fc2ブログ
酒を呑んで映画を観る時間が一番幸せ・・・と思うので、酒と映画をテーマに日記を書いていきます。 映画の評価額は幾らまでなら納得して出せるかで、レイトショー価格1200円から+-が基準で、1800円が満点です。ネット配信オンリーの作品は★5つが満点。
■ お知らせ
※基本的にネタバレありです。ご注意ください。
※当ブログはリンクフリーです。内容の無断転載はお断りいたします。
※ブログ環境の相性によっては、TB・コメントのお返事が出来ない事があります。ご了承ください
エロ・グロ・出会い系のTB及びコメントは、削除の上直ちにブログ管理会社に通報させていただきます。 また記事と無関係な物や当方が不適切と判断したTB・コメントも削除いたします。
■TITLE INDEX
タイトルインディックスを作りました。こちらからご利用ください。
■ ツイッターアカウント
noraneko285でつぶやいてます。ブログで書いてない映画の話なども。
■ FILMARKSアカウント
noraneko285ツイッターでつぶやいた全作品をアーカイブしています。
キングメーカー 大統領を作った男・・・・・評価額1650円
2022年08月24日 (水) | 編集 |
勝つことは、イコール正義なのか。

1960年代、軍事独裁政権下の韓国で、清廉な理想を掲げる野党議員と腹に一物ある狡猾な選挙参謀、政治の世界の光と影を描いた、実話ベースの骨太なポリティカルサスペンス。
モデルとなってるのは、後に第15代韓国大統領となるキム・デジュン(金大中)と、彼の選挙参謀だったオム・チャンノク(厳昌録)。
ただし映画はあくまでも史実をベースとしたフィクションという位置付けなので、キム・ウンボムとソ・チャンデという名前に変えられている。
議員のウンボムを演じるのは名優ソル・ギョングだが、主役は選挙参謀のチャンデの方。
演じるは「パラサイト 半地下の家族」で、金持ちIT社長のパク氏役だったイ・ソンギュンだ。
監督・脚本を務めたのは、「名もなき野良犬の輪舞(ロンド)」を手掛けたビョン・ソンヒョン。
政治というヘビーな題材を扱いながら、スリリングなコンゲーム映画でもあり、最後まで飽きさせない。

1961年。
選挙戦に苦戦している野党候補者キム・ウンボム(ソル・ギョング)を、一人の若者が訪れる。
ソ・チャンデ(イ・ソンギュン)と名乗った若者は、「先生の政治姿勢に共感しているが、今の選挙のやり方では絶対に与党候補に勝てない。自分に手伝わせてくれ」と頼み込む。
熱意に絆されてチャンデをスタッフに迎え入れると、彼は「一票を得るのではなく、ライバルの十票を減らす」という奇想天外な選挙戦術を駆使し、見事にウンボムを当選させる。
政界の光となってゆくウンボムと、影となり支えるチャンデ。
独裁者のパク・スイ大統領(キム・ジョンス)が、鳴り物入りで与党候補を支援した選挙にも勝利したウンボムは、野党内でも注目されるようになり、大統領候補を選ぶ予備選挙に挑むことになる。
予備選はウンボム、キム・ヨンホ(ユ・ジェミョン)、イ・ハンサン(イ・ヘヨン)の共に40代の三つ巴。
最有力なのは、党のナンバーツーの要職にあるキム・ヨンホだが、チャンデは他の二人を出し抜き、ウンボムを当選させる驚きの奇策を編み出す。
しかしそれは、盟友関係にあったウンボムとチャンデが、別々の道を歩み出すきっかけとなる出来事だった・・・・・


冒頭の鶏をめぐる小噺が、チャンデが典型的なマキャヴェリストであることを示唆する。
鶏の卵を盗む隣人をどう懲らしめたら良いか相談されたチャンデは、自分の鶏に紐で目印をつけ、夜のうちに隣家の鶏小屋にこっそりと忍ばせ、朝になったら村人を引き連れて隣家を訪ね、鶏を盗まれたと大騒ぎせよと答える。
実際に隣人が盗んだかどうかは重要ではなく、自分が正しく隣人は悪だと印象付けるのが大切なのだと。

選挙も同じで、議員の語る理想の社会に賛同しつつ、勝つためには手段を選ばない。
彼の戦術は、有権者の票を獲得するのに汗水垂らすのではなく、同じ労力をライバルの与党候補にダメージを与えるために使うというもの。
例えば、自分の運動員に与党の腕章を付けさせ、有権者には安物のタバコをすすめ、自分は高価な外国製タバコをこれ見よがしに吸う。
あるいは与党名義で賄賂を配って、翌日には「間違いだった」と回収する。
当然有権者は与党候補に反感を抱き、票はウンボムに流れる。
インターネットのない時代だから、フェイクニュースのネガティブキャンペーン戦術は使えない。ならばの実際の行動で有権者を騙してしまえという、独裁政権だってやらないような汚い手だ。
だがチャンデには、組織力も資金力も与党が絶対有利な以上、そこまでやらないと野党は勝てないという信念がある。
チャンデの仕事を見たウンボムも、自らの政治的な大義とのギャップに苦悩しつつも、清濁合わせ飲む覚悟を決め、彼らは二人三脚で政界を駆け上がってゆく。
無名だったウンボムを連戦連勝させる謎の選挙参謀の存在は、次第に独裁政権側にも知られるようになり、「影」の異名で呼ばれるようになる。

