殺人犯に決して共感は示さないが、負の連鎖によってモンスターになってしまった平凡な少年の、痛みと悲しみに寄り添い、強い憐れみを感じさせるのだ。
森田正一は極端な例だが、どんな人間にも、良い部分と悪いダメダメな部分がある。
例えば「馬車馬さんとビッグマウス」の、シナリオライターを目指す二人の主人公。
青春の全てを費やしても、ただの一回もコンテストに通らない女と、一本も書いてないのに、自分は天才だと豪語する男。
例えば「BLUE ブルー」の、同じ事務に所属する三人のボクサー。
誰よりも練習熱心だが試合では勝てない男と、才能豊かで強いけど体に爆弾を抱えた男、そしてなんちゃってボクサーのつもりが本気になってしまった男。
吉田恵輔の映画は、人間たちの中にある、どうしようもなくダサくてカッコ悪い部分、普通の生活では隠していたい部分をストレートに描く。
しかしそれゆえに、私たちは彼の映画の登場人物の中に自分を見て、深い共感を覚えるのである。
本作でダメダメな内面を曝け出すことになるのは、イベント会社に勤める中年サラリーマンの田母神と、底辺YouTuberの優里。
ムロツヨシ演じる田母神キャラクターが“一見いい人そうだけど、実は黒いものを抱えている”のではなく、掛け値無しの“本当にいい人”なのがポイント。
ごく普通のサラリーマンで、若い優里の夢に理解を示し、献身的に支える。
結構な時間と労力を割いているのに、お金を取るわけでもなく、むしろ彼女の起こした不祥事を解決するために、密かにお金を出したりしている。
その善意が向けられているのは優里だけではなく、別のある人物にも戻るあてのない金を貸してているのだから本物だ。
しかし誰にでも親切に、善意を与えることが、必ずしもその人のためになるとは限らない。
田母神の行為は、結果的にある人物を破滅させ、優里を大いに勘違いさせる。
優しい田母神のことを神と慕いながら、優里は自分がブレイクすると恩を仇で返すのだ。
元々、彼女には何か特に表現したいことがあるわけではない。
YouTubeという、誰もが手っ取り早く発信者になれるプラットフォームと出会ったことで、とりあえずやってみたと言うレベル。
表現者としての矜持は微塵も無く、目立ちたい、有名になりたい、売れたい、という欲望だけが先走っている。
そこに田母神が入ったことで、なんとか見られるレベルにはなるのだが、欲望で動く優里は有名YouTuberの番組に呼ばれ、プチブレイクしたことで暴走。
彼女にぶら下がる者たちが現れると、表現の目的が無い番組はどんどん過激化する。
すると、彼女を常識の範囲に押し止めようとする田母神が邪魔になるのだ。
人間は一人では生きられない生き物だから、今見返りを求めなかったとしても「いつか困った時は助けてね」が前提。
それが果たされない時、善意は容易に悪意に変わる。
二人のバトルの周辺には、田母神の同僚で周りに悪い噂だけをふれまわるトリックスターの梅川や、二人を付け狙う懲罰系YouTuberの少年など、さまざまなキャラクターが蠢いているのだが、どの人物も「今までの人生のどこかで出会ったことがあるよね?」と思えるリアリティ。
人間あるあるの因果応報負の連鎖に、なんだか登場人物たちが皆んな可哀そうに思えてくる。
ライトセーバーみたいに、自撮り棒で戦うところは滑稽で笑ってしまった。
まあ優里がやっているのは、完全な善意の搾取だし、途中からとんでもない性悪に見えてくるが、そう仕向けたのは田母神だし、彼女には彼女の言い分がある。
だからこそどっちが悪いではなく、等しく罰を受けるのだが、二人とも感情移入キャラクターゆえに、観ていて「何でこんなことになったんだろうなあ」と哀しくなるのだ。
もし田母神が、最初から謝礼を受け取っていたら。
もし優里が、田母神が助けを求めた時、多少でも感謝の気持ちを表していたら。
もし梅川が、いらんことを吹聴していなければ。
もしスマホとSNSが、存在していなければ。
ある意味、誰でも発信者になり得る時代が生んだ哀しきバトルで、21世紀ならではの寓話的な狂騒劇。
