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スペンサー ダイアナの決意・・・・・評価額1650円
2022年10月20日 (木) | 編集 |
彼女は迷い、逃げたかった。

今年9月8日のエリザベス女王の死去を受け、英国王として即位したチャールズ3世が、皇太子時代の1980年代を共に歩んだ最初の妻。
悲劇的な死の数年前、皇太子妃ダイアナが未来の王妃の地位を捨てて、ダイアナ・スペンサーに戻る決意をしたクリスマスを挟んだ三日間の物語だ。
「イースタン・プロミス」のスティーブン・ナイトが脚本を担当し、チリ独裁政権の退陣に繋がった、国民信任投票を背景にした異色のポリティカルドラマ、「NO ノー」で知られるパブロ・ララインが監督を勤める。
クリスティン・スチュワートが圧巻の名演でダイアナ妃を演じ、第94回アカデミー賞で主演女優賞に初のノミネートを果たした。
ティモシー・スポール、サリー・ホーキンスら燻銀のキャストが脇を固める。
「燃ゆる女の肖像」「秘密の森の、その向こう」など、セリーヌ・シアマの作品で知られるクレール・マトンの、映像で物語るカメラが素晴らしい。

1991年のクリスマスイブ。
ダイアナ(クリスティン・スチュワート)は一人ポルシェを走らせて、王室のクリスマス休暇地であるサンドリンガム・ハウスに向かっていた。
生家のスペンサー伯爵邸パーク・ハウスとは目と鼻の先の勝手知ったる土地で、彼女はなぜか道に迷い、王室メンバーの中で一番遅く到着する。
夫チャールズ(ジャック・ファーシング)との仲はすでに冷え切り、サンドリンガムでダイアナが心を許せるのは、二人の息子ウィリアム(ジャック・ニーレン)とハリー(フレディ・スプライ)、それに気心の知れた衣装係のマギー(サリー・ホーキンス)だけ。
しかし、パパラッチに狙われるダイアナの監視役でもあるアリステア・グレゴリー少佐(ティモシー・スポール)は、マギーを疎ましく思いロンドンに帰してしまう。
伝統と権威のプレッシャーが重くのしかかる中、心の拠り所を失ったダイアナは、次第に精神の安定を欠き奇行に走るようになるのだが・・・・


冒頭10分の展開が秀逸で、この映画の世界観を端的に表している。
田園風景の中、仰々しい英国軍の車列が現れ、何処かへと向かう。
道端には雉狩りで撃たれて、放置された雉の遺骸か転がっている。
やがて宮殿に着いた軍人たちは、キッキンに大量の無機質なコンテナを運び込んで去ってゆく。
入れ替わる様に料理人の一団がキッキンに入り、コンテナを開けると、そこには見るからに贅沢な美しい食材が溢れんばかりに入っているのだ。
同じ頃、ダイアナは一人ポルシェ911カブリオレを駆り、よく知っているはずの故郷の道を、疾走しながら迷っているのである。
宮殿には他の王族たちが続々と集まって来るのだが、皆ショーファードリブンのロールスロイスから降り立ち、ダイアナの様に自らステアリングを握っている者は一人もいない。
宮殿は伝統と権威の殿堂であり、ダイアナは場違いな場所へと乗り込む前に、せめてもの抵抗として、無意識に迷っているのである。

チャールズ皇太子とダイアナ妃の別居が発表されたのは、本作の一年後の1992年の12月のこと。
二人が正式に離婚したのは4年後の1996年8月で、そのわずか1年後の8月31日にあの衝撃的な事故が起こり、世界のアイドルだったダイアナは、36歳の若さで亡くなった。
本作が描くのは、王室の中で孤立を深めるダイアナが、離婚への第一歩を踏み出すまでの三日間の顛末だ。
当然取材はしてるのだろうが、本当のことは本人とごく近い人しか分からない。
だから、王家のクリスマスというイベントは事実で、ダイアナを含む王系のメンバーも実在だが、内容的には「もしかしたら、こんなことがあったのかも知れない」程度でほぼフィクションと思えばいいのだろう。

このスタンスを裏付ける様に、普通実話ベースの映画は「Based on a true story(実話に基づく)」と記されるところ、本作は冒頭に「A fable from a true tragedy(実際の悲劇から作られた寓話)」と字幕が表示される。
「悲劇」が二人の離婚を意味するのか、数年後の事故を意味するのかは分からない。
もしかすると、ダイアナがチャールズと結婚したこと自体を指しているのかも知れない。
この字幕が示唆する様に、映画はさまざまな明喩・暗喩を駆使し観客の想像力を刺激し、ダイアナの物語の持つ悲劇性と寓話性を強調する。