序盤は独裁政権相手に、一杯も二杯も食わせるのが小気味よい。
しかしウンボムの地位が上がるにつれて、二人の間で目指すものの違いが明確になってくるのだ。
政治家であるウンボムにとっての選挙は、理想とする平和な社会を作るための通り道。
だが選挙参謀のチャンデにとっては、勝つこと自体が目的になっていて、有権者は自分の意のままにコントロール出来るという考え方は、もはや独裁政権側と変わらない。
「正義を実現するために勝利する」のと「勝利したものこそ正義」はまるで違う。
ウンボムが大統領選に打って出る頃になると、ゲリラ戦のようなチャンデの“戦術”ではなく、王道の“戦略”が求められるようになるのだが、チャンデはその必要には応えられないのである。
そしてずっと「影」に甘んじてきた彼自身も、自ら「光」になることを欲するようになり、同じ道を歩んでいたはずの二人は、いつの間にか違う未来を見ていることに気付くのだ。

選挙戦のディテールの部分はフィクションの要素が多いのかと思ったが、調べてみるとチャンデが駆使した戦術は、実際にオム・チャンノクが行ったことそのままだった。
まさに事実は小説よりも奇なり。
また映画に描かれる韓国の政治史も、ほぼ史実通りだ。
予備選挙でウンボムと戦うキム・ヨンホは民主化宣言後に旧独裁政権側と組み、第14代大統領となったキム・ヨンサム(金泳三)だし、他の登場人物にも全員モデルがいて、果たした役割もほぼ同じ。
ウンボムと袂を分かったチャンデが、今度は政権側に雇われて、大統領選挙でウンボムを陥れたという一番映画っぽい話まで、丸ごと史実だったのには心底驚いた。
ウンボムとチャンデ二人の間のやりとりなどは、本人以外知りようがないのでフィクションなのだろうが、ここまで忠実に作るのなら、わざわざキャラクターの名前変えなくても良かったように思う。
まあ訴訟対策もあるのかも知れないが。
ちなみに、映画の二人はオリンピックが開かれた1988年に再会するが、現実のオム・チャンノクは1986年に56歳で亡くなっている。

韓国の政治史を裏側から捉えた本作を観ると、大統領選のたびに浮かび上がる、激しく感情的な地域対立の根がどこにあったのか?などの答え合わせにもなっていて非常に興味深い。
あの「新羅VS百済」のフレーズなどは、実際に71年の大統領選で使われたものらしい。
映画のパク・スイ大統領は、現実のパク・チョンヒ大統領と同じく慶尚道出身、ウンボムもキム・デジュンと同じく全羅道出身の設定で、この地域はちょうど三国時代の新羅と百済に重なり、歴史では百済は新羅に滅ぼされた。
人々の分断というものは意図的に作ることが出来、一度作られた分断は、長く禍根を残すことになるのがよく分かる。
ピョン・ソンヒョン監督の作品はこれが初鑑賞だったが、ヘビーな題材を肩肘張らないエンターテイメントに仕上げており、ストーリー、テリング共に一級品。
象徴性の演出も巧みで、ウンボムとチャンデの光と影の関係を象徴させるように、二人きりのシーンは常に夜で、実際に選挙戦が行われる昼間には、チャンデはウンボムの背後に引っ込んでいる。
リズム感のある編集が素晴らしく、お固い素材を柔らかく見せるセンスは、なかなか日本映画では見られないもので、ちょっと羨ましくなる。

今回は、敵を叩きのめす選挙参謀の話なので、「ノックアウト」をチョイス。
ドライ・ジン30ml、ドライ・ベルモット20ml、ペルノ10ml、ペパーミント・ホワイト1tspをステアし、グラスに注ぐ。
最後にマラスキーノ・チェリーを一つ沈めて完成。
このカクテルは、1927年のボクシングのヘビー級防衛戦で、リベンジを狙う前王者のジャック・デンプシーの挑戦を退け、タイトルを防衛したジーン・タニーの祝勝会で登場したと言われている。
ベルモットとペルノとペパーミントという材料からも分かるように、強く独特な香りを、清涼なドライ・ジンがまとめ上げる。

ランキングバナー 
記事が気に入ったらクリックしてね

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

名もなき野良犬の輪舞【Blu-ray】 [ ソル・ギョング ]
価格:4270円(税込、送料無料) (2022/8/20時点)




[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

ペルノ (パスティス) 40度 700ml 正規
価格:1813円(税込、送料別) (2022/8/20時点)



スポンサーサイト





コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
1961年、韓国。 長期独裁政権打倒を目指しながらも、金も人脈もなく落選が続いていた野党・新民党所属の政治家キム・ウンボムは、小さな薬局を営むソ・チャンデを選挙参謀として迎え入れる。 ようやく国会議員の補欠選挙で初当選を果たすが、勝つためにはどんな手段も辞さないチャンデの強引なやり方は、理想家肌のウンボムには受け入れ難いものだった…。 実話から生まれた、政治サスペンス。
2022/08/26(金) 23:55:47 | 象のロケット