そしてやっぱり、世間はおじさんに厳しいことを実感。
今回は、二つの個性が混じり合ったら、危険なことになっちゃう話なので、「ボイラー・メイカー」をチョイス。
適量のビールを入れたグラスの中に、ショットグラスに注いだバーボンを落として完成。
米国のボイラー工場の労働者が、手っ取り早く酔っ払うために、ビールにバーボンを入れたのが発祥とされるが、韓国の「爆弾酒」をはじめ、類似のカクテルは世界中に存在する。
二日酔いは必至、取り合わせ注意な酒である。
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岸井ゆきの演じるポンコツYouTuberに、恩を仇で返された神のように優しい男、ムロツヨシがキレる。
昨年は「BLUE ブルー」と「空白」と二本の秀作が公開され、演者を生かし切った脂の乗った演出で観客を魅了した吉田恵輔監督。
これは彼の作品の中でも、ダントツにストレートで分かりやすい風刺劇だ。
吉田作品の特徴でもあるダサイ、カッコ悪い人間たち。
良きパートナーの関係から、激しく潰し合うまでになってしまう、この物語の二人の中心人物は、誰の中にもある人間のダメな部分を抽出したようなキャラクターだ。
人間だからこそ見返りを求めてしまう、田母神尚樹を演じるムロツヨシと、彼を裏切る女、河合優里を演じた岸井ゆきの、そして二人の間で有ること無いこと触れ回り、トリックスターの役割を果たす梅川葉を絵じた若葉竜也が素晴らしい。
とある合コンで出会った、 田母神尚樹(ムロツヨシ)と、コールセンターで働く河合優里(岸井ゆきの)。
彼女はダサイ動画ばかり配信するので再生回数が全く伸びない、底辺YouTuberでもあった。
イベント会社に勤める田母神は、優里を不憫に思い、自分のスキルを生かして彼女の動画制作を手伝うようになる。
優里も見返りを求めない田母神を頼りにし、人気は大して出ないものの、2人は良きパートナーとして力を合わせて頑張ってゆく。
しかしある時、人気YouTuberの番組に招かれたことがきっかけになり、優里がブレイク。
売れっ子のデザイナーやクリエイターがチームに入り、田母神の出番は無くなってゆく。
追い討ちをかけるように、田母神の人生を揺るがす出来事が起こり、彼はリッチになっていた優里に助けを求めるのだが、態度を豹変させた彼女は田母神を拒絶する。
恩を仇で返されたことにショックを受けた田母神は、暴露系YouTuberの“ゴッディー”を名乗り、優里いかに酷い女なのか、彼女を非難する番組配信をはじめるのだが・・・・
吉田恵輔の代表作の一つ「ヒメアノ〜ル」では、森田剛が怪演する森田正一というシリアルキラーが登場する。
ただし彼は生まれながらの悪人ではなく、元々は平凡で気弱な少年。
だが学生時代に凄惨なイジメを受け、耐えられなくなってイジメの主犯を殺してしまった。
この事件が彼の中に、もう一人の自分を目覚めさせてしまうのだ。
制御を失ったモンスターは、本能の赴くままに無関係の人々を殺しまくる。
映画は快楽殺人犯に決して共感は示さないが、負の連鎖によってモンスターになってしまった平凡な少年の、痛みと悲しみに寄り添い、強い憐れみを感じさせるのだ。
森田正一は極端な例だが、どんな人間にも、良い部分と悪いダメダメな部分がある。
例えば「馬車馬さんとビッグマウス」の、シナリオライターを目指す二人の主人公。
青春の全てを費やしても、ただの一回もコンテストに通らない女と、一本も書いてないのに、自分は天才だと豪語する男。
例えば「BLUE ブルー」の、同じ事務に所属する三人のボクサー。
誰よりも練習熱心だが試合では勝てない男と、才能豊かで強いけど体に爆弾を抱えた男、そしてなんちゃってボクサーのつもりが本気になってしまった男。
吉田恵輔の映画は、人間たちの中にある、どうしようもなくダサくてカッコ悪い部分、普通の生活では隠していたい部分をストレートに描く。