エリザベス女王をはじめとした王族は、生まれた時点で生き方の選択肢がない。
古くは離婚歴のあるアメリカ人女性、ウォリス・シンプソンと結婚するために退位したエドワード8世、最近では王室の主要メンバーから離脱したヘンリー王子夫妻など例外はあるものの、幼い頃から帝王学を叩き込まれ、伝統こそが自らの権威を形作っていることを理解している。
そして国民に見せる公人としての自分の役割を、私人としての自分と演じ分ける術も心得ている。
しかし、ダイアナはそうではないのだ。
彼女自身もスペンサー伯爵家という名家の出ながら、生家のパーク・ハウスでは自然に囲まれて育ち、少なくともチャールズと結婚するまでは、普通の生活を送ってきた。
伝統だからと冬に暖房を入れないのも、食べもしないのに雉を撃って殺すのも、ダイアナには理解できないのだ。
日本の皇室に嫁いだ女性たちとも共通するのだろうが、思い描いた理想の結婚生活と、伝統と公務でガチガチになっている現実とのギャップは相当に堪えるのだと思う。

閉塞し混乱したダイアナの心を現す様に、カメラは迷宮のサンドリンガム・ハウスを彷徨い、動き続ける。
彼女に目に入るのは、亡き父の服を着せたカカシ、すぐ近くにあるのに荒れ果てた生家、パパラッチを警戒して縫い付けられて開かないカーテン、厳格に着用順が決められた何着ものドレス、絢爛豪華な料理、狩りで殺される予定の雉、etc.
ここでは、描写されるあらゆる要素が、彼女の心象として機能する。
極め付けは、アン・ブーリンだ。
映画「ブーリン家の姉妹」でも描かれた、16世紀イングランドの王妃。
夫であるヘンリー8世に浮気され、最後は処刑されてしまう悲劇の女性に自らを重ねるほどに、ダイアナは疑心暗鬼に陥り苦悩している。
他の王族のように器用に公と私を分けられず、アンと同じように夫の愛すら失ったダイアナは、冷たい伝統の中で迷い凍えている。
宮殿にはもはや居場所がなく、彼女のためにとシェフが好物を作ってくれても、味を感じられず吐き出してしまうほどに追い詰められているのだ。

映画のダイアナの救いは、お母さんのことが大好きな息子たちと、サリー・ホーキンスが演じるマギーだ。
皇太子妃ダイアナとしてではなく、少しでも素の自分を理解してくれる存在が、彼女が完全に壊れるギリギリ手前で踏みとどまれている理由だろう。
そして遂に、彼女は走り出す。
ポルシェに息子たちを乗せて、屋根を全開にして髪を風になびかせ、マイク・アンド・ザ・メカニックスの「All I need is a miracle」を熱唱しながら、ロンドンへと向かうラストシークエンスの解放感。
「やっと息ができる!」というダイアナの気持ちが、ストレートに伝わってくる。
ケンタッキーフライドチキンのテイクアウトで、息子たちと母子水入らずのクリスマスチキンなんて日本人みたいだが、これも宮殿の豪華な料理と、食べられずに捨てられる雉との対比となっている。
スリリングな心理ホラーであり、四文字言葉を連発するロックなダイアナが魅力的な宮廷寓話だった。

白の衣装が印象的な本作には、「ホワイトレディ」をチョイス。
ドライ・ジン30ml、ホワイト・キュラソー15ml、レモン・ジュース15mlをシェイクしてグラスに注ぐ。
牛乳の様な白さではなく、雪を思わせる半透明のホワイトが美しい。
フルーティな華やかさを、ジンの辛口な味わいが自然にまとめ上げる、ダイアナの様にエレガントなカクテルだ。

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1991年、クリスマス。 英国ロイヤルファミリーが集うエリザベス女王の私邸サンドリンガム・ハウスには、例年とは全く違う空気が流れていた。 ダイアナ妃とチャールズ皇太子の離婚の噂が飛び交い、スキャンダルを避けるための厳しい監視体制の中で身も心も追い詰められてゆくダイアナは、人生を劇的に変える一大決心をする…。
2022/10/23(日) 05:33:06 | 象のロケット