2022年08月08日 (月) | 編集 |
幸せの日記帳。
交通事故に遭い、事故より後の記憶を1日しか保てなくなる「前向性健忘」を患った少女と、彼女の日記帳を楽しい思い出で満たそうとする少年の切なくて甘酸っぱい恋。
監督・三木孝浩と脚本・月川翔、ティーン向け恋愛映画では先ず名前が上がる両者のコラボは、最良の結果になっているのではないか。
カップルのどちらかが記憶障害という設定の映画はたくさんあるが、「思い、思われ、ふり、ふられ」の福本莉子と、これが映画初主演となる道枝駿佑が演じる、日野真織と神谷透の恋は初々しく、50過ぎのおっさんが見ても胸キュンの青春ストーリーだ。
二人の交際の始まりは、透の嘘。
彼の前の席の男の子がいじめのターゲットにされていて、心優しい透はいじめっ子のグループにやめて欲しいと頼むのだが、彼らの出した条件が、透が真織に告白すること。
どうやら、透が学校でも人気者の真織にふられる恥ずかしい姿を動画配信し、楽しもうということらしい。
ところが彼らの期待に反して、真織は透の告白にOKしてしまうのだ。
すぐに透は真相を明かすも、意外にも彼女は偽装カップルとして、このまま付き合ったフリをすることを提案する。
真織は「放課後までお互い話しかけない」「連絡のやり取りは簡潔にする」「本気で好きにならない」という三つの条件を出すのだが、これはもちろん病気のことを知られないようにするため。
その日あったことを全て、翌朝には忘れてしまう真織の病状が知られれば、悪用しようとする輩が出てこないとも限らない。
だから、彼女の病気のことは、古川琴音演じる親友の綿矢泉しから知らない。
真織は毎日起こったことを日記に書いて、明日の自分に知らせているのだが、事故から時間が過ぎれば過ぎるほど、読まなければならないページが増えてゆく。
放課後まで声を掛けないのは、予習が追いつかないからなのだ。
もっとも、彼女の秘密はデート中の出来事をきっかけに、あっさり透にバレてしまい、ここから彼は記憶を保てない彼女のために、毎朝読む日記を楽しいことで一杯にすることに全力を尽くし始める。
そしていつしか、二人は偽装ではなく、本物の恋人たちになってゆくのである。
しかし事故から3年後、障害を克服した真織の日常に透の姿はなく、手書きからパソコンになった日記帳にもなぜか彼のことは書かれていないのだ。
事故からの3年間に、二人の間に一体なにがあったのか?透は一体どこへ行ったのか?
この辺りの作劇のロジックは月川翔の代表作「君の膵臓をたべたい」を思わせるが、序盤の福本莉子があの映画の浜辺美波に見えて仕方がなかった。
ヘアスタイルが似てる他にも、たぶん声質がちょっと近いのかも。
ありがちなティーンの恋愛ものと違って、凝った作劇ロジックが特徴だが、主役の二人だけじゃなく、周りの人間関係もしっかり描きこまれているのがミソ。
特に、かなり複雑な設定の透の家族像は、物語が単調になるのを防ぎ、深みを作ることに繋がっていて面白い。
透の姉役の松本穂香も素晴らしいのだが、演者のMVPは全てを知る泉を演じた古川琴音だろう。
真織が記憶を保てないが故に、心の痛みを一身に背負ったこのキャラクターは、観客にとっての作品世界の目でもあり、彼女の感情は観客と連動する。
彼女が苦しいと我々も苦しいし、彼女が泣くときは我々も涙を抑えられない。
日記帳、スケッチブック、スマホと、記憶を綴るアイテムの使い方も上手く、一瞬を永遠に切り取り保存する、映画というフォーマットでこの物語を描いた寓話性も高い。
非常に丁寧に作られた秀作なのだが、透を巡る終盤の展開に唐突を感じさせるのは勿体無い。
一応、お母さんのエピソードが事情を示唆することにはなっているのだが、あと一ヶ所くらい伏線を入れてもよかったのでは。
水族館デートの時など、自然に描写できたのではないだろうか。
いずれにしても、予告編で感じるアイドル映画然とした印象とは違って、リリカルに感情を揺さぶってくる良作で、もうちょっとヒットしてもいい作品だと思う。
今回は、紫色の美しいカクテル「ヴァイオレット・フィズ」をチョイス。
ジン30ml、パルフェ・タムール20ml、レモン・ジュース15ml、シュガー・シロップ10mlをシェイクし、グラスに注ぎ、キンキンに冷やした炭酸水で満たして完成。
このカクテルの特徴的な色を作り出すのに使われる、パルフェ・タムールは「完璧な愛」という意味。
まさ、この映画の恋人たちにピッタリだ。
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交通事故に遭い、事故より後の記憶を1日しか保てなくなる「前向性健忘」を患った少女と、彼女の日記帳を楽しい思い出で満たそうとする少年の切なくて甘酸っぱい恋。
監督・三木孝浩と脚本・月川翔、ティーン向け恋愛映画では先ず名前が上がる両者のコラボは、最良の結果になっているのではないか。