しかしそれゆえに、私たちは彼の映画の登場人物の中に自分を見て、深い共感を覚えるのである。
本作でダメダメな内面を曝け出すことになるのは、イベント会社に勤める中年サラリーマンの田母神と、底辺YouTuberの優里。
ムロツヨシ演じる田母神キャラクターが“一見いい人そうだけど、実は黒いものを抱えている”のではなく、掛け値無しの“本当にいい人”なのがポイント。
ごく普通のサラリーマンで、若い優里の夢に理解を示し、献身的に支える。
結構な時間と労力を割いているのに、お金を取るわけでもなく、むしろ彼女の起こした不祥事を解決するために、密かにお金を出したりしている。
その善意が向けられているのは優里だけではなく、別のある人物にも戻るあてのない金を貸してているのだから本物だ。
しかし誰にでも親切に、善意を与えることが、必ずしもその人のためになるとは限らない。
田母神の行為は、結果的にある人物を破滅させ、優里を大いに勘違いさせる。
優しい田母神のことを神と慕いながら、優里は自分がブレイクすると恩を仇で返すのだ。
元々、彼女には何か特に表現したいことがあるわけではない。
YouTubeという、誰もが手っ取り早く発信者になれるプラットフォームと出会ったことで、とりあえずやってみたと言うレベル。
表現者としての矜持は微塵も無く、目立ちたい、有名になりたい、売れたい、という欲望だけが先走っている。
そこに田母神が入ったことで、なんとか見られるレベルにはなるのだが、欲望で動く優里は有名YouTuberの番組に呼ばれ、プチブレイクしたことで暴走。
彼女にぶら下がる者たちが現れると、表現の目的が無い番組はどんどん過激化する。
すると、彼女を常識の範囲に押し止めようとする田母神が邪魔になるのだ。
人間は一人では生きられない生き物だから、今見返りを求めなかったとしても「いつか困った時は助けてね」が前提。
それが果たされない時、善意は容易に悪意に変わる。
二人のバトルの周辺には、田母神の同僚で周りに悪い噂だけをふれまわるトリックスターの梅川や、二人を付け狙う懲罰系YouTuberの少年など、さまざまなキャラクターが蠢いているのだが、どの人物も「今までの人生のどこかで出会ったことがあるよね?」と思えるリアリティ。
人間あるあるの因果応報負の連鎖に、なんだか登場人物たちが皆んな可哀そうに思えてくる。
ライトセーバーみたいに、自撮り棒で戦うところは滑稽で笑ってしまった。
まあ優里がやっているのは、完全な善意の搾取だし、途中からとんでもない性悪に見えてくるが、そう仕向けたのは田母神だし、彼女には彼女の言い分がある。
だからこそどっちが悪いではなく、等しく罰を受けるのだが、二人とも感情移入キャラクターゆえに、観ていて「何でこんなことになったんだろうなあ」と哀しくなるのだ。
もし田母神が、最初から謝礼を受け取っていたら。
もし優里が、田母神が助けを求めた時、多少でも感謝の気持ちを表していたら。
もし梅川が、いらんことを吹聴していなければ。
もしスマホとSNSが、存在していなければ。
ある意味、誰でも発信者になり得る時代が生んだ哀しきバトルで、21世紀ならではの寓話的な狂騒劇。
そしてやっぱり、世間はおじさんに厳しいことを実感。
今回は、二つの個性が混じり合ったら、危険なことになっちゃう話なので、「ボイラー・メイカー」をチョイス。
適量のビールを入れたグラスの中に、ショットグラスに注いだバーボンを落として完成。
米国のボイラー工場の労働者が、手っ取り早く酔っ払うために、ビールにバーボンを入れたのが発祥とされるが、韓国の「爆弾酒」をはじめ、類似のカクテルは世界中に存在する。
二日酔いは必至、取り合わせ注意な酒である。

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2022/07/05(火) 12:35:34 | 象のロケット
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