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女神の継承・・・・・評価額1700円
2022年08月04日 (木) | 編集 |
それは女神か邪神か。

タイの東北部イサーン地方の村を舞台に、地元の人々の信仰を集める“女神バヤン”に巫女として使える一人の中年女性を追ったドキュメンタリー・・・という触れ込みのめっちゃ怖いホラー。
モキュメンタリーホラーといえば台湾製の「呪詛」が記憶に新しいが、こちらもアプローチは違えど、その特質を最大限に生かした作品だ。
10年代の最も不条理で怖しいオカルト映画の傑作、「哭声/コクソン」のナ・ホンジンが原案とプロデュースを務め、監督・脚本はセンス・オブ・ワンダー溢れるホラーコメディの佳作、「愛しのゴースト」のバンジョン・ピサンタナクーン。
韓国とタイのホラーマイスターがタッグを組んだ、禍々しく凄みのある傑作だ。

映画は、小さな村で裁縫店を開きながら、巫女の務めを果たしているニムの日常から始まる。
コブラ酒を飲んで、半身が麻痺したという男に祈祷を施す。
「癌患者を連れてきても治せないよ、私が治せるのは目に見えないものが原因の病だけ」と語るニムは、どこにでもいそうなおばちゃんだ。
限りなく普通の人だが、巫女の能力は彼女の一族の女性にだけ現れるとされ、何世代も継承されて来た。
本当は姉のノイが巫女になるはずだったのだが、拒んでキリスト教に改修したので、自分が選ばれたのだと言う。
そのノイの夫が病気で亡くなり、葬式に出席した若く美しい姪のミンの体に突然の異変が起こる。
生理が終わらなくなり、人格が変わり攻撃的になる。
ついには体調の悪化で、日常生活を送れないほどに。
ノイにとってその変化は身に覚えがあるもので、子供のいないニムの次の代の巫女に、ミンが選ばれたのだと確信する。
取材クルーは、すわこれで巫女の継承の儀式を全部記録できるぞ!とニムとミンの二人に密着しはじめるのだが、どうも様子がおかしい。
ミンに憑いているのは、本当に女神なのか?というところからじわじわと怪異が広がってゆく。

この種の映画としては長尺の131分。
序盤の1時間くらいはホラーと言うよりも、 ナショナルジオグラフィック的な真面目な民俗学ドキュメンタリーみたいな作り。
土着信仰と村の生活を徹底的に作り込んでいるので、だんだんと劇中に描かれることが本当に思えてきて、怖いと言うよりも興味深い。
しかし、途中で完全に正気を失ったミンが行方不明になる辺りから、加速度的に恐怖指数が高まってゆく。
初めのうちは、ニムは亡くなったミンの兄、マックが原因だと考えている。
ミンとマックは近親相姦関係にあり、マックの霊がミンを連れて行こうとしていると見立てるのだが、それはミンに憑いた何かによる幻惑。
戻って来たミンがまるで動物の様な行動を取るようになると、ニムは仲間の祈祷師にも援軍を頼み、いよいよ除霊の儀式の準備を始める。
そして最後は、怒涛のスペクタクルホラーへと変貌するのである。

当初、ナ・ホンジンは「哭声/コクソン」に登場した怪しげな祈祷師、イルグァンの物語を作りたかったのだという。
イルグァンは、表向きは祈祷師だが、その実村人に呪いを広めている悪魔崇拝者で、祈祷の儀式と偽って対象者に悪魔を憑依させる。
彼を阻止しようとするムミョン(名無し)と言う女も登場するのだが、劇中に言明はないものの、彼女は村を守る土地神的存在で、まさに女神だ。
韓国を舞台にした祈祷師の企画から、紆余曲折があって最終的に本作が出来上がるのだが、ムミョン=バヤン、聖なるものに見せかけた邪悪な存在に取り憑かれたミン=イルグァンと考えれば、本作が一見して「哭声/コクソン」と類似した対立関係を持っていることが分かる。
しかし優れたクリエイターは、同じことは二度やらない。
最初の構図は同じ様に見えても、ここから本作はモキュメンタリーの特質を生かした、思いもよらない捻りを加えてくるのだ。

韓国にムーダンと呼ばれる仏教でもキリスト教でもない土着宗教の祈祷師がいるように、仏教国として知られるタイにも、その土地に根付いてた独自の信仰がある。
日本の八百万の神々と同様に、彼らの価値観ではあらゆるものに神や精霊が宿り、その中でも力の強いものには信仰が集まる。
「呪詛」に出てきた大黒仏母もそうだが、田舎に伝わるこの手の出自がよく分からない神様はたいていヤバい
そもそも土着信仰は公な記録が残らないので、それが本当に聖なるものなのか、それとも祟られるのを恐れて悪霊を信仰しているのか、長い歴史の間に曖昧になってしまう。
本作でも、女神とされるバヤンが具体的にどんな神様なのかはほとんど語られないし、ミンに取り憑いた悪霊の正体も分からない。
ラストカットに出てきたあるモノを見ると、タイでも祈祷と呪詛は表裏一体だろう。
劇中で明かされるノイの夫の家系の歴史を見ると、少なくともノイの家族は最初からバヤンに呪われたとしてもおかしくないはずだ。
精霊や神様は、眠っていればどこかで見守ってくれている無害な存在だが、怒らせると祟り神となって直接的な災いとなる。

女神バヤンの得体の知れなさと、信仰の持つ二面性こそが本作の本当の恐ろしさ。
ニムの身に起こったことを考えると、彼女らは助けを求めたバヤンに呪われていたのではないか。
神が何を救い何を呪うのかなど、はなから人間が知る由もない。
阿鼻叫喚のクライマックスの最中、現場に現れたミンは、恐怖に震える取材クルーのカメラを手に取り「私が撮ってあげる」と呟く。
ここで「呪詛」とはまた違った形で主客が転倒し、カメラの向こうにあると思っていたものが、いつの間にかこちらに来ているのだ。
この時点で、我々もまたバヤンの呪いに取り憑かれているのである。
終盤の描写などはやり過ぎギリギリではあるが、心底怖しい映画で、納涼パワーはピカイチだ。
しかし、これだけアジアンホラーに素晴らしい作品が現れているのを見ると、かつて世界に影響を与えたJホラーにも奮起してもらいたいところ。
三宅唱監督によるNetflixのドラマ版「呪怨:呪いの家」は素晴らしかったが、映画でも新しい恐怖がそろそろ欲しい。

今回は、タイの焼酎「モンシャム」をチョイス。
香り米のジャスミンライスから作られ、竹炭濾過されてスッキリとした澄んだ味わい。
オン・ザ・ロックで飲みたいが、クセがないのでどんな飲み方にも対応できる。
タイの焼酎は交易によって様々な国に運ばれ、一説によると沖縄で泡盛のルーツとなり、そこから薩摩を経由して九州に焼酎文化として定着したとか。
ちなみに名前は「モン(輝く)シャム(タイ)」の意味。

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タイ東北部の小さな村。 祈祷師一族の血を引く若い女性ミンが原因不明の体調不良に見舞われ、人格が変わったように凶暴な行動を繰り返すようになった。 途方に暮れたミンの母親ノイは、祈祷師を継いだ妹ニムに助けを求めるが、ミンに取り憑いている何者かの正体はニムの想像をはるかに超える強大な存在だった…。 サスペンス・スリラー。 ≪祈りの先に 救いはあるのか。≫ R-18
2022/08/06(土) 08:47:01 | 象のロケット