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ショートレビュー「土を喰らう十二ヵ月・・・・・評価額1700円」
2022年11月19日 (土) | 編集 |
命を、喰らう。

長野の山奥に一人で暮らし、愛犬の山椒と一緒に半農生活を送っている老作家の、大地のめぐみと共に生きる十二ヶ月。
二十世紀の人気作家、水沢勉のエッセイ「土を喰う日々 わが精進十二ヶ月」を原案に、「ナビイの恋」の中江裕司監督が映画化した作品だ。
劇中に登場する料理の数々は、料理研究家の土井善晴が担当している。
沢田研二が演じるツトムは、少年時代に禅寺の小坊主だったことがあり、精進料理にとても詳しく、十二ヶ月二十四節気を通して家の畑や山で採れる、様々な旬の食材を料理して美味しくいただいてゆく。
住んでいる所は十三年前に亡くなった妻の故郷なので、多少は親戚筋や近所の人たちとの交流もあるが、全体を通してドラマチックなストーリー性は希薄で、基本的には生産して、収穫して、料理して、喰っての繰り返し
たまに松たか子演じる担当編集者で恋人の女性が訪ねてきて、一緒に喰う。

これはいわば「リトル・フォレスト」四部作の、熟年男性版だ。
東北の小さな村を舞台に、都会からUターンしてきた橋本愛演じるいち子が、地の食材を生かした料理を作り、大自然の中での自給自足生活を通して自分と向き合ってゆく姿を、一つの季節を一時間、計四時間で描いた瑞々しい春夏秋冬四部作。
実際やってることは両作とも殆ど一緒なのだが、登場人物が青春真っ只中の「リトル・フォレスト」に対して、こちらは主人公が熟年だけに、立春から始まる物語には秋から冬にかけて急速に死の影が落ちてくる。
小屋に一人暮らししていた偏屈な義母の死と、義弟夫婦に押し付けられ、降って沸いた通夜振る舞いのてんてこ舞い。
そしてツトム自身も心筋梗塞で倒れ、九死に一生を得る。

この体験が、老作家の心に変化をもたらす。
死はとても怖い、だが避けられぬ。
今回は助かっても、人間いつかは皆死ぬのが道理、ならばどうやって死と折り合いをつけるか?
ツトムの思考は何処までも地に足の着いたもので、なんとこの人、毎晩寝る時に「皆さんさようなら」と呟き「死んでみる」のである。
死を意識した生活は、ツトムに執着を捨てさせる。
十三年もの間、納骨できなかった妻の遺骨は、砕いて散骨する。
都会で暮らす恋人を、山の生活に誘うのもやめる。
いつ死んでもいい準備は出来ているが、それでも毎朝日が昇り、生き返れば腹が減る。
腹が減れば、その日採れた食材を料理し、喰らい、生きていることを実感する。

米を研ぐ手、ほうれん草を丁寧に洗う手など、主人公の手のアップショットが多い。
手は種を植え、キノコをとり、胡麻を脱穀する、大地の命とつながるところ。
白菜の漬物、小芋の炭火焼き、大根の煮物、筍の水煮、山菜尽くしのご飯、胡麻豆腐。
出てくる四季の飯が美味そうで、とにかく腹の減る映画だった。
「リトル・フォレスト」もそうだったが、本作を見ると生産意欲を刺激される。
単純に料理したいというよりも、自然と格闘して命を育て、それを噛み締めたくなるのだ。
その分、恐ろしく手間がかかるのは、ツトムの生活を見ていても分かるけど。
生産し、旬を喰らう老人、沢田研二が素晴らしく、歳の離れた松たか子が恋人でも「アリだな」と思わせる色気がある。
訪ねてきた彼女が、料理するツトムを見て「いい男だわ〜」とまじまじと言うのも、説得力抜群。
エンディングテーマでは、ジュリー健在を示すように、相変わらずの美声を聴かせてくれるのだから、ファンにはたまらないだろう。

こんな粋な爺さんになりたいものだが、現実にこんな生活をするのはなかなか難しそう。
とりあえずツトムを目指して、来年は二年ぶりに梅干しを漬けよう。
禅宗では梅干が必需品で、毎年漬けないと縁起が悪いというのは初めて知った。
六十年ものの梅干しって、どんな味がするんだろう。
まさかあれ、本物?

今回は、長野の上伊那郡の小野酒造店の「夜明け前 純米吟醸 生一本 生酒」をチョイス。
この銘柄は島崎藤村の小説「夜明け前」からとられているのだが、タイトルを使うにあたって、蔵元は藤村の長男・島崎楠雄とある約束を交わしたという。
「この名を使う以上は、命に代えても本物を追求する精神を忘れない」
誓いのとおり、フルーティでふくよかな米の旨味を追求しつつ、比較的安価で普段使いしやすい一本になっている。
ツトムの精進料理と一緒に飲んでみたいものだ。

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生きることは食べること。長野県の山あいで、愛犬サンショと一人静かに暮らすツトム(沢田研二)。妻を亡くしてからもう13年になる。妻はまだ遺灰としてその一軒家に鎮座している。なかなか墓に入れる踏ん切りがつかないのだ。ツトムは日々、土地で取れる自然の物を精進料理にしながら、小説を書く暮らしをしており、時折編集者の真知子(松たか子)が訪ねて来る。彼女はツトムの恋人でもある。少し歩いた場所に、亡き妻の...
2022/11/20(日) 20:26:19 | ここなつ映画レビュー
土を喰らう十二ヵ月 妻を亡くして13年 信州で一人暮らしの老作家の 二十四節季に渉る出来事を綴る... 【個人評価:★★☆ (2.5P)】 (劇場鑑賞) 原作:水上勉
2022/11/20(日) 21:57:52 | cinema-days 映画な日々
作家のツトムは人里離れた信州の山荘で、犬のさんしょと13年前に亡くした妻・八重子の遺骨と共に暮らしている。 畑で育てた野菜や山で収穫する山菜などを料理し、季節の移ろいを感じながら原稿に向き合う。 時折、担当編集者で恋人の真知子が東京から訪ねて来る。 食いしん坊の真知子と旬のものを料理して一緒に食べるのは、格別な時間だった…。 ヒューマンドラマ。
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