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さかなのこ・・・・・評価額1700円
2022年09月10日 (土) | 編集 |
スクリーンから「好き!」があふれ出す。

のんさん演じるお魚が大好きなミー坊が、夢を叶えてお魚博士になるまでの物語。
現実のお魚博士、さかなクンの「さかなクンの一魚一会 ~まいにち夢中な人生!~」を原作に、「子供はわかってあげない」の沖田修一監督が、大胆な解釈で映像化した作品だ。
寝ても覚めてもお魚のことしか考えていない主人公が、様々な人との邂逅しながら夢への試行錯誤を繰り返し、やがて誰もが知る人気者になってゆく。
普通の子供とは違った人生を歩んでゆくミー坊を、暖かく見守る母親のミチコを井川遥、幼馴染のヤンキー少年ヒヨを柳楽優弥、同じく幼馴染のモモコを夏帆が演じる。
好きなことを貫き通すミー坊のかけがえのない毎日を、ユーモアたっぷりに描いた、ファンタジックな物語だ。

ミー坊(西村瑞季/のん)は千葉県に暮らす小学生。
お魚が大好きで、毎週のようにお母さん(井川遥)に連れられて水族館に通い、閉館までお魚を見て過ごす。
一日中お魚のことばかり考えているミー坊を、お父さん(三宅弘城)は他の子と違うと心配するが、お母さんはこの子はこのままでいいと見守ってくれる。
高校生になったミー坊は、なぜかヤンキーたちと仲が良く、一緒に釣りに行ったり喧嘩に付き合ったり楽しい日々を過ごしている。
たまたま飼育したカブトガニの人工孵化に成功し、新聞に載ったこともあり、将来お魚博士になりたいという夢を抱くように。
母に背中を押されたミー坊は、高校卒業後に一人暮らしを始めるが、水族館を皮切りにいろいろなお魚に関係する仕事を転々とするも、なかなかしっくり来ない。
そんなある日、小学生の頃にクラスメイトだったモモコ(夏帆)が、一人娘を連れてミー坊のところに転がり込んでくるのだが・・・・


冒頭ドーンと「男か女かは、どっちでもいい」と宣言文(?)が出る。
一応、みんな大好きさかなクンの自伝の映画化なんだが、主人公は最後までミー坊のままで、さかなクンとは呼ばれない。
ミー坊の役は幼少期が西村瑞季、高校生以降がのんさんと女性が演じているのだが、設定上は男性。
これは「さかなクンの性自認が女性ってこと?」と予告編観た時から不思議だったのだが、お魚のことしか頭にないミー坊というキャラクターにとって、性別は文字通り「どっちでもいい」ということらしい。
劇中のミー坊はなんとなく不定性っぽかったけど、ボーイッシュなのんさんはハマり役だ。

原作者のさかなクンも、あのまんまの姿で出てくる。
ハイテンションな街のお魚博士(ギョギョおじさん)として登場し、小学生時代のミー坊と友だちになるのだが、お魚の話に夢中になってミー坊を深夜まで家に止め置いたことで警察に通報され、いきなり退場。
確かに、どうやって生活しているのか不明な、異様にキャラ立ちした不思議な大人は、昭和の頃は各街にいて小学生の都市伝説になっていったものだが、原作者を変質者扱いするとか大胆すぎだろう(笑
以降、ミー坊がさかなクンの人生をテイクオーバーし、虚実を入り混じらせながら辿ってゆくという、フィクションが現実を塗り替えてゆくような特異な構造で、端的に言って非常に奇妙、いやアヴァンギャルドな映画である。
後にトレードマークになるハコフグの帽子も、消えたギョギョおじさんから受け継いだものと言う設定だ。

現実のさかなクンは専門学校卒で、アルバイトしながら魚のイラストレーターとして活動、やがてTVで人気を博し、遂には大学から名誉博士号を授与され、ホンモノのお魚博士になった。
実際、生物の研究者として名を残した人には、都市にあるアカデミックな機関ではなく、在野で実績を残した人が多い。
動物記のシートンも、昆虫記のファーブルも、粘菌研究で知られる南方熊楠も、みな好きが高じて研究をはじめ、生物がたくさんいる自然の多い土地で暮らしていた。
さかなクンも、漁師町である館山に住んでいるという。
彼らに共通するのが今でこそ偉人として知られているが、当時は周りから「奇人・変人」扱いされていたことだ。
一つのことだけを徹底的に追求する人生、つまり軸の部分が変化しない人生は、それだけ「普通」の人には難しいのである。
まあ南方熊楠なんかは、喧嘩するとところ構わずゲロを吐きまくるという、本当の奇人だったみたいだけど。

