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2022年08月27日 (土) | 編集 |
忘れられた歴史を取り戻せ!

これは異様で恐ろしく、ユーモラスで新しい。
人種差別をモチーフとした異色のホラー、「ゲット・アウト」で脚光を浴びた、ジョーダン・ピール監督の三作目。
ロサンゼルス近郊の田舎に出現した、謎の巨大飛行物体。
牧場で映画撮影用の馬を育てている兄妹は、いつもは雲に隠れている物体の正体を動画に収めようとするのだが、事態は急速に悪化してゆく。
物語の着地点は、予告編のジャンル映画的なイメージからは、たぶん誰も予想も出来ないだろう。
「ゲット・アウト」のダニエル・カルーヤが、ピールと再タッグを組んで兄のOJを演じ、妹のエメラルドに「バズ・ライトイヤー」のキキ・パーマー、鍵を握る元子役俳優のジュープを「ミナリ」のスティーブ・ユアンが演じる。
撮影監督に、クリストファー・ノーランの作品で知られるホイテ・バン・ホイテマが起用され、迫力あるIMAX映像を構築している。
いくつもの要素が、パズルの様に組み合わされたユニークな暗喩劇で、私的にはジョーダン・ピールのベスト。
※以下、核心部分に触れています。

ヘイウッド家は、人里離れた田舎に広大な「ヘイウッド・ハリウッド・ホース牧場」を構え、映画の撮影に使われる馬の飼育をしている。
しかし当主で優れた調教師だったオーティス・ヘイウッド(キース・ディヴィッド)が、空中からの落下物に当たり事故死。
息子のOJ(ダニエル・カルーヤ)と娘のエメラルド(キキ・パーマー)が後を継ぐが、二人は撮影現場でトラブルを起こし、仕事がフイになってしまう。
やむなくOJは、近くで西部劇のテーマパークを経営している元子役俳優のジュープ(スティーブ・ユアン)に、馬を一時的に売りにゆく。
その夜、停電が起こり牧場の馬たちが怯え、上空に巨大な“何か”が現れる。
近くの空にずっと動かない不思議な雲を見つけたOJは、雲の中にそれが隠れていると考え、監視カメラを取り付けるが、なかなか上手く撮影できない。
そんなある日、ジュープのテーマパークから、彼自身と観客の40名が忽然と消える事件が起こり、OJは“何か”の正体に関して、ある確信を持つのだが・・・


映画の冒頭、旧約聖書のナホム書3章6節が映し出される。
『わたしは汚物をあなたに投げかけて、あなたを辱め、あなたを見せものとする』
前作の「アス」でも、旧約聖書のエレミヤ書11章11節『それゆえ、主はこう仰せられる。「見よ。わたしは彼らに災いを下す。彼らはそれからのがれることはできない。彼らはわたしに叫ぶだろうが、わたしは聞かない』が重要なヒントになっていたが、今回も同様。
ナホム書3章6節の内容が、全体のベースだ。

この言葉の後、映画は1998年にテレビドラマのセットで起こった悲劇のシーンに飛ぶ。
人気者だった動物俳優のチンパンジーが突然キレ、人間の共演者を襲ったのだ。
この時に奇跡的に無事だった出演者の一人が、子役時代のジュープなのである。
そして現在、ヘイウッド家の父が謎の落下物で死亡する事件が起こる。
オープニングクレジットでは、画面に絹のようなものに覆われた奇妙な四角形(これが何かについては後述)が現れ、クレジットの最後で、四角の奥に馬に乗った黒人騎手の姿が投影される。
これは写真家のエドワード・マイブリッジが1878年に撮影した連続写真で、ゾートロープなど当時発明されていたアニメーション機械と組み合わされることで、動画として再生が可能となった。
のちに、マイブリッジの連続写真に感銘を受けたエジソンによって、キネトスコープとシネマトグラフが発明され、映画が誕生する。
映画では馬を走らせていた騎手こそ、ヘイウッド家の祖先だということになっている。

これらの思わせぶりな断片は、やがて雲に隠れた巨大飛行物体という怪異を触媒にして、一つの大きな絵を描き出してゆく。
なかなか決定的な瞬間をカメラに収めることが出来ない兄妹は、ベテランのカメラマンを雇うのだが、この人が編集しているのが弱肉強食の野生を扱ったドキュメンタリー。
前述のチンパンジーと合わせて、人間には調教できない自然の脅威がモチーフとなることを示唆しているのは明らかだ。
全体像が少しずつ姿をあらわす序盤は割とスローテンポ、だが中盤にジュープのテーマパークから物語は一気に動き出す。
ジュープも飛行物体の存在に気付いていて、それを呼び出すショーを開催するのである。
かつて“調教出来ないもの”に人生を狂わされた彼は、それが本当に避けられない悲劇だったのか、確かめてみたかったのかも知れない。
会場には、かつての共演者で98年の惨劇から生き残ったものの、顔を潰されてしまったジュープの元共演者の女性も訪れている。
やがて姿を現した飛行物体は、ついにその本性を明らかにする。
異星人の乗り物などではなく、それ自体が一つの巨大な生物
縄張り意識が強く、他の生物の目線を感じ取り、下部に開いた丸い穴から吸い込んで捕食する。