カップルのどちらかが記憶障害という設定の映画はたくさんあるが、「思い、思われ、ふり、ふられ」の福本莉子と、これが映画初主演となる道枝駿佑が演じる、日野真織と神谷透の恋は初々しく、50過ぎのおっさんが見ても胸キュンの青春ストーリーだ。
二人の交際の始まりは、透の嘘。
彼の前の席の男の子がいじめのターゲットにされていて、心優しい透はいじめっ子のグループにやめて欲しいと頼むのだが、彼らの出した条件が、透が真織に告白すること。
どうやら、透が学校でも人気者の真織にふられる恥ずかしい姿を動画配信し、楽しもうということらしい。
ところが彼らの期待に反して、真織は透の告白にOKしてしまうのだ。
すぐに透は真相を明かすも、意外にも彼女は偽装カップルとして、このまま付き合ったフリをすることを提案する。
真織は「放課後までお互い話しかけない」「連絡のやり取りは簡潔にする」「本気で好きにならない」という三つの条件を出すのだが、これはもちろん病気のことを知られないようにするため。
その日あったことを全て、翌朝には忘れてしまう真織の病状が知られれば、悪用しようとする輩が出てこないとも限らない。
だから、彼女の病気のことは、古川琴音演じる親友の綿矢泉しから知らない。
真織は毎日起こったことを日記に書いて、明日の自分に知らせているのだが、事故から時間が過ぎれば過ぎるほど、読まなければならないページが増えてゆく。
放課後まで声を掛けないのは、予習が追いつかないからなのだ。
もっとも、彼女の秘密はデート中の出来事をきっかけに、あっさり透にバレてしまい、ここから彼は記憶を保てない彼女のために、毎朝読む日記を楽しいことで一杯にすることに全力を尽くし始める。
そしていつしか、二人は偽装ではなく、本物の恋人たちになってゆくのである。
しかし事故から3年後、障害を克服した真織の日常に透の姿はなく、手書きからパソコンになった日記帳にもなぜか彼のことは書かれていないのだ。
事故からの3年間に、二人の間に一体なにがあったのか?透は一体どこへ行ったのか?
この辺りの作劇のロジックは月川翔の代表作「君の膵臓をたべたい」を思わせるが、序盤の福本莉子があの映画の浜辺美波に見えて仕方がなかった。
ヘアスタイルが似てる他にも、たぶん声質がちょっと近いのかも。
ありがちなティーンの恋愛ものと違って、凝った作劇ロジックが特徴だが、主役の二人だけじゃなく、周りの人間関係もしっかり描きこまれているのがミソ。
特に、かなり複雑な設定の透の家族像は、物語が単調になるのを防ぎ、深みを作ることに繋がっていて面白い。
透の姉役の松本穂香も素晴らしいのだが、演者のMVPは全てを知る泉を演じた古川琴音だろう。
真織が記憶を保てないが故に、心の痛みを一身に背負ったこのキャラクターは、観客にとっての作品世界の目でもあり、彼女の感情は観客と連動する。
彼女が苦しいと我々も苦しいし、彼女が泣くときは我々も涙を抑えられない。
日記帳、スケッチブック、スマホと、記憶を綴るアイテムの使い方も上手く、一瞬を永遠に切り取り保存する、映画というフォーマットでこの物語を描いた寓話性も高い。
非常に丁寧に作られた秀作なのだが、透を巡る終盤の展開に唐突を感じさせるのは勿体無い。
一応、お母さんのエピソードが事情を示唆することにはなっているのだが、あと一ヶ所くらい伏線を入れてもよかったのでは。
水族館デートの時など、自然に描写できたのではないだろうか。
いずれにしても、予告編で感じるアイドル映画然とした印象とは違って、リリカルに感情を揺さぶってくる良作で、もうちょっとヒットしてもいい作品だと思う。
今回は、紫色の美しいカクテル「ヴァイオレット・フィズ」をチョイス。
ジン30ml、パルフェ・タムール20ml、レモン・ジュース15ml、シュガー・シロップ10mlをシェイクし、グラスに注ぎ、キンキンに冷やした炭酸水で満たして完成。
このカクテルの特徴的な色を作り出すのに使われる、パルフェ・タムールは「完璧な愛」という意味。
まさ、この映画の恋人たちにピッタリだ。

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男子高校生・神谷透は、別のクラスの女子・日野真織に嘘の告白をした。 妙にあっさりOKした彼女の条件は、“絶対に本気で好きにならないこと”。 恋人のフリをしているうちに本気で互いを好きになってしまった頃、透は真織が「前向性健忘」という病気であることを知らされる…。 ラブストーリー。 ≪明日、僕を忘れてしまう君と 忘れられない恋をした≫
2022/08/09(火) 18:09:11 | 象のロケット
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