さかなクン改め、ミー坊も「好きこそ物の上手なれ」という諺を、そのままキャラクターにしたような狂言回し的人物で、基本変化しない。
いや、変化しようとする描写もあるのだが、結局変化させてもらえないのだ。
映画の物語は、たぶんトータルで25年間くらいの時間を描いているのだが、他のキャラクターは歳月と共に大きく変わってゆく。
小学生の頃に仲の良かったモモコは、大人になるとあまり男運が良く無い感じで、娘と共にミー坊の家に転がり込んでくる。
高校の頃にヤンキーだったヒヨは、東京の名門大学に進学しTV局に勤めるサラリーマンとなって立派に自立。
小学生の頃は四人家族だったミー坊の家も、高校生になる頃には井川遥演じる母親と二人きり。
両親は離婚し、弟は父親が引き取っているのだろうなと言うことは、何となく示唆されるが、特に説明は無い。
人生とは本来移ろいゆくもので、人もまた歳月と共に変わってゆく
唯一、ミー坊以外は。

さかなクンの座右の銘は、「一期一会」をもじった「一魚一会」だそう。
本作のミー坊は、まるで「フォレスト・ガンプ」のように一期一会を繰り返しながら、お魚まみれの人生を歩み続け、人生のどこかでミー坊と出会った人は、その「好き」を追求するブレないキャラクターに魅了されてしまうのだ。
変化してゆく周りの人々の方がミー坊に影響を受けて、変わらないでいて欲しい、そのままのキャラクターで成功してほしいと願っている構図。
家族や友人にとってのミー坊は、いわば純粋すぎて手の届かない憧れであり、世知辛い人生を照らしてくれる太陽なんだな。
変化しないキャラクターの主人公を、変化する周りと相対化して進行する辺りは、なるほど同じ作り手の「横道世之介」とよく似ている。
観ているうちに観客も「幼馴染のミー坊」の感覚になって、いつの間にか「変わらないで!ミー坊!」と願っている自分に気付くのである。

しかし、素晴らしい作品なのは間違いないが、どうしても共同脚本の前田司郎が起こした性暴力事件のことがよぎって、心底楽しめたと言えないのも事実。
こんな優しい物語を作る人が、なぜあんな酷いことをしてしまったのか。
仲間と作った作品に、自分で泥を塗る恥ずべき行為に他ならないだろう。
告発に対して、きちんと向き合ってほしい。

今回は、お魚をますます美味しく感じさせる旭川の地酒、高砂酒造の「国士無双 純米大吟醸」をチョイス。
戊辰戦争に敗れ、会津藩から移り住んだ、小檜山鉄三郎が明治時代に創業した伝統ある蔵。
典型的な淡麗辛口、雑味のない喉ごしスッキリとした北国の酒。
豊かな吟醸香に、米の深い旨みが引き立ち、酒の肴も進む。
美味しいお寿司と共にいただきたい。

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コメント
この記事へのコメント
こんばんわ。
さかなクンの同級生でもあるドランクドラゴン鈴木拓ちゃんが、心なしか、いつもより楽し気に演じているのが、リアルに何も変わらない友人を持つ人の表情なんだろうなと思いました。
誰もが年齢を重ねるごとに変わっていくなかで、芯が一本通ったように変わらない人というのは、確かに憧れなんでしょうね。
2022/09/11(日) 01:00:06 | URL | にゃむばなな #-[ 編集]
ヒヨが成功して島崎遥香とのデートにミー坊を呼ぶのが一番の謎。俺と彼女のまぐわいをカブトガニのカブちゃんのように観察してくれ、という事だろうか?
2022/09/21(水) 05:47:34 | URL | fjk78dead #-[ 編集]
こんばんは
>にゃむばななさん
あー二人は同級生なんですね。
なかなかこの年になると、ずっと交流のある友達も減ってしまいましたが、会うと昔が蘇る旧友というのは良いものです。

>ふじきさん
あれはほんとにこの人でいいのかまよってて、ミー坊と仲良くできるかで価値観を計ってたんじゃないかなあ。
2022/09/24(土) 21:24:52 | URL | ノラネコ #xHucOE.I[ 編集]
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どんなときも大好きなお魚だけを追い続けた子は、いつしかさかなクンになっていました。 さかなクンがさかなクンになるまでの、すっギョいおはなし…。 実話から生まれたヒューマンドラマ。 ≪好きなことを、ずっと好きでいる。 それだけで、人生は、愛おしい。≫
2022/09/12(月) 18:39:19 | 象のロケット
◆『さかなのこ』シネ・リーブル池袋2 ▲ミー坊(=さかなくん)。 五つ星評価で【★★★言ったもの勝ち】 木ノ葉のこにエラが出来てギョギョッ、さかなのこ。いや、それはネタだ。でも、さかなクンをのんが演じると言う点でもう既にそのネタと同等ぐらいに頭を混乱させられている。で、映画冒頭「男か女かはどっちでもいい」とカマされるのだが、はっきり「ああそうか」と腑に落ちたのと「いや、どっちでもいいでは...
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