ところが、この怪物の正体を知ったOJたちの反応が面白い。
普通この手のホラー映画では、死をもたらす未知の怪異から逃げるのが最優先なのだが、彼らは「こりゃーオプラ・ウィンフリーのショーに出て、金持ちになるチャンスだー!」とばかりに、逆に怪物を誘き寄せて寄せて撮影しようとするのだ。
どんだけ度胸あるんだよ(笑
怖いんだけど、どこかとぼけていて妙に陽性なのは、ピール独特の味わい。
しかもこのチャレンジは、彼らの家族にとっては象徴的な意味を持つ。
序盤、映画撮影前の馬の安全講習で、エメラルドは語る。
「映画史の始まりの時に、その場には黒人(自分の祖先)がいた。でも彼の名前は誰も覚えていない」と。
冒頭のオープニングクレジットで馬の連続写真が映し出される奇妙な四角形は、実は怪物の穴の奥にある消化器官のようなもの。
つまり、白人中心の歴史という怪物に捕食され、消し去られた一族の栄光と歴史を取り戻す戦いでもあるのだ。
決戦前夜、ナホム書の記述通りに、怪物は40人の人間と一緒に吸い込んだ消化できないものと共に、犠牲者の血を汚物の雨として兄妹の家に降らせる。

そしてついに、怪物との最終決戦が始まる。
ジョーダン・ピールは日本のアニメーションが好きらしが、なるほどさもありなん。
見せもので上等!とばかりに自在に形を変えながら迫り来る怪物は、まるで「エヴァンゲリオン」の使徒のようだし、完全に「AKIRA」オマージュのバイクショットもある。
怪物の真下では電力が不通になることを利用して、空気ポンプで膨らむチューブマンをセンサーがわりに使うのは、画面に不穏なユーモアをもたらしている。
また同じ理由で、怪物を捉えるメインカメラが、デジタルではなくカメラマンお手製の手動式のフィルムIMAXカメラ!
なんじゃそりゃ(笑
これはどこまでも逞しく、俗っぽい“活動屋の魂”を象徴する。
弱肉強食なのは、自然界も人間の世界も同じ。
ピールの映画は、常に「黒人であること」を映画的アイデンティティの軸としてきた。
本来コントロールできない未知の敵に、絶対不利の戦いを仕掛けたOJとエメラルドの兄妹は、まさに歴史を取り戻す黒人のヒーローだ。
例によってクセは強く、好き嫌いは別れそうだが、作家性の塊の様な独自性と未見性は非常に魅力的だ。
ちなみに、エンドクレジットの最後にも案内があるのだが、ジュープのテーマパークのセットは、既に本国のユニバーサル・スタジオのツアーに組み込まれていて、実際に訪れることができるらしい。

ところで本作の通常劇場版は、アスペクト比が1:2.2という変則的なサイズで作られている。
シネコンで使われているDCP(デジタル映写機)は基本的に1:1.85(ビスタ/フラット)、 1:2.35(シネスコ/スコープ)、 1:1.90(フルサイズ/フルコンテナ)の三種類のアスペクト比しかサポートされず、それ以外のアスペクト比をスクリーンピッタリで上映しようとすると、調整が必要になる。
ところが現在のシネコンでは映写技師を廃止してしまっているので、この調整ができないのだ。
本作の場合フラット指定になっているようで、ビスタのスクリーンなら問題ないが、シネスコスクリーンで上映すると、いわゆる額縁上映となってしまうのである。
ちょっと調べたところ、本国でも多くの劇場が額縁となっていて、観客から不満が出ている。
本作を含めて、作者がIMAXの1:1.43を基本として制作している作品に、なぜかこの様な変則アスペクト比の作品が多いのだが、なぜシンプルにIMAXフォーマットからビスタやシネスコで切り出さないのか理解に苦しむ。
作者が現在のシネコンの状況を知らないのか、あるいは一般劇場の客は額縁で見せとけと思ってるのなら、ちょっと違うと思うのだけど。

今回は宇宙規模の弱肉強食の話だったので、豹柄のボトルがインパクト大、その名も「ワイルド・アフリカ」をチョイス。
サトウキビを原料とした南アフリカのクリームリキュールで、クリーミーでやわらかくかなり甘めの味わい。
オン・ザ・ロックでもいいが、甘味が強いのでこの季節はアイスコーヒーとワイルド・アフリカを2:1で割ると、とても美味しい。

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コメント
この記事へのコメント
こんばんは
映画で描かれた事件がチンパンジーや空中クラゲを見世物にしようとした傲慢へのしっぺ返しだとしたら、クラゲに対する人間の反撃も、一方的捕食者として天にふんぞりがえってたクラゲの傲慢へのしっぺ返しかも。

今回はちょっと違うけど、アメリカン・ホラーには“いつまでも行儀良く悲鳴上げて逃げてやると思うなよ!”って居直り的な元気良さがちょくちょく出てきますね。
古くは『遊星よりの物体X』の原作『影が行く』。最近だと『ブラック・フォン』とか。
2022/09/12(月) 19:47:06 | URL | 焼き鳥 #9L.cY0cg[ 編集]
こんばんは
>焼き鳥さん
確かにアメリカのホラー映画だと、逃れるだけでなく逆襲する被害者が結構出てきますね。
「ブラック・フォン」もそうでした。
日本映画だと、攻撃こそ最大の防御だ!的な展開はあんまりないかも。
まあ対象が怨霊とか、反撃のしようのないものが多いけど。
2022/09/24(土) 21:28:00 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
「うしおととら」の中で空中を浮遊してジェット機を襲う大妖怪が出てくるのだけど、妖怪だと細かい設定が理屈抜きになるし、UFOだと、やはり理屈を度外視できる。リアルな存在として扱うには、何か理屈に合わない部分が多いと思う。
2022/10/06(木) 23:03:57 | URL | fjk78dead #-[ 編集]
こんばんは
>ふじきさん
これ劇中でUFOだとは言ってないし、どっから来たのか本当は何なのかわからないという点では一番近いのはやっぱ使徒だと思う。
アニオタ監督らしい解釈でした。
2022/10/20(木) 21:37:18 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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